本好きと香霖堂~本があるので下剋上しません~   作:左高例

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4話『フリーダは貴族と契約しない』

<森近霖之助>

 

 

 四日後。つつがなく魔術具は完成して僕は店を開けながら本を読んで待っていた。なお完成したミニ八卦炉を魔理沙に渡したところ、胞子の代わりに部屋が湿っぽくなったが茸の栽培に丁度いいと好評だった。あの子の家の柱とか床に茸が生えてそのうち崩壊するんじゃないだろうか。

 それはそうと今日は大きな取引がある。残念ながら幻想郷では何故か客層が広がらずに、いっそ店を閉めても生活は変わらないのではないだろうかと悩むこともあったぐらいなので、商売らしいことは久しぶりのことである。

 しかしあくまで僕は外の世界の物を取り扱う古道具屋。時々やるぐらいならともかく、マジックアイテムの作成を生業にするつもりはなかった。面倒だからだ。

 

 ──カラン、カラ。

  

 ドアベルが鳴って来客を知らせる。整った服装をした壮年の男が店に入ってきた。

 

「リンノスケ様。オトマール商会の使いでやってまいりました」

「ああ、今行くよ。道具は出来ている」

 

 僕は魔術具をなるべく綺麗な紙箱に入れたものを手にして立ち上がった。これが魔理沙や霊夢に渡す八卦炉やお祓い棒なら手渡しで終わりなのだが、結構な大金が掛けられている品物、ということだから。

 彼に続いて外に出ると、馬車の扉を開けて招いている少年がいた。利発そうな顔をしているが、どこか緊張が見られる。

 先程の年かさな男は御者をするようで、馬車の中で少年と隣り合って座る。窓を眺めながら、店に帰る際に迷わないように通りを覚えた。

 暫く進んでいると、少年の方から話しかけてきた。

 

「あの……」

「うん?」

「魔術具が手に入ったって、本当でしょうか」

「まあ、そうだね。僕はまだこれを付ける当人を見ていないけれど、聞いた通りなら大丈夫だと思うよ」

 

 時間があったので魔力を抜く魔術具にマイナスイオン効果のある家電から、汚染物質を清浄化する用途を抽出して付与しておいた。

 これにより単に魔力を取るだけではなく、もし長年の蓄積で体内に澱んだ魔力が溜まっていればそれも時間を掛けて治療されるだろう。空気清浄化作用もあるし、マイナスイオンというものは便利なものだ。

 とはいえ、マジックアイテムというものは使用者との相性や個人ごとの調整がある。例えば魔理沙用に調整されたミニ八卦炉を使っても、僕はマスタースパークなんて撃てないように。実際にその、ギルド長の孫であるフリーダという子に会わねばならない。

 下手にアイテムが暴走して魔力を根こそぎ奪い取らないとも限らないしね。

 少年はややうつむきながら小さく呟く。

 

「フリーダは……妹なんです」

「そうかい」

 

 兄妹か。それは心配だろう。生憎と僕に家族は居ないが、魔理沙が病になったら、そりゃあ家から追い出さない程度には心配するものだ。

 

 商業ギルドは大きな広場に面している四階建ての建物だった。上から下まで見ても金が掛かってそうで、成程どうやらギルド運営というものは儲かるらしい。

 僕が商売を始めたのは幻想郷に来てからだけれど、まあギルドというものも外の世界の株仲間みたいなものだろう。新たに商売を始めるには認められなければならない。悪どい商売をする同業者を見張らねばならない。手続きには金が必要になってくる。

 そういったゴタゴタした人間同士の取り決めに対して僅かながら煩わしさを覚えたことも、僕が幻想郷で人里から離れて店を出した理由だ。

 しかし僕は既にどういうわけか、このギルドに登録されている。

 少なくとも僕がここにやってきて登録の手続きを行った、ということになっている。なのであまりに初めて来た場所だとばかりに振る舞えば不審に思われるだろう。僕は二人の後を付いて、さも当然のようにしてギルドの中を進んだ。

 

「登録証をお願いします」

 

 番人らしい人がそう要求すると、男と少年は懐からギルドカードを出して渡した。僕も倣ってそうする。

 すると眼の前の壁が消えて、階段への道が見えた。どうやら魔術で隠蔽か封鎖していたようだ。厳重な警備だが、マジックアイテムが貴重な割にこういうところで使われているのか。

 四階まで上がると男が扉をノックする。

 

「ギルド長。リンノスケ様をお連れしました」

「入ってもらえ」

 

