僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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二十四噺「可愛いと綺麗って、女子はどっちの方が言われて嬉しいんだ?」

 ──────────

 

「『理由』、『不自由』、『幸福』」

 

 ──────────

 

 幸福、それは満ち足りていることを意味する。

 その言葉が確かなら、今の日常に噺は幸福を感じていた。

 一学期終業式後、淑・敬・明・風輝の四人が浅井家の彼の部屋に集まり、楽しくお喋りしている。

 

 

 だが、お喋りをする為に集まった訳ではない。

 …いや、それもあるかもしれないが、本当の理由は別にある。

 その理由とは──

 

 

『海への旅行にご招待?』

 

 

 淑が言った言葉に、全員が揃って聞き返した。

 ベットの上に座る女子組と、床に座布団を敷いて座る男子組。

 その中で、彼女は立ち上がって説明を始めた。

 

 

「その、私の家は夏休みが始まった最初の日から四日間、海が近くにある旅館に従姉妹家族と一緒に旅行に行くんです。ですけど、従姉妹家族の予定が合わなくなってしまって……。旅館の料金は前払いで、キャンセルするにもキャンセル料が発生してしまうんです。」

 

「なるほど、そこでオレたちか。」

 

「はい、学斗さんの言う通りです。お母さんが保護者として来てくれるので、あと一人どこかの家庭で保護者が出せれば行けないこともないと…言っていて。」

 

「お兄?」

 

「うちゃ無理だな。風輝は?」

 

「無理と言うか嫌だ。」

 

 

 風輝は呆気らかんと言い放ち、結果全員の視線が噺や誠袈集中する。

 特に、淑の懇願するような上目遣いは彼ら兄妹に効果抜群だったらしく、諦めたような表情で兄である噺の方がスマホを取り出し電話を掛け始めた。

 

 

「…断られても文句言わないでよ?」

 

「言いません!」

 

「私もですよ〜。」

 

「俺も〜。」

 

「同じく。」

 

 

 友人達の呑気な言葉を聞き流しながら、相手が電話に出るのを待つ。

 勿論、電話を掛けたのは──

 

 

『もしもし〜、どうしたの噺。』

 

『…それがね──』

 

 

 あらかた事の顛末を話し終わると、緩和は遠足に浮かれる子供のような調子で電話越しの息子に叫んだ。

 

 

『まっかせなさい!今から四日分の仕事終わらせて一緒に行ってあげる!』

 

『言うと思ったよ。体壊さないよに気を付けてね、頑張って終わらせても行けなきゃ意味ないんだから。』

 

『分かってるわよ!お母さんを舐めないでちょうだい。何時もなら適当に流す仕事を速攻終わらせるから!』

 

 

 彼は、今の発言は聞かなかっかとことにしようと心に誓い電話を切った。

 どうせ、一も二もなく良い返事が来る事など分かっていた。

 息子&娘ラブな、あの母親がこの話を聞いて行きたがらない訳がない。

 苦笑いを浮かべながら、全員の方に振り返ってOKサインを出した。

 

 

「さて、保護者が決まって行けるようになったのは良いけど……荷物どうしようか?あっ、清水さん。旅館で浴衣って出して貰える?」

 

 

 彼の勘違いでなければ、旅館で浴衣の貸出を行っている所は少なくない筈だ。

 浴衣が有れば寝間着は要らないし、外出用の服が四日分あればいい。

 それ以外は水着くらいだ。

 

 

「ありますよ。一応、温泉旅館ですから。……これなら、水着を買いに行くだけで済みそうですね。」

 

「だな〜、服は何とか足りるし。」

 

「ですね。私も前まで着ていたやつだとサイズが…。」

 

「ほほう。どれくらい育ったのか、お兄さんが見てや──」

 

「君は余程死にたみみたいだね。表にでろ、リアル大乱闘開幕だ。」

 

 

 気を抜けば殺られる、確信にも似た考えが敬の中で生まれる。

 現に、今の噺は兄妹の誠袈ですら数回程度しか感じたことのない雰囲気だった。

 朗らかな笑顔。

 そう、朗らかな笑顔なのに、出ている雰囲気が修羅のソレ。

 

 

「ま、まぁ、兄さんもそこまで怒らないで下さい。」

 

「そうですよお兄さん。お兄のセクハラは今に始まったことじゃないんですし。」

 

「二人が優しくて良かったね。…もし、清水さんに言ってみろ?本気で泣かす。」

 

「は、はい!肝に銘じさせていただきます!」

 

 

 何とか噺の怒りを抑え込んだ一行は、AONに水着を買いに行く事に。

 彼と敬は昔のでも充分いけると言ったのだが、意見は却下されて強制連行された。

 

 ──────────

 

