僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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十噺「無自覚デート」

 ──────────

 

「『衝動』、『呆然』、『地面』」

 

 ──────────

 

 衝動、目的を意識せずただ何らかの行動をしようとする心の動き。

 ……昨日の発言、有り体に言えば衝動的なものだった。

 どこに行くか?

 どんなことをするか?

 そんなの全く持って決めていない。

 

 

 それを思い出した噺は、夜更けに悪いと思いながらもMebiusで声を掛けた。

 

 

『今いいかな?』

 

『はい、大丈夫です。何かありましたか?』

 

『悪いんだけど、明日どこ行くのか全然考えてなかった。どこか行きたい場所はある?』

 

 

 数分後、ある映画の広告と共に、メッセージが送られてくる。

 

 

『この映画が見たいです!』

 

『映画かぁ…、だったらAON(アオン)でいい?あそこだったら映画館以外にも色々あるし。』

 

『良いですね!今日の内にどこに行きたきか調べておきます!!』

 

 

 今日と言っても、あと一時間程なのだが……

 そう思ったが、特に何か言うわけはなく。

 

 

『遅くなり過ぎないようにね?』

 

 

 この一言を送ってスマホの電源を切った。

 因みに、AONとは大型ショッピングモールだ。

 映画館から洋服店、本屋や飲食店。

 様々な専門店で構成されたショッピングモール。

 祝日は大いに賑わうので、噺は淑が行きたいと言い出すなど思ってもいなかった。

 

 

 衝動で誘ってしまったが、良い休日になればいいなと思い眠りに着いた。

 

 ──────────

 

 翌日のお昼すぎ、少し柄の主張が強い薄手のロングTシャツにジーパン、出来るだけ無難な格好で外に出る。

 今日も今日とて気温は高く、直射日光と地面に当たった反射日光が噺を干からびさせようとばかりに注がれる。

 タオルと替えのシャツを持ってきて良かったと、内心安堵しながら道を歩いた。

 

 

 AONに現地集合で、待ち合わせ場所は入口近くのペットショップ。

 そこまで距離はないので歩きで現地に向かう。

 所要時間十五分。

 自転車で来れば五分と掛からない距離にあるAONは、彼の家にも重宝されている。

 

 

 直射日光の強さ故か、殆ど地面を見て歩いていたためすれ違いざまに誰かにぶつかった。

 

 

「あっ。すいません、前方ふちゅう──」

 

「こ、こちらこそ前方不注意で……に、兄さん!?」

 

「…誠袈が何でここに?」

 

「あ、明ちゃんと買い物に…。そう言う兄さんは?」

 

 

 この時、彼の頭には二つの選択肢が浮かんだ。

 一つ、適当にはぐらかす。

 二つ、普通に本当のことを言う。

 いつもの噺なら、迷わず二つ目の選択肢を選ぶだろうが……

 

 

(……話したら付いてきちゃいそうだし。いいっちゃ、いいんだけど…今日は二人で遊びたいしなぁ…。)

 

 

 苦肉の策ではあるが、彼は適当にはぐらかすことにした。

 

 

「最近、学校で読む本が無くってさ、買いに行こうかな〜って。次いでに、ちょっと遊ぶのもいいかなって。ほら、最近は勉強ばっかりだったから息抜きにさぁ。」

 

「……ふ、ふ〜ん。私は帰りますから、遅くなり過ぎないようにして下さいよ?」

 

「そんなに遊ばないって。」

 

 

 何とか誤魔化して、誠袈から離れることに成功。

 その後は、地面から目線を前方に向けて歩いていった。

 時刻は一時五分前、集合が一時なので悪くない時間だろう。

 集合場所であるペットショップの辺りを見渡すと、見慣れた夜空色の髪が見えた。

 

 

 ガラスケースの中にいる犬と遊ぶ姿は、愛らしさが溢れ出している。

 写真に収めたい気持ちをスっと我慢して声を掛けた。

 

 

「ごめん。待たせちゃったかな?」

 

「へっ?あっ、浅井くん。いえ、時間の五分前ですからバッチリですよ。むしろ私が早く来すぎたんです。……えぇと、い、行きましょう!一緒に行きたい場所がいっぱいあるんです。」

 

 

 彼女の服装は、ロングTシャツにガーリーなフレアスカート。

 どちらも白と白なのだが、彼女の夜空色の髪ととても合っている。

 

 

「清水さんの服似合ってるね。結構白系の服が多い?」

 

「あ、ありがとうございます。…そうですね、私はシンプルな物が好きなので。」

 

 

 照れながらも答えてくれる優しさに微笑ましさを覚えつつ、目的の場所に向かった。

 

 

 最初は本屋。

 何でも、気になる漫画があるらしくそれに付き合った。

 噺は、今月のオススメと銘打った小説を幾つか手に取り吟味する。

 嘘が見える少年のお話や、寿命をお金で売ったお話。

 あらすじで気に入った三冊をカゴに入れて会計に行く。

 

 

 会計をササッと済ませて、淑の元へ向かった。

 すると、そこには恋愛漫画を神妙な顔で見つめる淑の姿が……

 先程の愛らしさが溢れ出る姿から一変、若干不審者に見えなくもない。

 近くに居たお客さんも呆然としている。

 

