【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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今回、どこで切るか悩みました


#32 男の決闘 2/3

 

 本部との協議を終えた塚内直正は、庁舎内にある売店のレジ袋片手にタクティクス・ルームへと戻った。環境への影響云々とかで有料化がなされたのはずいぶん過去の話、現代では個性でどうとでもなるのだが、負担というのはことごとく不可逆的なもののようだ。──せめて"本業"くらいは、そうでなくなる日を夢見たいものである。

 

「お疲れ様ですッ、管理官!」

 

 とはいえそのときが来たらば、この個性豊かな部下たちとも別れ別れになると思うと、一抹の寂しさもあるのだが。

 

「すまない遅くなった。昼メシ、いちおう皆のぶんも買ってきたんだが、食べるか?」

「どうもです。それはいったん置いといて……協議の結果は?」

「ああ……残念ながら、結論は先送りになった」

「先送りとは!?いつまたあの怪物が現れるかわからないのに、失礼ですが悠長ではありませんか!?」

「落ち着きなよ飯田。……要するに、またウチらに委任ってことでしょ」

 

 現場どころか海の向こうにいる幹部たちに、的確な対応策を提示するというのもどだい無理な話だろう。ならばそのような会議を開かなくても……というのも正直なところ本音なのだが、これも巨大組織の宿痾というよりほかない。幹部たちが何も知らないのは、それはそれで問題なのだ。

 

「まあな。もちろん、いろいろ意見は出たが……内々の会議だから、それなりにラディカルなのも」

「快盗と協力する、とか?」

「鋭いね耳郎くん。まあ、一部の意見ではあるけどな」

「約一名、そんなこと言ってるヤツもいますから」

 

 その言葉に、塚内はようやく不在者に思いを致したらしい。

 

「そういえば、切島くんと死柄木捜査官は?」

「……実は、」

 

 部下の説明に、塚内が呆気にとられるのも無理なきことだった。

 

「しょ、勝負?……いったい何を言い出すんだ、彼は。そんなこと、管理官として許可できるわけがない」

「……当然のお言葉だと思います。ただ切島くんのことですから、額面通りに捉えるべきではないかと」

「どういう意味だ?」

 

 なおも怪訝な表情を浮かべる上司に対し、

 

「切島は誰が相手でも真正面からぶつかっていく。そういうことですよ」

 

 そう答えて、響香は同僚と笑みをかわしあった。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、死柄木弔はレンタカーの助手席に揺られていた。血のいろをした眼を右方向へ滑らせれば、そこには両手でがっちりとハンドルを握る青年の姿。

 

「……なァ、いい加減どういうつもりか教えてくんないかな。こんなときにお互い削りあうなんて馬鹿のすることだろ」

 

 まあ、それが条件だと言われて馬鹿に付き合っている自分も自分なのだが。もはや自嘲にも疲れてため息をついていると、信号待ちでブレーキを踏めた鋭児郎がようやく口を開いた。

 

「……わかってる。ごたごた言わず付き合えって」

 

 すげない鋭児郎。衝突を前に気が立っている……そう捉えれば不自然ではないが、どうにも違和感があった。その正体がなんなのかまでは、まだ掴めそうもないが。

 

「つーかおめェ……それ、マジで私服?」

 

 鋭児郎の視線が、弔の首から下に注がれる。プライベートで付き合いがあるわけでもないので、彼の私服なんて数えるほどしか見たことはないのだが……知る限り、いつも無地の黒シャツか、パーカーである。きょうは後者か。

 

「そうだけど、何か文句ある?」

「文句っつーか……う〜ん……」何か考え込んだかと思いきや、「っし、まずはそっからだな!」

「?」

 

 首を傾げる……と同時に、信号が青になる。走り出す四輪。十数分ほど走り続けた彼らの前に、やがてとある建造物が現れて──

 

 

──そして、

 

「死柄木、これなんか似合いそうじゃねえか!?」

「………」

 

 あれやこれやと服を漁りながらはしゃぐ鋭児郎を眺めながら、弔は何度目かわからないため息をついた。

 

「……なァ。なんで俺ら、ショッピングモールにいんの?」

 

 そう、彼らはショッピングモール内のアパレルショップにいた。こんなときに何をしているのか、戦いとやらはどうしたのか。湧いて出る疑問を、弔は上記の問いに集約した。

 対する鋭児郎は、先ほどのつっけんどんから一転して朗らかな笑みを浮かべてみせた。

 

