【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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ルパンカイザーマジック色合いがカッコよくてすき


#29 聖母 3/3

 日本のどこにでもある、名前のない場所。

 

 爽やかな秋の風吹くその青空の下は今、颶風漂う戦場と化していた。

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 吶喊するパトレンジャーの面々。彼らの標的が平和に仇なすものすべてであることは言うまでもないが、今回は普段と様子が違っていた。

 

「ッ、なんつー、雑魚の多さだ!」

 

 ポーダマンの群れを懸命に蹴散らしつつ、切島鋭児郎──パトレン1号が毒づく。倒しても倒しても湧いて出てくる戦闘員軍団。ここまでの物量を相手にするのは、初めてのことだった。

 

「これでは、本丸にたどり着けん……!」

「たどり着けりゃ一発だろうにね……」

 

 2号の言う"本丸"は、無数のポーダマンに護衛されたポーダマン……否、頭部に金庫を移植された実験体に他ならない。こそこそ隠れ逃げるようにしているところを見るに、戦闘能力は他のポーダマンと大きく変わらないと思われる。ただその裏返しなのか、通常のギャングラー以上に守られていて手が出せないのだ。

 

「こんなときに、死柄木くんは何を……!」

 

 出動のときには姿を消していた死柄木弔。スパイとして快盗にもぐり込んでいる彼は、こうして誰になんの断りもなく不在になることが多い。パトレンジャーとは指揮命令系統が異なるためなんの問題もないのだが、やはり感情のうえでは諸手を挙げて容認とはいかない。

 ただ、

 

「死柄木が来るまでに終わらせて、拍子抜けしてる顔、見てやろうぜっ!」

 

 鋭児郎の前向きな言葉が、そんな些細なわだかまりを溶かしてくれる。──そう、そんなものにかかずらってなどいられないのだ。この世界の平和を、守るのだから。

 

「しかし、」

「それにしても……!」

 

「「「──数が、多いっ!!」」」

 

 結局、行き着くところはそこだった。

 

「──だったら、私たちがやってあげるっ!」

「!?」

 

 突如飛び込んできた、青と黄……ふたつの影。それらはマントを翻しながら戦陣の背後を突き、改造ポーダマンに襲いかかった。

 

「な……快盗!?」

「棚ぼた狙いかよ、ずりィぞおめェら!?」

 

 警察の使命が平和を守ることなら、快盗の使命は何を置いてもルパンコレクションを奪還することである。狡いと言われようが、それがすべてなのだ。

 

「ふッ!」

 

 咄嗟のことに右往左往している標的にルパンブルーが足払いをかけ、地面に引き倒す。無防備になった金庫にすかさず、イエローがダイヤルファイターを押し当てようとする──

 

──刹那、

 

「きゃあっ!?」

「ぐっ!?」

 

 なんの前触れもなく衝撃と熱とが襲いかかり、ふたりは改造ポーダマンから引き剥がされた。

 

「私の可愛いモルモット、いじめるのはやめてもらえないかしら?」

「!、貴様は……!」

 

「ギャングラーのドクター、ゴーシュ・ル・メドゥよ」

 

 名乗りを挙げたゴーシュは、その場にいる者たちに対して手当たり次第に攻撃を開始した。両腕の骨を改造した"サブマシン腕"が火を噴き、細かな無数の弾丸が獲物に襲いかかる。

 

「ッ!」

 

 懸命に回避行動をとるルパンレンジャー。一方で敏捷性には欠けるパトレンジャーの面々は、硬化の個性をもつ1号が自ら盾になることで弾丸を防いでいた。

 

「へえ、なかなかやるわね。でもいつまで耐えられるかしら」

 

 ゴーシュのそれは自らの不要になった体細胞を作り替えているものだ。ゆえに弾切れを起こすまでには相当な時間がかかる。

 むろん、そんなことは快盗も警察も知らない。ただ防戦一方ではいられない彼らは、各々攻撃を受け止めつつ反撃を試みていた。といっても、VSチェンジャーによる射撃が精々だが。

 

「フフ……その程度?」

 

