僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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二噺「嘘をつくのは悪いこと?」

 ──────────

 

「『愛』、『嘘』、『指先』」

 

 ──────────

 

「愛ってなんなんでしょうね?」

 

 愛とはなんだろうか?

 そんな哲学的な質問をしてきた淑に、噺は別段悩むことなく答えた。

 

 

「対象である人やものが、幸せであって欲しいって気持ちじゃないかな?まぁ、僕の主観的な考えだけどね〜。それより、そんな質問するなんて、何かあったの?」

 

「…実は──」

 

 

 先日起きた火災、それから一日しか経っていない。

 噺はこうやって淑と会話出来ているのが奇跡にも感じる。

 ……そうではない。

 今は淑の話を聞くのだ。

 彼は急いで思考を切り替えて、淑の話を聞いた。

 

 

 何でも、昨日外に出ていたのは火災の様子を確認するためだったらしい。

 どこまで火の手が届いているか?

 燃え移ってる部分はないか?

 確認は数分で終わって、帰ろうとした時に噺と出会ったとの事。

 

 

 この時点で、噺は可笑しいことに気付いた。

 普通、そういう確認は親がするものだ。

 決して、子供一人に行かせていいものでは無い。

 しかも、彼女は中学生だ。

 彼は心苦しいと思いながら、頭に浮かんだ疑問を淑に聞いた。

 

 

「…僕の偏見じゃなければ、そう言うのって僕たちがやることじゃない気がするんだけど……?」

 

「……その、実は……私が勝手にやったの。お母さん、最近足を怪我しちゃって。お父さんの帰りが遅かったから、もしも何かあったら嫌だって思ったら、勝手に外に出て確認してた。」

 

 

 それこそが愛だ。

 そう返したかったが、彼女の表情を見るにまだ話は残っているようだ。

 

 

「確認して帰ってきた後、お母さんに怒られて。ついカッとなって、『お母さんなんて、大っ嫌い!』。そう言っちゃったの。」

 

「嘘…ついちゃったと…。」

 

「は、はい。」

 

 

 噺は責めるつもりはなかったが、淑は怯えてしまったようだ。

 …嘘には二つの種類がある。

 ついていい嘘と、ついてはいけない嘘だ。

 普通なら、嘘はどちらにしろついてはいけない。

 そう言う人もいるだろう。

 

 

 だが、相手を思いやる嘘に罪はない。

 罪の責任があるのは嘘をついた本人だけだ。

 その本人でさえも、思いやりの心があるのだから、少なからず罪悪感を感じる。

 彼の自論だが、ついていい嘘をつく人は基本的に善い人だ。

 逆に、ついてはいけない嘘をつく人は基本的に悪い人だ。

 

 

 今回の場合、感情任せに吐いてしまった嘘。

 この嘘は相手を傷つけるものであり、決して簡単に言っていい言葉ではない。

 噺はいつものような優しくおっとりとした声音で諭すように言った。

 

 

「清水さん、その嘘はダメだよ?一時の感情に任せてついた嘘はこの後、相手だけじゃなくて自分も傷つけることになる。現に清水さんは罪悪感があって、嘘をついたことを後悔してる。…嘘をつくなら、自分も相手も傷つけないものにしないと。」

 

「……浅井くんはやっぱり優しいですね。」

 

「別にそんなのじゃないよ。僕は友達が落ち込んでたら励ましてあげたいって思うだけさ。」

 

 

 朗らかに笑う噺を見て、淑もクスリと笑った。

 夕暮れ時、時刻も五時を回ろうとしている。

 窓から見える夕焼けがやけに綺麗に見えた。

 淑の頬がほんのりと赤く見えたのは、きっと夕焼けの所為だ。

 彼はそう決めつけて、帰るためにスクールバックを持ち上げる。

 

 

「そろそろ、帰ろうか?」

 

「…………」

 

 

 一向に帰る準備をし始めない淑を不思議に思った噺は、少しだけ近付く。

 よく見ると、彼女の机に水滴があるのが分かり、慣れた手つきでゆっくりと頭を撫でた。

 淑は一瞬ビクリと肩が跳ねたが、次第に落ち着きを取り戻したのか、声を上げて嗚咽を漏らした。

 

 

「私…私……酷いこと言っちゃいましたぁ!…お母さんは私を心配してくれたのに…。」

 

「…謝ればいいよ。君のお母さんは君の行動の意味に気付いてる。」

 

 

 噺は彼女が泣き止むまで、頭を撫で続けた。

 泣き止んだ頃には、太陽は仕事を終えようとしていた。

 今回も遅くなるのは不味い、そう思った彼は淑のバックをひったくるように持ち上げる。

 

 

「清水さん、帰ろう。家族が待ってるよ?」

 

「バック返して下さい。」

 

「それは無理かな〜。今の清水さんに荷物を持たせるのは男の子的にアウトかと。」

 

「…なんだか、ズルいです。」

 

 

 そう言うと、淑は指先を使って噺の頬をつつく。

 頬を膨らませている姿は愛らしいが、如何せん恥ずかしい。

 友達宣言をしたから余計にそう感じるのかもしれない。

 普段の噺らしくない余裕のなさそうな顔を見て、満足したのか淑は頬をつつくのを止めた。

 

 

「……人前ではやらないでね?」

 

「人前でなんてやりませんよ!?」

 

 

 彼の言葉に、いきなり顔を熟した林檎並に真っ赤にして言い返す淑。

 恥ずかしい行為だと分かっているならやらないで欲しい。

 思った言葉は心に仕舞い、下駄箱に足を進ませる。

 無言の時が数分過ぎて、校門を超えた所で淑が口を開いた。

 

 

「今日はありがとうございました。」

 

「そんな改まってお礼を言われることじゃないよ?……今ならわかるでしょ。愛って何か?」

 

「薄らとですが…分かる気がします…!」

 

「よし、じゃあ家に向かってしゅっぱーつ」

 

 

 二人分のスクールバックを持って歩く噺と、長い夜空色の髪を風に揺らしながら歩く淑。

 全く違う二つの影が、学校から離れていく。

 帰りの道で、二人が談笑していたのは言うまでもない。




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