【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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決闘は「たたかい」とお読みください

「決闘を申し込む」とはかなり毛色の異なる形になるかと思います


#32 男の決闘 1/3

 

 それは悪夢のような光景だった。

 

 五つもの金庫を身体に埋め込まれた醜悪な怪物が、警察戦隊の操る鋼鉄の巨人を圧倒している。必殺の弾丸を容易く消し飛ばし、その何倍ものエネルギーを発する攻撃を次々に放っているのだ。

 巨人──パトカイザーは辛うじて踏ん張っているが、敗勢にあることは明白だった。

 

「パトレンジャー、逃げろ──!」

 

 手負いのルパンエックスが地上から叫ぶ。しかし、その声が届くわけもなく。

 

──パトカイザーは、劫火に呑み込まれた。

 

 

「死柄木!!」

 

 呆然と立ち尽くしていた弔は、警察とは別の仲間たちに呼びかけられて我に返った。

 

「状況はどうなっている!?」

「あのギャングラー、めちゃ強くない!?」

「……きみらか」

 

 来るのが遅い、と皮肉のひとつもぶつけたかったが、言葉が上手く出てこない。思った以上に重傷かと、冷静に自分を嘲う程度の余裕はまだあるが。

 

「見ての……通りだよ」

 

 どうにかそれだけは絞り出し、顎をしゃくる。先の一撃でパトカイザーは遂に限界を迎え、ばらばらになっていた。ルパンコレクションの改良型であるトリガーマシン自体が破壊されるほどではないが、あの怪物のコレクションによって力が弱められている中、再合体などできはしないだろう。

 

──そう、パトレンジャーは最大の危機を迎えていたのだ。

 

「ッ、飯田、耳郎!大丈夫か!?」

 

 白煙をあげて横転するトリガーマシン1号のコックピットで、パトレン1号・切島鋭児郎は必死に呼びかけを続ける。暫くして、ようやく仲間から応答があった。

 

『俺は、大丈夫だ!』

『ウチも……だけど、こんな状態じゃ──』

 

 彼らにとどめを刺すべく、"実験体"は文字通り爪を研いでいる。このままでは……やられる。鋭児郎はぎりりと鋭い歯を食いしばった。

 しかし次の瞬間、奇妙なことが起こった。突然身体を痙攣させたかと思うと、"実験体"はまるで糸の切れた操り人形のようにその動きを止めたのだ。

 

「……なんだ?」

 

 怪訝に思うのもつかの間、みるみるうちにその身が縮んでいく。そうして彼は、等身大にまで戻ってしまった。

 

「………」

 

 完全に、沈黙している。──傍にいた快盗たちからすれば、その姿は据え膳というほかなかった。

 

「ど、どうしたん……?」

「さあな。いずれにせよ、好機だ」

「わーっとるわ!」

 

 レッドダイヤルファイターを手に、突撃するルパンレッド。標的が突然動き出した場合に備えてブルー・イエローが脇を固めるが、彼らは既に勝利を確信していた。五つものルパンコレクションを、一挙に手に入れるチャンス──

 

「よこせやァ!!」

『4・1──0!』

 

 解錠──と、思われた瞬間、

 

「ッ!?」

 

 金庫と金庫の間に電流が奔り、レッドは大きく弾かれてしまった。

 

「レッド!?」

「ッ、どうなってやがる……!?」

 

 ステイタス・ゴールドでもないのに。複数あっても通常の金庫なら通常の対応で問題ないことは、以前戦ったステイタス・ダブルが示しているのだ。

 しかし死柄木弔は、手負いで戦闘から離れていたために、そのからくりに気づくことができた。

 

「金庫同士が連動してるのか……?」

 

 だとしたら──考えを巡らせるが、ここは戦場だ。レッドたちがなおも食い下がろうとする中、新たな脅威が姿を現した。

 

「私の可愛いモルモット、いじめないでって言ったわよね?」

「!、ゴーシュ……!」

 

 "実験体"の創造主たるゴーシュ・ル・メドゥが、お得意の空間転移からの奇襲を仕掛けてくる。スピードに長けたルパンレンジャーであるので直撃を受けることはなかったが、いずれにせよ標的とは距離ができてしまった。

 

「せっかくいいところだったのに、不具合を起こすなんて……。金庫、増やしすぎたかしら?」

「……ッ、」

「けど、コレクションの力は安定して使えるわ。──もっと完璧に仕上げてくるから、そうしたらまた遊びましょう?」

 

 ゴーシュに快盗たちと直接戦う意欲はないようだった。"実験体"を連れ、そのまま消えていく。空間転移の能力をもつ彼女を追うすべは、彼らにはなかった。

 

「………」

 

 そして、それを悔しがることもできない。──仮に捕捉できたとて、あの金庫を開けることもできないのだから。

 

 

 *

 

 

 

 命拾いを、した。

 

「……二度目だな、パトカイザーで敗北するのは」

 

 天哉の言葉が、室内に重々しく反響する。幸いにして、彼ら隊員が負傷していないのも前回と同じ。ならば、打開策は──

 

『あの化け物は、複数のギャングラーを混ぜ合わせてできたと思われます。ただ今塚内管理官が、フランス本部と対策を協議していますが……』

「ヤツはグッドストライカーを弱体化する。それをなんとかしないと……」

「………」

 

 

 *

 

 

 

 一方、快盗たちもまた拠点に舞い戻っていた。二足の草鞋を履く死柄木弔も、今回はこちらに同行している。

 

「もう傷はいいのか?」

 

 気遣っているにしてはぶっきらぼうな轟炎司の問いかけに、弔は肩をすくめてみせた。

 

