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「『カレンダー』、『ストロー』、『しるし』」
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しるし、色々な漢字で表すことが出来るが、みなさんが良く使うのは印だと思われる。
そして、誕生日。
一年に一度来る、対象の人物が誕生した日。
噺の部屋に掛けてあるカレンダーには、六月十七日の今日に印が着いている。
花丸で日付に印をして、その下の余白に誠袈の誕生日と書かれている。
だか、特に変わった様子はなく、彼は自室の机でワークを開いて進めていた。
難しい問題を見て唸ったり、ようやく解けたことに歓喜したりと、感情をコロコロ変化させていた。
そんな彼の自室のドアが規則正しく叩かれる。
もしかしなくても誠袈だろう。
「入っていいですか兄さん?」
「どうぞ〜。」
間延びした声で返事をして、誠袈を中に入れる。
誠袈は部屋着ではなく、外出用の服に着替えていた。
その事に触れようとした時、彼女は頬を少し赤く染めながら叫ぶように言った。
「に、兄さん!私と、タピオカミルクティー飲みに行きませんか?」
「……は?」
「は?って。今日は私の誕生日じゃないですか。だったら、お願いくらい聞いてください。」
「いや、そこには全然文句ないよ。何でタピオカミルクティーなのかなぁ〜って。」
「……明が飲んでないのは損してるって言われまして、試しにと。」
……きっと軽井坂さんの話に合わせてあげたいんだな、と思った噺は快く引き受けた。
誠袈に先に下に行くように伝えて、ブラウンのショルダーバックに財布とスマホを放り込んだ。
その後は適当な服に着替えて下に行く。
なんだかんだ言って楽しみなのか、誠袈はソワソワした様子で玄関に待機していた。
歳頃の少女らしい
「暑いねぇ。帽子くらい被ったら?」
「大丈夫ですよ。これくらい。」
そう言う彼女の服は、白を基調とした青い水玉模様があるワンピース一枚で、とても涼しそうだ。
先程とは打って変わって、見栄を張るように笑う誠袈に呆れつつも玄関に戻り、置いてあった麦わら帽子を取って優しく被せた。
「誠袈に倒れられたら僕は冷静じゃいられない。諦めてそれは被ってくれ。」
「…むぅ。」
噺は、頬を膨らませてあからさまに拗ねる彼女の手を優しく握り直し歩き出す。
燦燦と降り注ぐ太陽の光に内心怒りが湧いてくるが、大切な妹の誕生日が雨でないことに感謝した。
遠くの道に陽炎が見えることから、夏本番に入りつつあることが伺える。
AONまでの道のりの中、彼は先程の感謝を取り消そうか本気で悩んでいた。
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ショッピングモール内にあるカフェには、タピオカミルクティーを扱っている場所があるのでそこに行った。
店内は賑わっており、殆どの席が埋まっている。
何とか誠袈に二人席を確保してもらい、噺が注文をする事になった。
「ご注文をどうぞ。」
「ええと、タピオカミルクティーのMとアイスミルクティーのMを一つずつお願いします。」
「かしこまりました。右側にズレて少々お待ち下さい。」
十分ほどでトレーと一緒にカップが渡され、誠袈の座っている席に向かった。
彼女は噺が持ってきたタピオカミルクティーを見ると、キラキラと瞳を輝かせる。
いつものキリッとした凛々しさのある表情はどこえやら。
彼の目の前にいるのは、ちょっとだけ流行に遅れ気味な可愛らしい少女だ。
テーブルにトレーを置くと神がかり的な速さでカップを取って、ストローを吸う。
一口飲むとたちまち笑顔になり、止まらず吸い続けた。
半分ほど飲んでようやく落ち着いたのか、噺に話しかける。
「兄さん兄さん!これ、すっごく美味しいですよ。兄さんも飲んでみて下さい。」
「僕はちょっと…。」
「…いや…ですか?」
上目遣いで見つめる誠袈。
うるうるとさせた瞳から、今にも涙が零れ落ちそうになるのを必死に止めるため、言葉を矢次に口から出した。
「飲む、飲むから!そんな顔しないで。ちゃんとお願い聞くから!」
「本当ですか!!やったぁ!」
彼女の喜ぶ姿を見るとどこまでも許せてしまう自分を殴りたくなったが、致し方ない。
噺は覚悟を決めて、誠袈からカップを受け取りストローに口を付けた。
チュウチュウと中のタピオカも一緒に飲んでいく。
普通のミルクティーとどこか違う、若干癖になりそうな味。
……見た目の所為で敬遠していたが、今後は飲むのも悪くないかもしれない。
彼は純粋にそう思った。
「…誠袈の言う通りだ。本当に美味しいね。」
「ですよね!私、大好きになっちゃいました。」
「そりゃあ良かったよ。」
「……でも、よくよく考えたら。これって間接キス…ですよね?」
「……っ〜〜~〜!!…ああ!もうやめやめ!」
首を横に振って気を紛らわす噺に対して、誠袈は気恥しそうにストローに口を付けた。
……先程まで
(これを、さっきまで兄さんが……。そう言うば…あの時も……。)
ブシュ!と音を立てて頭を沸騰させた誠袈は、椅子に座りながら気を失ってしまった。
「ちょっ!?誠袈、誠袈!」
運良く近くに看護師のお客さんが居たため、重症ではないことが分かり、尚且つ彼女が寝不足なことも分かったので噺は誠袈をおぶって即座に帰宅した。
最近、程よく成長してきた女性的な部分に四苦八苦したが、何とか無事に家までたどり着いた。
「あらぁ、何があったの?」
「…特には何も。部屋までおぶっていくから、お母さんは冷たい飲み物でも持ってきて。」
「はいはい。ああ、その子が起きたら今日はお寿司って伝えといてあげてね?」
「了解。」
噺は階段を上がって、自分の部屋の隣にある誠袈の部屋に入る。
女の子女の子している部屋ではないが、清潔感がありしっかりと女の子らしい物もある。
ベットに彼女を寝かせた後、一度自室に戻りある物を持ってくる。
手のひらサイズの小さなぬいぐるみ。
某夢の国を彷彿とさせるクマのぬいぐるみだ。
黄色い毛並みが不自然に思える者も居るだろうが、彼は案外可愛いと思っている。
持ってきたぬいぐるみに折り畳んだ手紙を持たせて、枕元に置く。
その後は、彼女のベットの脇に腰を下ろし目を瞑った。
目の前で読まれるのはさすがに恥かしいのか、態と寝た。
彼女が手紙をちゃんと読み終わるその時まで。
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帰ってきてから一時間弱、誠袈は目を覚ますと同時に枕元にぬいぐるみがあることに気付いた。
そのぬいぐるみが手紙を持っていることにも。
『誠袈へ
誕生日おめでとう、君が妹として産まれてきたことがとても嬉しいです。』
この書き出しから始まり、恥ずかしいような内容がつらつらと書かれていた。
……最後に。
『答えはしっかりと出す。それまで待って欲しい。
優柔不断な兄より。』
「兄さん。……うん。待つよ、私待つから。だから、間違えないでね?」
その言葉に応える者は居ない。
…一人居るが応えようとしない。
誠袈の十四歳の誕生日、それは忘れられないものとなった。
良い意味でも、悪い意味でも。
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