オーガス・バルバロクの護送は速やかに実施された。
護送車二台が先行し、最後尾にパトレンジャーの乗るパトカーが着く。しかし護送車はカモフラージュであって、オーガスの姿はパトカーの後部座席にあった。
「……ごめん、オーガス。こんなことになって……」
名目上は監視役として隣に座る響香が、か細い謝罪の言葉を発する。
対するオーガスは、
「きみが気に病むことはない。言ったろう、ギャングラーである以上、どんな扱いを受けても不満はないと」
「……あんたは知らないかもしれないけど、人間だって時と場合によっちゃ残酷なんだよ。ゴーシュと同じようなこと、するかもしれない」
「そうか、」
「そのときは、そのときさ」
何を言ってもオーガスは泰然としている。元々命を捨てようとしていた男、ゴーシュの実験台から逃げ出したのも彼女に利用されるのが我慢ならなかったのだろう。……平和のために。
「オーガス、ウチは……」
響香が何かを言いかけたときだった。──前方の護送車が火花を散らし、急停車したのは。
「ッ!?」
突然のことに、運転手の天哉の反応は遅れた。いやそれでも迅速にブレーキを踏んだのだが、衝突は避けられなかった。
「痛、うッ……皆、無事か!?」
「ウチらは……──ッ!」
前方を見遣れば、前兆なく姿を現したポーダマンの群れが一心不乱にこちらへ向かってくる。カモフラージュは、効かなかったのだ。
唇を噛みしめる響香だが、仲間たちの呼びかけで我に返った。
「オーガス、逃げるよ!」
「……承知した」
オーガスの拘束は腕のみで、こうした事態に備えて足は解放されている。彼を車中から連れ出し、響香はともに遁走する。当然あとを追わんとするポーダマンらだが、
「行かせねえよ!──快盗チェンジっ!!」
鋭児郎と天哉、ふたりが先行して変身し、応戦する。その隙に道路脇の茂みに逃げ込んだ響香だが、一瞬、葛藤が生まれる。このまま、オーガスは──
「……仲間を置いてはいけない。ウチも連中をやっつけてくるよ」
「!、しかし、それでは……」
「言うな!……ギャングラーでも静かに生きていけるんだって、あんたが証明してよ」
「耳郎、殿……」
感じ入るものがあったのだろう、瞳のない眼がじっと響香の顔を見つめている。彼のことを何も知らなければ、おぞましいと思えたのだろうか。
「ならば、これを」
不意にそうつぶやいて、オーガスは残った金庫をやおら開いた。
「生まれ落ちて数百年、誰と言葉を、心を通わせることもなく……朽ちていくまで、戦い続けることしかできない。どれほど抗おうと、私はそれだけの存在だ」
「そんなこと……」
「聞いてくれ。そんな私にとって、唯一心を通わしあえたのがきみだった。……生き抜いて、いつかきみと再び相まみえたい。そう、欲を抱いてしまった」
「オーガス……」
だから、再会のその日まで。この宝物を、持っていてほしい──
宝──エンブレムのような形状をしたそれは、明らかにルパンコレクションだった。一瞬死柄木弔や快盗たちの顔がよぎったが、響香は彼の好意を受け取ることにした。
エンブレムがオーガスの手を離れ、響香の手に渡る──
「……じゃあ、行ってくる!」
「ああ……気をつけて」
ルパンコレクションを懐に抱いて、響香は警察チェンジを遂げる。そして、戦場へと駆けていった。
「………」
暫し、その姿を見送っていたオーガスだったが、
「う、グッ」
──苦痛にうめく彼の声を、聞く者は誰もいなかった。
*
「うおおおおおおッ!!」
敵の群体に怯むことなく、突撃していくパトレン1号。VSチェンジャーでその数を減らしつつ、接敵したところでその岩石のような拳を叩きつける。
そんな彼の背中を、2号が守る。敵はまだ四方にいるが、背中合わせに戦えば隙は生まれない。既に数ヶ月をともに過ごしている彼らだ、連携は完璧である。
「ったく、また数が多いな……!」
「ゴーシュはおそらく通常のギャングラーより上位の存在だ、使役できる戦闘員の数も違うのだろう」
「なるほど……」
いずれにせよ、雑魚は雑魚だ。ふたりだけでも、片付けてみせる──
そう意気込んでいたらば、別方向から弾丸が飛んできて、ポーダマンに突き刺さった。
「!」