 

 それも致し方ない。

 何せ片目隠れの美少女が神妙な顔で恋愛漫画見てたら、誰だって呆然とする。

 他の客に迷惑を掛ける訳にはいかないので、ポンポンと肩を叩いた。

 

 

「清水さん、清水さん。目立っちゃってるよ。」

 

「え?」

 

 

 間の抜けた声と共に物凄い速度で顔を動かして辺りを見渡した。

 自分に視線が集まっているのが嫌でも分かった淑は、少し顔を赤くしてそそくさとその場を離れた。

 ……見ていた漫画を数冊取って。

 

 ──────────

 

 フードコートで遅めの昼食を取る二人。

 それを遠目に見るのは……誠袈と明。

 態々双眼鏡を使い、敵情を視察する兵士のように隠密行動を行う。

 

 

「ねぇ〜誠袈〜、普通に挨拶に行こうよ。こんなストーカーみたいなことしないでさぁ。」

 

「す、ストーカーじゃないわよ。こ、これは……。」

 

「はぁ〜!お兄さんのことが気になるなら思い切って言っちゃえばいいじゃん。私は兄さんのこと恋愛感情的な意味で大好きなんです、って。」

 

 

 長い。

 長いが、こうでも言わないと噺は気付かない。

 兄として好きなんだろうなぁ、と思うだけで終わる。

 明の言葉に悶える誠袈。

 

 

 親友のあまりのヘタレ加減に嫌気が差しそうになるが、押し留めて噺と淑の様子を探った。

 まだ、二人のデート(遊び)は終わらない。

 

 ──────────

 

 昼食を取ったあと、二人は映画館に来ていた。

 チケットを買って上映時間までの暇を潰すために雑談をしていた。

 ところが──

 

 

「うえーん!おかぁーさん!!どご〜!」

 

 

 迷子だろうか。

 泣きながら大声を出す少女。

 年齢は五歳前後だろうか、可愛らしいワンピースを着ている。

 周りの人は一瞥するだけで、助けようとはしていない。

 噺は急いでスマホで時間を確認した。

 上映時間はあと三〇分後、まだまだ余裕はある。

 

 

 隣に居た淑をチラリと見た。

 彼女は呆れたように笑って、こう言う。

 

 

「浅井くんの好きにすればいいんじゃないんですか?時間はまだあるんですから。」

 

「清水さんのそう言う所、ホント大好きだよ!」

 

 

 彼女が赤面したのを他所に、彼は少女に駆け寄った。

 何とか宥めて、情報を聞き出そうとする。

 

 

「泣かないで。……そうだ。ほら、アメちゃんあげるから。」

 

「ひっぐ、うっぐ。ホントに?」

 

「ホントホント。美味しいよ?」

 

 

 少女はアメを貰うと少しだけ笑顔になり泣き止んだ。

 後は難しいことは何もない。

 どこら辺ではぐれたか聞いて、その辺の場所を探す。

 偶然にも、少女ははぐれた場所を正確に覚えており、スムーズに親を見つけることが出来た。

 

 

 親御さんには嫌と言うほど頭を下げられて感謝された。

 だが、欲しいのはそれじゃない。

 噺が欲しいのは──

 

 

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 

「今度は迷子にならないように、しっかりと手を繋いでおくんだよ?」

 

「うん!!」

 

 

 笑顔。

 少女の笑顔を見て、噺も朗らかな笑顔で笑う。

 遊びに来たはずなのに、彼は人助けを優先した。

 友人としては下の下の選択かもしれないけど。

 けれど、淑は彼の在り方が綺麗なものだと知っている。

 

 

 高鳴る鼓動。

 あの朗らかな笑顔を見る度に、胸が高鳴るのは何故なのか?

 彼が誰かにその笑顔を見せていると、胸が苦しくなるのは何故なのか?

 分からない、分からないが、今はそれで良いと彼女は思った。

 何故なら、彼がすぐ傍に居てくれるから。

 

 

「ほら、浅井くん。急がないと上映時間に間に合いませんよ。」

 

「ごめん。急がないとね。」

 

 

 目線を合わせるために下ろしていた腰を上げて、映画館に向かう。

 ……そして、その時。

 噺は唐突に思い出した。

 

 

「清水さん?今日の映画って何観るんだっけ?」

 

「もう、さっきも言ったじゃないですか。タイトルは『This〜これが見えたら終わり』ですよ。」

 

 

 呆然とした表情で、噺は淑を見つめた。

 タイトルだけ聞けば分かる。

 

 

「それ、怖いやつだよね?」

 

「そうですけど。どうかしましたか?汗が凄いですよ?」

 

「……僕、あんまり怖いの得意じゃない。」

 

「私は浅井くんの人助けを見ている方が怖いです。」

 

「いや、上手いこと言って欲しかったわけじゃ……。」

 

「諦めて下さい。浅井くんから誘ったんですよ?」

 

 

 どこから吹いたのか、風の所為で顔の左半分を覆っていた髪が退かされる。

 そこから、小悪魔のような微笑みが見てとれた。

 彼女にそう言われたからには逃げられる訳もなく。

 

 

 その日、映画館に少年の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。




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