「だっておめェ、その服じゃあさ……気ィ抜けるっつーかなんつーか……。とにかくオシャレなの着てみようぜ!おめェスタイル良いからなんでも似合うって!」

「……別になんでもいいだろ、服なんて。ドレスコードさえ守れば」

「もったいねーんだって!ほら、試着してみようぜ!」

「……じゃあ、この黒っぽいやつ」

 

 「結局黒かよー」なんて笑いながら、試着室に押し込まれる。着替え後を見て太鼓判を押した鋭児郎によって、以後はその服を着て行動することになるのだった。

 

 

 そのあとはゲームセンターに行ったり、

 

「うおおお、追い抜かれる!?」

「ははっ、やっぱ初心者だなァ」

 

 本屋に入ってみたり、

 

「おっ、新刊出てる。これ面白ぇんだぜ!まあ最近は読んでる時間なかったんだけど……」

「ふぅん」

「死柄木は漫画読むのか?あ、そもそも、普段どういうジャンル読んでんだ?」

「小難しいの」

「……なんかトゲ感じんなあ」

 

 

 意味があるのかも弔にはわからないおしゃべりを続けているうちに、気づけば日没を迎えていた。

 

 

「いろいろ見て回ったら腹ァ減ったな、そろそろメシにすっか」

「ん」

「いくさ前の腹ごしらえだし、がっつりしたもん食いてーよな。あ、でもおめェはフランス料理とかのほうがいいのか?」

 

 フランス料理とは、またずいぶん漠然とした括りである。日本で一般的にイメージされるのは高級感あふれるフルコースなのだろうが、階層によって当然違いはあるし、もっといえば地域によってもまったく異なる。プロヴァンスとブルターニュがまったく同じ食文化であるわけがないのだから。

 

「さァ、なんでもいいよ」

「好きなもんないのか?」

「昔はあったけど、忘れた」

 

 その言葉に乗せられた感情を、察したのか否か。鋭児郎は一瞬、悲しげに瞳をゆがめた。もっとも直後には、いつもの人好きする笑顔に戻っていたのだが。

 

「じゃあ、うんまい焼き肉でも食うか!ここ、結構いい店入ってんだぜ」

「へー」

 

 決断即行動とばかりに動き出す鋭児郎。その背中にのんびりと着いていきつつ、弔は彼の意図を測りかねていた。

 

 つまるところ、ほんとうに決闘をする気など、あるのかどうか。

 

 

 *

 

 

 

「いっただきまーす!」

「……ま〜す」

 

 公共の場であることを考慮してか潜めてはいるが、いつも通りしっかりした声音で挨拶をする鋭児郎。そんな彼を珍しい動物を見るように眺めつつ、弔もまた焼いたカルビに手をつけた。

 

「ん〜美味ぇ!やっぱ漢の夕飯は肉に限るぜ!」

「……新品の服と焼き肉って相性悪い気がするけど。脂飛ぶし、匂いはつくし」

「あ!」

 

 まったく考慮の埒外だったのだろう、鋭児郎はぽかんと口を開けて硬直している。その表情があまりに間抜けで、弔は思わず吹き出しそうになった。

 

「ははっ、考えが足りなかったなァ」

「……わりィ……」

 

 本気で意気消沈しているようである。別に弔としては大した損害でもないので、そんな気にする必要もないのだが。

 

「ンなことより、こういう店、よく来るんだ」

「ん、あ、ああ。特に雄英通ってた頃はな。授業がハードだったし、そのぶん腹も減るし」

「……まァ、だろうね。ヒーローなんてあんな腐るほどいてまだガキを仕立て上げようとしてンだから、ほんと、呆れるよ」

「……前々から思ってたけど、死柄木はヒーローが嫌いなのか?」

「………」

 

「ああ、嫌いだね」

 

 濁すこともなく、きっぱりとそう言い放つ。網から上がる白煙のむこうで、鋭児郎がまたあの悲しげな表情を浮かべるのがわかった。悲しい、というより、傷ついているというのが正しいか。

 それなのに、彼はやはり笑みを浮かべてみせるのだ。

 

「……ま、そういう人だっているよな。俺らって基本、綺麗事しか言えねー仕事だし。もちろんそれを実現するためにみんな頑張ってっけど、全部が全部うまくいくわけじゃないし、さ」