「お待たせ、ふたりとも」
桃色の装甲を纏った戦士──パトレン3号。
「耳郎くん……!オーガスはどうした!?」
「……こいつら、放っとくわけにはいかないでしょ」
「!、……そうだな、確かに!」
響香の意図するところを瞬時にふたりは察した。遵法意識の強い天哉には葛藤があるようだが、そのさなかでもポーダマンは襲ってくる。話は、こいつらを一掃してからだ。
「切島くん、前後交代だ。俺が前衛でポーダマンを引きつける。きみと耳郎くんで、その隙を突いて一掃してくれ!」
「了解っ!──耳郎!」
1号の手からトリガーマシンバイカーを渡される。彼はというと、トリガーマシンクレーン&ドリルを使用するつもりのようだった。
「いくぜ!」
それぞれをVSチェンジャーに装填し、
『『警察、ブースト!』』
3号の銃にバイカーの力が宿る。一方、クレーン&ドリルの力はチェンジャーに収まりきらず、
──1号の右腕に、巨大化したクレーン砲が装着された。
「ッ、重……!これは俺じゃなきゃ……扱えねえな……!」
「ムッ、聞き捨てならないぞ切島くん!」
「そんなのいいから、一気に叩くよ!」
「了解!」
「バイカー、撃退砲っ!」
「クレーン&ドリル──ストロング撲滅突破ァ!!」
ホイールの形をつくった弾丸と、ドリルカノンが同時に射出される。それを認めた2号は素早く離脱、残されたポーダマンのみがトリガーマシンの牙に喰らいつかれることになった。
断末魔とともに消滅するポーダマンの群れ。その中にあって幸運にも生き残った個体もいくらかいたのだが、
「逃さねえ、ぜっ!!」
駄目押しの一撃。クレーンがワイヤーを通じて射出され、残ったポーダマンをも吹き飛ばしてしまうのだった。
「殲滅、完了!」
「………」
周囲に敵影はもう、ない。だがそれは、オーガスの護送という本来の任務の継続を可とするものではなくて。
「耳郎くん、……」
何か言いたげに、2号が迫ってくる。──わかっている。ただ、今から再びオーガスを捕らえにかかる気は、どうしても起きないのだ。
「………」
覚悟を決めて、3号も彼に歩み寄ろうとしたそのとき、
「ッ!?」
なんの前ぶれもなく、三人を衝撃と火花が襲った。頑丈さに定評のある警察スーツのおかげでダメージは抑えられたが、不意打ちには違いない。
「ッ、まだ敵がいたのか!?」
増援……ゴーシュか?冷たいものが背筋をよぎった直後、彼らは、信じられないものを見た。
「……オーガス……?」
陽炎にその身を揺らめかせながら、地を踏みしめるようにその姿を現したのは──先ほど暇を告げたはずの、オーガス・バルバロクだった。
今の攻撃は、まさか……思考が辿り着くより前に、その答を彼自身が導き出した。
「──ウガアアアアアアアアッッッ!!!」
野獣の、咆哮。と同時に、彼は凄まじい速度で三人に迫った。臨戦態勢を整えきるより先に、鋭い爪が振り下ろされる。
「ぐああっ!?」
「切島!?」
咄嗟に硬化を発動させた1号だったが、焼け石に水とばかりに吹っ飛ばされる。それを目の当たりにしてようやく状況を呑み込んだ2号が押さえこみにかかるが、
「グオアァ!!」
「……ッ!」
凄まじいパワーだった。変身者の屈強な身体に警察スーツのブーストをもってしても、互角ですらない。結局、彼もまた1号と同様弾き飛ばされてしまった。
「………」
唸り声を洩らしながら、オーガスが次に目を向けたのは──3号。
「オーガス……!どうしたんだよ、一体!?」
問いかけに対して、言葉での回答はない。──あるのは、圧倒的な暴力の嵐。
「ガァアアアアッ!!」
そんなものが、パトレンジャーの中ではいちばん非力な彼女に向けられようとしたときだった。弾丸がオーガスの体表で弾けて、彼の進攻を止めたのは。
「……あーあ、やっぱりこうなるか」
「死柄木……!」
本部で待機していたはずの死柄木弔が、銃を手に立っている。何故ここに?いやそれ以上に疑問に感じるべきは、彼の放った言葉だった。
「耳郎サン、もしかしてヤツのルパンコレクション、回収した?」
「!、回収ってか……貰った、けど……」
現物を見せると、弔の表情が一瞬苦みばしったものに変わった。
「……やっぱり、"