 ステイタス・ゴールド──以前、七人がかりでようやく倒したライモン・ガオルファングと同じ。ゆえにゴーシュは考えるまでもなく強敵だった。あの男のような規格外の破壊力はないが、間断ない攻撃と、どんな反撃にも動じない胆力を併せもっている。

 

「〜〜ッ、どうしよう……!これじゃあの金庫頭に近づけないよ……!」

「……ッ、」

 

 ライモンのときとは異なり、快盗と警察で手を組んででも、という確固たる覚悟は互いにない。そもそもルパンレッド、エックスを欠いている状況。エックス──弔はともかく、爆豪勝己の参戦は望めない。今回の標的はゴーシュ自身でないとはいえ、ゴーシュを出し抜かなければ改造ポーダマンに手を出すこともできない。

 

(退くしかないのか。だが、退いたところで……)

 

 再戦の際には今と変わらず、ゴーシュが帯同しているに決まっている。勝己の記憶を取り戻す手段がコレクションに手をかける以外にない以上、結果が変わる未来は見えない。

 ならば結局、ここでケリをつけるしかないのだ。

 顔を覗かせつつある絶望を押さえつけ、再びゴーシュに立ち向かってゆかんとする快盗たち。──そのときだった。

 

「お待たせ、皆の衆」

「!」

 

 古びた雑居ビルの上に立つ、ふたつの男の影。それぞれ銀、そして赤い燕尾服を纏っている。後者は舞踏会で見るような仮面を装着しているのに対し、前者は成人の手のようなもので顔を隠しているのが特徴的だった。

 

「死柄木!ルパンレッドも……」

「ば……レッド!記憶は!?」

「戻っとらん。が、だいたいのことはこの不審者から聞いた」

「……不審者とかさァ、鏡見てから言えよな」毒づきつつ、「じゃ、手筈通りに頼むぜ。ルパンレッド?」

「わーっとるわ」

 

──すべては、願いをかなえるために。

 

「「快盗チェンジ!!」」

『レッド!0・1・0──マスカレイズ!』

『Xナイズ!』

 

 ふたりの身体を、快盗スーツが包み込む。

 

「じゃ、お先」

 

 変身を完了するや否や、レッドを残してルパンエックスは飛び降りた。わらわらと群がってくるポーダマンらを事もなげに薙ぎ倒しつつ、戦場の中心へと向かっていく。

 

「ルパンエックス……ふふ、会いたかったわ。あなたとは一度話してみたかったの」

Avec plaisir(喜んで)。ただし肉体言語に限る」

 

 言葉と同時に、弾丸をかわしあう。ただこれは所詮、互いの実力を確認するためのジャブにすぎない。引き金を引く手の熱とは裏腹に、全身の所作はまだ落ち着き払っている。

 一方、"快盗チェンジ"を遂げた自らの姿に未だ慣れないルパンレッドは、己の掌をじっと見つめていた。

 

「………」

 

 己が最大のアイデンティティーである"爆破"──目を覚ましてからずっと思っていたことだが、実戦経験を積んできているにもかかわらずただの一度も使用していないようだった。大人から注意されていた幼少期のほうが、余程も気炎を吐いていたのではないだろうか。

 正体を知られてはいけないから。快盗としての危機管理といえば理由付けはできるが、それだけでないことは今ならよくわかる。

 

(俺はヒーローじゃねえ、)

 

(──快盗だ)

 

 だから頼るのは──借りものの、力。

 

『マジック!』

 

 弔より受け取った新たなダイヤルファイターを、VSチェンジャーに装填する。

 

『0・2──9!快盗、ブースト!』

 

 発動。光に包まれると同時に、飛び降りる。

 

「!、レッド、それって……」

「新たな武器、か?」

 

 ルパンレッドの右手に装着された弓矢。訊くまでもなく、それは快盗が新たに手にした戦力だった。

 

──マジックダイヤルファイター。死柄木弔が、ルパンコレクションを改造して生み出したのだ。

 

「行くぜ──」鏃を頭上に向け、「まとめて……ブッ刺す!!」

 

 弦を、解放する。

 放たれた光の矢は一度天高く昇り、皆の視界からほとんど消えたところで無数の小さな矢に分裂した。そしてそれらが、まるで流星のように地上へと墜ちてくる。

 

「!!??」

 

