<森近霖之助>
エーレンフェストの冬にだけ取れる植物の実でパルゥというものがある。以前にルッツたちが雪下ろしに来た際に詳しく聞いてみた(知らないことを驚かれたが、父親のディードは『商人はわざわざ採りにいかない』と子供らを納得させていた)ところ、不思議な性質を持つらしい。
冬の晴れ間の午前にだけ地面から急成長して現れ、実を付ける。
木自体が火に当てたら溶けて消えてしまう。実からは甘い胚乳と油がとれ、油を絞った滓は家畜の餌として与えられる。
枝が冷たく、手で握っていると枝が溶けるのでそうやって実を取る。ノコギリなどは歯が立たないらしい。
不思議な植物だ。単なる植物としての性質ではなく、魔力を帯びた妖樹に近いのではないだろうか。
幻想郷では見られない植物に対して単純に興味もあるし、或いは魔術的に貴重な素材だったならば図書館の魔女との取り引きに使えるかもしれない。
そう考えていた僕は次の晴れた日に採取へ出かけることにした。
ちなみに吹雪いている日は読書と、マインくんが置いていった彼女が覚えた限りの単語と文字が書かれた紙を参考にしてこの世界の本を解読することで文字の習得に充てている。
外套を羽織って温石を懐に入れて防寒対策をし、籠と道具を背負って朝早くに店を出る。看板を本日休業にし(合っているのかは自信がなかったが、ここの言葉でもそう書いて札を出した)、店に魔術の鍵を掛けた。まあ僕の店の鍵なんて魔理沙でも開けられるような代物だが。
店を出た外の通りには左右に雪が多く積もっていて、早速雪かきに起き出している者も多くいる。恐らく建物ごとにどこまでの道を雪かきするか割当が決まっているのだろう。
幸いながら僕の家の前は、この前の晴れ間にルッツの家族から掃除されたのでそこまで積もっていない。念の為、薪ストーブから出た灰を道に撒いておく。そうすればよく晴れているので太陽の熱を受けて雪も溶け出す。
確か南門から出た先の森だったな……
そちらに向かうと、やがて同じ様に防寒着と籠を背負った者を徐々に見かけるようになっていった。子供も多いが、大人の男、それに女性も見られる。誰にとってもパルゥという実は重要な冬の味覚なのだろう。
南門では皆がぞろぞろと出ていくので然程チェックしているようにも見えない。
「あれ? 店主さんもパルゥ採りか?」
そう話しかけてきた子供はルッツだ。上二人の兄と一緒にパルゥ採りに来ていたようだ。
「ああ。僕も興味が湧いてね」
「なら急いだ方がいいぞ。採りやすいところはあっという間になくなるから」
「忠告どうも。ぼちぼち探すよ」
そう応えて森へ踏み入る。薪が非常に安く、子供でも自由に採取できているという環境らしい森に来たが、冬だと言うのに木の密度は高い。
この世界では木が非常に育ちやすいのだろうか。ほんの僅かに、森全体から妙な気配を感じる。
「どれ」
僕は道具袋から細長い金属の棒に宝石飾りをぶら下げた道具を取り出した。
自作した簡易製の探知用道具『ダウソジングロッド』だ。名前の通りダウソジン……すなわち道祖神の加護にダウジングの能力を持たせたマジックアイテムだった。道祖神という神は道や村の境界に配置されることが多い、邪悪を遮る『みちの神』を表す。これを置く場所はどこでも良いというわけではなく、境界の中でもその土地の地脈や水脈に応じた場所に配置することで疫病などの厄災を防ぐ呪いの一種であった。つまり地下を探ってより良い場所を見つけることが道祖神を祀る第一歩だ。それにダウジングロッドと用途を混ぜ合わせることにより、周囲にある『厄災に関わるもの』或いは『繁栄に関わるもの』……つまりは強い影響力を持つ探しものを探知する魔術が付与されている。
とある妖怪の顧客というか、商売敵というか……つまりは僕が拾うべき道具を先んじてダウジングで拾い集めては僕に売りつけるという姑息なネズミの如き行為を行っていた妖怪に対抗するために、彼女より正確に道具を探すため作り上げたものだった。
