【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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販促を気にしなくてもいいのだ


#30 SPLASH 3/3

 

 カンクス・ブチルメルカルタンを相手に、鋭児郎を欠いたパトレンジャーのふたりは苦戦を強いられていた。

 なぜなら、

 

「うわぁッ!!?」

 

 VSチェンジャーの引き金を引いた途端、小規模な爆発が起きる。吹っ飛ばされる。頑丈な警察スーツゆえ、損害は小さいが。

 

「ど、どうなっているんだ……!?」

「ッ、とにかく銃は使うな。ここは接近戦で……」

 

 ふたりの結論と同じものに、"彼ら"もたどり着いていた。

 

「原理はわからんが、銃を暴発させているらしいな」

「じゃあ、俺らも接近戦といこうか」

「オッケー!」

 

 VSチェンジャー、Xチェンジャーを構え──快盗チェンジ。変身を遂げると同時に、彼らもまた戦場へと舞い降りた。

 

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

「ルパン、エックス」

 

「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!」」」

 

 突然の闖入者は、正邪双方の動作を一瞬停滞させた。その隙を突いて、イエローが警察の足止め、ブルーとエックスが二手から攻撃を仕掛ける。正確にはブルーが斬撃を繰り出し、意識をそちらに引きつけたところでエックスが羽交い締めにするというものだったが。

 

「!?、は、放してっ。放してぇ!」

「……うるさいなァ。──ブルー」

「わかっている!」

 

 身動きを封じられたカンクスの金庫に、ダイヤルファイターを押しつける。『9・3・1』とナンバーが読み上げられ、解錠──

 

「ルパンコレクション、貰い受け……」

 

 いつも通りの、なんなら遥かに迅速な動きで、ブルーはルパンコレクションを奪回してみせた。そこまでは、良かったのだが。

 

「……!?」

 

 突然、カンクスの身体から溢れ出る黄色いガス。それはあっという間に周囲一帯に拡がり、快盗も警察も包み込んだ。

 

 そして彼らは──悪夢を、見た。

 

「く……」

 

 

(くっさ)あぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 強化スーツのメットでも防ぎきれない、強烈な臭気。

 

「ぐぶ……そ、そうか……"La Vie en rose(ばら色の人生)"、臭い消しのコレクションだ……」

「な、なんだと……」

 

 つまり、このギャングラーが臭いのか?

 

「正確には、オレのガスだす……ゴホン、出すガスの臭いだプ〜〜」

 

 ご丁寧な説明とは裏腹に、カンクスは指先から容赦なくガスをばら撒いていく。皆、あまりの悪臭に立っていることすらできず、その場にへたり込んだ。

 

「く、臭……もうダメ……お゛え゛ぇっ」

「!?、は、吐くなイエロー……!こちらまで……」

 

 

 ……大惨事であった。

 

 

 *

 

 

 

 ギャングラーの首魁らもまた、快盗も警察も一瞬にしてノックアウトされる一部始終を観察していたのだが。

 

「………」

「……………」

「見てるだけで臭ぇな」

 

 彼らはむしろ、敵である人間たちに同情していた。人間より遥かに強力な肉体……当然五感、もっと言えば嗅覚も鋭い。悪臭を忌み嫌うのは彼らも同じだった。

 

「ゴーシュ、もう手を貸してやれ……」

「えっ……そうね」

 

 デストラの言葉に、不承不承ながらゴーシュが動いた。思いっきり深呼吸をすると同時に、人間界へ転移する。

 

「私の可愛いお宝さんカンクスを元気にしてあげて……よし言えたわ」

 

 早口でいつもの口上を述べ、己がコレクションの力を発動する。この間およそ三秒。しかしエネルギー波を放出しながら、彼女はさっさと引っ込んでいたのだった。

 

──いずれにせよ……結果として、カンクスは巨大化させられた。

 

「あらららら、大きくなっちゃったプー。予定より早いがまあいいプ〜、そぉれ!」

 

