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「『呼び掛け』、『目覚まし』、『揺り籠』」
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揺り籠、元は幼児や乳幼児を収めてあやすための道具。
だが、最近は大人でも使える揺り籠のようなものが出てきた。
名前は違うがハンキングチェアと言う物だ。
たまご型で、中に柔らかいクッションが敷き詰められておりとても寝心地が良いらしい。
現に、噺は寝息を立てて安眠している。
先日、誠袈の告白受けたあと、何故かそのまま一緒に寝る流れになりベッドに入った。
……しかし、彼が眠れる筈もなく睡眠不足に。
流石の噺も、睡眠欲には勝てない。
今日一日の授業は丸々寝ていた。
それを淑に心配されたが、理由を言うことは躊躇われた。
「実の妹に告白されました。」
こんなこと言ってみろ。
頭の可笑しい人だと思われる可能性があり過ぎる。
なので、今日は別々に帰って来た。
本当は彼女とくだらない話でもして帰りたいものだが、未だに収まることを知らない眠気もあったため断念。
帰ったら帰ったで、誠袈にどんなアプローチをされるか分からないので、オチオチ自室で寝ることも出来ず困り果ててるところ。
緩和が最近買ったハンキングチェアを出してくれたのだ。
浅井家のリビングにはそこそこの広さがあり、ハンキングチェアも余裕で置けた。
気持ちよさそうに眠る噺を見ながら、緩和は家事を進めていく。
あと二時間もすれば、正も帰って来て夕御飯の時間になる。
意識を家事に集中させようとした時、玄関のドアが開く音がした。
誠袈だろう、そう納得した彼女は笑顔で娘を出迎えに行った。
「お帰りなさい。」
「ただいま、お母さん。…兄さんは部屋に居ますか?」
「噺ならリビングで寝てるわ。可愛い寝顔してるから撮っちゃった。」
そう言って、スマホを取り出し噺の寝顔が写った写真を誠袈に見せる。
誠袈はそれに飛びつき恍惚とした表情でそれを見つめた。
柔らかい表情が多い噺でも、ここまでの顔は家族であれど見たことがなかった。
「お母さん!これ今すぐ私のMebiusに送って下さい!」
「りょ〜かい。あなたも、噺が起きない内に撮っちゃいなさい。」
「……良いんでしょうか?」
「良いのよ。あんな堂々とリビングで寝てるんだから、撮ってくださいって言ってるようなものよ。」
「それもそうですね!」
母親の理論に納得し、弾む心の赴くままにリビングのドアを開けて中に入った。
スマホをスクールバックから取り出し、カメラアプリを開く。
そこからは、撮影会の如く。
彼が起きないように、誠袈は慎重に…時に大胆に写真を撮り続けた。
噺が事前にセットしていたであろう目覚ましが鳴り出したが、速攻でスマホを取り上げて解除する。
目覚まし自体は少し鳴ってしまったが、彼は起きなかった。
相当疲れや眠気が溜まっていたのだろう。
何となく、それが自分の所為だと分かっていた。
だから、彼女はいつも彼が自分にやってくれるように、ゆっくりと優しく頭を撫でた。
これをされると、凄く心が落ち着いて温かくなるのだ。
「……んむ……へへ……。」
気持ちよさそうだった顔が更に綻んでいく。
そして、無意識だったのか、撫でていた誠袈の手を掴み優しく引き寄せた。
唐突過ぎる行動に彼女は反応しきれず、噺に抱かれる形でハンキングチェアの中に入っていく。
実際、そこの中は広く子供二人程度だったら余裕がある。
だが、誠袈に全く余裕はなくみるみる内に顔が赤くなっていく。
「に、兄さん?!さ、流石に恥ずかしいですから……。」
「……………………。」
返事は返ってこない。
致し方ないが、力づくで出ようとした。
けれど、淑の腕の力は思ったより強く、中々抜け出すことが出来ない。
(…やっぱり、兄さんも男の人なんだよね。力も強いし、ちょっとは筋肉もあるのかな…。)
想い人にこうされて喜ばない人間は居ない。
彼女も例外ではなく、少しづつ意識が微睡みに置いていく。
(少しだけ…少しだけなら…別に良いですよね?)
誠袈もゆっくりと彼に抱き着いた。
密着したことで伝わる体温や心臓の鼓動。
……それが、無性に愛おしく感じた。
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「……し起き……い。き…か……き……い。」
聞き慣れた声。
段々と意識が覚醒していき、ハッキリと声が聞こえてくる。
声の主は母親である緩和のものだ。
(アラームでも起きなかった僕を起こすために呼び掛けてくれたのかな?……ん?)
目はまだ開きたがっていないのか開こうとしないが、横っ腹に柔らかい感触を感じる。
クッションではない。
直感的に、触ってはいけないものだと判断し体を起こした。
目を擦り、ゆっくりと重い瞼を上げる。
目の前には微笑ましそうな顔でスマホをこちらに向ける緩和の姿。
何故そんなことをしているのか?
聞き出そうとする前に答えが見えた。
……自分に抱き着く形で寝息を立てている
恐らく、横っ腹に感じた柔らかい感触は、女性的に成長してきたある部分だろう。
少年は直感で自分の妹の胸を揉むと言う大事件を防いだのだ。
この時ばかりは、自分の直感に最大級の感謝をした。
「おはよう、お母さん。」
「危なかったわねぇ。危うく〜、可愛い可愛い妹に実った果実を、揉んでしまう所だったのよ?」
「僕も今気付いたよ。この年で家族から絶縁を貰うのは御免だよ。」
「えぇ〜、別に兄妹の恋って良いと思うわよ。禁断の恋ってその分燃えるんだから〜。」
……言えない。
昨日、本当に禁断の恋が発覚したなんて。
隣で気持ちよさそうに眠る誠袈を見て、噺はため息を吐きつつもゆっくりと優しく頭を撫でた。
その日から、誠袈は頭を撫でることをお強請りするようになった。
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