かの自称賢将のダウザーからは邪道と言われるかもしれないが、そもそも彼女こそダウザーといいつつ手下のネズミを総動員して探しものをしているあたりが胡散臭いので問題ない。
それはともかく、ロッドを周囲に向けてみると微弱な反応が多い。
先にぶら下げたペンデュラムは魔力や妖力を察知するように仕掛けが施されているのだが、どうもエーレンフェストでは土地そのものに魔力が含まれているようだ。案外、砂や土でも魔法の研究者からすれば変わったものかもしれない。
「おや?」
地面の下からなにか強い反応があった。僕は念の為に持ってきていた小さなスコップを使って、雪の下を掘ってみる。
そうすると土中から妙な、半透明な色をした赤い実が出てきた。風船に僅かに似ているが、自然の物だろうか? 目で見てみるが、用途も名称も見えないので道具ではないようだった。僕の能力は自然物には使えない。
手にとって見ると──ん? 手から魔力が吸われるような感触があり、慌てて体から漏れる魔力を制御した。どうやらこの半透明の木の実が吸収したようだ。僕にもそう多くはないが、魔術や錬金術をかじっているだけあって魔力はある。それが吸われたらしい。
勝手に魔力を吸い上げる呪いのアイテム。魔理沙の言葉が蘇る。どうやらこれは妖怪樹の一種で、周囲の魔力を吸い上げることで中の種子へのエネルギーに変換しているのだろう。
珍しい。持って帰ろう。籠の中に放り込んだ。できれば魔力封じの布かなにかで保護しておきたいところだけれど、直接触れなければ大丈夫のようだ。
魔力を持つ植物系の素材は魔理沙が喜ぶだろう。或いは人形の材料や繊維に魔法の素材はアリスも欲しがるかもしれない。
幻想郷では植物に関わる妖怪というと、恐るべき四季のフラワーマスターがいる程度で少なく、妖気を持つ木もあまり自生していない(していても誰かの敷地内にある)ためにあまり妖怪樹といった素材は手に入らない。
さて、これもいいがパルゥというものは……と見回せば、人が木に登っている姿を結構見かける。その白い木がパルゥらしい。枝の先にあちこち、八朔よりも少し大きな白い実が見えた。
なるほど、木登りが必須と思えば、子供が多くパルゥを採りに来ているのも納得だ。大人の手に届かないところは子供に登らせ、その枝を握っていると次第に溶けて取れるようになっている。
僕も奥へと進み、手頃な木を探す。ロッドの反応が一番強いものを探すと、木の幹が高いところまで伸びていて上部にパルゥの実が沢山ある木のようだ。
幹に軽く触れてみると、濡れた氷の柱みたいな手触りで取っ掛かりがなければ登るのは難しい。杉のように伸びているこの木だと大変だと判断され残されたのだろう。
空を飛ぶ程度の能力があれば便利だろうが、こんなところで飛んだら異様に目立つ。
僕は籠に入れていた三脚のはしごを出して木の上に登ることにした。庭木の剪定などに使うもので、伸縮自在に僕が調整したこれは次に幻想郷でなにかやらかした庭師が雪下ろしに来たらご褒美としてあげようと思い、最近暇だから作ったものだった。かの半霊の庭師は真冬で人里だとあまり手に入らない菓子や保存食などを求めてわざわざ香霖堂に来た挙げ句、財布を忘れて労働力で支払うことが何度かあった。
高所に登り、採りやすい位置にある実に触れる。
確かに見た目は細枝についた果実だというのに、実を握って動かしても氷妖精が無理やり接着したようにもげない。枝ごと体温で溶かさねばならないようだ。
白銀色の梢に触れると、ほろりと一瞬で擂粉木ほどの太さをした枝が溶け、思ったよりも素早く溶けたのであわや実を取り落とすところだった。
ルッツの話では凍える手に気合を入れて握らないと溶けないそうだったが……