 カンクスがパチンと指を鳴らし、わずかに火花が散る。刹那、

 

 劫火が、街を覆い尽くした。

 

 

 *

 

 

 

 ルパンレッドとパトレン1号の死闘は、果てしなく続いていた。

 

 優位を保っているかのように見える1号だが、あと一歩のところでレッドを捉えきれない。当然、VSビークルも奪還できないままだ。

 

「チッ……いい加減あきらめろよ、クソが……っ!」

「ンなわけにいくか……!それにはっ、世界の平和がかかってんだ!!」

 

 いちヒーローとしては、大仰にもとれる言葉。しかし今は国際警察の要のひとりとして、心の底からそう断言しているのだ。本来棘など生えていないはずの言葉なのに、どうしてか少年の胸には突き刺さる……深々と。

 

「黙れや……綺麗事ばっかべらべらと!!」

 

 遂にレッドは、動いた。VSチェンジャーにサイクロンダイヤルファイターを装填する。ギャングラーを粉砕するほどの強力な一撃を、放つつもりなのだ。

 

「……ッ!」

 

 一方の1号も、一瞬の逡巡のあとでトリガーマシンバイカーを取り出した。サイクロンと同等の威力をもつバイカー撃退砲なら、エネルギーを相殺できるかもしれない。──しかし万が一こちらが上回って、レッドに命中したら。

 

(俺は……)

 

 それでも、

 

『快盗ブースト!』

「バイカー、撃退砲──ッ!!」

 

 ふたりがいよいよ、最後の引き金を引こうとしたときだった。

 

『切島聞こえるか!?』

「ッ!?」

 

 突然の通信に、1号は思わず動きを止めた。普通なら命取りだったろうが、敵もその隙を突いたりはしなかった。というより、ほとんど反射的な停止だったのだけれど。

 

『森原地区で大規模火災が発生した!ギャングラーが可燃性ガスを撒き散らしてたんだ!この規模は……ッ、通常装備じゃ無理だ!トリガーマシンスプラッシュがあればって、死柄木が……』

「スプラッシュ……?あのビークルのことか?」

『頼む、なんとか……──』

 

 そのときだった。ひときわ大きな爆発音が響いたかと思うと、通信が途切れてしまったのは。

 

「耳郎!?おい耳郎──ッ、」

 

──通じない。ギリリと歯を食いしばった1号は、

 

「ルパンレッド!!」

 

 目の前の宿敵めがけて、声を張り上げた。

 

「聞いてたな!?街が大変なんだ……だから──!」

「………」

 

 

「ここからなら、おめェの飛行機のほうが速い……!」

「……は?」

 

 目の前の男がなにを言っているのか、勝己には一瞬、理解ができなかった。……そんなわけは、いや、どう考えても──

 

「それはおめェにやる!だから……だから皆を、街を救ってくれ!!」

「……なに、言ってんだ、てめェ……」

 

 掠れた問いに、1号が応えてくれることはついぞなかった。「いいから行け」と、声を振り絞って叫ぶ。それはルパンレッドの心を圧倒するのに十分すぎた。

 

「行けえええッ!!」

「……ッ、」

 

 思わず銃口を1号に向けるレッド。それでも身構えることすらしない相手を認めて……彼は、踵を返さざるをえなかった。

 数秒後、レッドダイヤルファイターが彼方へ飛んでいく。その姿を見送りながら、パトレン1号……鋭児郎は力なく座り込んだ。ほんとうにこれで良かったのか……葛藤がないといえば嘘になる。

 それでも、

 

(頼む……ルパンレッド……!)

