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「『時計』、『テーブル』、『眼鏡』」
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先日の事件からはや二日。
六月も中頃と言うことで、七月頭にある期末試験に向けて勉強会を開いた。
前回の参加者に加えて、風輝も乱入参加したため急遽場所を変更し、学校の図書室で行うことに。
丁度六人なので、長方形のテーブルに男女別れて座る。
入口側が男子で、噺・風輝・敬。
窓側が女子で、誠袈・淑・明。
淑と風輝が真ん中になった理由は単純で、二人共教えるのが上手く頭がいいからだ。
「風輝。ここどうすりゃいいんだ?」
「ああ、そこかぁ。この間た習った公式で…。」
「公式がわからん。」
「お前さぁ〜。はぁ、教えるから教科書見ろ。」
「ホイホイ〜。」
眉間に青筋を浮かべながら教える風輝を見てると申し訳ない気持ちになる噺だったが、なんだかんだ言って怒らないのは優しさなんだろうなと思った。
その姿を見てしまったら、彼は手を抜く訳にはいかない。
ノートを見返し、ワークを着々と進めていく。
言い忘れていたが、風輝の学年順位は一位。
淑も頭は良いはずだが、風輝は一年から一位を独占してきた。
彼が一位から落ちたことを誰も見たことがない。
それでいて運動もそれなりに出来るのだから、モテない筈がなく男女問わず告白をされることが絶えないとか……
「清水さん。悪いんだけどここ…。」
「それですか?それだったら、確かこの公式の応用ですよ。先生もふんわりと言っていました。」
「マジかぁ、聴き逃しちゃってたかも。ありがと、清水さん。」
「いえいえ。」
勉強会が進む中、明は眠いのか欠伸をしながらワークに向かう。
だが、睡魔には勝てず数分も経たない内にワークに覆い被さるようにして眠ってしまった。
寝顔は可愛いものだが、いつまでも寝かせる訳にはいかないので淑は少し肩を揺さぶる。
「軽井坂さん?起きてください。勉強しないと…。」
「…淑先輩、私に任せて勉強を続けてください。」
「で、でも…。」
「大丈夫ですから。」
噺に似て朗らかな笑顔の筈なのに、その裏から漏れでる怒りの感情がオーラのように見える。
誠袈は腕を高く上げて拳を握ると、それを思いっきり振り下ろした。
流石の淑もこれは見過ごせず止めようとしたが、噺が目線で止めなくていいと訴えてくる。
刻一刻と迫る拳──それは当たる直前で突然減速し、握った拳を開きのろのろとした動きで優しく明の頭に振り下ろした。
所謂チョップである。
しかも、当たっても衝撃を感じるだけで全く持って痛くない。
「んぁあ。はっ!今何時?」
「まだ勉強会が始まって二〇分も経ってないよ。…先輩たちが真面目に勉強してるんだから、私たちだってちゃんとやらないと。」
「えぇ〜。だって、眠いし。」
「だってじゃないの。昨日夜中までゲームやってた明が悪いんだよ?」
「うぅ。それを言われたら何も言い返せないぃ。」
このようなやり取りをしながら、五時までの間勉強会が行われた。
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意識を目の前のワークから少し逸らして時計を見やる。
五時を回ったことを確認すると、噺は周りで勉強をしている全員の手を止めさせた。
一時間半は勉強しっぱなしだ、少々休憩を取るべきだろう。
そうでなくても、こまめな息抜きは必要だ。
「ちょっと休憩にしよう。」
「噺に賛成だ。バカの相手は疲れた。」
「はぁ、バカって言うなよ!まだ下には三〇人くらい居るぞ。」
「そうやって下を見てる所が既におバカなんだよお兄。」
「まぁ、そうかもしれませんね。」
「ま、まぁまぁ。休憩するんだったら、なにか楽しい話題の方が。」
淑が話題を変えるようにやんわり促すと、噺は勉強会が始まってからずっと気になっていたことを風輝に聞いた。
「ねぇ、風輝。君って目が悪かったっけ?」
「あぁ。この眼鏡のことか?伊達だよ伊達。眼鏡かけてる方が集中出来るし、なんか頭良く見えるだろ?」
「君、さっきの敬に言ったバカ発言がそのままブーメランで返ってきてるぞ。」
天然混じりな回答に呆れつつも、彼はクスリと笑ってしまった。