気になって試してみると、どうやらこの木の幹は魔力によって素早く溶けるようだ。なので、魔力の無い者に比べて僕が触れた場合に溶けやすいのだろう。
火にくべても魔力に晒しても消えてしまう儚い植物。或いはこの木自体が、氷の妖精に似た自然物の化身なのかもしれない。
一応、参考までに枝ごと持ち帰ることにした。冷蔵庫に入れておけば持つだろう。
魔力の無い者からすればつららを握って融かさねばならないような苦行だが、幸いなことに僕は簡単にパルゥの実を採取することができた。
むしろ、素肌で触れれば木の幹がすぐに溶けるので木登りは注意が必要だった。軍手を持ってくれば良かった。
半刻も取れば僕の籠はパルゥの実でいっぱいになった。正直、そこまで食べるつもりもないのだが保管用とか素材用に使えるだろう。
「そろそろ木から降りるか……ん?」
いつの間にか日が木々の上に位置していて、太陽光が僕の乗っている木に燦々と降り注いだ。
銀の雪が付着した白い幹が太陽光を乱反射して目が僅かに眩むと同時に、シャラシャラと音が鳴り響き、木が震えたような気がした。
──と、その時。
「──!?」
まるでしなった木の枝が勢いを付けて戻るかのような速度で、僕の乗っている枝が急激に跳ね上がる!
これは木が急成長しているのか!? 太陽の光で!
「うわ!?」
パルゥの木は森の他の木よりも一瞬で高く成長し、しなる弾力と折れない強靭さを持つ枝が一斉に左右へと伸びて──枝に足を掛けていた僕を吹き飛ばした。
普通の木より遥か高度から弾き飛ばされつつ、他の箇所で同じ様に急成長したパルゥの木が、枝についた実を撒いているのを見る。こうして種を遠くに飛ばし、子孫を残すのだろうと思うが僕はもはや落下中だ!
魔力の籠もった箒や絨毯でもあれば空を飛べるのだが生憎と持ってきていない。僕はなんとか速度を緩めようと手を伸ばし、木の枝を掴み損ねてバキバキと折りながら地面へと落ち──
「……」
幸いなことに雪が積もっていたのと落下速度が多少は落ちたことで衝撃は思ったほどではなかった。パルゥの実を詰めた籠も背負ったままで、道具も手放していない。
それでも生身の人間なら骨ぐらいは折れたかもしれないけれど、半分妖怪な僕の体は物理的な衝撃に多少は耐性がある。大妖怪に傘で殴られたりしたときよりは無事だと思う。
「か、母さーん! 人が落ちてきたよ!?」
「パルゥの成長に巻き込まれたのかしら……時々あって悲惨なことになるって聞くけど……」
落下地点近くに誰か居たのだろう。僕は顔を上げる。死体と間違われたら困る。しまった。眼鏡がどこかに飛んでいっている。
「あれ? この人……」
「コウリンドウの旦那様!?」
そう言ってこちらを見てくる少女と女性。親子だろうか? どこかで見たことがあるような……目を凝らして見つめる。
ああ、そうだ。確かマインくんの姉と母親だったかな。髪も目の色も違うので、すぐには結びつかなかったが。
僕は何事も無かったかのように起き上がって雪を払う。
「やあ。恥ずかしいところを見せたね」
「だ、大丈夫なんですか!? 凄い音しましたけど!」
「運が良かったみたいだ……おや?」
先程まで日が差して急成長していたパルゥの木が、ゆらりとうごめいた気がした。
次の瞬間には幻のように木は消え去り、地面には穴が空いている。根っこすら残っていないようだ。
或いはこのパルゥという魔木は木の実そのものが本体であり、あの触れるだけで消滅していく木は実が持つ魔力や自然の霊力が氷を生み出し、木の形に擬態しているだけかもしれない。
「君たちもパルゥを採りに来たのかね?」
「はい。でも今日はギュンターが仕事で、そこまで沢山は採れなかったのですけれど」
「家族総出でみんな取るんだけど、うちはマインが来れないから……」
確かにルッツの家のように男兄弟が多いところは沢山取れるだろうが、母と娘の二人ではそこまで多くは採れないのだろう。
