【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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サービスシーンは大事ってばっちゃも言ってた


#32 男の決闘 3/3

 たった一匹の化け物により戦場と化したショッピングモール。その周囲までもが騒然とする中で、快盗たちは夜陰にまぎれ突入を果たしていた。

 

「酷い……なんなん、これ」

 

 モール内の惨状を目の当たりにして、ルパンイエローがか細い声をあげる。ただ、肝心の"実験体"の姿は見当たらないのだった。

 

「チッ……死柄木の野郎、電話に出やしねえ」

 

 舌打ちするレッド。ジュレを出るときから何度も連絡を試みているが、いっこうに繋がらない。パトレンジャーに同行しているなら用心して出ないというのも考えられるが、どうにも気がかりだった。

 

 なんの手がかりもないまま、電灯を失い、生ある者の息吹も消えた暗闇と死の世界を進んでいく三人。しかしある種の静謐のときは、容易く終止符を打たれた。

 

「グゥオァアアアアッ!!」

「──!?」

 

 獣の咆哮が響いたかと思えば、五体に金庫をもつ怪物が壁を突き破って姿を現した。五寸釘のような形状に変質した目玉がぎょろりと蠢き、快盗たちを睨みすえる。

 

「で、出たぁ!?」

「ッ、レッド!」

「わぁっとるわ!!」

 

 無為無策で衝突しても徒に消耗するだけだ。ブルーをその場に残し、レッドとイエローは左右に分かれて走った。獲物がばらばらになったことで、"実験体"の動きが一瞬鈍る。その隙を突いて、彼らは三方向から一斉にワイヤーを射出した。

 

「!?、ガァァァ!!」

「……ッ!」

 

 抵抗する"実験体"。その凄まじい力に、かつてのトップヒーローも含めた三人は翻弄される。快盗スーツを纏っていてもなお、純粋な身体能力にはここまでの差があるのか。

 

 歯噛みするブルー。しかも、彼自身自覚するところではあったが、この時間稼ぎの先に明確な展望があるわけではない。体力のあるうちにパトレンジャーが駆けつけ、協力してくれる──でなければ、意味をなさないのだ。

 

 そんな必死の努力は、"実験体"のもつルパンコレクションの力によっていとも容易く粉砕された。

 

「グオアァァァ!!」

「!?」

 

 胸元の金庫が鈍く光り、紅蓮の熱球が生成を開始する。それが何を意味するか知っている快盗たちは、咄嗟にワイヤーを捨てて回避に移ろうとする。しかし彼らの反応以上に、熱球が劫火となって襲いくるのは早かった。

 

「ッ!」

 

 標的となったのは──正面にいた、ルパンブルー。彼は咄嗟に己の個性──"ヘルフレイム"を発動することで、"燃えるような恋"の劫火に対抗しようとした。自ら捨てた地位とはいえ元はトップヒーローの焔である、その誇りまでは捨てていない。

 しかしそんな根深い感情さえ、ギャングラーという生き物は踏みにじる。

 

「!?、ぐああああああっ!!」

「炎司さん!?」

「クソオヤジ!!」

 

 ヘルフレイムを打ち破られ、逃げる間もなくブルーは劫火に呑み込まれた。その焔は彼を覆い尽くし、快盗スーツ越しに轟炎司の肉体をじわじわと灼いていく。

 

「ぐ……うぐ、あぁぁぁぁ……!」

「あ、ああ……どうしよう、レッド!?どうしたら……」

「落ち着けや!!……ッ、」

 

 恐懼するイエローは押しとどめるレッドだが、仲間を救う手だてを持っているわけではなかった。──いや、頭の中にはあったのだ。トリガーマシンスプラッシュ、あれが手元にあれば。

 しかし現実には、自ら死柄木弔に預けてしまっていて。

 

(クソが……)

 

 歯を食いしばる勝己。しかし彼が、感情に流されての判断を悔いるには至らなかった。

 

 あらぬ方角から大量の清冽が塊となって飛んできて、ブルーに衝突したのだ。

 

「ッ!?」

 