 刹那、ポーダマンの群れが悲鳴をあげて倒れていく。小さな矢は的確に彼らの急所を突き、一瞬にして絶命させていたのだ。

 ただ、改造ポーダマンを狙ったそれは、抜け目なくゴーシュが弾いていたようだ。

 

「ったく……ジャマすんなよな、ステイタス・ゴールド!」

「!」

 

 すかさずルパンエックスがゴーシュに攻勢をかける。ルパンブルーとイエローもそれに加勢する。三人がかりが相手でもまったく押される様子のないかの女ギャングラーであるが、流石に改造ポーダマンの護衛にまでは手が回らなくなりつつあるらしい。

 

「はぁ……。ここを離れなさい、実験体」

 

 ゴーシュの命令に従い、改造ポーダマンは踵を返して戦場を離脱していく。

 

「ッ、行かせるか!」

 

 ようやくフリーハンドを得たパトレンジャーの面々が、それを追おうとする。しかし彼らの行動は刹那、降り注いだ光の矢によって阻まれた。

 

「な……ッ!?」

「ジャマすんな、そいつは俺の獲物だ!!」

 

 そう怒鳴り散らして、ルパンレッドがあとを追っていく。いつにもまして何かに駆り立てられたような姿に、パトレンジャー……とりわけ1号・切島鋭児郎は困惑していた。彼の身に何かあったのか。いやそうだとして、できることなどあるわけもないのだが。

 

 一瞬、爆豪勝己の顔が脳裏に浮かぶ。ルパンレッドとは別人と、とうの昔に証明されたのだ。今さらその可能性を疑うわけではない。

 ただ別人であるはずの彼らが垣間見せる激情が、時折重なって伝わってくる。それは目に痛いくらいに鋭く、爛々と光る緋色をしていた。

 

 

 *

 

 

 

 命令を実行する改造ポーダマンは、付近のショッピングモールに逃げ込んでいた。既に避難が行われ、ここは無人となっている。

 彼のあとを追って、ルパンレッドもまた建物に侵入した。

 

「………」

 

 広い店舗内。無人であるせいで、普段訪れるときには考えられないような静寂に支配されている。耳を澄ましてみるが、自分の息遣い以外は何も聞こえない。

 

──ここにいる生ある者は、己と、敵だけ。

 

 ならばこの、魔具の力で。

 

 レッドはその場に立ち止まり、再び弓を構えた。光の粒子が集まり、矢を生成していく。その鏃を向ける先に、敵の姿はない。

 そんなことに、なんの問題もありはしない。繰り返すようだが、これは"魔具"なのだから。

 

「──ッ」

 

 

穿(つらぬ)けやァ!!」

 

 そのまま、極限まで引き絞られた矢が、放たれて。

 慣性に従ってまっすぐ飛翔したかと思えば、ある突き当たりに到達した途端にその進行方向を変えた。当然、自らの手を離れた矢をコントロールすることなどできはしない。

 

 だからこれは──この兵仗そのものの、意志だ。

 

 数秒ののち、光の矢が突き刺さって炸裂する音と、悲鳴めいた絶叫が聞こえてきた。さらに数秒後、吹っ飛ばされるようにして目の前に転がり落ちる改造ポーダマンの姿。

 

「………」

 

 そのことになんの感慨も表すことなく、ルパンレッドは静かに歩みを進めた。手にしたレッドダイヤルファイターを、彼の顔面……つまりは、金庫に押しつける。

 

『1・0──8!』

 

 解錠、完了。

 カメラのようなオブジェクトを取り出す。玩具のようにしか見えないが、これこそが願いをかなえるためのピースなのだ。死柄木弔から、それは聞かされている。

 

「……はっ」

 

 こぼれる嘲笑は、果たして何に向けられたものか。それを知る者は彼をおいて他にいない。

 いずれにせよ踵を返したルパンレッドの背後で、改造ポーダマンは誰に惜しまれるでもなく爆死するのだった。

 

 

 六人を相手にする羽目になったゴーシュ・ル・メドゥは、流石に余裕綽々とはいかなくなりつつあった。

 

「まったく、寄って集って……。ポーダマンと変わらないわ、ねっ!」

「一緒にしないでよっ、根性が違うんだから!」

「快盗の言うことだが……同意だ!!」

 