 ショッピングを始めて早一時間。

 男子組は買い物を終えたが、女子組は未だ終わらずにいる。

 女性の買い物は長い、噺と敬と風輝はそれを随分昔から知っている。

 噺は緩和と誠袈が、敬は明が、風輝は母親が教えてくれた。

 

 

 スマホを見たり駄弁ったりで時間を潰していると、淑と誠袈が噺の前に現れて無理矢理店内に連行した。

 目に映る女性物の水着、際どいものから可愛らしいものまで千差万別である。

 地獄とも天国とも形容できる場所に連れてこられた彼は、動揺しつつも口を開けた。

 

 

「僕は、これからどうすればいいの?」

 

「いつもと変わりません。似合うか似合わないか言ってください。」

 

「ご、ごめんなさい。で、でも、女の子同士じゃ分からないこともあるから……。」

 

 

 申し訳なさそうに謝る淑を見て、諦めがついた。

 試着室前に着くなり、二人は明に預けていた水着をもらって中に入っていった。

 明は風輝と敬のダブル審査員で事に当たっている。

 ……憐れむような視線が二人から送られてくるが、彼は気にしない。

 気にしてしまったら負けなのだ。

 

 

(落ち着け。今から見るのは、妹の水着と友達の水着。幾ら異性と言っても取り乱すことは──)

 

 

 精神統一よろしく、頭の中で自分に教えを説くように唸っていると、試着室のカーテンが開いた。

 先に開けたのは……誠袈。

 露出をできるだけ避けた、ワンピースタイプの水着。

 避けたと言っても、結局丈の長さは膝上15cm程なのはしょうがない事だろう。

 

 

 柄は藍色と白で構成されたギンガムチェック。

 年齢より少しだけ先に成長した胸の果実も、幾分か抑えられていた。

 可愛らしい、その一言に尽きる。

 

 

「どうでしょうか?変…じゃないですよね?」

 

「可愛いよ。ワンピースタイプの奴だと、いつもより可愛らしさがあって凄くいいと思う。」

 

「…な、なら、これにします。」

 

「?他のは良いの?」

 

「兄さんが可愛いと言ってくれたんですからこれでいいんです!」

 

 

 大声で叫んだことにより周りがザワつき、急いで二人して頭を下げる。

 誠袈はその後、恥ずかしくなったのか顔を赤くして、逃げるように試着室のカーテンを閉めた。

 

 

 すると、誠袈と入れ替わるようなタイミングで、淑の入っている試着室のカーテンを開けた。

 出てきたのは、夜空色の長い髪をサイドテール纏めて、シンプルな黒いビキニを着た美少女。

 

 

(び、ビキニ!?嘘、あの清水さんが?!……可笑しい、そんなの着たら目立つって分かってるのに…どうして…。)

 

 

 …どこまで言っても鈍感な噺。

 それに気付いのか、彼女は堂々とした表情で尋ねた。

 

 

「似合っていますか?これ。」

 

「ぇっと。……綺麗、だと思うよ。」

 

「…それだけですか?」

 

 

 脳が混乱して、正常な言葉など出て来やしない。

 いっそのこと、頭の中と言う牢獄にあり不自由な脳を外に出してやりたいと思うほどに、彼は混乱していた。

 実際、脳は不自由でもなんでもなく、ただただ水着を着てイメージチェンジをした淑に見蕩れているだけなのだが……

 

 

 誠袈程ではないにしろ歳相応に実った果実、それを強調するような水着は刺激が強すぎる。

 鼻血が垂れてきそうになるのを、堪えるので精一杯だ。

 

 

「い、いや、普段の大人しい感じと雰囲気のギャップが凄くて……。でも、外で着るならラッシュパーカーとか着た方がいいよ。」

 

「……あっ。ひ、日焼け凄いですもんね。」

 

「そ、そうそう。そう言うのは日焼け止め塗るのも面倒だからね。」

 

 

 お互い顔を引き攣らせながら言葉を交わす。

 それを横目に見ていた敬と風輝は、青春だなぁと呟いていた。

 

 

(…言える訳ないだろ!そんな危ない水着外で着て欲しくないとか。僕は清水さん友達であって家族でも恋人でもないんだから…。)

 

(心配してくれてるんでしょうか。…どっちなのかは分からないけど、やっぱり浅井くんは優しいですね…。)

 

 

「お、お金は預かってるので、ラッシュパーカーも何とかなると思います。…あと…綺麗って言ってくれて……ありがとうございました。」

 

「僕の方こそ、水着姿見せてもらったしチャラってことで。」

 

 

 照れたように言う二人を横目で見ながら、またしても敬と風輝は呟いた。

 

 

『あいつら、何で付き合わねぇのかな。』

 

 

 彼らの、燃え盛るような暑い夏が始まろうとしている。




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