 その衝撃に、筋骨隆々とした身体は容易く突き飛ばされる。しかしながら、それは彼の命を救うことと同義だった。膨大な水に全身を濡らされたことにより、炎は種火ひとつ残さず消し止められたのだから。

 

「えん……ブルー、大丈夫!?」

「……うむ。しかし、これは……」

 

 ルパンコレクションの力でつくり出された炎だ、ただの水では消し止められない。コレクションには、コレクション──

 

「待たせたな、ルパンレンジャー!!」

「!」

 

──そこに立っていたのは、暗闇の中でも輝く赤き装甲の戦士だった。

 

「パトレン、1号ッ!!」

 

 警察スーツの右腕に、トリガーマシンスプラッシュを装備している。その放水能力によって、ルパンブルーに引火した炎を消し止めたのだ。

 では、彼がなぜそれを所持しているのか。その答は考えるまでもなかった。

 

「やァ、」

「!、死柄木……」

 

 パトレン1号の背後から現れた、白銀の快盗。黄金の警察官でもある彼が渡したのだということは、それを予期していたルパンレッド以外にもわかった。

 

「……渡し、ちゃったんだ……」

「……救われた身で文句は言えんか」

 

 それに、こうしてふたりが現れたということは。第二の共闘が成立したと考えて差し支えないだろう。五人で、五つの金庫を開ける──そのために。

 

「チッ……おいレッドなんとか!」

「え、うおっ!?」

 

 いきなりオブジェクトを投げつけられ、1号は慌ててブースト解除をする羽目になった。

 

「なんだよ……──!、これって……」

 

 それは飛行船のかたちをしていた。上部にダイヤルが組み込まれている──たしか、マジックダイヤルファイターだったか。

 

「手ぇ貸してくれンだろ、お巡りさんよォ」

「……おう!」

 

 

 そして、戦闘の火蓋は切って落とされた。

 

「グオアァァァァッ!!」

 

 咆哮とともに、複数のコレクションを同時に起動させる"実験体"。右手と右脚から旋風と衝撃波を巻き起こし、獲物めがけて放出する。

 

「ッ!」

 

 それに対し、咄嗟に散開する五人。必要な数こそ揃えたが、この全員が金庫に触れないことには意味がない。VSチェンジャーによる銃撃を一斉に繰り出しつつ接近を試みるが、ゴーシュによって全身くまなく、それこそ内臓まで弄り尽くされた"実験体"にはほとんど効果がない。ことごとく弾かれ、何倍もの抵抗の嵐が襲いくる。

 

「ッ、キッツイな……!」

「ぼやくなや、絶ッ対獲ンだよ!!」

「わかってる!」

 

 チャンスは目の前に転がっているのだ。それを掴みとることは困難極まりないけれど、手を伸ばすことさえあきらめなければ、失われることはない。

 

「俺だって……譲れねえ!!」

 

 吼えるように、そう叫んだときだった。──五人のものでない銃声が響き、"実験体"の背を撃ったのは。

 

「!」

 

 そこに、いたのは。

 

「飯田……耳郎!」

「遅くなってすまない!切島くん、死柄木くん!」

「ウチらが援護する。全力で獲りにいけ!」

 

 その言葉は鋭児郎に対してだけでなく、弔、ひいては快盗たちにまで向けられたものだった。

 

「言われんでも、やったらァ!!」

 

 呼応し、再び走り出すルパンレッド。ブルー、イエロー、エックス。

 そして、パトレン1号。

 

 攻撃と接近、七人もの同時行動に混乱したのだろう、"実験体"の邀撃は明らかに不正確なものとなっている。しかしそのひとつが、ルパンエックスに直撃コースをとり──

 

「──!」

 

 パトレン1号が彼の前面に飛び出して、"硬化"で攻撃を受け止めた。うめく1号。しかし彼は、庇った相手に気遣われるまでもなく前進を再開する。

 

──そして、

 

「うぉらあぁぁぁぁぁッ!!」

 

 彼らはついに接敵した。五人がかりで強引に押しやり、壁際に追い詰める。そうして身動きを封じたところで、

 

『9・1──9!』

『1・1──2!』

『4・0──8!』

『8・3──0!』

 

『4・1……0!』

 

