戦塵浴びて、快盗の王は戦いを繰り広げていた。
「もうっ、なんでゴーラムまで出てくるわけ!?」
現れた"二体目"の怪物を前に、ルパンイエローがごちる。彼女……というより快盗たちにしてみれば、巨大戦など蛇足でしかない。増援に苛立つのも当然であった。
「どっかに一つ目野郎がいンだろ」
「とはいえコレクションは入手した、奴を倒せば終わりだ」
「まあ……たしかに。──あ、そうだレッド。せっかくやしこの前手に入れたの、使ってみない?」
トリガーマシンスプラッシュ。先日の戦闘においては文字通り火消しを担うにとどまり、ガッタイムには至らなかった。ここで使ってみようと彼女が言い出すのも、また当然なのだが。
「無ぇ」
「そうそう無……無い!?どういうこと?」
「死柄木に預けてあっから、ヤツがいねえと使えねー。以上」
「以上て!」
「貴様……そういう大事なことをなぜ報告しない?」
「聞かれねーから」
「ちょっ……」
にわかに始まりかけた口論だったが、『前見て前!』とわめくグッドストライカーにより強引に中断させられた。ゴーラムが急接近していたのだ。
「チッ!」
振り下ろされた拳を受け流して衝撃を最小限にとどめつつ、素早く後退する。そして、
『グッドストライカー連射ッ、倒れちまえショット~!!』
無数のエネルギー弾が連続で放たれ、ゴーラムのボディーを穴だらけにしていく。
「グオォォォォ……!?」
断末魔のうめき声をあげて、"それ"は爆破四散した。
「まず一体!」
「あとはてめェだけだ、映画泥棒もどき」
ゴーラムの影に隠れるようにしていたのは、かの頭が金庫になった改造ポーダマン。以前戦った者とは当然別個体だろうが、もとがポーダマンである以上その力は似たり寄ったりであって。
走り出すルパンカイザー。その疾走にあわせるように左腕が分離し、飛来した漆黒の剪刀と入れ替わる。
『完成!ルパンカイザー"ナイト"〜!』
「一気にトドメだグッディ!!」
『Oui!』
一気呵成に距離を詰め、
『グッドストライカー、ぶった斬っちまえスラァッシュ!!』
すれ違いざまに──斬る。時が止まったような一瞬のあとで……改造ポーダマンは、がくりとその場に膝を折った。
──そして、爆発。
『永遠にアデュ〜、アーンド気分はサイコー!』
「………」
『……じゃ、なさそうだなぁ』
剣呑な空気を察したのだろう、流石のグッドストライカーも口をつぐんだ。
*
戦闘の一部始終を、遠巻きに見ている異形の姿があった。
「ふん……ドグラニオ様のコレクションをまた無駄にしたな」
デストラ・マッジョの冷たい言葉に、"彼女"はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「でもこれで、実験体を安定させる方法がわかったわ」
「……それは結構だが、次からは自分のコレクションを使え。まあとにかく、これでアニダラのときの借りは返したぞ」
「うふふふ……大丈夫、次が本番だから」
嗤う──ゴーシュ・ル・メドゥ。そんな彼女らの足下では、もう一体の異形が追っ手から逃走を続けていた。
「グ……ハァ、ハァ……ッ」
息も絶え絶えの様子で走るのは、逃避という言葉にはおよそ似つかわしくない、鬼のような怪物だった。その右腹部には鈍色の金庫が埋め込まれており、彼がギャングラーであることを示している。
彼らはこの世界を占める人間たちより遥かに強靭な肉体と能力をもっている。一部を除いては無敵にも等しい存在だ──その"一部"によって大勢が殲滅されているわけだが──。ならば、誰に追われているか。
振り向いた異形の視界に映ったのは……骸骨の覆面を纏った、怪人たち。ギャングラーにより使役される、ポーダマンと呼ばれる存在だった。
彼らは持ち前の俊足でもって傷ついたギャングラーを取囲み、容赦なく攻撃を加えてくる。
──そこに、"彼ら"が現れた。
「そこまでだッ、ギャングラー!!」
「国際警察の権限において、実力を行使する──」
ギャングラーから世界を守るべく日夜活動している、警察戦隊パトレンジャーの面々。いつも通り敵性存在とみなした相手に向けて銃口を向けたのだが、
「ヌゥ、オォォォッ!!」
ギャングラーが、鋭い爪の一撃を放つ──周囲のポーダマンめがけて。
「な……!?」
ギャングラーとポーダマンは、常に主従関係にある。考えるまでもなくそう捉えていたパトレンジャーにとって、寝耳に水の光景だった。
「……仲間割れ、か?」
「いや、しかし……」
「………」
戸惑う三人、一方で沈黙のままにその光景を見つめるパトレンエックス。とはいえその差異は、少なくともこの場では問題にならなかった。
「どうする、耳郎くん?」
「……事情はあのギャングラーに訊くしかない、まずはポーダマンを片付けよう。死柄木、それでいい?」
「
相変わらず感情の読めない声色だが、了承であることはわかった。ニ・ニで前衛と後衛に分かれ、攻撃を開始する。
「お、らぁッ!!」
「………」
力押しの1号に、快盗以上のスピードで敵を翻弄するパトレンエックス。その間隙を縫うように、正確無比な射撃を敢行する2号と3号。彼らにかかれば、ポーダマンなどひとたまりもない。一分もしないうちに、彼らは全滅させられてしまうのだった。
「っし……!」
「……きみたちは、パトレンジャーか……?」
「!」
咄嗟に銃を向ける。だがこちらの行動に対して、鬼のようなギャングラーはなんの反応も見せなかった。それどころか、
「……撃て」
「は!?」
「殺して……くれ……」