 部屋の中には例のギルド長グスタフ、それと4歳か5歳ぐらいの少女が椅子に座っていた。

 彼女がフリーダだろうか? 髪の毛の色が桃色をしていて、とても茶髪の少年とは兄妹に思えない。

 少女は椅子から降りてこっちを見た。目の色が赤い。髪と目の組み合わせで、どこぞの冥界の姫君を彷彿とさせた。

 ギルド長が頷いて立ち上がりこちらへやってくる。

 

「よく来てくれた。例のものは……?」

「ああ、持ってきたよ。これだ」

 

 僕が手のひらに乗るぐらいの箱を取り出して見せると、彼もフリーダもその箱を見て首を傾げた。

 

「すまないが、その箱は……? なんの材質で出来ているんだ?」

「何って、普通の紙箱だが」

「『紙』……? 羊皮紙には見えないぞ……」

「ちょっと触ってもよいですかしら?」

「どうぞ」

 

 何の変哲もない紙箱なのだが、二人はそれを手にとって眺め回す。

 ひょっとしたらここは製紙技術が無い国なのかもしれない。ふむ。下手に追求されたら厄介だぞ。

 

「その紙というものは外国から流れてきた品でね。生憎と詳しくは知らないよ」

「外国の……そうか、妙な品物ばかり置いてると思ったが」

 

 まあ嘘は言っていない。幻想郷も外の世界も、この国にとっては外国だろう。

 

「箱を売りに来たわけじゃないんだ。魔術具を調整してみよう」

 

 僕は箱を受け取り、それを開いて中に入っている髪飾り型のマジックアイテムを取り出した。

 ピンで髪に留めるようになっており、和紙で作った桜の造花が五分咲き程度に飾られている。

 常に身につける装着具ということで腕輪やチョーカーも考えたのだが、体に一番負担が来ないのが髪飾りであった。

 なぜなら髪というものは古来より魔力や仙力が宿るものとして呪術などにも使われている。魔女はこれを触媒に儀式を行ったりもするし、仙人・道士が髪を長くしているのもその理由が一部にあるだろう。髪はすなわち造花の材料である紙、そして神に通じる。

 そこで髪に自然と集まる魔力を受けるための道具として髪飾り、或いは帽子が相応しい。幻想郷においても力を持つ妖怪や神仙の類に頭飾りを付けている者が多いことも同じような意味合いがあるのかもしれない。

 

「綺麗」

 

 フリーダが目を輝かせて言う。

 

「高く売れそうですわ」

「転売はやめてくれ」

 

 小さいのにがめつい……どこか既視感を感じるな。

 僕は膝をついてしゃがみ、彼女と目線を合わせる。

 

「失礼。付けさせて貰うよ」

「ど、どうぞよろしくて」

 

 彼女の髪の毛をクリップで挟み髪飾りを固定すると、髪飾りに魔力が流れる感覚があった。特に問題はなさそうだ。魔力を吸い上げるという簡単な術式は特殊な術を使うわけでもないので、汎用性を持たせていたから大丈夫だろう。

 魔力が流れ始めた造花が、僅かに膨らみだした。

 

「よし」

「だ、大丈夫なのか?」

「見ていてください──ほら」

 

 すると皆の前で、フリーダの身につけた髪飾りの造花が五分咲きから満開に花開き、生花のように瑞々しい潤いで咲いた。

 造花という桜の形を模したのも、桜の神といえば木花咲耶姫であるがこれは咲き誇ることで人が栄えることを示し、そして造花という枯れない花にすることで姉の磐長姫の要素も取り入れた。ただの造花なだけでは器物にしかならないが、魔力という擬似的な霊力を注ぐことで、いつまでも鮮やかに咲く花になるようにしている。

 ギルド長とフリーダの兄、そして壮年の男は言葉をなくしたように呻いた。

 

「ど、どうしましたの!?」

「ほら」

 

 僕が手鏡を渡して彼女が自分の髪に飾られている、鮮やかな造花に息を飲む。

 

「その子から吸い上げた魔力を使って造花をあたかも生きているように見せる魔術が仕込まれている。付けているにも関わらず花が萎れるようだと、体の魔力が不足しているから暫く外すといい」

「凄い……」

 

 魔術具が魔力を蓄積しすぎないように常に発散させるために発動させている魔法だ。どれぐらいの量で魔力が溜まっていくのかわからなかったので、吸い過ぎにはリミッターをつけてある。

 簡単な術式ではあるけれど、常に花を生き生きとさせる分の魔力が消費されることでどれほど影響があるかは本人の魔力量次第だろう。

 

「こ、これで、もう……身喰いに、悩まされないで……済みますの?」

「暫く様子を見ないといけないけどね。アフターサービスは無料にしておこう」

 