 すべての金庫にダイヤルファイターを押しつけ、同時に解錠。──そう、五つを同時にこじ開けるのだ。

 

「──ルパンコレクションっ、いただいたァ!!」

 

 刹那ののち、五人の手にはことごとくルパンコレクションが握られていた。

 

「切島くん!」

「おうよ!──烈怒頼雄斗、安無嶺過武瑠ッ!!」

 

 全身を尖き岩石のように変質させ、鋭児郎は"実験体"に全力で体当たりを敢行した。ルパンコレクションをすべて失ったこの怪物は、容易く跳ね飛ばされる。

 

「っし……!──っとと、死柄木、これ!」

 

 回収したコレクションを受け取り、弔は鼻を鳴らした。──そして、

 

「Merci」

 

 その、アルファベットにして五文字の言葉に、あらゆる感情を込めて告げた。

 

「おいコラ、ヒーロー崩れ」

「ッ、おめェな……──わかってるって!」

 

 マジックダイヤルファイターもまた、ルパンレッドの手に戻った。ただ、久々にヒーロー崩れ呼ばわりされたこともあり、ほんの悪戯心で1号は訊いた。

 

「俺がこのまま盗っちまうって、思わなかったのかよ?」

「ア゛ァ?……けっ」

 

「……そういう卑怯なことはしねぇだろ、漢気ヒーローさんよ」

「!、………」

 

 苦虫を噛み潰したような声音だった。だからこそそれは、ルパンレッドの紛うことなき本音なのだと鋭児郎は感じとった。

 

 その意味を噛みしめていたらば、鎖から解き放たれた漆黒の翼が意気揚々と飛んできた。

 

『グッドストライカー待ちに待った参上〜!バッドボーイズから解放されて、いつも以上に張り切ってるぜ〜!』

「待ってたぜ!──飯田、耳郎!」

 

『一致団結!』──グッドストライカーの力をVSチェンジャーを介して発動させることにより、パトレンジャーの三人は文字通りその身をひとつに……"U号"へと変わる。

 

 そしてルパンレンジャーの面々はそれぞれサイクロン、シザー&ブレード、マジックの各ダイヤルファイターの力を借り、ルパンエックスはパトレンエックスへと警察チェンジ。一斉に、必殺技のシークエンスへと入った。

 

「終わりだ──」

 

「──イチゲキ&イタダキストライクっ!!」

 

 破壊のエナジーが次々に放出され、それぞれが融けあってそれぞれを高めあう。ひとつひとつがギャングラーの身体を打ち砕くに余りある威力をもつのである──それらが、五つ。

 

 ステイタス・クインティブルを倒すには、十分だった。

 

「!!!!!」

 

 断末魔の絶叫も一瞬のことだった。改造された肉体を破壊され尽くした"実験体"はたちまち絶命し、ゆっくりとその場にくずおれる。そしてひときわ巨大な爆発を起こし、粉微塵に吹き飛んだのだった──五つの金庫を残して。

 

 

 しかし、戦いはまだ終わらない。

 

「まさかやられちゃうなんて……。──私の可愛いお宝さん、もう一度チャンスをちょうだい」

「!」

 

 七人が彼女の存在を知覚したのもつかの間、ゴーシュ・ル・メドゥのもつルパンコレクションの力が発動する。それは遺された金庫に作用し、媒介として"実験体"の身体を再構築した。

 

「グルォオオオオオオオ──ッ!!」

「ッ!」

 

 ショッピングモールの天井を突き破り、巨大化を遂げる"実験体"。その余波で降り注いだ瓦礫を避けつつ、後退する戦隊の面々。──ただ言うまでもなく、対抗策はもっている。

 

「皆!せっかく七人いるんだし、前にやった全合体、またやってみねえか?」

「全合体?──あァ、グットクルカイザーね」

 

 「俺はいいと思うぜ」とエックス。仲間の提案ということで、パトレンジャーはやむをえないという雰囲気である。ルパンレンジャーは過半数が乗り気でなかったが、全合体にはしゃぐグッドストライカーの勢いと敵の強大さを鑑みて最終的には了承した。

 

「チッ……秒で殺す!」

 

