【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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今週は本誌がとんでもない爆弾を撃ち込んできました
かっちゃんの"贖罪"、今作にも共通するテーマです。ただ肝心なのが、かっちゃんはデクを好きになったわけでもなんでもない。むしろ畏怖や嫌悪は持ち続けている(それを認めた、という意味では進歩した?)。有り体に言ってしまえば嫌いな相手へのおそらくは届かないだろう贖罪をしなければならないと。一方でデクはかっちゃんの心情面をあまり慮っていない。認めてくれた、嬉しい!から先に進むことがあるのかどうか。
そういった観点で見たとき、互いの心が本当の意味で交わる日は一生来ないんじゃないかという気すらしてくるのです

深そうな前書きながら本編はマッスルでマッスル。お楽しみください


#27 マッスルカーニバル 3/3

 師匠からの預りものを手に、飯田天哉は国際警察へ向かっていた。道場から庁舎まではさほどの距離もないので、徒歩で。

 

 用件が用件ゆえ彼はすっかり散歩気分だったのだが、その行く手を阻むモノが唐突に姿を現した。

 

――そう、モノ。

 

「うわっ!?」

 

 突然頭上からロープが落ちてきたかと思えば、重箱を絡め取られてしまう。当然ながら油断していた天哉に対応できるはずもなく。

 

「貴様の宝、貰い受けた」

「な……快盗!?」

 

 普段なら義憤とともに対峙する天哉だが、今回ばかりは当惑が先立った。だって青い快盗が奪い取ったのは、おはぎなのだ。行動の意味が理解できない。まさか程度の低い嫌がらせでもあるまい。

 

「い、一体なんのつもりだ!?おはぎを掠めとるなど……」

「おはぎ、か。本当の中身がなんなのか、自分の目で確かめろ」

「何!?」

 

 言うが早いか、炎司は重箱を庄右衛門の道場めがけて力いっぱい投げつけた。ひゅう、と風を切って敷地内に消えていったそれは――刹那、

 

 耳を劈くような轟音とともに爆ぜ、道場を丸ごと呑み込んでしまった。

 

「な……爆発した!?」

 

 あの重箱の中身は爆弾だったのか?その事実にようやく天哉が思い至るのと、火だるまになった男が燃えさかる家屋から飛び出してくるのが同時だった。

 

「熱ぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃッ!!?」

「お、お師匠!?」

 

 物理的に炎上する庄右衛門……否、ピョードルは、耐えかねてついにその異形の正体を露にした。年波を感じさせる人間体が、ヒヨコに似た姿に。

 

「なっ……お、お師匠がギャングラー!?」

「ピ、ピョ……っ。おのれ天哉、ワシを手玉にとるとは堅物のふりしてなんたる曲者!」

「え、いや、そういうわけでは……」

 

 天哉が思わずどもっていると、

 

「飯田ぁ〜!!」

「!」

 

 駆けつけてきたのは、天哉の同僚であるパトレンジャーのふたりだった。既に警察チェンジまで遂げている。

 

「きみたち、どうして……」

「死柄木から連絡があってさ」

「さあて!国際警察の権限において、実力行使といくぜっ!」

 

 道場跡地は、否が応なく戦場へと変わる。ピョードルに向かっていく仲間たちを認めて、天哉も慌ててVSチェンジャーを構えた。

 

「ッ、警察チェンジ!」

『2号、パトライズ!』

 

 マッスルカーニバルで?鍛えた身体がエメラルドグリーンの強化服に包まれ、パトレン2号と呼ばれる姿へと変わる。そうして天哉もまた、躊躇なく参戦した。相手は師匠だが、ギャングラーだ。その証拠に金庫もある。

 

「うおおおおおッ!」

 

 銃撃と格闘戦、三人いるからこその二本立ての戦闘なのだが、ピョードルはエアロビクスもとい武突参流古武術の技術を最大限活用して彼らの攻撃をかわしていく。スピードに長けた快盗たちでさえ手こずったのだ、彼らが命中をとるのは至難の業だった。

 

「ホッ、ホッ!――ピョピョ〜〜!!」

「ぐあっ!?」

 

 そうこうしているうちに手羽先の一撃が炸裂し、接近戦を挑んでいた1号と3号は弾き飛ばされた。

 

「ッ、こいつふざけたナリして強ぇ……!」

「なんちゃら流古武術の師範なだけあるね……」

 