 僕がそう答えると、彼女の目が潤んだ。これまでの病気が治るようなものだから、安堵したのだろう。

 

「さしずめ、『エーレンフェストで唯一枯れない花』とでも言おうか。これで取引は成立かな?」

 

 魔力で維持されている造花にそんな名前を付けると怒り出しそうな大妖怪の姿がふと浮かんだが、ともかく。

 フリーダは顔に両手を当てて、声を出さないようにうつむいている。そんな彼女を兄のダミアンが連れていった。子供の涙は苦手な方なので、安堵の息を吐いた。 

 それからはギルド長から大げさなぐらい感謝され、代金を貰った。ギルドカード同士を合わせると僕の預金に追加されるという魔術らしい。

 

 ともあれ、こうして魔術具は売れて僕は大金を得て、フリーダは他所の家に預けられずに済んだ。

 僕の居た世界でも昔は異能を持つがゆえに一般人の家では暮らせず、どこかへ連れて行かれる子供だっていた。だがそういう子供らもなにか家に残ることができる方法があれば、どこかへ行くよりは家族と過ごしたかった者が多かったろう。家族だって、できれば手放したくないと思っていた者も。

 力を持つが故に親へと反発して飛び出していく子供だっているが、いつかきっとわかるはずだと、そう思う。

 

 

 

 思いがけずに大金を得た僕は、魔理沙と霊夢への土産に柿みたいな果物でもひと籠買ってやろうかと市場へ寄った。

 市場近くにある雑貨屋にて、この世界の本が売られているのを見かける。珍しい。マインくんが言っていたが、お貴族様だけが本を持っていて殆ど出回らないらしい。

 

「すまないが、これは売り物かね?」

「ん? ああ、本か。お貴族様から質入れしたんだが、もう質流れじゃな。はあ……」

「何故ため息を?」

「本なんてお貴族様しか買わないってのに、こんな場末の市場まで誰か買いに来てくれると思うか?」

「成程」

 

 お貴族様というのは城壁に阻まれた街の向こう側にいるらしい。どう考えても行き来しやすいとは言えず、貴族の街に商店が揃っているならここまで買いに来ることもないだろう。

 

「……だがそれなら、どうしてこの店に売りに来たんだ?」

「持ち回りじゃよ。質屋協会で稀にお貴族様の高額なモノが売りに出されたときは順番に引き受けるよう予め決めておくんだ。それが金持ちの商人あたりになら売れる家具類ならともかく、運悪く本に当たっちまったわけじゃ。今までこの本に興味を示したのは、ギュンターのところの娘ぐらいで……」

「売れ残ると大損じゃないか」

「……いざとなればオトマール商会のグスタフさんに頼んで貴族の伝手で売ってもらうんじゃが、結局は仲介料で損をするのう」

 

 しかし本か。ここの文字は読めないのだが、少し気にならないでもない。

 

「ちなみに幾らだい?」

「大金貨3枚」

「……高くないか?」

「お貴族様の本はそんなもんだ。質入れもそれぐらいだったから懐が痛い……」

 

 どうなってるんだこの世界。本1冊が柿百万個分の値段だとは。本がマジックアイテムと同じ値段か。

 江戸時代の頃、都市部で売られていた貸本でない本も値段は高かったが、200文とか300文ぐらいだったはずだ。

 いや、紙じゃなくて羊皮紙だから更に値段が上がるのはわからないでもない。

 名称『本』。用途『読む物』とあるので特別なマジックアイテムというわけでもなさそうだが。

 

 

 ……

 

 

 買ってしまった。少しは値切ったけれど、魔術具を作った儲けはほぼ無くなったようなものだ。

 

 

 

 ******

 

 

 

 幻想郷の香霖堂にて。

 

「ん? 香霖、なんだこのマジックアイテム」

 

 魔理沙が棚に無造作に置いていた髪飾りをつまんで、物欲しそうに聞いてきた。

 

「ああ、仕事で依頼されたマジックアイテムの試作品だよ。欲しければ持っていくといい」

「へぇー。ところでどんな魔法が付与されてるんだ?」

「身につけた人の魔力をどんどん吸い取って浪費するんだ」

「……香霖。そういうのを呪いのアイテムって言うんだぜ」

 

 僕もそう思う。魔理沙はげんなりしたように、だが何かに使えるか調べるのかタダで貰えるものは持っていくつもりか鞄の中に髪飾りを仕舞った。

 切った柿みたいな果実を皿に並べ、爪楊枝でさして食べながら本を眺める。魔理沙が素手で果実を奪い取って頬張りながら、僕の肩越しに覗き込んできた。

 

