BEY¢ND   作:ハレル家

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 細かい所を修正してたら、ずれてしまった……ま、まだ、21時の誤差だからセーフ、セーフだから……


一天:青年と機械腕

 

 人工島ダイダラは東西南北の四つのエリアに別れている。

 

 東エリアは港や空港等の交通手段が豊富にある島の玄関口となっており、他のエリアの移動もこの東エリアから来るバスや電車を利用する者が多い。また、貿易で輸入輸出もここから売買される。

 南エリアはスーパーやデパート、レストラン街等の商業地区で買い物や寄り道をする場合はここに訪れる。

 西エリアは住宅街。島で生活を営む人達はここで生活している。マンションやアパートが多く、一軒家は少ない。

 北エリアはビジネス街で仕事をする大人の大半はここに訪れ、汗水垂らして働いている。

 各エリアには必ず警察のような行政機関が常在しており、力を悪用する超人や不審者を即座に拘束する。最近では建設で増設した大型ショッピングモールや遊園地といった娯楽施設もある。

 中央の島には学校等の公共施設が密集している。そして中央にはそびえ立つ島があり、そこは『超人特区』の1つで超人の安全と保護及び超力に関する研究が日夜行われている。

 ただ、人工島ゆえに土地代が非常に高く、一軒家を買うことが富裕層のステータスとなっている。野菜を自家栽培して売ったり収穫したりする家もあるが食料自給率も限りなく低く、生活物資なども船上輸送でコストがかかるため、物価が高い。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 東と北の間に娯楽用のビーチがあるが、現在の時刻は仕事や学業で行くような人もおらず、そもそも海開きには少し早い。そのビーチで人がいないにも関わらず砂浜に一つの人影が歩いていた。

 三つ編みの茶髪。眼鏡を着用しているが、足が猛禽類の形状に近づいており、人面鳥よりも鳥人間に近く、身体のシルエットから女性だと判断できる。背中には生物としても異形の翼があり、首からは年代物の一眼レフカメラがぶら下がっている。

 

 身体の特徴から彼女が超常人(スペリオル)だとわかる。その人物は浜に流れ着いた大きめの丸太に腰掛け、スマートフォンのメッセージアプリを開く。

 

「…………」

 

 どこか物憂げな表情でメッセージアプリに表示された文字を見つめる。やがて、その文字を消去しようと指を動かそうとする。

 

「……?」

 

 不意に何かの声が聞こえた。周辺を見渡すと、視界の端に遠くで何かが集まっている光景を見かけた。目を細め、よく見るとそこに――

 

「ミャー」

「ミャー」

「……ぐふ……」

「ミャー、ミャー」

 

 ――頭に猫のような耳がついた三匹の海亀に現在進行形で叩かれている気絶した青年がいた。

 

 通常、普通の海亀を含む亀は声帯が無いので喋れないのだが、超常人が生まれたあの超常現象は人だけではなく、犬猫や鳥や大根といった動植物にも進化する可能性を与えた。中には超常人にも劣らない力を持った生物が誕生して猛威を振るうが、その時は超力者(オーバーズ)によって鎮圧される。

 余談だが、青年にのしかかったり、ペチペチと叩いている海亀は進化したことで声帯と猫のような特徴を得たイルカ並に人懐こい性格の海亀で正式名【ネコナキウミガメ】である。

 

 ……海亀にイジメられている……

 

 あまり見ない衝撃的な光景に言葉を無くす彼女。これが襲われていたなら夢見が悪いという理由で追い払うが、ネコナキウミガメは遊んで欲しくて青年を叩いている無邪気な行動なので止めれない。

 とりあえず一枚残しておくかと考え、カメラを構えようとした瞬間、一匹のネコナキウミガメが頭で器用に青年をひっくり返された瞬間に青年の背中が光輝き、腕全体に橙色の幾何学模様が刻まれ、掌の中心に埋め込まれている橙色のソフトボールぐらいの球が特徴的な黒いロボットのような腕が現れた。

 

『コラ! あっちへ行くんだ! ほら! あっちだあっち!!』

「ミャー」

「ミャー」

 

 シッシッと追い払う素振りを見せる黒い腕にネコナキウミガメも非難の声をあげるも渋々の様子で海に帰っていった。

 

『ふぅ、やっと行ったか』

 

 海に帰っていったネコナキウミガメ達の姿に一安心する黒い腕。しかし、世の中には“一難去ってまた一難”と言う言葉が存在する。

 

「オウ」

『……え?』

 

