僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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二十六噺「綺麗なもの」

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「『横顔』、『防波堤』、『夕焼け』」

 

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 水平線に沈む太陽を、噺はぼーっと見つめる。

 その夕焼けは、いつも見るものと全く違う。

 綺麗、その言葉だけじゃ表現出来ないナニカを彼は感じた。

 淑と話してから、少しだけ楽になった心。

 彼女に感謝しながら、黄昏るようにその景色を見つめた。

 

 

 時間はそれほど経っていない筈なのに、砂浜に残る人影は多くない。

 旅館に帰ったり、家に帰る時間としては妥当なタイミングと言う事だろう。

 重い腰を上げて、未だに海で遊んでいる友人五人と、海の家で酒を煽っている保護者二人を呼びに行く。

 

 

 旅館からここまでは近いので車に乗ってこなかったらしいが、荷物がそれ相応にあるんだからもう少し考えて欲しい、と噺は一人愚痴る。

 一応男手は居るし、女子組も手伝えないことはないが……

 

 

「それはないよな……。」

 

 

 まず呼びに行くのは保護者二人。

 酔っていたらだる絡みされる可能性があるが、旅館の鍵やらを持っているのは二人なので居ないと始まらない。

 それに、みんなにはもう少しだけ遊ばせてあげたいと言う彼なりの優しさだった。

 

 

 海の家に着くと、態々鉄板で焼いているのか焼きそばの香ばしい匂いが漂ってきた。

 それ以外にも中は、タバコやら焼き鳥やら、様々な匂いが混ざり合う奇妙な空間になっている。

 店の中に居る客の多くは酒を飲みながら談笑しており、その中から二人の保護者──優和の緩和を見つけるのは至難の業だ。

 

 

 何せ、同じ様な水着を着ている者など五万といる。

 髪や体型で探そうにも、似通った人物は居る訳で……。

 

 

(はぁ、スマホで電話しよ。)

 

 

 あまり取りたくなかった手段を、取らざるを得ない状況になってしまった。

 電話が苦手な訳ではなく、ただ純粋に騒がしい場で電話をしたくないのだ。

 物音や喋り声の所為で聞こえなかったり、聞き逃したりするのが嫌で最終手段にしていたのだが……

 

 

 二コール目に入った瞬間、異様にハイテンションな声色がスマホのスピーカーから漏れだした。

 

 

『は〜な〜し〜!どうしたの〜??』

 

『…もう良い時間だから、そろそろ旅館に移動しようと思ってさ。お母さんたちが居ないと鍵とか部屋とか分かんないし。』

 

『そっかぁ〜。りょ〜か〜い!今から会計済ませてそっち向かうね〜!』

 

『ん。急ぐのは良いけど怪我だけはしないでね?結構酔ってるみたいだから。』

 

 

 その後、「え〜、酔ってないよ〜!」と聞こえたが、返事をする前に電話を切った。

 

 

 取り敢えず保護者二人は何とかなった。

 彼は安堵しつつも、友人五人を呼びに行くための一歩を踏み出そうとした瞬間、視界の端に泣きながら砂をどけてナニカを探す少女を映る。

 ……踏み出そうと出した足を方向転換し、少女の方に走った。

 砂浜の砂は足がとられやすく、上手く走る事が出来ないがそんなの関係ない。

 

 

 泣いている子供が居るのに、自分が泣き言を言うなんて以ての外だ。

 少女の隣で膝を着き、目線を出来るだけ合わせて尋ねた。

 

 

「何を探してるの?お兄ちゃんが一緒に探して上げよっか?」

 

「うぅ……グズ…。お母さんに貰ったミサンガ、落としちゃったの。」

 

「どんなやつ?」

 

「赤とピンク色のやつ…。」

 

「よし、お兄ちゃんに任せて。絶対に見つけるから!」

 

「うん。」

 

 

 まだ泣き足りないだろうに、必死に笑顔を作る姿が酷く哀しくて。

 その笑顔を本当の笑顔にするために、全力で辺りの砂をどけながらミサンガを探す。

 どこにあるかなんて分からない。

 でも、噺は少女を笑顔にしたかった。

 だから、探し続ける。

 

 

 五分程経つと、海の家から優和と緩和が出て来た。

 そして、噺の姿を見つけて駆け寄った。

 

 

「噺?何してるの?」

 

「噺君?」

 

 

 先程までのはノリだったのだろう。

 異様なハイテンションは何処かに消えて、彼の耳に震えた声が聞こえた。

 

 

「この子が落し物しちゃってさ。それ探してる。先に行ってていいよ、すぐ終わらせるから。」

 

 

 緩和たちの方に顔も向けず、一心不乱にミサンガを探し続ける彼の姿を一言で表すなら──異常。

 人助けにここまで躍起になる人間はそうそう居ない。

 …普段なら、ここまではならないだろう。

 だが、少女の作り笑顔を見てしまったから……

 

 

「……本当にバカね。私たちは先に行くから。」

 

