BEY¢ND   作:ハレル家

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 ついに始まった!!

 今回はプロローグです。
 話数のカウントが【○天】なのは、話が進むにつれて解明してきます。


始天:天からの呪い

 “世界は一枚のコインに似ている”

 

 どこの誰かが言ったこの言葉は、この世界ではこれ程真理をついた言葉である。

 コインの表にあった世界が、ふとしたキッカケで裏にあった未来に裏返った。

 普段干渉しないそれは些細なモノで裏返った瞬間、まるで我が家のごとく軽々と踏み出す。

 それは人の未来も同じ、いや、それ以上に適用する。

 

 “人生は選択肢の連続”

 

 人は何時だって分岐点に遭遇し、選択を選んできた。それは小さくと大きい……いや、先が存在するかしないかの違いである。

 『明日は晴れか雨』の単純な選択肢で太陽が異常な温度と共に地球(ほし)の生き物の命を奪う、もしくは隕石の雨が降って人類が絶滅するという可能性もあり、『明日から夏休みだから遊ぶぞ』という選択肢を選んだ翌日に人類史が完全に消滅するという可能性もある。

 そして、この物語はそのコインが裏返ってしまった世界の物語である。

 とある現象――世界各地の空に突如鉛色に輝くオーロラが現れた。超常現象に野次馬根性で見る人達や興味を示す研究者だったが、その余裕は世界人口の約六割が超能力に目覚めた事で瞬く間に奪われた。

 人々はその進化を受け入れずに――恐れた。

 超能力に目覚めた人達は姿形が『人』という枠を離れ『人外』へと変わり、ある者は友から拒絶され、ある者は家族から否定され、ある者は愛する人から心ない言葉を言い渡された。

 それでも自分達は人だと主張するも糾弾する人々には声も心も届かず、人権を無視されて殺される人が時には、悲しみと憎しみの連鎖を繰り広げてしまった。

 強力な力を持った人外に各国は連日会議に没頭し、彼らを『超常人(スペリオル)』と呼び、ある島国に独立という建前の幽閉を行うことで争いは終結した。しかし、時すでに遅く、人と超常人の間に深い傷跡が残ったまま数百年の月日が流れた。

 

 裏切らないと信じたものが牙を剥く。

 人の人生は死と隣り合わせと言うが、なるほど。よく的を射た言葉である。

 誰もが死ぬ選択を持ち、誰もが死に抗う選択を持つ。

 

 

 故に、この出会いは――

 

 

『あなたは、だぁれ?』

 

 

 ――選択に値する。

 

 

  ■――■■■――■

 

 

 日本国土から日本海海上330キロメートル付近に島が漂っている。

 

 人工島“ダイダラ”

 

 『人』という枠を越えて超能力を得た人間――超常人が住む島であり、数百年前に人類が各地にある島や人工島に彼らの国を作り、国以外から出ることを禁じた……早い話で言えば『物資や支援等を少なからず提供できる国をやるから大人しくしろ』を含めた言い方で干渉を禁じられた島。

 当初は強く反発していた超常人だが、数百年も長い月日によって少なからず納まって独自の文化を築き上げた。

 ビルが建ち、喧騒が響くコンクリートジャングルを異形が跋扈する。普通の人間からすれば異世界に迷いこんだかのような景色だが、この島に住む住民達には日常である。

 無論、学校や会社なども存在する。

 

『……次のニュースです。昨夜、北エリアの会社員数名が行方不明にあった事が判明しました。関係者によると彼らは数時間の残業の後に帰宅したと証言しており、目撃者もいます』

 

 スマートフォンのワンセグによるテレビから流れるニュースはお世辞にも明るくなく、スマートフォンの持ち主は不満な表情で耳を傾ける。

 

『先月から約二十名近くの住民がこの島で行方不明になっていますが、どうなんでしょうか? 私は最近早めに帰っているのですが……』

『そうですね。大きな組織による誘拐説や【捕食】という超力(ビヨンド)を持った超常人による猟奇的犯行説が飛び交っていますが、私の考えは――』

「おはよう」

 

 専門家のような恰幅のよい男性が考えを主張する前に挨拶され、スマートフォンの持ち主はテレビを切って声の主に振り向いた。

 そこには、服を着た“闇”がいた。

 ブレザーが目立つ学生服を着ているが、全身が真っ黒の靄で覆われており、人型でこそあるが表情どころか目や鼻、口といった顔のパーツすら判別できないが、声色から友好的だと判断できる。