 黒い腕の後ろから牛のような角が生えたアザラシとトドを混ぜたような生き物が黒い腕の手首の部分を口に加えた。

 この生物の名は【ダイダラダイカイギュウ】と呼ばれ、人工島ダイダラの東と南エリアの間にしか生息しないこの島特有の生物で性格は温厚で人懐こいが、小型船を転覆させた記録を持つほどの怪力を誇り、迂闊に近付くと大怪我を負うことになる。

 そしてダイダラダイカイギュウは黒い腕を青年ごと持ち上げ、そのまま――

 

「オウっ!」

『ぐばらぁ!?』

 

 ――地面に叩きつけた。

 そのまま右に左にバシンバシンとリズミカルに地面へ叩きつける様子から遊んでいると思うが、端から見れば獲物を弱らせる肉食動物の絵面にも見える。

 

「オウ! オウッ! オウ!! オウッ!!」

『ちょ、やめ、が、や、やめ』

「オウッ!?」

 

 楽しくなってきたのかスピードが上げるダイダラダイカイギュウだが、突然黒い腕が消え、消えた事で青年はそのまま投げ飛ばされるように宙を舞って地面に転がり落ちた。

 運命か女神のイタズラなのか、落ちた場所は――

 

「……大丈夫かしら?」

 

 ――女性の目の前だった。

 

「……ぅう……」

「意識はあるようね」

「オウッ! オウ!!」

『ぬ、いかん! すまないが下がっていてくれ。巻き込まれてしまうぞ!!』

「……いや、知らないの?」

 

 苦悶の声をあげる青年に意識がある事を女性が確認するとダイダラダイカイギュウは遊んで欲しそうに重い身体を引きずりながら近付いて来る。また青年の背中から黒い腕が生えて女性に離れるよう注意するが、その様子に女性は呆れた表情を見せ、落ちていた一本の小枝を拾って海に向かって投げた。

 

「オウッ!!」

 

 するとダイダラダイカイギュウは方向転換し、女性が投げた小枝を追って海に帰っていった。

 

「……」

『……え?』

「ダイダラダイカイギュウは赤ん坊並に興味が移りやすいのよ……知らなかったかしら?」

 

 呆ける一人と一機に女性は呆れた視線を向ける。知らなかった事を隠したいのかその視線を気付かないフリをする一人と一機。緩やかな波の音と猫のような鳴き声が砂浜に響いた。

 

「……ありがとな」

 

 沈黙の重さに負け、青年は女性に礼を言った。

 

 

 

 ■――■■――■

 

 

 

「はいこれ。お茶で良いかしら?」

 

 海から少し離れた所にある自販機。座って飲める為に設置されたベンチで女性は青年に自販機で買った飲み物を手渡した。

 

「悪い。後でジュース代払うな……えっと……?」

「ウイング。ウイング・オークレーよ。別に飲み物の一本ぐらい払わなくて良いわよ」

 

 青年の言葉に女性――ウイング・オークレーは答え、ラベルに【ホアッ茶!】とポップに書かれた飲み物を喉に流し込む。

 

「俺は臥煙明人、こっちはイデア」

『アキヒトと一緒によろしく頼む』

「アキヒトじゃなくて、アキトな」

 

 青年――臥煙明人は黒い腕のロボットアーム――イデアの間違いを指摘しながら自己紹介する。その様子にウイングは臥煙に質問した。

 

「さっそく質問なんだけど、どこ出身かしら?」

「……あっちだ」

 

 ウイングの質問に対して臥煙は南に指を指した。ペットボトルの蓋を開けようとするが、逆方向である事をわかっていないので開けられない。

 ……南エリア……あそこは商業区だし、住み込みのバイトも探せばある……だけど、今どき南エリアの事をあっちなんて言う人は珍しいな……

 ウイングは臥煙の人柄を理解しようと見つめる……半月状のジト目に灰色ミドルヘア、見た目は自身が知るクラスメイトと同じ人に近いが、両目の色が角度によって様々な色に変化している。

 必死にペットボトルの蓋を開けようと身体を左右に揺らしながら悪戦苦闘する臥煙の瞳が様々な色に変化する様子を見つめていると、イデアがその様子に気付いた。

 

『どうしたのだ?』

「あ、いえ、何でもないですわ」

『……そういえば、学校は行っていないのか? 今日は平日なのだが……』

「……それは……」

 

 イデアの言葉にウイングは口をつぐむ。まるで触れてはいけないモノに触れてしまったような空気が漂い始める。

 