 しかし今さら、こんな敵に負けるわけにはいかない。攻勢を保つべく2号が前線に飛び出したところで、ピョードルは"切札"を使った。

 

「おぬしら〜、回れ右!」

「!」

 

 ピョードルの隠し持つ、ルパンコレクションの能力が発動する。途端にパトレンジャーは武具を握る手から力を失い、直立姿勢のまま敵に背を向けてしまったのだ。

 

「素直なのは良いぞ~~……――そぉいッ!!」

 

 再び、手羽先一閃。

 

 

――してやられるパトレンジャーの姿を、死柄木弔含めた四人の快盗たちは遠距離から観察していた。

 

「苦戦してるなァ、パトレンジャー」

「てめェ、きょうは快盗(こっち)でいいンかよ?」

「ま、大した敵じゃないしいいだろ。それより攻略法、もうわかってるよなァ?」

 

 快盗たちは揃って頷いた。ピョードルは言葉で人を操る−−ならば、喋れなくしてしまえば良い。

 

 

 次の瞬間、ピョードルの嘴に飛来したXロッドソードが深々と突き刺さっていた。

 

「!!?、フガガガガハガッ……」

 

 さらに大柄な影が現れ、

 

『1・4――5!』

 

「……ルパンコレクションは貰った」

「アガガガガ」

「それでは喋れまい。――もう、黙っていろっ!」

「ハガァッ!?」

 

 金庫を開けてコレクションを奪い取ったうえ、力いっぱいピョードルを蹴り飛ばす炎司。勝己ならともかく、彼にしては乱暴極まりない攻撃だった。

 それもそのはず。仮面から覗くアイスブルーの瞳は、憤怒に染まっていた。

 

「貴様だけは、」

『2・6・2、マスカレイズ!』

 

「貴様だけは、絶対に許さん!」

『快盗チェンジ!』

 

 炎司の身体を、青と黒を基調とした快盗スーツが包み込んでいく。

 仲間たちも同時に変身−−四人の快盗が、並び立った。

 

「――ルパンレッドォ!!」

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

「ルパン、エックス」

 

――快盗戦隊、ルパンレンジャー。

 

「予告する、――貴様に、未来は無い!」

 

 情け容赦ない宣戦布告は、処刑宣告と同義であった。真っ先に躍りかかっていくルパンブルー。その巨体とそれに見合わぬスピード、何よりその怒気は、発声器官をやられて多大なダメージを受けたピョードルを戦慄かせた。

 

「アガガガガ、ガハァッ!?」

「……レッド、イエロー!」

「わーっとるわァ!!」

 

 ピョードルがブルーの攻撃に気を取られている隙に、呼びかけられたふたりは背後を突いていた。

 

「!?、ハガガガ……!」

 

 気がつけばピョードル、嘴ばかりか両腕まで拘束されてしまっていた。強靭なワイヤーにより、彼は見えない十字架に磔にされたも同然だ。

 すかさずルパンエックスが弾丸を撃ち込み、仕上げに、

 

「ウオオオオッ!!」

 

 雄叫びをあげたルパンブルーが突撃、その拳を振るう、振るう、振るう!

 

「消えうせろぉッ!!」

 

 顎に強烈なアッパーを喰らい、ピョードルの気力は完全に打ち砕かれた。ここがリング上なら試合終了のゴングが鳴っていただろう。

 

「……炎司さん、荒れてるねえ」

「………」

 

 答えないレッド。しかしイエローはたしかに見た、彼の肩がぷるぷる震えているのを。

 一方で"彼"のほうは、ブルーの暴挙?をどう感じているのかまったく窺わせなかった。

 

「ほら、きょうは出血大サービス」

 

 エックストレイン"サンダー"と"ファイヤー"を取り出し、レッドとブルーめがけて投げつける。

 

「使えよ、中年」

「……中年はやめろと言ったはずだ」

 

 憮然としつつも、ありがたく使わせてもらうに越したことはない。イエローはサイクロンダイヤルファイターを装填、三人揃っての快盗ブーストを発動させる。

 さらに、

 

「――スペリオル、シュートっ!」

 

 四人がかりの最大火力。それはステイタス・ゴールドでもダブルでもないいちギャングラーに対して、オーバーキルにも等しい攻撃で。

 

「フガァッ、グァ、ア゛ァァァァァ−−!!?」

 