採りやすい位置にある実はすぐに行動力のある他の者に取られてしまう。二人が持つ籠にも、四つぐらいしかパルゥの実は入っていなかった。
「良かったら幾つかパルゥを分けよう。僕はそこまで食べないからね。ただしどこかこの辺りに、僕の眼鏡が落ちていないか探すのを手伝ってくれ」
「いいんですか!?」
「トゥーリ、探すわよ」
雪の中に埋もれていたら探すのも大変だ。僕はダウジングを行って大体の位置を探り、二人が雪をかき分けて眼鏡を見つけてくれた。ふう。
そこまで近眼というわけでもないのだが、どうも僕は眼鏡を掛けていないと目つきが悪くて商売人向きじゃないと霧雨店の親父さんからからかわれたり、先代の巫女から悪い妖怪だと思われたりと良いことが無い。
「ありがとう。大事なものなんだ」
「わあ……こんなに、ありがとうございます!」
とりあえずパルゥの実を八つほど分けて、途中で三脚を回収してから僕らは帰路についた。
「マインも喜ぶわね。こんなに沢山持って帰るのは初めてだわ」
「そういえばマインくんは……体調を崩していないかい?」
「むしろ冬の間は寒がって大人しくしていますから……ってああっ母さん! マイン、今日コウリンドウに行くって父さんと一緒に出ていったよ!」
「おや。それなら行き違いになったようだ」
がっかりした彼女の姿が目に浮かぶ。幻想郷のお客じゃあるまいし、裏口や施錠を解除したり能力を使って入ってきたりはしないだろう。
「すみません、あの子ったら。コウリンドウで働くんだって張り切っていて……」
「やる気だけは伝わっているよ」
下心もだけれど。とはいえ、そういった副次的な理由で仕事を探す者も今どきは居ないでもない。
甘いものが賄いで出そうだから甘味処で働きたいという子供もいれば、寺子屋の教師が美人だから寺子屋で働きたいとか言っていた与太者もいた。素直にそう紹介してやったところ、その与太者どころか何故か僕まで頭突きされて怒られた。理不尽な。
マインくんの姉の方がおずおずと聞いてきた。
「あの……マインはやっていけそうでしょうか。あの子、体が弱くて心配で……」
「確かに体が弱いのは仕事以前の問題ではあるが、古道具屋は職人ではないのだから仕事を覚えさえすれば大丈夫だよ」
要は適正な価格で道具を売買する。それだけの話だ。僕の店では、他では売っていない商品が多々あるので値段を付けるのが難しいこともあるけれど、それぐらいか。
古美術商ならば目利きの知識や経験が必要になってくるが、うちに貴重な美術品を買いにくるお客なんてほとんど居ない。時折紅魔館のメイドが、質のよい食器や銀製品などを求める程度か。あと売りに来るネズミに騙されないように。
僕の店から独立して自分の店を持ちたいというのならば、また別の努力が必要になってくるが……
「マインくんは生まれつき体が弱いのかい?」
「ええ……何度も高熱を出して寝込んで……ひょっとしたら、長くは無いのかって……あ! すみません! お世話になる旦那様に言う話では……それに最近は本当に調子も良くて、あんなに元気になるなんて」
「ふむ」
七つまでは神のうち、とは日本でも言うけれど、これは七歳までの間に子供が死にやすいことを表しているとも言われている。家族からすればすぐに熱を出して寝込むマインくんは心配の種なのだろう。
それにしても、永遠亭から貰ってきて彼女に飲ませた薬は『抗生物質』と言う名称の薬だった。医学書によれば病原体を殺すための強力な薬で、これの発明によって外の世界では何億人もの命が救われたのだそうだ。
永遠亭の医者が持つ、月の技術にかかれば外の世界よりも強力で副作用も無い抗生物質を作ることも容易いだろう。それを投与したというのに、マインくんの病は完治せずにまだ時折倒れている。