「……?」
「いいかい耳郎サン、そいつはあらゆるものを正反対に"ひっくり返す"コレクションなんだ。前を後ろ、善を悪……ってな具合にね」
「!、まさか……」
ようやく、理解が及んだ。つまり理知的で落ち着いた、争いを厭うオーガスの人格は……すべて、所持していたコレクションによって"ひっくり返された"ものだったのだ。そしてそれを手放したために、本来の狂暴極まりない──人語すら発しないほどに──人格に戻ってしまったと。
「ッ、だったら、これを戻せば……」
響香の着想は……冷笑ひとつで、遮られた。
「あのさあ、アイツの言葉覚えてないの?何百年生きてきた、当たり前にそう言うくらい、ギャングラーは長命なんだよ。今、そいつを戻せたとして……あいつが遥か未来、人間の脅威になったら、あんた責任取れんの?」
「……!」
「……ま、どっちにしろ議論してる時間はなさそうだけど」
銃撃のダメージから容易く立ち直り、オーガスは再び彼らに牙を剥こうとしている。
「俺は未来にまで責任はもてない。だから今、命ある限り、すべきことをするだけだ。──警察チェンジ」
『警察、Xチェンジ!』
弔の姿が光に包まれ、パトレンエックスへと変化する。そしてそのまま、一瞬の躊躇さえなく、目の前の脅威に立ち向かっていく。
「………」
その黄金の背中を、響香はせめぎあう感情のままに見つめていた。──とにかくルパンコレクションを回収したい、そのための詭弁、出まかせ。けれどもそうだとするなら、今しがた自分の目の当たりにした表情は、なんなのか。
「耳郎っ!」
と、オーガスの猛威に呑み込まれていた仲間たちが辛くも復帰してくる。響香を心配するそぶりを見せつつ、彼らの視線もまた単身脅威に立ち向かう"四人目"に注がれていた。
──命ある限り、すべきことをするだけだ。
(ウチのすべきこと……それは……)
そんなこと、最初から決まっている。──世界の平和を守る、警察官として。
顔を上げたパトレン3号は同時に、すっ飛んできた漆黒の翼を掴みとった。
『トムラぁ助けに……って、なにナニ何!?』
「切島、飯田。
「お、おう!」
「……うむ!」
『スピード感与えられちゃう〜』などとわけのわからないことをのたまっているグッドストライカーを、1号がVSチェンジャーに装填──
『1号・2号・3号!一致団結!』
彼を中心に三人の肉体が融合し、赤と緑とピンクのパトレンU号へと変身を遂げるのである。
「!」
U号の姿を認めて、敵の猛攻を躱すのに苦心していたパトレンエックスは動きを変えた。
「快盗チェンジ!」
金から銀へ。ルパンエックスとなって跳躍、オーガスの背後に回り込むや、彼を羽交い締めにした。
「グォオッ、グオオオオオ──ッ!!」
「……ッ!」
全力で抵抗するオーガスを、懸命に押さえ込む。むろんパワーの差は圧倒的で、そう長くは保たないことはわかっている。振り払われる前に──前に。
「撃てっ、パトレンジャー!!」
「………」
「……さよなら」
「イチゲキ、ストライク」──放たれた拳大の光弾が、オーガスの身を焼き焦がしていく。
「!!!!!」
苦悶するオーガス。……まだだ、この屈強な怪物に今離脱されたら、倒しきれない。光弾がその肉体を削りきるまで、押さえていなければ。
「グオオオオ、オオ、ガァアアアア──ッ!!」
そのとき、だった。
「……すまない、約束を守れなくて」
「……!」
それは、まぼろしだったのか。
いずれにせよ刹那ののち、オーガスは遂に爆散した。もはや彼のどんな姿も、声も、見聞きすることなどありえない。二度と。
「……オーガス……」
悼むように、その名を呼ぶ3号。と同時に、ルパンエックスが爆炎の向こうから姿を現した。
「……、ふぅ……」
「!、死柄木!」
片膝を折る彼に真っ先に駆け寄ろうとしたのは他でもない、3号だった。彼女の反応にやや戸惑いながらも、融合している仲間たちはそれに従う。
「……よう、おつかれさん」
「おつかれって……無茶して」
「ま、あんたらより高い給料貰ってっからさァ。一応、給料分のシゴトはしないとな」
相変わらずの物言いに、肩から力が抜ける。死柄木弔……やはり、奇妙な青年である。だが今は、それがかえって心地良かった。