「何を読んでるんだ? 羊皮紙の本を香霖が持つとは珍しい。魔術書か?」

「手に入れた新しい本なんだが、字が読めなくてね」

「どれどれ……うげ。さっぱりだぜ」

 

 エーレンフェストの文字は日本語とも英語とも異なる、なんとも言い難い文字をしていた。ラテン語や漢語で書かれている魔術書を目にする魔理沙もお手上げのようだった。

 一切の知識なく目にするそれはまるで暗号のようだ。取っ掛かりの一つでも無いとまるで解読できない。

 

「あー……こういうのは小鈴に解読させればいいんじゃないか?」

「人里の『鈴奈庵』のお嬢さんかい? あれは確か、人間の言語以外で書かれた書物を読み解く能力じゃなかったか」

「これだけ文字が違えば似たようなもんだろ。じゃあ香霖、わたしは忙しいから、小鈴に読ませて貴重そうな本だったら教えてくれ」

「はいはい」

 

 人里にある貸本屋『鈴奈庵』。僕も利用したことはあるのだけれど、店番をしている小鈴くんは店内の本を読み尽くしており、常に新しい本を求めている。なので僕の持つ外来本や妖魔本にも目をつけているのが困りどころだ。

 活字中毒の彼女に頼めば訳本を作ってくれるかもしれないが、貸しを作るのが厄介かもしれない。なにか渡してもいい外来本を先払いの報酬として進呈しておくべきだろうか。

 

 

 

 *******

 

 

 

<マイン>

 

 

 

「父さん! 店主さんにお礼に行きたい!」

 

 わたしがそう主張すると父さんは椅子に座って腕組みをし、何やら考え込むような仕草を見せた。

 店主さんに助けられて家に帰ってから一週間ぐらい経過したときだった。体調を考慮してベッドで一人大人しく休んでいる……フリをしつつ、貰ってきた新聞『文々。新聞』を熟読していた。

 すごく面白かった! 幻想郷って妖怪とか吸血鬼とかいろいろいてしょっちゅう騒動を起こしてニュースになってるみたいで! しかも、新聞を書いている記者は烏天狗だという。なんてファンタジーな新聞だろうか! わくわくした気持ちで読めた。

 そしてまあ、新聞の広告欄までじっくり読んでふと気がついた。わたしって命も助けられて新聞もマフラーも貰っておいて店主さんにお礼とかしてないよね?

 しかも、外はどんどん寒くなっていってこれから真冬になると一切外出をしないのが普通らしい。だから、母さんもトゥーリもその間に家でできる仕事の準備をしていた。

 

 外に出られなくなる前に! 店主さんともう一回会ってお礼とかお話とかしてそして冬の間に読む本を貸して欲しい!

 そう思ったので父さんに頼んだのだけれど、

 

「……確かにお礼は大事だと思うが。具体的にどうしたらいいか、だな」

「え? なにかこう、粗品とか持っていって……」

「それぐらいで済めばいいんだが……薬まで貰ったろう」

 

 父さんや母さんが頭を悩ませているのは、恐らく店主さんとこの家族では生活のレベルが違いすぎるということだった。

 同じ下町の人とかなら、お酒とかお肉とか分ける程度のお礼で解決するのだろうけれど、お貴族様が飲むようなお薬をひょいと渡すようなレベルの金持ち商人相手では、貧しい庶民がなにをお礼として渡せばいいのか見当もつかないとか。

 ……た、確かに。店主さんの自宅はいかにもなお金持ちって感じじゃなかったけれど、余裕のありそうな暮らしだった。お布団は柔らかいし、お茶とか出してくれるし、何より本が沢山あるし。

 少なくとも近代の日本人とそう変わらない程度ではある。それはこの中世ヨーロッパみたいな異世界からすると贅沢なレベルなんだ。

 わたしとしてはお礼は口実で、お話したりとか本借りたりとかしたいのであまり真剣に考えていなかった。

 どうしようどうしよう。本を借りるにしても、なんの対価も渡せないとなると……

 

「……母さん! わたしがお礼の品を用意するから材料を分けて!」

「そうねえ……下手なものを渡すよりはいいのかもしれないわね」

 

 子供の作ったものなら微笑ましいだろう。そんな諦めが浮かんでいる言葉だったけれど。

 とにかく、店主さんは商人。なにか役立つものをわたしが用意して本の借り賃として交渉すれば貸してくれるかもしれない。いや、むしろわたしが作ったものを店で売ってくれてもいいから、雇ってくれないかな?

