僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

25 / 32
二十五噺「私だけを見て欲しい」

 ──────────

 

「『海』、『飛行機雲』、『揺れる』」

 

 ──────────

 

 先日の買い物から一夜明けた翌日。

 朝七時頃、淑の家の前に全員が集合していた。

 みんな動きやすさと快適さを重視したのか、薄着が多く下に水着を着ていることが分かる。

 現に、噺も下は普通の半ズボンではなくアロハ柄の水着だ。

 

 

 子供が子供で話す中、緩和は淑の母親である優和(ゆうな)と話している。

 どことなく、雰囲気が似ている二人だ。

 

 

「久しぶりね〜。変わってなくて驚いたわ。」

 

「そっちこそ、全然変わってない。もしかして、まだ旦那さんとラブラブなの?」

 

「もっちろん!」

 

 

 中身のなさそうな会話を繰り広げるているが、ここに何時までも居る訳にはいかないので、渋々噺は二人の会話に混ざりに行く。

 だかそこで、彼には意味が分からない話がされていた。

 

 

「あの子たち、まだ気付いてないみたいよ。」

 

「やっぱりね。…でも、初々しいわよ。あの子ったら、噺君のことすっごく楽しそうに喋るんだもの。」

 

「うちもうちも。淑ちゃんのこと、楽しそう喋ってるわ。」

 

「……二人共、悪いけど時間があれだから出発の準備をお願いしてもいい?」

 

「やだ!?もうそんな時間。緩和、話は後にしましょうか」

 

「そうね、子供に迷惑はかけられないし。」

 

 

 そう言うと、二人そそくさと準備を始めていった。

 しかし、彼は二人が話していた会話の中身の意味を考える。

 名指ししてはないにしろ、自分と淑のことを言っているのは明確。

 だったら────

 

 

「『まだ気付いてないみたい』って、どういう事だ……。」

 

 

 大型の白いワゴン車に乗り込み、目的地を目指す。

 運転は緩和と優和の交代制な為、運転席に緩和で助手席に優和。

 後ろは一列目に淑・噺・誠袈、二列目に風輝・敬・明の順だ。

 最初は男女別の方が分かりやすいと言ったのだが、どうしてか誠袈が猛反対しこうなってしまった。

 

 

 別に噺が文句を言うことはないが、代わりに心臓が飛び出るレベルで高鳴っている。

 原因は淑と誠袈。

 走り始めてからずっと、彼を奪い合うように胸を押し付けながら、耳元で話しかけてくるからだ。

 

 

 何時、理性が蒸発しても可笑しくない状況だが、三人以外は平和に車内で会話や娯楽を楽しんでいた。

 両腕に当たる水枕のような柔らかい感触から目を背け、自然を装いながら朗らかに笑って話をする。

 すると、それが気に入らなかったのか、一段と腕を締め付ける強さが上がり、比例して押し付けられる果実の面積も増える。

 

 

 …海に行く前に理性が死ぬか、海に行った後に理性が死ぬか。

 究極でもなんでもない、最悪な二択が彼に迫っていた。

 

 ──────────

 

 広がる砂浜、煌めく海、燦々とこちらを照らす太陽。

 まさしく、海。

 車で二時間弱、途中休憩も挟んで二時間丁度。

 海に着いた一行は、その景色に感動しながら武者震いをし、今すぐ飛び出したいと言った雰囲気。

 

 

 保護者役の二人は旅館に先に行って荷物を置いてくると言って、最低限必要なものだけ噺たちに預け車を出していった。

 ビーチパラソルやクーラーボックスにレジャーシート、最後にサマーベットが一つ。

 一人でやるのは面倒だが、うずうずしている彼らに手伝わせても手間が増えるだけだ。

 噺は一人苦笑しながら言った。

 

 

「行きたいんでしょ?行っていいよ。僕がビーチパラソルやらなんやらは済ませちゃうから。」

 

「マジか!察すが噺!」

 

「オレも行く!」

 

「私も私も〜!」

 

「じゃ、じゃあ、私も。」

 

「私は残って浅井くんを手伝いますよ。元々私の家の物ですから、私の方が取り扱いには慣れてますし。」

 

 

 淑以外は更衣室へとダッシュ。

 途中、転びそうな者も居たが何とか無事に辿り着いている。

 それを微笑ましく見送りつつ、二人は準備に取り掛かった。

 人が五人寝っ転がっても大丈夫なほど大きなレジャーシートを敷き、二本のピーチパラソルを地面に刺して開き、サマーベットとクーラーボックスを日陰になる適当な場所に置いた。

 

 

 設営自体はものの十分程で終わってしまったので、淑だけが歩いて更衣室に向かった。

 噺は下に水着を着ているので、上着のシャツを脱いでラッシュパーカーを着れば完璧である。

 先に行った組は……既に海に飛び込んでいた。

 

 

 荷物番が必要なので、座って彼らが遊ぶさまを見ること数分。

 同じくラッシュパーカーを羽織った淑が隣に腰を下ろした。

 お互い、何かを喋ることは無く、無言で海を見つめる。

 結局、彼の方が先に無言に耐えきれず折れてしまい、彼女に話し掛けた。

 

 

「行かなくていいの?…僕が荷物番やってるから行ってきなよ。どうせ、お母さんたちもすぐ来るんだし。」

 

「だったら、私もここに居ます。…お母さんたちが来て、浅井くんがあっちに居る皆さんに混ざるまで。」

 

「清水さんって、結構頑固だよね。」

 

「そうですよ、結構頑固なんです…私。」

 

 

 そう言って微笑む淑。

 ポツポツと会話を続ける中、彼女は噺が首にかけている首飾りのような物に気付いた。

 ネックレスなど持っていただろうか?