すると体の根幹から、生まれつきの病気を持っている可能性がある。これは治すのが非常に困難であり、その病があまりに生命に根ざしていると決して治ることがない。
一応、僕の見立てで理解るかは不明だが今度診察してみるべきか。永遠亭につれていければ一番なのだが、それもできないから。
南門へ戻る道すがら、二人から最近のマインくんの話を聞かされた。
「こう、毎日布団から出たら妙な動きをして体をほぐしてるんです。『ラジオ体操』って言ってたかな? それが終わったらすぐに布団に戻るんですけど」
「思っていたより編み物が得意で、冬の手仕事を手伝ってくれて……後、料理もどこで覚えたのかルッツたちに手伝わせてやっているみたいで。あ、どこで覚えたってコウリンドウさんのところでしたね」
近頃は姿を見ていないが、一応は元気にやっているようだ。しかしマインくんの母親、南門にたどり着くまで五回は『マインを頼みます』と口にしてきた。頼みすぎじゃないだろうか。
南門へと戻ってくると、門のところにマインくんの父ギュンターが居て妻子を待っていたようだった。
「おーい、どうだったーって……コウリンドウの旦那様!? パルゥを採りに?」
「まあ、少しね」
「旦那様からパルゥの実を分けてもらったのよギュンター」
「そりゃありがたい!」
旦那様。旦那様かぁ……なんかこう、大店の主って感じでむず痒い。
というかどうもギルド長やらの対応を見るに、香霖堂はどこかの貴族が後ろ盾にある、外国から商品を輸入している結構な店だと思われているようだ。
確かに殆ど輸入品が市に並ばないこの街で、外国の商品を扱っていると適当に吹いた僕の店はなにかしらの権益を貴族に受けているように見えるのかもしれない。
全然そんな事は無いというか、幻想郷と繋がっているという話をしても殆ど理解されないだろうし、面倒なことになるに違いない。
今の所はどうにか街の一部として振る舞うことを選んでいるけれど、どうしようも無くなったならば仕方がない。
店を強固な魔術で施錠して、エーレンフェストにいる間はずっと閉店する。
僕は店内で静かに過ごし、何事も無かったように幻想郷へ戻る。
関わらなければ、問題は起こらないだろう。
まあ、暇な時間が増えてしまうからそうならない方が良いとは思うのだけれどね。
「そうだ、旦那。マインが店に立ち寄ったけれど閉まってて、意気消沈したまま門の仕事を手伝うためにここに来ているんだが……」
「意気消沈?」
「危うく熱を出して倒れそうなぐらいだった。咄嗟に薬を飲んで持ち直したようだけれど」
「そんなに」
……どうも精神的な気の持ちようで、体調もかなり変化するようだ。
とりあえずマインくんに会ってみるかとギュンターに先導されて門の詰め所へ向かうと、年若い兵士と共にマインくんは書類を前にあれこれと作業をしていた。
部屋に入ってきた僕に気づいたマインくんが、目に見えて表情を輝かせた。
「店主さん!」
「やあ。仕事中失礼するよ」
「いいんですよ仕事なんて即終わらせましたよ!!」
「……文字を覚える速度が半端じゃないし、仕事を終わらせるのも早すぎる……こっちの見習いに欲しい……」
若い兵士が頭を抱えながら言っている。
マインくんはこう見えて、図書館の司書になれる資格を得て実際に就職しかけていた成人女性だ。彼女に聞いた話だと、外の世界では司書という仕事は狭き門なのだという。そうなれば、文字を読めることが(商人ならともかく)特別な技能の一種なこの世界で、文字に習熟すれば書類の決済など容易い……のかもしれない。
兵士はマインくんが終わらせた書類の確認を行い、眉根を寄せている。マインくんの仕事は終わったようだ。
僕らは詰め所を離れて門の側で話をする。
「ひょっとして店主さんもパルゥを採りに行ってたんですか?」
「ああ。素材に興味があってね」
「わたしはこう見えてパルゥ料理の第一人者なんです!」