 

 この世界に本屋は存在しない。ただ恐らく、お貴族様の中には本を収集している人がいたり、宮殿とかになると本を管理する仕事の人もいるだろう。

 でもそういった仕事だってお貴族様に繋がりがないと就職することは難しい。貧しい庶民であるマインがそんなところに就職できる可能性はほぼゼロだ。現代日本だって、司書の仕事は非常に狭き門だというのにそれ以上だと思う。マインが貴族になって司書になるルートとか存在していたら教えてほしいぐらいで。

 しかし、本を多数所持している店主さんのところに就職できれば、仕事のかたわらでも本が読めるのでは!?

 更によく考えれば、店主さんは『文々。新聞』を購読しているので、本が増えないことはあるかもしれないけど新聞は最低でも増えていく。読み物が増える!

 こうなったらなんとしてでも店主さんに気に入られて、就職を目指さねば! そう意気込んだのがここ一週間の決意だった。

 

 とにかく、店主さんに渡すお礼の品だ。微笑ましいなんてやつじゃダメだと思う。

 しかし貧しい庶民で体力も材料も無いわたしが作れるものは……

 

 あったよ! 『簡易ちゃんリンシャン』!

 

 メリヤっていう木の実を絞った油に塩と香草を混ぜた、超簡易的なリンスインシャンプー。

 しかしそういう薬品で洗っていないここの人たちが使えば効果は覿面。びっくりするぐらい髪の毛が綺麗になる! なんかここの人ってアニメみたいな髪色の人も多いから余計に映える。わたしは地味なのに。

 

 そして冬支度で作り始めていた、塩析した脂を使って作った『ハーブろうそく』!

 ろうそくにハーブを塗り込んでいていい匂いのする明かり。なぜ明かりって、あの香霖堂は見たところランプぐらいしか明かりはなく、店主さんは読書好きと見た。光源があって困るということはないだろう。

 家族に頼み込んで材料を調達してもらう。みんなも、「マインが助けられたお礼なら……」ということで手伝ってくれた。そして完成したリンシャンとろうそく!

 問題はリンシャンを入れる器なんだよね。うちに余裕のある器なんて無いし……そうだ! トゥーリが持ってきた木の実で、くり抜いて使うやつを入れ物にしよう。 

 そうしてリンシャンを4つ分の器に入れて、ハーブろうそくも10本分作った。これをお礼の品として持っていこう!

  

「しかしなマイン。お礼に行くって言っても、どうするんだ? お前一人だと歩いてもたどり着けないだろう」

「うっ……」

 

 悲しいかなこのマインの体は、家の階段を降りて外に出ただけでダウン寸前になる虚弱さ。

 とても香霖堂まで一人で荷物を持って歩いてはいけない。

 

「え、えーと……父さんがお仕事で門に行くときに、わたしを香霖堂まで連れて行ってくれれば、後は一人でお礼できるよ」

「帰りは?」

「父さんが仕事帰りに寄ってくれれば……」

「それまであの店主さんの店にずっといるつもりか? あの人だって仕事があるだろうし、子供が居ては邪魔になる。大体、俺の仕事が終わるのは夜だ」

「ううう」

 

 邪魔をするつもりはないよ! 店の隅っこか、奥でもいいから置いといてくれれば本をひっそりと読んでおくし……

 大体、店主さんもわたしと同じくこの世界にやってきた立場だからお互いに情報交換とかまだ必要だと思うんだよね。この前は、家族が心配しているから急いで戻ったけど。

 なにより本……本さえあれば……

 わたしはあまりの物欲しさに泣きそうになりながら、潤んだ瞳を父さんに向けた。

 父さんは大きくため息をついて、

 

「──わかった。だがお礼の挨拶は俺もする。そして、店主さんが店にマインを置いておいてもいいって言えばそうしよう。ダメそうなら、父さんと一緒に門で仕事終わりまで待つ。明日はどうにか、周りに頼んで早上がりさせて貰うから俺が夕方に迎えに行く。それでいいな?」

「うん! ありがとう父さん!」

 

 よーし、また香霖堂に行けるぞー! 

 嬉しくて熱が出そう! あ、念のために新聞紙も持っていこう。もし店が『本日休業』だったりしたら、門で待つ間に暇だからね。

 

 

 

 




※フリーダが貴族の妾にならないのでオトマール商会の貴族街への影響上昇せず

※質屋協会の設定はオリ設定。原作設定と違うけどスルー推奨

※本の価格は公式設定で大金貨4~5枚。ちょっと安めに設定



関係ないけど拙者、霖之助が幽香の傘作った説(二次妄想)大好き侍!
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