風輝はそれを見ながら、ふとこう思った。
『敬や噺に掛けさせたら面白いんじゃないか?』
早速実行するため、敬に眼鏡を手渡した。
「敬、掛けてみなよ。」
「俺がか?別にいいけど。」
嫌そうな顔をした敬も、別段なにか不都合がある訳でもないので仕方ないと言った様子で眼鏡をかけた。
しかし、彼に眼鏡は絶望的に合っていなかったのだ。
残念感が半端ではなく、淑でさえ口を抑えて笑っている。
「お前、絶望的に眼鏡が合わねぇな。」
「お前が掛けさせたんだろうが!!」
「あなた達!静かにしないさい!!」
司書さんの怒声でその場が静まり返る。
…数秒後、全員が頭を下げて話題を続けた。
今度は出来るだけ声を抑えて。
「噺、頼む。」
「お願いしなくても、僕も掛けてみたかったから良いよ。」
噺は最初から特に嫌がる様子はなく、歳相応の子供のような反応で眼鏡をかける。
そして、眼鏡を掛けた彼は……至って変わらなかった。
…いや、普段から掛けているのかと見間違うレベルで似合っていた。
「噺は、まぁ。なんとなくこうなるって分かってた。」
「えっ?僕そんなに似合ってない?」
「いえ、似合い過ぎて普段からかけているのかと疑うレベルです。淑先輩もそう思いますよね?」
「う、うん。何だか自然な感じがして良いと思うよ。」
「お兄がダメすぎるだけで、お兄さんは似合ってますね。」
「クソッ。妹すら俺に冷たい……。」
一人ふてくされてる敬を置いて、話が進み。
写真を撮って見せることになり、淑と誠袈が同時にスマホを取り出した。
校内だが、放課後でしかも図書室。
先生の見回りなんてないし、司書さんも静かにしてるなら何も言わない。
そこで、二人の少女間でプチ事件が起こった。
お互いのロック画面の壁紙である。
誠袈は前に撮った噺の可愛い寝顔。
淑は写真撮影の時に態々スマホで撮ってもらった一枚。
運悪く、二人はお互いの壁紙を見てしまった。
……そして思ってしまったのだ。
『あの写真…欲しい!』
アイコンタクトで即座に相互確認を行う。
(私は浅井くん単品の写真を。)
(私は兄さんの寝顔で一番良いやつを。)
Mebiusを開いて、目にも止まらぬ早業で写真を送信し送られてきた写真を確認する。
その後はお互いに握手を交わした。
目の前でその光景を見ていた四人は何が何だかわからなかったが、どうしてか約三人は薄らとやり取りの内容に想像がついた。
「……取り敢えず、写真はいいや。」
「いいえ、撮ります。」
「ダメです、きちんと確認しないと。」
何故か息の合う二人に驚く噺だったが、写真を撮ること自体はすぐに終わったので確認をさせてもらった。
空いた時間が暇だった明は眼鏡を風輝から借りて遊んでいると、誠袈もそれに混ざろうとしていた。
「明、私にも少し。」
「いや、誠袈と清水さんは掛けなくても大丈夫でしょ。」
「?いきなりどうしたの兄さん?」
「軽井坂さんにも言えるけど、元々可愛い子が眼鏡掛けたら更に可愛くなるってのは迷信だよ。だって素で可愛いんだから、変わりようがない。敬みたいには普通ならないからね。」
サラリとそう言う噺に対し、誠袈と淑は悶え。
敬や風輝、明は呆れた顔をしていた。
…風輝が天然バカなら、噺は天然たらしである。
しかも、女たらしとかではなく人たらしだからよけいタチが悪い。
二人が悶えている間に、風輝が話題を変えた。
「そう言えば、噺。お前のファンクラブがあるらしいぞ?」
「ん?んん??ファンクラブって僕が想像してるファンクラブで合ってる?」
「あ〜、八割がた合ってるんじゃね?お前って不細工な訳じゃないし、誰にも大抵分け隔てなく接するだろう?人助けしてるのもよく見かけるからな、それで好きになったって奴結構居るんだぜ?」
「だ、だったら、清水さんの方が──」
「いや、清水のはもう在る。大体、黒髪清純美少女とか、片目隠れとか、属性盛られまくってるだろ。……オレも大概だけどさぁ。」
噺はこの日から、偶に感じていた視線に不快感を持つことがなくなったらしい。
ただの勉強会だったのに、途中から道が逸れてしまった。
けれど、彼らはこの時間が無駄ではないと心の底から信じている。
因みに、誠袈のファンクラブもあったらしいが、それを知るのはまた別のお話。
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