「まァ、前みたいに直接ボコられたワケじゃないから」

「そーかよ。じゃあとっとと教えろや、ヤツの金庫が開かねえ理由」

「そう急かすなよ」

 

 ぼやきつつ、適当なテーブルを借りて座る。端末から先ほどの戦闘データを引っ張り出し、彼らに指し示した。

 

「ヤツに埋め込まれた金庫はすべて連動してるんだ。どれかひとつの暗証番号をクリアしても意味がない。やるなら、一斉にすべてを解錠する必要がある」

「すべてってことは……五つ!?」仰け反るお茶子。「金色金庫よりムズいやん……。だいたい私たち、四人しかいないし……あっ、そうだ!黒霧さんに頼んでみる!?」

「……俺は別にいいけどさァ、あいつに何かあったらきみらが困るんじゃない?」

 

 ギャングラー……と言えるかはともかくとして、あんな危険な怪物との戦闘に生身の人間を参加させるのはリスクが大きすぎる。勝己も炎司も弔と同意見であったので、この案は即座に却下された。

 

「……グッディ使やァ分身できる。それなら──」

『それは無理なんだよぉ……』当のグッドストライカーの言。

「ア゛ァ?ンでだよ」

「ヤツは"Les voyous(悪い奴ら)"っていう、コレクションの力を弱めるコレクションを持ってるから。それを奪わない限り、グッドストライカー含めビークルには頼れないと思っておいたほうがいい」

 

 つまりもうひとり、協力者が必要になる。自分たちと同等の力を持った者が。

 

「ま、アテがないわけじゃない。駄目もとだけど」

「……薄々想像はつくが、ほんとうに駄目もとだな」

「駄目なら駄目で別の方法考えるさ。じゃ、俺はこの辺で」

 

 手負いの身であることを感じさせない颯爽とした足取りで、弔は去っていった。猫背気味なのは、いつものこととして。

 

「アテって……まさか」

 

 その背を見送りながら、お茶子がつぶやく。彼女が察することは、勝己と炎司にも当然お見通しである。

 

「彼らの協力を取り付けるつもりか。だが、以前のようにはいくまい」

「……どうだろーな」

 

 おざなりな返答をしつつ。──勝己の脳裏には、ある赤毛の青年の顔が浮かんでいた。

 

 

 *

 

 

 

 ジュレを辞した死柄木弔は、そのまま国際警察の捜査官に顔を変えて警察戦隊に戻った。

 

──そこで彼らに、驚くべき提案をすることとなる。

 

「快盗と協力するだと!?」

 

 それに対し、飯田天哉は大声を張り上げた。眼鏡の奥の四角ばった瞳が吊り上がっている。まあ、予想通りの反応といえる。

 

「あの化け物の持つルパンコレクションのひとつが、こちらを弱体化させている。だったらそれを奪うしかない。でも快盗だけじゃ金庫を開けられない。だからきみらの協力が必要……わかりやすい図式だと思うけどなァ。前例もあることだし」

「そういう問題では……くっ、しかし……」

 

 本来ならそんなこと、認められるものではない。しかし天哉は葛藤していた。ヒーローであった兄・インゲニウムは、常に人々を守り救けることを最優先に考えていた。言葉にすれば当然のことのようだが、そのために法を逸した者たちとの協力も躊躇わないというのは並大抵の判断ではない。そういった兄の姿勢には賛否両論あったが、天哉は少なくとも尊敬していた。頑固な自分は彼のようにはなれない……だが、彼のようでありたいと。

 

 そんな彼に対して、オーガスの件があった響香は既に冷静だった。

 

「言いたいことはわかるよ、死柄木。……でもあんた、そうやってウチらと快盗の協力を既成事実化しようとしてない?」

「……別に、ンなつもりはないけど。ただ必要に応じて効率の良いやり方を提案してるだけだよ、俺は」

「………」

 

 理解はしても、納得はしていない。その事実がありありと伝わる眼差しを向けられ、弔は嘆息した。快盗と警察の協力関係──心情面を抜きにすれば前者にはメリットしかない話だが、公的機関である後者はそうもいかない。現実に、弔が前者に比重を置く存在であることも確かだった。

 

(仲間っつっても、そんなもんか)

 

 是非もない。そう仕向けているのは自分なのだから。

 

「……まァ、今回は時間もないから。やるのか、やらないのか。この場ではっきりさせてくれりゃそれでいいよ」

 

 どうせ駄目もとだから──自分に言い聞かせつつ、こころの芯が冷えていくのを弔は感じていた。自分の容貌が悪いのか、態度が悪いのか、あるいは手法が悪いのか。両勢力を股にかけているつもりでどちらからも全幅の信頼を置かれることはないのだと、正直自覚はしている。それは時間が解決するようなものでないことも──快盗たちはまだしも、警察の彼らは。

 

 内心捨て鉢な思考に陥っていたらば、珍しく沈黙を保っていた青年が不意に立ち上がった。

 

「──だったらその限られた時間、俺に預けちゃくれねえか」

「!、切島……?」

 

 切島鋭児郎。彼は普段見せることのない、静かな視線を弔に向けていた。

 

「死柄木、──俺と勝負しろ。それが条件だ」

「……勝負?」

 

 思いもよらない言葉。それは弔に限った話ではなく、天哉も響香も、ジム・カーターも同様だった。揃って困惑した表情を浮かべている──ジムに表情があるかは置いておくとして──。

 一体、どういうつもりなのか。それを知るのは神をおいてただひとり、切島鋭児郎当人のみだった。

 

 

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