 どちらにも顔の利くエックスを仲介として、ルパンレンジャーとパトレンジャーはいちおう連携してこの難敵にあたっている。ステイタス・ゴールドは戦力を一点集中しなければ勝てない──その意識もまた、彼らを結びつけていた。

 面倒なことになったと苛立っていたゴーシュは直後、背中に衝撃と鋭い痛みを覚えた。

 

「……!?」

「いつまでも遊んでんじゃねえよ、カスどもが」

 

──弓を構えた赤の快盗が、ゆっくりと歩いてくる。その右手には、ルパンコレクション。

 

「レッド!」

「コレクション……つーことは、記憶戻った?」

「たりめーだわ。……世話かけたな」

 

 最後のひと言だけは、わずかに潜められていた。

 

 一方、ゴーシュは。

 

「……やってくれるわね、実験は終わりってわけ」突き刺さった矢を消し飛ばし、「でも、もう少し遊ばせてもらおうかしら……!」

 

 己のもつルパンコレクションの力を、彼女は発動させた。次の瞬間街に聳えるようにして現れる、巨大ポーダマンたち。

 

「またこれかよ。馬鹿のひとつ覚えだな、キモ女」

「キモっ……アンタ、覚えてなさいよ!」

 

 背後から不意打ちを喰らったことといい、珍しく感情を剥き出しにしながらゴーシュは姿を消した。

 それはひとまず、良いとして。

 

「さてルパンレッド。マジックダイヤルファイターの真髄、見せてやってくれよ」

「……けっ、役に立つんだろうな」

 

 毒づきつつ、レッドはかのマシンをVSチェンジャーに装填した。これもまたダイヤルファイターである以上、巨大化することは例外ではない。むろん他のダイヤルファイター、そして意気揚々と飛んできたグッドストライカーも。

 

「あれは……!新たなVSビークル!?」

「……死柄木、あんたが創ったの?」

 

 何も知らされていなかったパトレンジャーの面々は、当然のごとく弔に質問をぶつける。対する弔は、

 

「まァね。カッコいいだろ?」

 

 こんな調子である。煙に巻くような態度に天哉と響香は鼻白んだが、鋭児郎ただひとり「確かに」と感心しきりでいるようだった。その反応に対する反応は、弔からは窺えなかったけれど。

 

 

『快盗ガッタ〜イム、魔術を見せてやろうぜー!!』

 

 いつもとは異なる口上とともに、ダイヤルファイター同士の合体を文字通り中心となってすすめていくグッドストライカー。右腕にブルーダイヤルファイター、そしてマジックダイヤルファイターが頭部と左腕に。さらには、胸元までもを覆い隠す。

 そうして誕生した鋼鉄の機人の姿は、従来とは明らかに異なっていた。

 

『完成!ルパンカイザー"マジック"〜!』

 

 "魔法"の名を冠した新たなる巨人に、数体の巨大ポーダマンが先陣切って襲いかかる。迎え撃つマジック。その左手に装着された鉄球が、容赦なく振り下ろされ、彼らの奮闘はまったくの水の泡に終わった。

 

「けっ、コイツら相手じゃ試運転にもなりゃしねー」

「油断するなよ、小僧」

 

「まあ気持ちはわかるが」と、ルパンブルーは口の中でつぶやいた。実際、あっと驚くような隠し玉でももっていない限り、ポーダマンはポーダマンでしかない。既に倒した標的のように、改造されているわけでもないのだ。

 

『だったらサ、とことん遊んじゃおうぜ〜!』

「遊ぶ?」

『Oui!この姿、とんでもないコトが起こせちゃうヨ・カ・ン〜』

 

 グッドストライカーの物言いは相変わらず軽々しいが、実際、失敗を恐れず秘められた技能を試してみるには絶好の機会だった。相手が雑魚なら、いくらでも修正はきく。

 

「はっ、やったらァ!!」

 

 ルパンレッドの相変わらずの物言いと裏腹に、マジックは不思議な行動をとった。鉄球が開いて手が露になったかと思うと、周囲にカードらしき物体をばら撒いたのだ。

 

「……?」

 