「………」

「でも、それならなんで国際警察に?人を守るって意味じゃ、やってることは変わんないだろ?」

「まァね。……ヒーローよりかは、大局観に立って動けるからかな」

「なるほどなぁ……。でもさ、潜入捜査やってるとはいえ、かなり快盗に肩入れしてるのはどうしてなんだ?」

「別にしてないけど」

「誤魔化さなくていいって。別に責めてるわけじゃねえんだ、気持ちはその……わからないでも、ないし……」

 

 鋭児郎の質問に弔は身構えたが、警戒心を芽生えさせるには至らなかった。彼のもつ疑念は純粋なもので、捜査官であれば否が応でも滲ませる真相を暴いてやろうというぎらつきを感じさせない。後半の言葉もまた、嘘やおべっかでないこともわかる──普段の彼の、快盗たちに対する言動を思えば。

 

「俺、知りたいんだ。あいつらがどうして、何を考えて快盗なんてやってるのか。それがわかれば……もしかしたら……」

「助けになれるかもしれないって?」

「ああ。……こういうの、余計なお世話とか、傲慢って、言うのかもしれないけどさ」

 

 そう、弔はまさしくそう告げようとした。この善性の塊のような男に少しでも爪痕を残そうとしたのだ。

 しかし鋭児郎は、既にそれを自覚していた。

 

 この男は心の底から、比喩でなく顔の見えない敵のために思い悩んでいる。ヒーローだから、警察官だからではない。彼が切島鋭児郎だから、理由はただ、それに尽きるのだろう。

 

(……なんだよ、今さら)

 

 箸を握る手に、力がこもる。それを覆う分厚い手袋のために、その原因たる目の前の青年に気づかれることはない。

 

「ああ、そうだな。心の底からそう思うよ」

「………」

「ンなことよりその肉、焦げるよ」

 

 箸で指し示してやると、鋭児郎は慌ててその肉を摘まんだ。彼の食事風景は時たま執務室内で見かけるが、いつも騒がしく、慌ただしい。同時に、"生きている"のだということを鮮明に感じさせもする。──そもそも"死"を名前から背負っているのだが、自分は。

 

 勧められるまま口に放り込んだ肉は鋭児郎の言った通りの味で、かえって胸焼けがしそうになった。

 

 

 *

 

 

 

 食った食った、と、満足そうに鋭児郎が腹を擦っている。その言葉に恥じぬ食べっぷりだったのは間違いない。ニ時間ほどかけて、肉もスープもサイドメニューもあらかた食べ尽くしたのだから。

 

「……なァ、やっぱり自分のぶんくらいは出すよ」

「いーっていーってそんなの!俺が付き合わせちまったんだし」

「でも、俺のほうが金持ってるから」

「……それを言うなよぉ」

 

 弔は見てしまったのだ。会計の際、財布の中を確認して切ない表情を浮かべている彼を。

 

「事務所じゃ奢ってもらってばっかだったし、警察(ここ)でもせいぜい割り勘だし……一回奢りってやってみたかったんだよ。だから気にすんなって!」

「まあ……そこまで言うなら」

 

 鋭児郎の懐が痛もうがどうしようが実害はないので、素直に従っておくことにした。そもそも日本では年長者が年少者に奢るのが定番らしいが、そんなことは知りはしない。自分の人生において、フランスに住んでいた時間のほうが圧倒的に長いのだから。

 

「……つーかさ、」

「ああそうそう!耳郎たちに連絡とったんだけど、まだ特に通報はないって。もうちょい付き合ってくんねえ?」

「別にそれは構わないけど、次はどこ行くの?」

「あー、そうだなあ……ジャパニーズ銭湯!とかは?」

「入ってる間に連絡来たら、どーすんの?」

「あ、そっか……うーん……」

 

 真剣に悩む鋭児郎。その様子を認めて、弔は確信した。──そのうえで、訊いた。

 

「なァ。ンなことより戦うんじゃなかったの、俺と」

「!、………」

 

 鋭児郎の表情から笑みが消えた。唇がぎゅっと引き結ばれ、視線が逸れてゆっくりと足下に落ちていく。──ああ、やっぱり。

 

「死柄木……その、実はさ、俺──」

「………」

 

 そのときだった。恐怖に塗れた悲鳴と絶叫が、フロアのいずこかから響き渡ったのは。

 

「──!」

 

 それ即ち、誰かが救けを求める声。ヒーローとして身に染みついている鋭児郎は、その原因が何かなどとは考えもせず走り出した。そんなもの、自分の目で確かめればいい。

 そしてヒーローではない弔もまた、彼に続いた。逃げまどう人波に逆らい、通路をひた走る。

 

