僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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十一噺「ファンブルアタック(致命的な一撃)

 ──────────

 

「『偽物』、『口付け』、『余りもの』」

 

 ──────────

 

 中間テストの結果が貼り出された。

 噺たちが通う学校は、全学年共通で学年の廊下に貼り出される。

 結果は──

 

 

「四二位…。やった!!やっと七五位を脱却できた!清水さん!ホントにありがとう!」

 

「べ、別に私のお陰ではないですよ。浅井くんが頑張った結果じゃないですか。」

 

 

 朗らかな笑顔ではなく、歳相応の子供のような笑顔。

 先日の無自覚的なデートでは、映画館で悲鳴をあげていたとは思えない。

 淑は噺のことを知れば知るほど、彼が案外にも普通の子供だと分かってきた。

 ……因みに、淑は三位。

 勉強会で噺や敬に教えながらでもこの順位を取ってくるのは流石と言える。

 

 

 周りには順位を見て嘆く者や笑う者、果てには狂ったように踊る者まで居る始末。

 この状況を先生が見逃す筈はなく、漏れなく全員怒られた。

 

 

 だが、その後は放課後だったためか随時解散となりそのまま帰宅の流れになった。

 噺はいつも通り淑を誘って帰ろうとしたが、そこに誠袈と明が現れる。

 誠袈の顔は何時ものキリッとしとものから可愛らしい笑顔に変わっている。

 

 

 目がキラキラと輝いており、褒めて褒めてと強請っているようだ。

 彼も鈍感過ぎる訳では無いので、何となく順位が高かったんだろうと察しが着いた。

 

 

「見て下さい兄さん!私、学年一位になりました!」

 

「どうどう?誠袈凄いでしょ?」

 

「うん。何で、軽井坂さんが誇らしそうなのか分からないけど、凄いね誠袈。しっかり勉強してたんだな。」

 

「えへ、えへへー。」

 

 

 お強請りを受けて噺は優しく頭を撫でた。

 家出しか見せないだらしのない緩み切った顔を見せる誠袈。

 淑と明は苦笑しつつも見守っていた。

 数分間そうやっていると、ここがようやく自宅でないことを理解し始めた誠袈が、彼を思いっきり殴った。

 

 

 いきなり腹に一発貰った噺は、込み上げてくる不快物をギリギリの所で押し留めて事なきを得た。

 

 

「ご、ごめんなさい、兄さん。……その、急に恥ずかしくなってしまって。」

 

「良いんだよ。…結構慣れたから。」

 

 

 理不尽な暴力には段々と慣れた。

 妹である誠袈の場合はちゃんと後から謝るので怒りが湧くことはない。

 話は逸れるが、一度だけ敬に理不尽に殴られた噺は、取っ組み合いの喧嘩に持ち込んだらしい。

 最終的に噺が負けたが、敬を満身創痍まで追い込んだとか追い込んでないとか。

 

 

 真相は闇の中である。

 

 

 ……その後は普通に四人で帰宅し、翌日の放課後にお疲れ様会的なものをやろうと言う流れになった。

 

 ──────────

 

 翌日の放課後。

 帰り道の少し逸れた場所にあるカラオケに直行。

 メンバーは、噺・淑・誠袈・明・敬の五人。

 敬がサラリと噺に責任者を任せて個室に行き、それに明と誠袈が付いて行く。

 

 

 淑だけは残って、彼が書類を書くのを待った。

 

 

「先に行っててもいいんだよ?」

 

「少しくらいなら構いませんよ。」

 

 

 譲る気のない彼女に笑いかけて、書類を書き進める。

 書き終わったあとは、早歩きで個室に向かった。

 少しだけタバコ臭さがあるが、父親の正が吸っているので何とも思わない。

 その他にも薄暗さがあるが、それこそがカラオケだろう。

 

 

 先に入った敬が既に歌い始めているのを見ると、若干殴りたくなったが誠袈や淑たちがいる手前殴れない。

 一瞬、射殺すような視線を敬に送ったあと席に着いた。

 

 

 清潔感を出そうとしたのか、花瓶に造花が入れられている。

 偽物とは言え、真っ赤なバラの造花はとても綺麗だ。

 真っ赤なバラを見ていると、撮影のお手伝いをした時のことを思い出す。

 赤いバラのブーケをもって微笑む淑。

 美しい、その一言に尽きる光景を思い出した。

 

 

 偽物のバラでトリップしかけてる間に、誠袈と明がデュエットで歌っている。

 動画でも撮って緩和に送れば嬉しがること間違いなし。

 そう思いながらスマホをポッケから取り出した。

 学校の校則では、持ってくることをは容認されているが使う事は禁止されている。

 

