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「『ケーキ』、『うわ言』、『おやすみ』」
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旅行三日目、午前中は海で遊び午後は旅館でリラックスタイム。
何時買ってきたのか分からないケーキが、箱のまま部屋のテーブルに二つ置かれている。
有名なケーキ屋のロゴが入っていることから、近くにあったのを買ってきたのだろうと、噺は推測するが……
「何でケーキ?アイスとかの方が……。」
「私が食べたかったから。」
呆気らかんとばかりに言ってくる緩和に対し、ため息をつきながらも席に座った。
大きいテーブルなので、男女で別れても困りはしない。
淑たち女子組はケーキに目を光らせているが、噺たち男子組は先程の昼食でお腹いっぱいである。
このご時世で、デザートは別腹と言う言葉を使っている緩和や優和になんとも言えない視線を向けつつ、箱を開けた。
中身は、チョコケーキの四号ホールが一つと、イチゴケーキの四号ホールが一つ入っていた。
人数を考えれば妥当な筈だが、流石に今すぐ食べることは出来ない。
「僕らは後で食べるよ。清水さんたちは先に選んで。」
「それなら、お言葉に甘えて。…私はイチゴで。」
「私、チョコー!」
「私もチョコで。」
「優和どうする?」
「私はイチゴで。…どうせ貴女はチョコでしょ?」
正解、そう言いながら緩和は旅館の厨房から借りてきた包丁を使って切り分けていく。
その手つきは慣れたもので、寸分の狂いもなく四等分される。
彼女の地味な凄さを感じ、何人かが感嘆する中で彼はスマホを見つめていた。
別に、目の前で起こっていることがどうでもいい訳ではなく、昨日の作戦が上手くいったか見ているだけだ。
RTといいねの数はどちらも百前後、悪くない数字ではあるが……
(上手く言っている、そう言えなくはないけど……。)
すると、隣に居た風輝と敬が彼のスマホの画面を覗き込んだ。
「かぁー。やっぱり、そう上手くは行かないよな。」
「だね。まぁ、商売は甘くないってことだよ。」
「なんだ?将来の夢が社長って言うオレに対してのディスりか?」
『言ってない、言ってない。』
噺と敬は二人して風輝で遊ぶ。
天然は面倒臭いが、偶に扱い安くて助かる。
二人は内心そう思っていた。
だが、それを風輝が感じ取れない訳はなく、ガチギレ寸前まで追い込んでしまったのは不味かったのかもしれない。
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約一時間が経過した。
テーブルを囲んでいた者で、起きているのは噺を含めて三人だけ。
……緩和と優和である。
それ以外は、食後の眠気に襲われて熟睡中。
二人はチビチビと酒を飲みながら、噺と会話をしている。
ダル絡みに近いが、それは気にしてはいけない。
「それで〜。淑ちゃんとはどうなの?」
「あぁ、それ私も聞きたい。」
「どうって。普通、ですかね。良い友達としてやってますよ。」
「そうじゃなくてさぁ。もっと他にあるでしょ?思春期なんだから、手繋ぎないとかキスしたいとかセッ(以降自主規制)したいとか。」
「……最後のはちょっと早いけど、良い感じの雰囲気になったりしないの?」
「偶に、そうなりますけど……。今の関係を崩すのが怖くて。」
関係を壊すのが怖い。
光が言っていた
つくづく、彼女との繋がりを考えさせられる。
目の前のチョコケーキを一口齧りながら、苦笑気味に言う噺。
……その言葉を、彼女たち以外が聞いてるとも知らずに。
「…この話題はこれくらいにしましょうか。…それより〜、噺。昨日も色々としてたらしいわね?」
「…なんのこと?」
「しらばっくれてもダメよ。」
「ひ・と・だ・す・け!してたんでしょ?」
バツが悪そうな表情をして、顔を伏せる。
しかし、緩和はそれを許さなかった。
両手で彼の頬を掴み顔を上げさせる。
「
「…やっぱり、私とあの人の子ね。マイペースで掴みづらくて、そのくせ根本は善性の塊。…言ってなかったけど、正さん元はフリーのルポライターだったのよ。でも、どれだけ汚職とか不倫騒動とかの記事を作っても、揉み消されちゃったらしいのよ。」
「
「だから、自分が信じる正義の為に彼は今の編集社に入って、努力して編集長まで上り詰めたの。」
自分の信じる正義の為に、そこまでするなんて。
普通ならありえない……だが、自分の性格を考えれば分からない事はない。
何故なら、彼も自分ならそうすると思ったから。
「…夢はある?」
「
「良いから。」
「…
「そお。頑張りなさい。」
「立派ねぇ、淑にも後でそれとなく聞いてみようかしら。」
酒の入った二人に着いていくのは、流石の噺でも不可能だったのか途中から可愛い寝息を立て始めた。
「おやすみ。私の可愛い噺。」
少しだけ落書きするか迷った緩和だったが、優しく頭を撫でるだけに抑える。
……そして、寝ているフリをしている悪い子を起こす。
清水淑と言う悪い子を。
「淑ちゃ〜ん。起きないと、恥ずかし〜写真撮っちゃうわよ〜。」
「私は…起きて…ません。」
うわ言のつもりだろうか。
起きていることがバレバレになったにも関わらず、淑は起きようとしない。
今起き上がったら、どうせ写真を撮られる。
耳から真っ赤に染まり、噺の言葉により緩みきった顔が撮られてしまう。
そんなのを撮られたら、淑は生きていける自信が無い。
けれど、その抵抗は些細な抵抗。
緩和には一のダメージも与えられない。
「…あらぁ、真っ赤ねぇ。私たちの話を聞いてたんでしょ?」
「…………。」
彼女は口を開けることも無く、ただコクリと頷いた。
嬉しくて死んでしまいそうな気持ちに、必死に蓋をする。
(浅井くん。私のことをそこまで思ってくれてたなんて──ズルいですよ。…好きにならないなんて、絶対に出来ない。)
「恋路は応援するわ、頑張りなさい。…強敵は一人いるけどね。」
「ぇっ?」
「緩和…まさか?!」
「ふふっ。さて、夕御飯はどうしようかしら。」
どこ吹く風のように、優和の声を無視して夕御飯の心配をする緩和。
その瞳は一瞬誠袈に移ったあと、すぐにどこかに逸らす。
進展する関係。
変化するのは当人達だけではない。
(茨の道だと分かってても、あなたは進むのよね。……誠袈。)
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