──そして、それぞれ三機のダイヤルファイターとトリガーマシン、計四台のエックストレイン、さらに巨大化したグッドストライカーが一斉に夜空へ飛び上がった。

 

『みんな、心の準備は良いなぁ〜?』

「うっせ、早よしろ!」

『……超越エックスガッタイムぅ!』

 

 容赦ないルパンレッドの言葉に鼻白みつつ、グッドストライカーは合体シークエンスを開始した。自らを中心にVSビークルの編隊を組み、寄り集めたマシンをひとつひとつの部位に変形させていく。四肢、胴体、頭部──

 

 総勢11ものマシンによって形作られた鋼鉄の身体は、巨大化したギャングラーが幼子に見えるほどの高さにまで到達する。

 

『完成!グットクルカイザー、V・S・X!』

 

 内部には、三つのコックピット。その中心──快盗と警察の中継点で、グッドストライカーの本体が揚々と産声をあげた。

 

 

「!、グオォォォォォ!!」

 

 ルパンコレクションをすべて失ったために、その身ひとつで格闘戦を挑むしかない"実験体"。ステイタス・クインティブルといえども、それではグットクルカイザーの敵ではない。

 しかしだからといって、真っ向から受けて立ってやるほど両戦隊もお人好しではない。ブーストをかけて跳躍し、"実験体"の頭上を陣取る。

 

「!?」

「──はっ!」

 

 そして、そのまま両腕のトレインズを叩きつける。脳天に甚大な衝撃を受け、"実験体"はふらつきながら後退した。

 

「やるね、快盗」

「俺たちも敗けてはいられん!」

 

 敵が快復する前にと、今度は警察が主導で動いた。脚部の2号キャノンが火を噴き、3号ロッドが中距離から叩きつけられる。

 

『イイネイイネ〜!この調子でドンドン行ってみよー!』

「はは……じゃあ切島くん、手筈通りに」

「おう!──いくぜ!」

 

 1号がニ機のトリガーマシン──クレーンとバイカーを射出する。両肩のブルー&イエローダイヤルファイターと入れ替わり、それぞれの固有能力による攻撃を敢行する。

 

「っし!流石だぜストロングバイカー!」

「チッ……なら次はこれだ!」

 

 今度はレッドにより、サイクロンとシザーに換装。旋風と鋏が炸裂する。

 

「グ……ガァ、ア………」

 

 ここまでで、"実験体"は既に満身創痍にまで追い込まれている。徒に戦闘を長引かせる理由もない。──とどめだ。

 

「さあ、ゲームオーバーだ!」

『おうよ必殺〜!』

 

『グットクルカイザー・ビークルラッシュストライクっ!!』

 

 全ビークルがエネルギーを纏って射出され、獲物に喰らいつく。身ひとつでその猛攻に耐えきれる者など存在しない。ステイタス・クインティブルであっても、例外ではなかった。

 

「ガアアアアアア──!!??」

 

 二度目の断末魔、二度目の爆散。一度目と異なるのは、もう彼にチャンスはないということ。

 

「永遠に、アデュー」

「任務完了ッ!」

 

 同時に勝利の口上を述べるふたりの赤。それに対し、

 

「ははっ。きみら、案外息ピッタリじゃん」

 

 からかうような弔の言葉。一瞬顔を見合わせたふたりだったが、結局「ピッタリじゃねえ!!」と声を揃えるのであった。

 

 

 *

 

 

 

 その夜、ジュレには黒い靄に覆われたルパン家の代理人が訪れていた。

 

「これだけのコレクションを一気に回収していただけるとは。ほんとうに、ありがとうございます」

 

 言葉の割には冷静な態度を崩さない黒霧。まあ、彼にとって喜ばしいことなのは間違いない。快盗とルパン家、ルパコレクションをすべて奪還するという"手段"は、同じなのだから。

 

「ものの見事にガラケーばっか……」

 

 自身のそれと見比べつつ、お茶子がぽつり。今回回収したコレクション、なぜか携帯電話型のアイテムばかりなのだった。

 それはそれとして、

 

「今回、国際警察の助力を得ることができたそうですね」

「国際警察っつーか、あの漢気ヒーローのな」

「死柄木が上手く懐柔したようだ。……不本意だがやむをえまい、例のVSビークルのことも含めてな」

 

