僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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二十二噺「チラつく影」

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「『紫煙』、『屋上』、『水溜まり』」

 

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 試験前日の放課後。

 噺は気分転換のために、学校の屋上に訪れていた。

 本来なら入ることは原則禁止されているが、教師との個人的なコネクションがあった彼は難無く鍵を借りることが出来た。

 

 

 屋上には所々に水溜りが出来ており、長居することは考えないようにした。

 最近は良く、光のことを思い出す。

 淑と時間を共にすればするほど、朝陽川光と言う少女の影が脳裏にチラつく。

 

 

 初めてしっかりと話をしたのは、この屋上だった。

 昼休み、いきなり教室に来たと思ったら、屋上まで連れていかれて話し込んだ。

 話した内容はたわいないものだった。

 その頃はまだ、彼女に苦手意識があったが会話の内容は覚えている。

 

 

 皮肉なことに、彼女との会話は覚えていても、彼女が苦しんでいたことは最後まで分からなかった。

 思い出す度に、自分の無力さを思い知る。

 吹っ切れた筈なのに、まだ心の片隅に彼女が居る。

 恋愛的な感情はなく、助けられなかったと言う後悔として……光は噺の中に居る。

 

 

「本当に君は、図々しいな。」

 

「そうッスね。私って案外図々しいっスよね。」

 

 

 一瞬、彼女の声が聞こえた。

 脊髄反射で辺りを見渡したが、屋上には人っ子一人いやしない。

 幻聴?

 そう疑ったが、幻聴ではなかった。

 確かに聞こえた……あれは間違いなく彼女の声だ。

 

 

 考え事をしている間に、隣に誰かが近寄って来た。

 それと同時に、紫煙が見えた。

 考えていた事を一旦頭の隅にに置き、噺は隣に近寄って来た人物を見る。

 剃っていない無精髭にボサボサの黒い髪、淀んだ青墨色の瞳はやる気のなさを際立たせていた。

 身長は170後半、体格も大分ガッチリしていて、何故かスーツではなくパーナーを着ている。

 

 

 教師歴が長くなればスーツなんて着ない人はざらに居る。

 現に、彼の学校では半数が落ち着いた私服だ。

 派手なものでなければどことなく許されている雰囲気がある。

 因みに、隣に居る先生は噺の担任であり、屋上の鍵を渡した人間でもある。

 名前は私道(しどう)道成(みちなり)

 

 

「生徒の手前でタバコを吸うのはどうかと思いますよ。しかも、凄く様になっているだけ、真似する生徒が出るかもしれません。」

 

「褒められてるってことでいいか?」

 

「そんなとこです。…分かってますよね?」

 

「冗談だよ。どうせ、お前はこんな事しないだろ?三年間担任持ってりゃ、お前のことは嫌でも分かる。広く浅く交友関係があり、本当に大切な奴とは深く関係を持つ。」

 

「それだと、僕が薄情な奴に聞こえるんですけど。」

 

 

 その言葉で気付いたのか、道成は悪い悪いと反省の色が全く見えない謝罪をする。

 呆れながらため息をして、噺は彼との会話を続けた。

 

 

「…明日から期末試験だが、大丈夫そうか?」

 

「ボチボチですかね。前よりは良くなるように努力してますよ。」

 

「お前は要領がいいからな、しっかりと勉強に取り組めれば順位を上げるなんて難しくない。……人助けはいいけど、勉強は疎かにするんじゃないぞ?」

 

「了解です。」

 

 

 水溜まりを踏まないように、屋上の扉まで歩いていく。

 扉に手をかけて帰ろうとした時、振り返って感謝の言葉を伝えた。

 

 

「屋上の鍵、ありがとうございました。」

 

 

 その後はさよならと言葉を残してその場を去った。

 残った道成は夕焼けを見ながらポツリと呟いた。

 

 

「……まだまだ、俺は教師として半人前だな。」

 

 

 彼の声には微かな後悔の色が見えた。

 悩みのある生徒から、それを引き出せないなんて……

 

 

 青春の一幕は閉じる。

 試験の結果は如何に。

 




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