 そうしてたどり着いたその場所には、異形の怪物の姿があって。

 

「!、あいつ……!」

「……まさかドンピシャで会えるとはなァ」

「喜んでられねーって!──切島ですッ、榊町の梅モールに例のギャングラーが……」

 

 仲間を呼ぼうとした鋭児郎だったが、そのとき怪物が逃げ遅れたと思しき親子連れを捉えたのを目の当たりにしてしまった。──振り上げられる爪が、スローモーションに見える。

 

「やめろぉおおおおお──ッ!!」

「!」

 

 走り出す鋭児郎。親子と怪物の間に割り込み、同時に個性を発動させる。肌が岩石のように硬く鋭く、己の衣服すらも突き破り尖っていくのを弔は見た。

 

 そして鋭児郎は──直撃を、受けた。

 

「ぐぁ……!」

 

 身体がくの字に折れ曲がり、紙のように吹き飛ばされる。そのまま付近のショーケースに激突し、彼は床に転がった。

 

「ッ、ぐ、うぅ……!」

 

 一般人だったら即死だったろう。しかし鋭児郎は、鍛えあげた己の個性に命を救われた。死ぬほど痛いが、身体は動く。両腕に力を込めて半身を起こし、おびえた目でこちらを見る母娘に微笑みかけた。

 

「はや、く……逃げろ……」

「……!」

「だい、じょうぶ……。にいちゃん、ヒーローだもんよ……ダチだって、そこにいる……」

 

「だから、行け」──絞り出した鋭児郎の声は、硬化したその身のように雄々しく響いた。呪縛から解けたように母は我が子を抱きかかえ、走り去っていく。

 その背中を見送った鋭児郎だったが、自身の背には死に神が迫っていた。

 

「グルオォォォォォッ!!!」

「!」

 

 胸元の金庫が禍々しい光を放ち、彼の前面に熱球を形成していく。打撃や刺突には強い鋭児郎の個性だが、あんな灼熱をまともに浴びればひとたまりもない。いよいよここまでかと、鋭児郎は歯を食いしばった。

 

──そのとき、

 

「警察チェンジ!!」

 

 張り上げられた声とともに黄金の影が割って入ってきて、刹那、鋭児郎の視界は紅蓮に包まれた。

 

 

 *

 

 

 

「ありがとうございました、またお越しくださ〜い!」

 

 勘定を終えた客を元気いっぱいに送り出したあと、麗日お茶子は一転してため息をついた。

 

「……ふぅ。死柄木さんから連絡、来た?」

「………」

 

 皿を洗いながら、無言で首を振る勝己。奥から出てきた炎司も渋い表情を浮かべている……それはまあ、いつものことだが。

 

「やっぱ、断られてもうたんかな……」

「それならそうと連絡を入れるだろう。むろん、交渉が難航している可能性はあるが」

「警察の人たちだって、プライドがあるもんね」

 

 人間に直接危害は加えていないといえど、快盗も犯罪者である。ライモン・ガオルファングのときは偶然条件が重なっただけで、単に絶大な破壊力をもつだけの敵が相手なら独力で立ち向かいたいとも思うだろう。元がプロヒーローであった以上、炎司にもその気持ちは理解できる。

 

 一方、お茶子の言葉でなんとはなしにスマートフォンを手にとった勝己は、ちょうど通知が入ったことに気がついた。

 

「!、こいつは……」

「どしたん、爆豪くん?」

 

 もしや、弔からの連絡か?期待を寄せる仲間たちに対し、勝己の表情は険しかった。

 

「違ぇわ。──先越された」

 

 通知はメールやチャットアプリの類ではなく、登録しているギャングラー情報サイトからのものだった。──ギャングラー出現の報を、今回はインターネットを通じて受け取ることになったのだ。

 

「うそ……!?それって……」

「昼間のヤツだ、間違いねえ」

「……急ぐぞ」

 

 自分たちだけでは勝機のない相手。しかし尻込みしていたら、ほんとうにパトレンジャーが倒してしまうかもしれない。彼らには、戦場へ打って出るほかに道はなかった。

 

 

 *

 

 

 

 微睡みのような気絶から覚めた鋭児郎が最初に知覚したのは、暗闇の中に揺らめく紅蓮、そして物体が焦げていく独特の匂いだった。

 

「ッ、痛……」

 

 全身がずきずきと痛む。──いったい、何が起きたのか。記憶を手繰っていた鋭児郎は、傍らからかかった声によって一挙に思考を取り戻した。

 

「……やァ、よく眠れた?」

「!、死柄木……!」

 

 壁にぐったりと凭れかかる弔の姿。照らし出された彼の全身はあちこちが焼け焦げている。……照らし出された?