およそ信じがたい言葉だった。死への願望──ギャングラーには、存在しえないものと思っていたのに。
「私は……生きていてはいけない存在だ……」
「……おまえ、」
パトレンジャーの面々が呆然としている中、
「じゃあ、お望み通りに」
「!?」
淡々とした口調でXチェンジャーを突きつけるパトレンエックス。その引き金が引かれようとしたところで、慌てた1号が止めに入った。
「ちょ、待てって死柄木!」
「大丈夫、ルパンコレクションならちゃんと回収するから」
「そうじゃねえって!事情、気にならねえのかよ!?」
「別に。だってギャングラーだぜ?」
「……!」
鋭児郎は思わず息を呑んだ。その言葉はあまりに冷たく反響したのだ。鋭児郎だけでなく、仲間たちもまた一様にそれを感じていた。
「……ギャングラーなら、尚更気になるんだよ。ウチらは」
表向き冷静に告げて、3号──耳郎響香はさりげなく間に割り込んだ。むろん、背後にするギャングラーのことは警戒しつつ。
そうこうしているうちに、飯田天哉がタクティクス・ルームに連絡を取っていて。
「管理官から、捕獲の指示が下りた。本部まで護送する」
「!、……あー、そうですか」
頑固一徹のふりをして、大した外堀の埋め方だと弔は感心した。塚内管理官の指示に従う義務は自分にはないが、とはいえ無碍にして関係が悪化すれば今後の活動に支障をきたす。
「勝手にすりゃいいけど、コレクションの回収が俺の任務だってこと、お忘れなく」
「……む、」
「それは管理官に言ってよ」
冷たく突き放して、響香は無抵抗のギャングラーに歩み寄っていった。
*
『管理官、皆さんがギャングラーを連行してきました!』
ジム・カーターの報告に、デスクで考え込んでいた塚内はやおら立ち上がった。──ギャングラーが素直に連行されてくるなど、これまでにないことだった。
「取り調べの様子、見に行ってくる」
『はい、お気をつけ……あっ』
塚内が部屋を出ることはかなわなかった。その行く手をふさぐように、弔が入室してきたのだ。
「……死柄木捜査官」
「その前に話があるんですが、管理官?」
にたりと笑う弔。その笑顔に底知れないものを感じるのは……彼がやって来ておおよそふた月が経過した現在となっても、やむことがなかった。
取り調べ……通常の犯罪者なら、机と椅子だけある簡素な部屋に閉じ込めて、対面で行うものだろう。
しかし、相手はギャングラーだ。身体の自由を許したままでは、たとえパトレンジャーが三人いるとしても安全が担保できない。
「……だからって、ここまでする必要あんのか?」
やりすぎではないか──そうとでも言いたげな視線を、鋭児郎は仲間たちに向けた。
「言いたいことはわかるよ。……けど、奴らには人権も生存権も保障されてない」
「我々……他の職員の方々も含め、安全を確保するためにはやむをえない措置なんだ」
「……わかった」
と言いつつ、やはり完全には受け入れがたい鋭児郎である。いつもは拘束するどころか容赦なく殲滅しているのに何を、と思われるかもしれないが、そういう合理的な思考に基づいて渋い表情を浮かべているのではなかった。
──ただ、大小様々な無数の拘束具によって指一本さえも動かせない状態にされている。その光景が、あまりに目の毒というだけで。
「………」
覚悟を決めて、三人は拘禁室へ入った。ギャングラーは沈黙を保ったまま、静かに瞑目している。と、思いきや。
「……気に病むことはない」
「は?」
「私を厳重に拘束していることに、罪悪感を覚えているのだろう。だが私はギャングラーだ、きみたち人間にどのような扱いを受けようが、不平を言うつもりはない」
殊勝にも程がある言葉に、三人は顔を見合わせた。己を殺せとまで言ったギャングラーだが、その本気を裏付けるかのような態度。
ただ異常に発達した聴力で会話を聞いていた可能性もあると考え、まずは響香が慎重に口を開いた。
「いくつか、質問に答えてもらう。……名前は?」
「……オーガス・バルバロク」
「オーガス……どうして、殺してくれなんて言ったんだ?」鋭児郎が問う。
「ポーダマンに追われていたことと、何か関係があるのか?」これは天哉。
「………」
ひゅう、ひゅうと苦しそうに呼吸を繰り返したあとで、オーガス・バルバロクと名乗ったギャングラーは問いに応じた。
「私が、不要になったのだろう」
「……!」
淡々と告げるにはあまりに残酷な事実に、三人は言葉を失う。
「……私はかつて、あらゆる世界を破壊し、生命を殺戮した」
──自らの過去を語る声のほうが、よほど震えていた。
オーガス・バルバロクはかつて、誰からも恐れられる戦闘マシーンだった。目についたものは敵味方問わず蹂躙し、大地を血に染めた。その力と闘争心には、かのドグラニオ・ヤーブンも一目置いたものだ。
「最初からヤツにモノ考える頭がありゃあ、おまえが仕えていたのはヤツだったかもしれねえな」
腹心であるデストラ・マッジョに対して、ドグラニオ当人がそう語るくらいには。
「まさか、そのようなこと」
「俺は本気だぞ、デストラ?」
「……それほどの力の持ち主だったとは。しかし──」
「ああ、今は見る影もないがな」
その点については、ドグラニオ自身反省するところはある。腕力と叡智とは、必ずしも融けあい混ざりあうものではないと、彼を見て学んだ。
「だからもう、俺には必要ない。……勿体ねえから、有効活用してやらんとな」
近ごろ鷹揚にすぎると感じていた主の声音が、久方ぶりに恐ろしく思えたデストラだった。