 だが、声をかけられた方も人外である。緑の髪でカマキリの触角が生えた額にエメラルドグリーンの瞳。皮膚は両脚と両腕が緑色で指先が少し鋭く、前腕側部が細かい棘でカマキリのように4本脚で下腿が細長い。

 

「うーす鎌木。調子どうよ」

「特に問題ないよ八坂くん」

 

 服を着た黒い霞――八坂御影にカマキリのような青年――鎌木凌平は快く応答する。見た目を除けば、学校で親しい間柄と雑談する風景である。

 

「何見てたんだよ?」

「連続失踪事件のニュース。今日で二十人近くが行方不明なんだ」

 

 不安そうな表情を見せる鎌木を見て、八坂はどこか生暖かい視線を向ける。

 

「……ハッハーン……片想いしてるアイツが心配なのかぁ?」

「ち、ちがっ!? べ、別に雪風さんとは……」

「誰も雪風とは言ってないぜ? すごくわかりやすいよなぁ」

「おーっす。朝から騒がしいな」

 

 あたふたする鎌木を他所に身体全体が青白く、所々骨がや身体に埋め込まれているコンクリートや金属が見えている青年――露崎幽人。その後ろについて来る形で全体的なシルエットは人間そのものだが、肌が赤く黒い紋様が走り、髪は毛先に近づくにつれ黒くなるが更に真っ赤で腕の表面が硬い質感、脚は恐竜の様な鉤爪で真っ黒な羽毛に覆われた鳥のような足をした青年――スパイク・スパイキルが教室に現れた。

 

「おう。鎌木が何時ものだ」

「何時もってなに!?」

「そんな事よりも見たかよ昨日のあれ!」

 

 鎌木のツッコミを無視し、露崎は二人に問いかけた。

 

「昨日って……ああ! 『大物超力者(オーバーズ)ゴルディオンの活動記録24時』のことか!」

「それそれ!」

 

 超力者(オーバーズ)

 超力を悪用する超人犯罪者や超力を持った獣の捕縛・殺傷を行う職業。超力者になるためには資格証が必要である。民間超力者の資格取得条件は中卒以上となっている。

 

「どんな超力犯罪者も取り締まるダイダラの英雄的存在! この島の平和を守る憧れの存在!!」

「完全無敗の連勝記録を今も更新し続けている」

「あぁ、僕も知ってる。あの動き見ながら戦闘での立ち回りとか見直してる」

「何より! あの謎に包まれたルックス! 人外なら……なお良し!!」

「それは君の趣向でしょ」

「始まったな……露崎の人外LOVE。これ中々終わらないよな」

「おっはよー!!」

 

 露崎が机に乗って人外の魅力について語り始め、脱線したことに苦笑する三人。すると教室に誰かが新たに入ってきた。

 

 赤っぽい茶髪のポニーテールと赤目に八重歯が特徴的な活発な女子――真神千尋と青みの強い黒髪で前髪も長く、常にどちらか片方の目が隠れて透き通るような水色。ボブヘアーで長い後ろ髪を首の後ろで一本にまとめている下半身が人魚のような魚の車椅子に乗った女性――水無月海色の対照的な二人の女子だ。

 

「昨日のゴルディオン見た!? バッタバッタと敵を倒す姿がカッコ良かった!」

「ボクも昨日のゴルディオン見たよ……悪人に叱責する姿……ドキドキしたなぁ……」

「大丈夫? それ別の意味のじゃないよね? 正しい事を言ったゴルディオンの姿勢にドキドキしたんだよね?」

 

 どこか艶やかな雰囲気で言う水無月に不安げに質問する八坂。苦笑する五人に水無月は思い出したかのような様子を見せた。

 

「あ、そうそう。さっき先生に会ったけど、後で緊急学年総会するらしいよ」

「学年総会? あぁ、行方不明事件についてか」

「先に行っといた方がいいのかな?」

「うん。手が空いてる人がいたら手伝って欲しいんだって」

「だったら行っとくか。ここで待ってても暇だしよ」

 

 八坂の言葉に全員が賛同し、一同は体育館へ向かった。少しずつ人も集まりだしたが、彼らは知らなかった。

 

 これが島全体を揺るがす大事件の始まりでもあり、同時刻にとある場所で、ある人物との邂逅があった。

 

 物語の歯車は、少しずつ動き出した。




 本当なら主人公が出てくる話なのですが、時間と尺の都合で後回し……

 次回に主人公が出る予定です(ソラシメー)

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