 

「……あ」

 

 鋭児郎はもはや、驚愕すら表せなかった。

 ふたりの周囲を、燃えさかる劫火が取り囲んでいたのだ。

 

「いつの間に……こんな……」

「あいつの持ってる、コレクションの力だ……ぐっ」

「死柄木!?」

 

 壁に背をつけることで、かろうじて態勢を保っている弔。「一日二度はきついか」などとぼやきながら皮肉めいた笑みを保っているけれど、少なくともかすり傷でないことは明らかだった。

 

「ンなこと言ってる場合かよ、ンな怪我で……!とにかく早く脱出しよう、変身すればこんな炎──」

「……無理だね。"Ton amour brûlant(燃えるような恋)"が生み出す炎は、触れたあらゆるものを焼き尽くす。警察スーツだって、何秒ともたず灰にされるのがおちだ」

「そんな……」

 

 では、ここを抜け出す方法はないというのか?このまま炎に巻かれて、ふたり揃って死ぬと?

 

「………」

 

 あれきり弔は沈黙している。灼熱のためにかえって冷めた頭で鋭児郎は彼を観察したが、その表情から鮮明な思考を読み取ることはできない。

 もとより自分は、器用なほうではない。──だから行き詰まったらば、真っ正面からぶつかっていくのだ。

 

「死ぬの……怖くないのか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「悪ィ……でも、」

「そう見える、か。……どうだろうな、自分でもわかんない」

「……?」

 

「俺はもう、死んだも同然の人間だから」

 

 弔の口許が、やわらかく歪む。これまで胡散臭さを醸して憚らなかった彼の笑みが一瞬、幻想のように儚く思われて。鋭児郎はたまらず、息を呑んだ。

 

──ああ、だめだ。

 

「……俺は、死にたくねえ。それに、おめェをここで死なせたくもない……!」

「ははっ……ヒーローらしい、言葉だなァ」

「そうだよ、俺はヒーローだ。だから救けるんだ。……でも、今は違ぇ!おめェは俺のダチだ、ヒーローが嫌いでも、快盗の味方だったとしても、ダチなんだよ!ダチに生きてほしいって思うのは、当たり前だろうが!!」

「……!」

 

 喉を嗄らして叫んだ鋭児郎。そのせいで煙を吸い込んでしまったのか、咳き込みながらその場に膝を折った。たまらず手を伸ばす弔、しかし反射的に躊躇をした。だって、この手は──

 

 引き戻そうとした瞬間、鋭児郎の手が、それをがっちりと掴んだ。

 

「ッ、……放せよ」

「……いやだ……!」

「きみ、俺と戦うんじゃなかったのか。快盗と手を組めなんていう、俺が憎かったんじゃないのかよ」

「……違ぇ。俺……ただ知りたかったんだ、おめェのこと……」

 

 拳を交えるつもりなど、最初からなかった。ただ他愛のない話をして、想い出をつくって、そうすれば弔の心にふれることができるのではないかと思ったのだ。辛辣な言葉を投げかけられることも、そのためなら苦ではなかった。このまま無理やり仲間という枠に当てはめただけの距離でいるよりは、ずっと。

 

「なんだよ、それ」嘲う弔。「……馬鹿だな、きみは」

 

 そのつぶやきに込められた想いは、如何ほどの重みだったか。──少なくとも手のひらほどの"これ"よりは、重いはずだった。

 

「使えよ」

「!、これ……ルパンレッドに渡した……」

 

──トリガーマシンスプラッシュ。秘湯の死闘を経て、ルパンレッドに託したはずのVSビークル。それをなぜ、弔が?

 

「生き残ろうぜ。俺たちの使命、果たすために」

「死柄木……」

 

 劫火はいよいよ勢いを増している。疑問は数あれど、それを形にする猶予はないし、そのつもりもなかった。ただ今は、託してくれたという事実だけを噛みしめて。

 

「──警察チェンジ!!」

 

 パトレン1号へと変身を遂げた鋭児郎は、その勢いでトリガーマシンスプラッシュをVSチェンジャーに装填する。──そして、

 

『スプラーッシュ!──警察ブースト!』

 

 鋭児郎の視界は、ふたたび光に包まれた。

 

 

 

 

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