 敏く嫌味と気づいた勝己が炎司とメンチを切りあう一方で、黒霧は密やかに笑みを洩らしていた。

 

「懐柔、ですか」

 

 

 *

 

 

 

 不幸中の幸い、鋭児郎も弔も大怪我を負ってはいなかった。夜から丸々二十四時間を個性による治療にあて、翌晩には職務に復帰する。なかなかに気骨あるスケジュールだが、宿直当番は事件さえ起きなければのんびりしたものである。それに、

 

「ふぃー……」

 

 程よく温められた湯に浸かり、鋭児郎は深い息をついた。

 庁舎の広々とした大浴場を利用できる──宿直にはそういうメリットもあるのだ。元来銭湯好きな鋭児郎だが、弔の言ったように入浴中連絡がとれないのは好ましくない。その点この施設は緊急時には放送が流れるうえ、利用料金もかからない。良いことづくめなのだ。しかもきょうは貸切状態である。

 

(贅沢だよなぁ)

 

 心身ともに弛緩させながら、ぼんやりと天井を見上げる。戦闘と治療で膨大な体力を費やしたせいか、次第に意識が溶けていく。そうしていつの間にかうつらうつらしていた鋭児郎だったが、出入口の自動扉──そこは先進的なのだ──が開く音で我に返った。

 

「!、こんばん……あっ!」

 

 挨拶しようとした鋭児郎だったが、湯けむりの中に立つ姿を認めて驚きの声を発した。

 

「やァ」

「!、死柄木……!?」

 

 白髪の隙間から赤目を覗かせつつ、手袋を填めたままの右手を掲げてみせる弔。そのまま鋭児郎のいる湯槽にやってくると思いきや、途中で「あ、」と声をあげて方向転換した。

 

「こういうとこじゃ、先に身体洗うのがマナーなんだっけ」

「お、おう……ってか、どうしたんだよ急に。今まで来たことあったか?」

「ないよ、ハジメテ。でもきみ、昨夜ジャパニーズ銭湯がどうとか言ってたろ」

 

「それで思い出したんだ」──バスチェアに腰を下ろしつつ、言う。

 

「"男は、ダチと裸の付き合いをするものだ"……先生も、そんなこと言ってたなぁって」

「先生?」

「あー……まあ、昔世話ンなった人、かな」

 

 弔の声音に御しがたい郷愁が滲んだことに鋭児郎は気づいたが、それ以上に彼の両手に目がいった。当然ながら衣服は身につけていないのに、分厚い手袋だけは填めたままでいる。以前聞いたところによると、個性の制御が難しいからとか、なんとか。この超常社会においては特に珍しくもない話ではある。

 だから、追及するつもりはない。意を決した鋭児郎が湯から上がったのは、そんなことのためではなかった。

 

「それだと洗いづらくねえか?よかったら背中、流してやるよ」

「いや別に、慣れてるから……あァでも、お願いしようかな」

「おうよ、任せとけ!」

 

 弔の背後にバスチェアを持ってきて座ると、鋭児郎はタオルによくよくボディソープを染み込ませた。反応に合わせて力加減を調節しながら背中を擦っていくと、その身体から次第に力が抜けていくのがわかる。

 

「死柄木……あのさ、」

「ん……何?」

 

 応える声も、随分と弛緩している。それは鋭児郎の毒気を抜ききるには十分すぎる態度だった。

 

「いや……なんでもねえ」

 

 勢いにまかせて、ほんとうの気持ちを……ダチだと思っていると、伝えた。拒絶はされないまでもそれは一方的な感情だ。それでもいいと、思っていたのに。

 

(死柄木は、俺をダチだと認めてくれた)

 

 今はただ、その喜びを噛みしめていたかった。

 

 

 風呂上がり、弔の執拗な勧めによって顔パック地獄に陥ることになったのは……この際ご愛嬌であろう。

 

 

 à suivre……

 

 




「黒霧さんって普段、何やってるんだろ?」
「世の中には、知らないほうがいいこともあるんだよ」

次回「執事の休日」

「私はいつでも、皆さんの味方ですよ」
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