 困惑するポーダマンらの前で、刹那、驚くべきことが起こった。

 降りそそぐカードを浴びたビル群が突如、ずずずと滑るように動き出したのだ。やがてそれらは一列に並び、ポーダマンらに立ちはだかった。

 

「そん中のどっかにお宝が隠されてる。探し出せたらくれてやるよ」

「!!」

 

 ポーダマンは欲望に忠実だった。ビルの中を覗き込んだり、隙間を探したり、思い思いに宝探しを開始する。揃いも揃って敵に背を向けている状況。しかしその敵こと、ルパンカイザー"マジック"は動かない。じっと宝探しの進行を見守っている。

 

「……今攻撃すれば、それで終わりだと思うんだが」

 

 ブルーのつぶやきは尤もだった。しかしグッドストライカーの言葉に従えば、このあと面白いことが起こるのだ。見守ってみるのも一興ではないか。

 

 そうこうしているうちに、ポーダマンの一体が歓喜の声をあげた。ビルの中のひとつにいつの間にか巨大箪笥が混ざっていて、そのいちばん下の段になんと、レッドダイヤルファイターが入っていたのだ。

 

 後生それを大事に抱えて喜ぶポーダマンに、他の連中が群がって奪おうとする。

 その中の一体が……ふと気づいた。いつの間にか目の前の機人が、通常のルパンカイザーに戻っていたのだ。

 

 そんなことはありえない。だってルパンカイザーを構成するレッドダイヤルファイターは、ここにあって──

 

「バァカ、よく見ろや」

 

 刹那、ダイヤルファイターはその姿を変えた。レッドから、マジックへ。飛行船は群がるポーダマンから自ら離脱すると、まるで唾を吐きかけるかのように容赦なく鉄球を叩きつけたのだ。

 

 そうして彼らを痛めつけると、ルパンカイザーは再びマジックと合体した。そして今度こそ、終局のとき。

 

『グッドストライカー・驚いちまえイリュージョン〜!』

 

──ルパン、マジック!

 

 マジックの手から放たれた球体は、いったん天に昇り。

 

「?」

 

 そのまま、巨大な要塞となって墜ちてきた。

 

『バルスっ!!』

「!!??」

 

 要塞の墜落に巻き込まれ……ポーダマンの群れはことごとく、ぺしゃんこに潰されてしまった。

 

「永遠に、アデュー」

『気分は、いつも以上に……サァイコ〜〜!!』

「………」

 

 随分古い映画のネタを持ってきたものだと炎司は密かに思ったが、口にはしなかった。まあ、たしかに遊び心のきいた戦いだった。ヒーローとして……少なくとも、エンデヴァーとしては絶対にありえない戦い方。

 そんなことを思いつつ、目的を果たした彼らは彼方へ飛び去っていくのだった。

 

 

 *

 

 

 

「じゃあ、そろそろお暇します。長々居座っちゃってごめんなさいね」

「……いえ」

 

 夕暮れに染まろうとしている往来で、緑谷引子が小さく頭を下げている。対する轟炎司と麗日お茶子もまた、一礼し返した。

 

「かっちゃん……勝己くんのこと、よろしくお願いしますね」

「……もちろんです」

「引子さんも、お元気で!」

 

 もう一度頭を下げて、引子は去っていった。ほんのわずかに名残惜しさを醸した、笑みを残して。

 

「……爆豪くん、なんで今わざわざ買い出しなんか。引子さんのお見送りもしないなんて」

「………」

 

 そのことについて、引子は何も言わなかった。──自分たちが戦場に向かって、勝己があとを追ってくるまでの数十分の間に何かあったのだろう。炎司はそう推察した。

 

(……頼まれてしまったな、小僧のこと)

 

 勝己を呪い消えた少年の、母親に。実母のそれよりも、重い言葉かもしれない。

 ある意味それも呪いであるなどと、思うだけでも失礼にあたるだろうか。

 

 

 いずれにせよ……夕暮れの街を独り彷徨う勝己の心を知る者は、彼自身をおいて他にはいないのだった。

 

 

 à suivre……

 

 




「旅行は、同行者がいてなんぼだろ?」

次回「SPLASH」

「行けッ、ルパンレッド!!」
「……似てんじゃねえよ、めんどくせえ」


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