──だが、戦いは終わっていない。
砂利を踏みしめる音が聞こえて、四人は一斉に振り返った。
「!」
「お前は……!」
それは、異様な姿の怪物だった。齧歯類に似た頭部や毛並みをもっているかと思えば、爬虫類のような光沢のある皮膚、大きささえもばらばらの四肢……見る者をひどく不安にする姿をしている。
何より、彼は左肩、左腿、右腕、右膝の四ヶ所に金庫をもっていた。強力なギャングラー?いや、それにしては──
そのとき、驚くべきことが起きた。誰の意志でもなく、ひとりでに
「な……どうした、グッドストライカー!?」
『あわわわわ……あいつ、"バッドボーイズ"持ってる!オイラの天敵だぁ!』
「バッド……どういうことだ?」
『コレクションを弱くするコレクションだよぉ!オイラの力を相殺しちまうんだ!』
「……!」
戦慄する一同。しかしほんとうの恐怖はこれからだった。
「ふふ、すごいでしょう。私の力作よ」
無邪気な少女のごとき声音が響いたかと思うと、空間を裂くように現れた手が遺されたオーガスの金庫を拾い上げる。そして、
「……ゴーシュ……!」
ゴーシュ・ル・メドゥ──邪悪なるギャングラーのマッドサイエンティスト。姿を現した彼女は金庫に手持ちのルパンコレクションを投入、怪物の胸元に押し当てた。
「ガ……!」
苦悶の声をあげる怪物。刹那、驚くべきことが起こった。金庫がずぶずぶと音を立てて胸肉の中に沈んでいく。半分ほど埋まったそれは、もはや彼の身体の一部となってしまった。
「ゴーシュおまえ、何を……!」
「見ればわかるわ。──私の可愛い実験体ちゃん、人間どもを驚かせてあげて……」
五つの金庫を埋め込まれた"実験体"は、ゴーシュの所有するルパンコレクションの力によって巨大化を遂げる。
「いきなり巨大化させるなんて……!」
「ッ、グッドストライカー、いけるか?」
『び、ビミョ〜……』
返答がどうであれ、パトレンジャーの行動は決まっている。──"彼"の制止があったとしても。
「やめろ!ステイタス・クインティブル相手に、きみらだけじゃ……ッ、」
「死柄木!?」
立ち上がろうとするエックスは、しかしバランスを崩してぐらりと倒れ落ちた。イチゲキストライクをギャングラー越しとはいえ受けたのだ、肉体にまでダメージを負うのは避けられなかったのだろう。
「……あんたは休んでて。ウチらで抑える」
「聞けって……!」
「聞いてっけど、放っとくわけにはいかねーだろ!」
そう切り捨てて、数秒後にはもう彼らは機人の漕手となっていた。
『か、完成、パトカイザ……ダメだくらくらするぅ』
「グッドストライカー、しっかりするんだ!」
「……長く保たないなら、一気に決めるしかない!」
「おう!踏ん張れよグッドストライカー!!」
「「「──パトカイザー、弾丸ストライクっ!!」」」
一気呵成、必殺の弾丸を放つパトカイザー。倒せないまでもとにかくダメージを与えて、暴れる余力を失わせなければ。
しかし弾丸が到達するより先に、"実験体"の左肩の金庫が鈍い輝きを放つ。──刹那、その前面の空間がゆがんだ。
「……!?」
エネルギー弾が、消散する。
「ウソだろ、弾丸ストライクが……」
「ッ、ならストロングバイカーで……!」
『だ、ダメだぁぁ新しい合体なんて耐えらんないよぉぉ〜……』
「だが、このままでは──!」
そう、容易く一撃を防ぎきった実験体は、即座に反撃へと転じた。身体中の金庫を次々に光らせ、爪から、脚から、衝撃波を放つ。
「ぐ……!」
防御の構えをとるパトカイザーだが、その衝撃ははっきりとコックピットまで伝わった。激しく散る火花が、ボディーに大きな損傷を受けたことを示している。
それに、まだ終わりではなかった。
「グォアァァァァ──ッ!!」
胸部の金庫が輝き……彼の胴体ほどもある熱球が形成されていく。まずい、あんなものを喰らったら──思考が行動に作用するより早く、それは放たれて……。
パトカイザーは、劫火に呑み込まれた。
à suivre……
「快盗と手を組むしかない」
「条件がある。……俺と勝負だ」
次回「男の決闘」
「力ァ、借りるぜ!!」
『スプラーッシュ!警察ブースト!』