 

 もはや、賽は投げられた。信じるほか、ないのだ。

 

 

 *

 

 

 

 劫火の中で、パトレンジャーの面々は懸命に救助作業を行っていた。

 

「こちらです、急いで!!」

「ッ、火の回りが速い……!死柄木っ、エックストレインを早く!」

『わかってるよ……ハァ』

 

 露骨に温度差のあるルパン、改めパトレンエックスだが、人々の運搬に協力している。

 

 一方の快盗たちは、ダイヤルファイターで巨大カンクスにドッグファイトを仕掛けていた。

 

「これ以上、好き勝手させないんだから……!」

「………」

 

 息巻くイエロー。そんな彼女の飛ぶ方角を、ルパンブルーはコックピットの中から見遣った。この戦闘も、元はといえば彼女が言い出したこと。ギャングラーに対する闘争心は奴らに人生を狂わされた者として当然もっている……だから否定はしないが。

 

(それだけでは、ないだろうな)

 

 今さら、考えるまでもないこと。

 

「ああ、鬱陶しいプー!どっかいくプー!」

 

 喚きながら反撃してくるカンクス。ダイヤルファイターのままでは、一撃喰らえば致命傷になりかねない。お茶子の真の意図を汲むなら、自分たちの役割は救助が完了するまでの時間稼ぎか。

 そう考えていた炎司だったが、業を煮やしたカンクスが思わぬ言葉を発した。

 

「きいいいっ、こうなったらもっともっとガスをばら撒いてやるプ〜!!」

「!?」

 

 こいつ、正気か──こんなごうごうとも燃えさかっている状況でさらに引火を誘発されたら、自分だって爆発に巻き込まれるだろうに。

 そういうことを考慮しないのがギャングラーということか。炎司は元トップヒーローらしからず、判断に迷った。思わず手に汗握る──刹那、

 

『丸顔、クソオヤジ!!』

「!」

 

 突然の呼び声。振り向けば──レッドダイヤルファイターが、こちらへ飛んでくる。

 

「レッド……!」

『ハナシはあとだ。ルパンカイザーマジックに合体しろ、消火は俺がやる』

「消火はって……VSビークルゲットしたん!?」

『したから言ってンだろ、いいから早くしろ!』

 

 言いようは気にいらないが、策としては適切である。ちょうどグッドストライカーも飛んできたところで、ブルーはレッドから受け取ったマジックダイヤルファイターを射出した。

 

『オイラにもっと注目してぇ!快盗ガッタイム〜』

 

 見せ場と張り切るグッドストライカーの主導により、ルパンカイザーマジックが誕生する。鋼鉄の機人の力は、ダイヤルファイター一機とは比較にならない。劫火をものともせず接近し、鉄球を用いた攻撃を仕掛ける。

 

「武器がマジプ〜〜!?」

「………」

 

 突っ込みを入れていたら、きりがない。

 

 ともあれルパンカイザーがカンクスを引きつけているのを尻目に、レッドは手に入れたトリガーマシンスプラッシュをVSチェンジャーに装填した。

 

『スプラーッシュ!Get Set……Ready Go!』

 

 『激・流・滅・火!』──発射され、巨大化していく鮮紅の消防車。レッドはすかさずそちらに飛び移った。

 

──皆を……街を救ってくれ!!

 

「……ッ、」

 

 自分は、快盗だ。従う義理などない。

 だから、だから──

 

 次の瞬間、トリガーマシンスプラッシュは大量の水を劫火めがけて放出していた。夥しい量の水流は街を呑み込み、またたく間に炎を無へ帰していく。紅蓮は、一瞬にしてその姿を消していった。

 

「ば、馬鹿な……プー!!?」

『馬鹿は貴様だ!』

「!?、グハぁッ!!」

 

 動揺したカンクスは鉄球の直撃を受け、まるで紙のように跳ね飛ばされた。

 

「やった!今のうちにとどめ──」

『悪いけど、それは俺が貰うよ』

「え!?」

 

 ルパンカイザーマジックの頭上を飛び越える巨大な影。それがエックスエンペラーであることがわかったのは、ニ、三秒後のことであった。

 

『ちょ、死柄木さん!?』

「いいようにアッシーくんさせられて終わりじゃ、気ィ悪いんだよ」

 

 言うが早いか、エックスエンペラー"スラッシュ"はグロッキー状態のカンクスめがけて一挙に距離を詰めていく。そして、

 

「エックスエンペラー……スラッシュストライクっ!!」

 