 嘴を貫くエックスロッドソードのために、ピョードルはまともな断末魔すら発することができずに爆散した。せめてソードを道連れにできれば多少は報われたかもしれないが……彼女はちゃっかりと、爆風に乗じて主の手に戻っていたのだった。傷ひとつなく。

 

 

 あまりにも哀れな終焉を迎えたピョードルであったが、ギャングラーであるからにはまだラストチャンスが残されていた。

 

「――私の可愛いお宝さん、ピョードルを元気にしてあげて……」

 

 いつもながら唐突に現れたゴーシュ・ル・メドゥの力で、金庫の残骸から巨大ピョードルが復活する。

 

「ピョピョピョピョ〜!武突参流はァ、完全にィ不滅じゃああああ!!」

「チッ、相変わらずしつけえ」

 

 巨大化などしたところで、こちらの手間がひとつ増えるだけだ。

 

「ハァ、さくっと片付けるか」

『Oui!オイラ張り切ってるぜ〜!』

 

 いつの間に飛んできていたのか、グッドストライカーがエックスの手中ではしゃいでいる。今回、彼は快盗側で戦うつもりでいたのだが。

 

「……グッドストライカー、今回は警察(奴ら)に手を貸してやれ」

『へ?』

 

 ブルーの視線の先には、巨大ピョードルを睨むパトレンジャーの姿。

 

「お師匠に借りを返したいだろうからな……先輩も」

「……なるほど。行ってやれ、グッドストライカー」

 

 エックスの後押しも受け、『しょうがないナ〜』とこぼしながらも飛んでいくグッドストライカー。その翼は、パトレン2号の手に着陸した。

 

「なっ……快盗、どういうつもりだ?」

「手柄譲ってくれる……とか?死柄木に言われて」

「そんな殊勝な連中じゃないでしょ。……ま、いいんじゃない。飯田?」

『そうそう!さっさと戦って、勝っちゃおうぜ〜!』

 

 そもそもギャングラーを倒すのはパトレンジャーの仕事、快盗に譲られたかどうかは関係ない。

 

「……やってみせるさ!」

 

 決断した2号は、自らの手でグッドストライカーを巨大化させた。次いで、それぞれのトリガーマシン。計四機がグッドストライカーの主導する"警察ガッタイム"により合体し、

 

『正義を掴みとろうぜ〜!』

 

 鋼鉄の巨人、パトカイザーが誕生する。

 

「っし!――そうだ飯田、おめェの修行の成果、アイツに見せてやれよ!」

「!、切島くん……」

 

 1号の言葉は、いつもたしかな友情を感じさせてくれる。胸を熱くした2号は、おもむろにシートから立ち上がった。

 

「ではいくぞっ。ミュージックゥ……スタァーーートゥーーー!!」

 

――2号の動きにあわせ、パトカイザーが足踏みをはじめる。どこからともなく流れる音楽。いやほんとうにその発信源は天哉にしかわからないのだが、とにかくそれに乗って踊っているのだ。パトカイザーが。

 

「3・2・1――ハイ!マッスル、マッスルぅ!マッスルカーニバル、ハイっ!」

「……?」

 

 軽快なダンスに、時折逞しい筋肉を誇示するかのような動作が混じる。……なんにせよ、そんなものを見せられている仲間たちは当惑し通しだった。

 

「それが……古武術……?」

「飯田あんた……」

 

「……それ、エアロビクスじゃないの?」

 

「断じて、ちがあああう!」

 

 そう叫んだのは、どういうわけか巨大ピョードルだった。

 

「こら天哉、おぬしが未熟だから誤解されるのじゃ!こうしちゃる、こうしちゃるっ!」

 

 肉薄したピョードルが、パトカイザーに攻撃を仕掛ける。マッスルカーニバルに興じていたロボに避けるすべはなく、火花をあげて吹っ飛ばされてしまうのは当然の流れであった。

 

「うわあああああ!!?」

「……なぁにやってんだか」

 

 呆れきった様子のルパンエックスが、エックスエンペラー"スラッシュ"を駆り参戦してきた。

 

「交代だ、ミスターマッスル」

 

 しょうもない空気などそもそも読むつもりなどないエックスとその愛機が、容赦のない攻撃をピョードルに仕掛ける。刃で切り裂き、それを忌避して敵が距離をとれば"転換(コンバート)"――エックスエンペラー"ガンナー"となって、弾丸の雨あられを浴びせる。