「ちょっと、緩和。」

 

「良いのよ。あの子がああ言ってるんだから。」

 

 

 そう言うと、緩和と優和は噺たちがレジャーシートを敷いた場所に歩いて行った。

 

 ──────────

 

 ……探し始めて十分。

 彼の周りに、見慣れた影が見えた。

 

 

「浅井くん。…遅いですよ。」

 

「淑先輩の言う通りです。もうちょっと時と場所を考えたらどうですか?……兄さんらしいと言えば兄さんらしいんですけど。」

 

「お兄さん優し過ぎですよ。偶には人助け休業しないと。」

 

「だな、筋金入りのお人好し。…バカもなんか言ってやれ。」

 

「バカ言うな!……まぁ、お前の事だからこんな事が起きる予感はしてたよ。」

 

「みんな…。…悪いんだけど、手伝ってもらっていい?」

 

『勿論!』

 

 

 ミサンガの特徴を話して、捜索を再開する。

 その様子を、少女は不思議そうに見ていた。

 今日会った見知らぬ人、関係など他人も良い所なのに……

 何故、彼らはここまで自分に良くしてくれるのか?

 

 

「お兄ちゃん。…何で、そこまでしてくれるの?」

 

「理由なんてないよ。…ただ、君の本当の笑顔が見たいから。お礼がしたいなら、僕たちがミサンガを見つけた時に最高の笑顔を見せて欲しいな。」

 

 

 夕焼けのオレンジ色の光に照らされて、彼の額を垂れる大粒の汗が反射される。

 無償の人助け、作り物でしか見た事のなかったそれに触れた少女は、怖いと思うと同時に綺麗だとも思った。

 

 

 ……計二十分の時を経て、ミサンガは見つけられた。

 少女は大喜びし、彼らに最高の笑顔を魅せた。

 太陽にも負けない、キラキラと光る笑顔だった。

 

 ──────────

 

 旅館での食事やお風呂を終えて就寝した。

 お風呂で敬が女風呂を覗こうとしたり、風呂上がりに何故か有った卓球台で卓球勝負したり、終いには食事時に酒を勧められたりと、色々なことがあった。

 

 

 男子は男子部屋で、女子は女子部屋で寝ている。

 しかし、噺は上手く寝付くことが出来ず、布団から抜け出した。

 

 

「少し散歩でもして、ゆっくり温泉に浸かれば…眠れるかな?」

 

 

 疑問形な言葉を口にしながら、浴衣のまま散歩に出た。

 海が近いためか防波堤があり、それに沿うように歩く。

 時刻は深夜一時過ぎ。

 いつもならぐっすり眠っている筈なのに、散歩に出ているという背徳感は少しだけウキウキする。

 

 

 浮き足立つ気分で歩いていると、後ろから近づく足音が聞こえた。

 追いかけて来ているとは思わなかった彼は、特に気にすることも無く進み続ける。

 けれど、彼のあては外れ、後ろから近付く人物は話し掛けてきた。

 

 

「兄さん。こんな時間に何してるんですか!」

 

「そう言う誠袈こそ。もう1時過ぎたよ?」

 

「誤魔化さないで下さい。…少し寝付けなかったんです。それで、御手洗に行ってる時に兄さんを見かけて。」

 

「付いてきた、と。」

 

「…はい。」

 

 

 噺はあまり感心しないな、と言葉を零しながらも、顔は朗らかに笑っていた。

 誠袈もその顔を見て、クスリと笑ったあとに謝った。

 お互いに歩調を合わせながら、夜道を歩く。

 彼女は、時たま彼の横顔をチラリと見ては、仄かにか頬を赤くする。

 

 

 彼も彼で、そんな妹の様子に気付いているが何もしない。

 待ちの姿勢である。

 言いたいことがあるのに言えない、そんな雰囲気の彼女を待つのは酷くむず痒い。

 数分後、誠袈は気恥しそうに呟いた。

 

 

「きょ、今日は月が綺麗ですね。」

 

「………………。」

 

「……手、繋いでもいいですか?」

 

「…ん。これでいい。」

 

「はい…!」

 

 

 嬉しそうに笑う誠袈を連れて、噺は歩く。

 散歩に出てきだけのはずなのに、自然と足は砂浜に向かっていた。

 二人で砂浜に足跡を残す。

 やっている事自体はなんでもない事なのに、彼女はそれが凄く嬉しかった。

 

 

 ちょっぴり大人になった気分、そんな言葉が似合う。

 

 

「…やっぱり、今日は月が綺麗ですね。」

 

「……手が届かないから綺麗なんだよ。」

 

 

『月が綺麗ですね』、噺はその言葉の意味を知っている。

『手が届かないから綺麗なんだよ』、誠袈はその言葉の意味を知っている。

 だから彼女は思った。

 

 

 何時か、その言葉が変わればいいな、と。

 二人は歩く、旅館に向けて歩く。

 会話はないけれど、繋いだ手はしっかりと握られていた。

 

 




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