「イデア、別の話題にしろよ」

『何故だ?』

「何か言えない事情があるんだろ。あまり踏み込んだらダメみたいだ」

『むぅ……そうか……』

「俺が話すから、ペットボトルの蓋を開けてくれねぇか?」

 

 臥煙とイデアはヒソヒソと――実際は丸聞こえの会話にウイングは苦笑し、今度は入れ替えって臥煙がイデアについて謝罪した。

 

「悪いな。イデアはデリカシーが無いんだ」

「……それ、自分に対しても言ってるわよ」 

 

 ジト目で見つめるウイング。臥煙も同じようにウイングを見つめるが、どこか違う所を見つめられているような違和感を感じ、臥煙に質問する。

 

「……ねぇ……どうかしたの?」

「なぁ……あんた……」

 

 瞬間、ガチャンという音と同時に臥煙の首に大きな枷が付けられた。

 

「……なっ!?」

「えっ!?」

『どうした急に!?』

 

 突然の事に戸惑う臥煙とイデア。ウイングは驚いたが、すぐに臥煙の首に付けられた枷を理解した。

 

「これって――」

「ちぃ、ハズしちまったぜ」

 

 ウイングの言葉を遮るようにガッチリと肥満の中間点のような金髪黒目の精巧な顔立ちの浅黒い肌の少年がアルファベットのYとWを混ぜたような奇妙な形の銃を持って現れた。

 

「全くよぉ……そこの鳥女を狙ってたのに邪魔されてハズしちまったぜ」

「……あなた……何者……」

 

 まるでキャッチボールで暴投してしまったような調子で答える少年に警戒心を抱くウイング。

 

「……教える訳ねぇだろ……これから捕まるヤツの言葉なんてよォ!!」

 

 奇妙な形の銃を構え、撃とうとする少年に対して臥煙とイデアは固まり、ウイングは姿勢を低くして警戒する。

 そして、銃を構えた少年とウイングの間に突然車が乱入してきた。

 

「なに!?」

 

 予想だにしなかった事に驚く銃を構えた少年。ウイングはこれを好機と捉えて眼鏡をハズし、固まってた臥煙の腕を掴んで飛んだ。

 その際に発生した強風に顔を腕で守るように隠す銃を構えてた少年。車の後ろを覆い隠していたカバーが強風によって捲られた。

 

「――――――」

 

 そして、言葉を失った。

 幸か不幸か、ウイングは自身の超力(ビヨンド)の影響で身体も自身の速度に耐えられるよう強靭になっている。

 故に、見えてしまったモノを目に焼き付いたまま、臥煙と共にその場を離れていった。

 

 

 

 ■――■■――■

 

 

 

 ウイング達が離れていった後、銃を構えてた少年は車の運転席に怒鳴り散らした。

 

「おいウィリアム! 邪魔すんじゃねぇよ!!」

「……邪魔ではないですよ。ライアン」

 

 運転席にいたのは折れそうな程に細い黒髪青眼の端正な顔立ちの青白い少年――ウィリアムが自身に文句を言う銃の少年――ライアンを宥める。

 

「はぁ!? 邪魔以外の何物でもねぇだろ! 逃げられちまったじゃねぇかよ! 警察や超力者の連中に通報されちまったら終わりだぞ!」

「いいえ、彼女は我々を通報しません。むしろ、我々を追います」

 

 怒鳴るライアンとは正反対に冷静な態度のウィリアム。その様子にライアンも冷静を取り戻してきた。

 

「……考えがあるんだな」

「えぇ、事前に調べた彼女のデータを利用して我々のアジトに誘い込みます」

「そんなの考えてたんなら先に言えっての!」

 

 ウィリアムの作戦に賛同するライアン。ウィリアムはそんなライアンを他所に後ろに目を向ける。

 そこには、一人の女性が拘束されていた。臥煙の首に付けられたモノと同じ枷が付けられ、目隠しと猿轡で自由を奪われていた。

 

「ライアン、わざと跡を残すように運転をお願いしますよ」

「わーったよ。荒くなるから我慢しろよ」

 

 そう言ってウィリアムは助手席に移動し、ライアンは荒っぽい運転で移動する。

 自分達が向かった場所を知らせるように残る轍は悪意にまみれた招待状のように……口を大きく開けて獲物を待ち伏せする獣のように怪しい雰囲気を醸し出していた。

 

 




 次回、ファーストバトル。
 デュエルスタンバイ!(遊戯王並感)

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