僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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十九噺「蝋燭の火は温かい」

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「『君』、『蝋燭(ろうそく)』、『風』」

 

 ──────────

 

 誠袈の誕生日から一日…正確にはもう二日目に突入している。

 時刻は午前一時過ぎ、彼女の誕生日が土曜日だったこともあり今日は月曜日。

 なら何故、こんな時間に噺は起きているのか?

 理由は単純、眠れないからである。

 

 

 疲れていない訳ではない、むしろ試験勉強のために机に向かいっぱなしだったので、疲れは溜まっているはずなのだ。

 けれど、噺は眠れなかった。

 理由は特になくて、ただただ眠れないのである。

 

 

 最初の数分は目を瞑っていれば何時か眠れると思っていたが、そうそう現実は甘くなくちっとも眠気が襲ってこない。

 結局、眠ることが出来ないので諦めて勉強している。

 部屋には誠袈も居るので電気は付けられない、彼は泣く泣く非常用と部屋に置かれていた蝋燭を使っていた。

 

 

 明かりなんて電球が当たり前の彼らからしたら、蝋燭なんて前時代の遺物に等しいが噺はそれが嫌いではなかった。

 心許なく見えるが、必死に辺りを照らそうとしている火の様子は少しだけ心が和んだ。

 

 

 一瞬、光のことを思い出して、すぐに思考を放り捨てる。

 ……何時の時だったか忘れてしまったが、彼女もこの蝋燭に対して同じ事を言っていた。

 もっと評価されるべきだと、そう言っていた。

 

 

 今でも災害時には重宝し、これが一つあるだけで命が助かる可能性も零ではない。

 

 

「………………。」

 

 

 カリカリとシャーペンを動かして、以前配られた対策プリントの問題を解き進める。

 聞こえる音といえば、扇風機が風を送り出すために出す機械音や、シャーペンで文字を書く時に出る音のみ。

 

 

 夏も本番に迫りつつあるこの時期に扇風機は必須。

 蝋燭を付けているので、誠袈が眠っているベットの方にしか首が向かないようにしている。

 

 

 妹を思いやる兄の心の現われか、噺は極力音を出さずに勉強をしていたつもりだったが、それでも少し音は出てしまう。

 モゾモゾと掛けてあった夏用の掛け布団を退かし、目を擦りながら誠袈が体を起こした。

 

 

「兄…さん?どうしたんでひゅか?こんなよにゃかに。」

 

「…ふふっ。眠れなくてさ、暇だったから勉強でもしようかな〜って。」

 

「そうでしゅか。でも、ねにゃいとダメです。ベットにはいってくだしゃい。」

 

「…うん。そうしようかな。ごめんね、君を起こすつもりはなかったんだ。」

 

「君っていわにゃいでください。わたしのなまえはきよかでしゅ。」

 

 

 夢の世界に片脚を突っ込んだままだったらしく、呂律が回っていない。

 噛んでいるような喋り方は少し可愛いので、噺は録音すれば良かったと後悔した。

 

 

「分かったよ。誠袈。」

 

「それでいいんでしゅ。よくできましたね、兄さん。」

 

「っ〜〜〜!」

 

 

 …褒め方の効果をは抜群だったらしい、顔を赤くしながらもベットに入る。

 その後は誠袈に抱き枕にされながら、なんとか眠りに付けそうだった彼だったが……ふとある事を思い出した。

 

 

(……そう言えば、いつから君って呼んでたっけ?)

 

 

 人の呼称など幾らでもある。

『お前』、『あなた・あんた』、『君』、少ない例えになるがこれくらいだ。

 他にも色々とある。

 普通、学生の二人称は『お前』か『あなた・あんた』だろう。

 だが、彼は『君』を良く使う。

 

 

 …あまり思い出したくないこともあるが、噺は過去を振り返った。

 その中で、どのタイミングで『君』を使い始めたのか?

 答えなど簡単に分かる筈──だった。

 

 

 しかし、幾ら過去を振り返っても、一向に見つからない。

 保育園までの時代は『お前』を良く使ってた記憶があるのに、何故かその後の小学校時代には『君』に変わっている。

 保育園卒園後から小学校入学前に変わったのは分かったが、変わった時に起こった事を思い出せなかった。

 

 

(……何時か思い出すか。今は寝よう、試験も近いし。)

 

 

 彼も気になったが、それ以上深く考えることはなく眠りに落ちた。

 

 ──────────

 

 緩和は一人、一階のリビングで古いアルバムを見ていた。

 丁度、保育園卒園から小学校入学までの写真が入っている。

 その中の一枚に、噺と一緒にある少女が写っていた。

 腰まで伸びている夜空色の髪に琥珀色の瞳。

 ……胸には清水とひらがなで書かれた名札が着いている。

 

 

「お互い、いつ気づくのからしねぇ。」

 

 

 彼女はクスクスと微笑みながら、次のページをめくる。

 この事実に二人が気付くのはもう少しだけ先のお話。

 

 




 ありきたりな展開だと思ったじゃろ?
 その通りじゃ。
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