 

 緊急の場合のみ使用を許可し、それ以外の場合で使用していたら取り上げられることになっている。

 何とも面倒臭いルールだが、中学生なのだから義務教育だ。

 将来必要となるかは分からないが一応は学びの場。

 最低限のマナーやルールがあるのはしようがない。

 

 

 スマホで動画を回していると、今度は噺の番になった。

 曲を入れた覚えはない、なので彼は敬の方を見る。

 敬はニヤニヤしながら噺を見ていた。

 後で絶対にぶん殴ってやると確固たる決意をし、マイクを握る。

 スピーカーから前奏が流れ出し、歌が始まった。

 

 

「────────────」

 

 

 曲名は少し前に流行った『シャルル』。

 ボーカロイドの曲は息継ぎが難しいものもあるが、噺は難なく歌っている。

 しかも……上手いのだ。

 普段の彼からは考えられないほどに上手い。

 

 

 噺からスマホを受け取って動画を回していた淑は、動画のことなど忘れ食い入るように彼を見つめていた。

 惹き込まれる歌声。

 女性のような鈴の音にも似た声ではなく、男らしさのあるものでもない。

 中途半端、そう感じる者も多いかも知れないが、とても綺麗な歌声だった。

 

 

 時間はあっという間に過ぎて、彼の番は終了した。

 その後も、順番に沿って何周もしたが、淑は頭の中から噺の歌声が離れなかった。

 

 ──────────

 

 終了時間限界まで歌ったあと、支払いを済ませて解散。

 敬や明とは帰り道が違うため、噺は別れて帰った。

 帰宅途中はたわいない話で暇を作らず、楽しく過ごす。

 淑が余りものにならなかったのは本当に運が良かった。

 

 

 事実、噺と誠袈&敬と明は兄妹。

 なので帰る家も同じ。

 しかし、淑は違う。

 淑の家の方角が彼の家とあまり変わらないのは奇跡かもしれない。

 

 

 時刻は七時前、流石に噺もこの時間に一人で帰るのは御免だ。

 だからこそ、彼は最初に淑を家に送り届けてから、自宅を目指すことにした。

 時間にして十五分。

 長いが短いかで言われたら微妙と答えるしかないこの時間。

 

 

 会話を切り上げて、別れの挨拶をする。

 

 

「清水さん、さよなら。」

 

「淑先輩、さよならです」

 

「浅井くんも誠袈さんもさよなら。」

 

 

 淑と別れたあとは、誠袈とポツポツと会話を交わしながら夜道を歩いた。

 街灯の灯りが辺りを照らすなか、不意に誠袈が呟く。

 

 

「兄さんは、淑先輩のことをどう思っていますか?」

 

「……?大切な友達かな。」

 

「…それ以上になる事ってあると思いますか?」

 

「恋人ってこと?……それは…分からない…かな。」

 

 

 歯切れの悪い彼の言葉。

 少なからず、意識している。

 そう言っているのと変わらいなだろう。

 誠袈の心の中に、僅かに焦りが生まれた。

 

 

(モヤモヤの名前がやっと付けられるのに……。なんで──)

 

 

 彼女の思考を遮るように、噺が続く言葉を紡いだ。

 

 

「でも、もし清水さんみたいな人と付き合えたら幸せだろうね。」

 

 

 彼は無自覚だった。

 だが、その無自覚さ故に誠袈の心を突き動かした。

 兄としてではなく、一人の男の子として噺のことが好きだと、完全に自覚させてしまった。

 モヤモヤの名前は──恋。

 

 

「んっ」

 

 

 一生懸命につま先立ちして、噺に無理矢理口付けをした。

 無理矢理と言っても力押しではなく、できるだけ自然な流れで。

 数秒間、時が止まったかのように彼の頭はフリーズした。

 何せ実の妹に口付け──もといキスされたのだ。

 動揺しない人間はそうそう居ないだろう。

 

 

「……ぇっと、誠袈?」

 

「……ごめんなさい!」

 

 

 走り去る誠袈。

 帰る場所は同じなので彼は追いかけることはしなかった。

 いや、それ以前に追いかけられなかった。

 撮影で淑が頬に口付けした時と同等の鼓動の高鳴り。

 兄妹、血の繋がった家族な筈なのに……

 

 

「…ヤバイ。僕、どうすればいいんだ……。」

 

 

 街灯の頼りない光と大差ない程の、頼りない震えた声。

 この日、また一歩関係が進んだ。

 きっと、誰も予想だにしない方向へ。

 

 

 

 




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