 そんな疑問を放っておくのが嫌だった彼女は、堂々と疑問を口に出した。

 

 

「その首飾り──と言うかネックレスは何ですか?」

 

「ああ、これか。…お守りで、宝物…かな?」

 

「付いているのは玩具の指輪ですよね?」

 

「ううんと〜。説明するのは……まぁ、清水さんだったら良いか。」

 

 

 続けざまに、彼は七月七日に起こったことを話した。

 恐らく、自分が失恋したことも。

 …それを、淑は静かに聞いた。

 時に相槌をして、時に頷いて。

 話がようやく終わると、また彼女が口を開いた。

 

 

「浅井くんの失恋…ですか。初恋…だったんでしょうか?」

 

「さぁ。僕自身も恋なんて初めてだし、そんなの分かんないよ。…でもさ、これはあいつが初めて貰うプレゼントになるはずだったんだ。小学校までは、クラスに上手く馴染めなくてプレゼントなんて貰えず。中学生デビューしても、完全に心を開ける人物は出来ず、誕生日すら伝えられなかった。ひっどい話だよね。…きっと光には経験したことがない初めてがいっぱいあったんだ。…最近は、そのことばっかり考えてる。…あれもやってなかったんだろうな〜とか、これもどうせやったことなかったんだろうな〜とか…さ。」

 

 

 酷く悲しそうに語る噺を見るのが淑は嫌で、隣に居るのに見てもらえてない現状が嫌で。

 ……それ以上に、本当に辛そうに語っているのに、それに嫉妬してしまっている自分が嫌だった。

 悲しまないで欲しい、自分を見て欲しい。

 同時に持った感情の片方に、明確な嫌悪感を抱きつつも──口に出さないなんて出来なかった。

 

 

(私、最低だ。浅井くんがこんなに辛そうにしてるのに…私は、彼にそんなに思われてる光さんに嫉妬している。)

 

 

 苦しくて辛いのが分かってるのに…出てくる思は一つになった。

 

 

私だけを見て!私なら、あなたの悲しさも辛さも変えてみせるから!

 

 

 そんな事、言える訳はなくて。

 でも、思いは伝えたくて、自然と口から言葉が出た。

 

 

「なら、私だけを見て下さい。今は、今だけは目の前にいる私だけを見てください!それであなたが悲しさを、辛さを忘れられるなら私を使って下さい。」

 

「…ダメだよ。そんな事、君を傷つけるだけだ。」

 

「…浅井くんも大概分からず屋ですね!」

 

 

 淑は恥ずかしい気持ちを押し殺して、自分の胸に彼の頭を抱き寄せた。

 胸にかかる息がくすぐったくて、今の状況に頭が沸騰するほど熱くなるが関係ない。

 

 

 噺も噺で、いきなり胸に頭が埋まったせいで若干呼吸困難になるが、それよりも顔全体を覆う柔らかい感触に淑と同様、沸騰レベルで頭が熱くなる。

 

 

(い、いきなりなんなんだ?!今日の清水さんおかしくないか?!?!)

 

 

 彼がパシパシと足を優しくて叩いたことで、息が限界だと気付き彼女は急いで頭を離した。

 揃って茹でダコのように赤い顔を逸らして、上ずった声で会話を再開した。

 

 

「あ、あの、さっきのは例えで!!本当は目の前のことに集中すれば、苦しいことや辛いことを思い出さずに済むんじゃないかなって。」

 

「そそ、そっか。……でも、それは最後の最後の手段にするよ。出来るならちゃんと向き合いたいから…。」

 

「…ですよね。ちょっとだけ、そう言うだろうなって分かってました。」

 

 

 間が開く会話。

 気恥ずかしくなって、噺が話題を転換する。

 

 

「そ、そう言えば、飛行機雲が見えた次の日は雨らしいよ?」

 

「へ、へぇ〜、初めて聞きました。」

 

「ま、まあ、噂なんだけどね。」

 

「で、ですよねぇ〜。」

 

 

 お見合いよろしく、会話は続かない。

 

 

 二人の心が揺れているからだろう。

 淑は勿論恋心故に。

 

 

 噺の場合……。

 波のように、引いては寄せて、寄せては引いての繰り返し。

 誠袈と淑の二人に対して同じほどの想いがあって、心が揺れ動いている。

 まるで、シーソーゲームだ。

 

 

 …夏は始まったばかり、燦々と照らす太陽がそう教えてくれる。




 誤字報告や感想は何時でもお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。