「そうなのかい?」
「……と、言うのもなんですけど、おからみたいになったパルゥを料理に再利用してみたら美味しくて、色々研究してるところなんです。よければ店主さんもどうですか!?」
「そうだね。結構採ったからそれも良いかもしれない。保存が利く物が嬉しいかな」
「じゃあパルゥクッキーとか……あっフライパンで炒って水分を飛ばせば、粉状になって保存が利くかもしれないですね」
そう彼女が言っていると、僕の持っていたダウソジングロッドに吊るしてある魔力察知用の宝石が反応していた。
「おや?」
「どうしたんですか店主さん。その道具は?」
「これは魔力などの力に反応するように作った道具なのだが……む?」
それをマインくんに近づけると、激しく反応している。
平民の、体の弱い子供に魔力。
僕の頭の中でそれが繋がった。フリーダ嬢と同じく、制御の出来ない魔力によって身を蝕まれる、身喰い。
それもマインくんの反応は明らかに尋常ではない。僕よりも遥かに大きな魔力がその体に秘められているのではないだろうか。
今にも器をはみ出し、或いは堤防を壊して溢れそうな水が脳裏をよぎった。彼女は今日も、その魔力によって倒れそうになり、それを無理やり薬で体調だけ整えてしまったという。
「マインくん」
「どうしたんですか──ひゃあ!? 冷たい……」
額に手を当てる。凄い熱だ。彼女は気づいていないのか? いや──あの薬には鎮痛剤などが含まれている。ぼーっとしても、その効果だと思っているのかもしれない。
魔力が飽和し、体を壊してしまいかねない。だが今すぐには魔術具は用意できない。魔力を注ぎ込む水晶も売ってしまった。
「……マインくん、これを持ってみたまえ」
「なんですか? これ」
彼女に渡したのは、森の中で見つけた赤い木の実だ。
どういった生態の物かは不明だが、これは周囲の魔力を吸い取る性質を持つ。一時的に、握った者の魔力を奪う効果もあるだろう。
彼女の魔力をこれで少し減らし、その間にマジックアイテムを用意せねば──
「──熱!? うわ何これー!?」
「!? マインくん、離せ!」
慌てて彼女が木の実を放り投げると、パパパンと音を立てそれこそホウセンカのように木の実が種を弾き飛ばして、しかもその種はすぐさま芽から木へと成長を始めた。凄い速度だ。魔力によって成長が促進されているに違いない!
どこからか大声が響き渡った。
「──トロンベだ! トロンベが出たぞ!」
「なんだってこんな雪の日に!?」
「凄い早さで成長してる!」
──あっという間に凄まじい早さで、門の周りの土から成長をする木に対処するべく、大勢が集まって大慌てで伐採を始めた。
これだけ素早く成長する木ならば、周囲の土壌にある養分を奪いつくしたり、下手をすれば門の土台を壊してしまうかもしれない。
まるで火事かのような大騒動になり、皆は必死で対処している。しかしながら僕らを叱責する声は出ていない。どうやら、人為的に起こされる現象とは思っていないようだ。
あの実は魔力を吸い上げて種を成長させるので、魔力を持たない人からすれば「そのうち地面の魔力を吸い上げて発芽する厄介な植物」扱いなのだろう。誰か個人の魔力を吸って成長したとは思わない。
「……マインくん」
「は、はい」
「……黙っていよう」
「はい」
僕らは謎の共犯意識を持ち、頷いた。
・2話『マインは読み物を手に入れる』にFAの挿絵が追加されました!
・霖之助も興味あれば出かける
・本作設定では霖之助は魔力ある。っていうか無いとマジックアイテムも作れないと思う
・ダウザーと憎まれ口を叩き合う関係いいよね…
・先代巫女と付き合いあった説いいよね…
・タウの実は秋に発芽しないで埋まってたやつ
・トロンベの実でもあるタウの実を投げ合う祭りって大丈夫なんだろうか
・旦那様(意味深)
・次回マイン魔力問題、即解決編