僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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三十噺「少しだけ前に」

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「『走馬灯』、『虚飾』、『真実』」

 

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 虚飾、それは内容は伴わないのに外見だけを飾ること。

 浅井噺を知らない人間からしたら、彼は虚飾に満ちているように見える。

 だが、噺を知る人間からしたら、彼は虚飾などないように見える。

 

 

 …有り体に言ってしまえば、その人間の本質──真実を見抜くには、深く関わることが重要なのだ。

 この話が、彼の今の状況に関係あるかと言われればないし、ないと言われればある。

 

 

 今の状況を一言で説明するなら……修羅場だろうか。

 宿題を進める、と言う名目で集まったはずなのだが……

 いつものようにテーブルを隔てて男女で別れておらず、ドア近くの入口側に淑・噺・誠袈、テレビ近くの反対側に風輝・敬・明が座っている。

 しかも、何故か淑と誠袈は噺に寄り掛かりながら宿題を進めていた。

 

 

「……あ、あのさ。もうちょっと離れない?流石にやりずらいって言うか…。」

 

「…嫌です。」

 

「兄さんの意見は却下します」

 

 

 即答で噺の意見は破棄され、二人は宿題を続ける。

 目線で敬や風輝たちに助けを求めるが、どちらも首を横に振っていた。

 

 

(助けてよ!友達でしょ?!)

 

(いや、オレ死にたくないし。)

 

(俺も同意見。)

 

(無慈悲だ!)

 

 

 数少ない友人達にも見捨てられた噺は、最後の最後の手段にしていた明にコンタクトを取ろうとするが……寝ていた

 可愛らしい寝息を立てながら、ぐっすりである。

 ……どうりで、途中から声が聞こえなかったわけだ。

 普段の彼女なら、この状況に少なからず反応を示す筈。

 

 

 虚飾が何一つない彼だからこそ、彼女たちに好かれたのである。

 ありのままの自分で人助けを出来る浅井噺だからこそ、彼女たちは惹かれたのだ。

 誰も、こんな修羅場は求めて居なかった筈だが……

 

 

(…何か抜け出す方法はないだろうか……。)

 

 

 必死に抜け出す方法を模索していると、一つある方法を見つけた。

 ある方法を見つけた、と言うよりはあることを思い出したと言った方が正しい。

 

 

(…旅行当日の朝に言ってた事…『あの子たち、まだ気付いてないみたいよ。』。これの意味、昔のアルバムを見れば何か分かるんじゃ…。)

 

 

 考え始めたら止まらず、脳をフル回転させて仮説を立て始めた。

 何時、どこで、何があったのか?

 

 

(『お前』が『君』に変わったタイミング…これに何か関係してるのか?)

 

 

 考えがある程度纏まれば即行動。

 噺は寄り掛かっていた二人にごめんと言いながら立ち上がり、アルバムが閉まってある戸棚に向かう。

 数分もしない内に、保育園卒園辺りの頃から小学校入学までの写真が入っている古いアルバムを見つけ、テーブルに広げた。

 

 

 その場にいた全員(明以外)が、彼の行動に疑問符を浮かべていたが……一人だけ違う者が居た。

 ……淑だ。

 

 

(…あれ?この場所って私が行っていた保育園と…まさか…。)

 

 

 噺は一ページ一ページ、しっかり確認してから進める。

 そして、ようやく半分まで見終わった所で、ある写真を見つけた。

 保育園の入口で撮ったものだろう、噺と一緒にある少女が写っていた。

 腰まで伸びている夜空色の髪に琥珀色の瞳。

 ……胸には清水とひらがなで書かれた名札が着いている。

 

 

 彼はそれを即座に取り出して、隣に居る淑と見比べた。

 この写真に写る少女はあどけなさがあるが、間違いなく清水淑だ。

 直感と言われれば直感だが……

 淑が噺が持っている写真を見た途端、表情が変わった事から直感は確定的なものになった。

 

 

「えっ…?」

 

「…この写真に写ってる女の子は清水さんで合ってるよね?」

 

「…多分、そうだと思います。」

 

 

 噺はやっと、緩和や優和が言っていた言葉の真実が理解出来た。

 それと同時に、走馬灯のように過去の記憶が蘇った。

 

 ──────────

 

「淑、泣くなよ。お前が泣いても、引越しすんのは変わんないんだぞ?」

 

「だってぇ、だってぇ、噺くんと会えなくなるの嫌なんだもん!」

 

「…いつか会えるよ。もし、すっごい遠い所に行ったとしても、俺が会いに行くから…だから泣くなよ。」

 

「ホント?嘘じゃない?」

 

 

 ホントホント、と噺は言い張った。

 最終的に淑は泣き止んでくれたが、完全に自分の力で泣き止ますことが出来なかったのを彼は後悔した。

 だから誓ったのだ。

 もっと優しいやつになろうと。

 

 

 人助けをするのは昔から当たり前、だったら言葉遣いや態度を軟化させよう。

 その後は必死に努力して、今の浅井噺になった。

 …今の彼が居るのは、清水淑(守りたかった人)朝陽川光(守れなかった人)と言う似ている二人の少女のお陰である。

 

 ──────────

 

 色々と思い出した二人は、顔を赤くしながら向かい合っていた。

 お互いがお互いに忘れていたのだ。

 恥ずかしくて、顔を合わせることが出来ないのだろう。

 でも、そんなことではいけない。

 同時にそう思ったのか、二人は揃って顔を上げてこう言った。

 

 

『昔みたいに呼んでも良いですか?』

 

 

 言った言葉が同じだったことに、周りに居た誠袈や敬達も笑い本人達も笑った。

 簡単に昔のようには戻れないけれど…少しだけ近付くことは出来る。

 

 

「…改めて、お久しぶりです噺くん。」

 

「久しぶりだね……淑さん」

 

 

 変な所で恥ずかしがる噺は、正面切って淑を呼ぶことは出来なかったが、一歩前進することは出来た。

 

 

 まだまだ、恋愛戦争は終わらない。




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