 

 こうなるとピョードルも脆いものなのだが、とはいえ黙って見てなどいられない者がいた、約一名。

 

「そんな……あの汗と涙の日々は、すべて無駄だったというのか……!?」

 

 ピョードルに騙されていたのだとようやく察した天哉の胸に、ふつふつと憤怒が沸きあがる。

 

「う゛ぅ、う゛あ゛ぁぁぁぁッ!!――し、しょぉ〜〜ッ!!」

「うおっ!?」

「切島くん、クレーン!死柄木くんッ、ファイヤーを貸してくれッ!!」

「は、ハイどうぞ!」

『しょうがないなァ……ぶふっ』

 

 気圧されている1号と、笑いを堪えきれないエックス。対照的な反応を見せるふたりだが、2号にビークルを託すという行動は一致していた。

 

「うぉおおおおおッ!!」

『クレーン、位置について――用意!出、動ーーン!伸・縮・自・在!!』

「ぬぅわああああッ!!」

『ファ・ファ・ファ・ファイヤー!』

 

 雄叫びに推されるかのごとく、巨大化する二機。パトカイザーの両腕が分離し、彼女らが代わりに合体する。

 名付けて、

 

『パトカイザー……"ストロングファイヤー"!!』

 

――ピョードルは見た。ストロングファイヤーの背後に、激情の火炎が燃えさかるのを。

 

「切島くん耳郎くんッ、行くぞォオオッ!!」

「お、おう!」

「………」

 

 右腕のクレーンが伸縮してピョードルを叩きのめす。左腕が火を噴きその表皮を灼く。なんの遠慮も節操もない攻撃でありながら、それはたしかなリズムを感じさせるもので。

 

「……役、立ってんじゃね?」

 

 パトレンエックスのつぶやきが、すべてを表していた。

 

「終わりだァア――」

 

「――パトカイザー、バーンアップストライクゥゥッ!!」

 

 クレーンで拘束して宙吊りにしたピョードルを、ファイヤーの劫火が余すところなく焼き尽くす。もはや逃げ場もない彼は、文字通りの火刑に処されたのだ。

 そして、

 

「ぎゃああああああっ、焼き鳥は大好物でっす!!ツイストっ」

 

 爆死。

 

「任務完了……ううううっ」

「飯田……」

 

 激怒から一転、天哉はシートに座り込んでさめざめと泣きはじめた。彼は二十代も半ばにして純粋な心の持ち主なのだ、今回のことで心の傷を負ってしまったことは想像に難くない。

 

「元気出せよ、な?おめェのまっすぐなとこ、俺、尊敬してるからさ……」

「き゛り゛し゛ま゛く゛ん゛……ッ、ありがどう~~ッ」

「……濁点多っ」

 

 肩をすくめる3号なのだった。

 

 

 *

 

 

 

 一方、巨大戦を見届けた炎司は深々ため息をついていた。天哉と異なり、彼は別に傷ついてはいない。ただ勝利とは裏腹の、どうしようもない徒労感に襲われているだけで。

 

「……やれやれ」

 

(だが、借りは返せたな。――先輩)

 

 心中でかの青年をそう呼ぶには、もう抵抗もなくなった。彼の人生は悩み多きものとなるかもしれない。だがそれでも、その純情を貫いてほしいと切に願う。

 徒労感の中にほんのわずかな達成感を見出した炎司は、唇をゆがめつつ振り向いた。

 

――刹那、凍りついた。

 

「マッスル、マッスル、マッスルカーニバルゥ♪」

「マッスルカーニバル~♪」

 

 とうに聴き慣れてしまったフレーズを口ずさみながら、仲間の小僧らが踊り狂っているではないか。仮面に隠れてはいるが、ふたり揃ってにやにや笑っている。炎司はおそらく数十年ぶりに赤面した。

 

「き、貴様ら……!よさんか!」

「嫌でマッスル」

「や、やめろ……やめてくれ……!」

 

 「きょうのことは忘れてくれえぇ!」――元トップヒーローの叫びが、情けなく響き渡ったのであった。

 

 

 à suivre……

 

 




「……オレは、漆黒のガンマン」
「諸君にはこれより、子育てをしてもらうザマス!」

次回「厨病子連れガラス」

「か、可愛い……っ!」
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