 帝王の斬撃が勢いよく繰り出され、標的のボディーを切り刻む。それに耐えきれるほど……カンクスは頑丈ではなかった。

 

「こ、こっちも気分悪いプー!!あ、おなら出ちゃ」

 

──爆発。死したゆえなのかガスの引火によるものなのかは……もはや神のみぞ知るところである。

 

「永遠にアデュー、ってね」

『ずるいぞトムラ〜!』

 

 グッドストライカーの抗議を受け流して、エックスは颯爽と去っていく。いずれにせよ、大惨事となりかけた戦闘も終焉を迎えたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

 廊下まで響くほどの謝罪の声が、タクティクス・ルーム内に響き渡った。

 

「VSビークル、快盗に渡しちまって……あとちょっとだったのに……」

 

 洩れたつぶやきは、誰より鋭児郎自身が拭えぬ悔しさと無力感を味わっていることを示していた。彼は全力を尽くしたのだ。──最終的に自ら快盗に預けた判断も、責められる者などいようはずがなかった。

 

「頭を上げなさい、切島隊員」

「!」

 

 責任者たる塚内は──笑っていた。

 

「きみの判断で大勢の人が救われた。そのことは堂々と胸を張れ」

「管理官……」

「その通りだ切島くん!俺がきみの立場でも、同じ判断をしただろう!」

「ま、どっちにしたって、怪しいブローカーの手にあるよかマシだしね」

 

 皆の励ましの言葉に、鋭児郎は思わず涙ぐんだ。及ばなかった悔しさと、それでも人命のため最善の手を打てたという喜びが混ざった、うつくしい涙だった。

 

『それにしても、快盗はよく切島さんのお願いを聞いてくれましたね』

「!、……ああ、なんでかな。そこはさ、信じてもいい気がしたんだ」

 

 守れるものは守りたい──自分の憶測にすぎないかもしれないけれど、きっと彼らもそう思っていると。

 今は、信じたい。

 

 

 *

 

 

 

 爆豪勝己は、ジュレの裏庭に独り佇んでいた。

 

「………」

 

 その手には、自らの功により入手したトリガーマシンスプラッシュが握られている。見目麗しい少年が、子供の玩具にしか見えないオブジェクトを手に立ち尽くしている。それはひどくミスマッチで、見る者に不安を与える光景だった──彼がどう感じるかは、また別の話だが。

 

「アルセーヌもさァ、ンな大事なモン人にホイホイあげすぎなんだよな」

 

 ぶつぶつつぶやきながら、勝己の隣に立つ白髪の青年。痩せぎすのようで抜け目なく鍛えられた体躯は、十代もまだ半ばの少年と並ぶとより際立つ。ある種の危うさすら匂うのは、穿ちすぎだろうか。

 

「で、なんの用?こんなとこに呼び出して」

 

 こんなとこ……ジュレの一角であることに違いないのだが、だからこそ弔はそう言い放った。炎司とお茶子に、聞かれたくない話か。

 そんなふうに勘ぐっていたらば、勝己が予想だにしない行動をとった。

 

「……これ、」

「は?」

 

 無造作に握られていたトリガーマシンスプラッシュが、差し出される。

 

「……どういうつもりだよ?俺が持つってことは、」

「いいから」

「………」

 

 弔は珍しく暫し逡巡するそぶりを見せてから……結局は、それを受け取った。確かに、自分が持っていたとて快盗にデメリットはない。使う人間が、増えるというだけで。

 それ以外に用はないという無言の拒絶を感じて、弔は黙って踵を返した。勝己はまた、独りで佇んでいる。

 

「……いちいち似てんじゃねえよ、めんどくせえ」

 

 そのつぶやきを、誰にも聞かれたくはなかったのだ。

 

 

 à suivre……

 

 






「私は……朽ちていくだけの存在だ……」
「それでもウチは、あんたを守る……!」

次回「朽ちていくまで」

「馬鹿だな、ギャングラーを信じるなんて」

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