僕たちは三題噺の中で生きている   作:しぃ君

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三十二噺「刺激は控えめに」

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「『手袋』、『箱』、『変態』」

 

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 変態、それは形や状態が変わること、それ以外にも普通の状態とは大きく違う異常な状態のことを言う。

 …最後の一つは──変態性欲の略である。

 

 

 夏休みも終わりに近づいたらある日。

 夏祭りから急激に関係性が変わった、噺・淑・誠袈の三人は何故か一緒に買い物に出ていた。

 理由は分からない…が、二人からのお願いを噺は断れずになし崩し的に買い物に付き合っている。

 

 

 勿論、嫌な訳では無いが。

 二人共遠慮がなくなったのか、噺は強制的に腕組みをさせられている。

 最初の内は近すぎる距離に戸惑ったが、慣れればそこまででもなく楽しそうに歩いていた。

 …時々当たる柔らかい感触にドキドキしていたのは、歳頃の少年として正しい反応だと、後に話している。

 

 

「…今日は何を買いに来たの?僕は何も聞いてないんだけど?」

 

「…私は秋服ですよ。お母さんからお金は少し貰ってるので安心して下さい。」

 

「私は本かな。今日、楽しみにしてた漫画の発売日なんです。」

 

「服屋と本屋ね…終わったら文房具屋に寄ってもいい?丁度シャーペンの芯切れちゃって。」

 

 

 淑と誠袈は特に何か言うことはなく、噺の要望を承諾した。

 傍から見れば、美少女を侍らせるラノベ主人公のようだが……実際は違う。

 先程から、見えない火花が噺の鼻先を掠めるように飛んでいる。

 …甘い雰囲気なんてない。

 そこにあるのは、恋する少女が出す相手への敵意だけだ。

 

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 服屋に着いて、早速誠袈が離れた。

 自分で服を選びに行ったのだろう。

 女性物の服が並ぶ空間に、一人は辛いので淑が居てくれるのは心強い。

 ……辺りに居る男性客からは殺気混じりの視線が飛んでくるが、敢えて無視する。

 

 

(……恋人放っておくと嫌われますよ。)

 

 

 恐らく恋人と来てるであろう男性客たちの殆どが、淑の容姿に目を奪われている。

 ……一部の女性客も、羨むような視線で淑を見ていた。

 淑の今日の服装は涼しそうな白い肩出しシャツと、膝丈程の黒いスカート。

 今、服を探している誠袈も涼しそうな紺のノースリーブとジーンズ。

 

 

 どちらも意中の男性を射止める為にオシャレに気を使っている。

 …一応、噺も服装に気を使っているのか、薄水色の襟付き長袖シャツと七分丈ジーンズを着ている。

 シャツの方は、肘手前辺りまで袖を捲っているので、無難に悪くない格好だ。

 

 

 普段、こう言う服を着ない噺は母親である緩和に色々指導を受けたとか……

 

 

「珍しいですね、噺くんがそう言う格好をするのは。何だか新鮮です。」

 

「そう?変じゃないよね?」

 

「カッコイイと思いますよ。」

 

 

 にっこりと笑う淑。

 彼女の表情と言葉に少し戸惑いながらも、噺は小さくお礼を言った。

 その後は目逸らすように、掛けてある服に目を移した。

 

 

 目を移した場所は小物のコーナー。

 リボンやらなんやらが売ってる中に、異物のように混じっている物があった。

 噺からした、それは驚きの光景。

 

 

「ねぇ、淑さん?一つ質問なんだけど。…季節的には秋服が揃えてある場所に、手袋っている?」

 

「人によってはいると思いますよ。私も、寒いと十月頃から手袋してますし。」

 

 

 手袋。

 手を温めたり、保護するための物。

 基本は冬物として売り出すことが多いと思っていた噺からしたら、秋物の服が置かれる場所にそれがあるのは異常だった。

 

 

 二人が手袋の重要性を話していると、誠袈が手に何着か服を持ってひょっこりと現れた。

 ……何着の中にネグリジェが入っているのに気付いたのは…もう少しあとの話だ。

 

 

「服を見て欲しいので、試着室の前で待っていて下さい。」

 

 

 誠袈はそう言って試着室のカーテンを閉めた。

 そこからは、彼女の一人のファッションショーが始まり、一つ一つ素直に感想を述べた。

 …次が最後です、と誠袈が言ったので感想を言う事から解放されると分かった噺は、密かに心の中でガッツポーズをした。

 

 

 流石に、妹の服の感想をつらつらと言うのは恥ずかしい。

 待つこと五分。

 中々出て来ない誠袈。

 淑は少し御手洗に行ってきますと言って、席を外してしまった。

 

 

「…誠袈?ちゃんと着れた?」

 

「ひゃ、ひゃい!き、着れましたから…少しだけ待ってください!」

 

「そ、そう。」

 

 

 語気が強くなったことに噺は驚くが、待っていろと言われたので大人しく待つことにした。

 待つこと数十秒、何故か誠袈が手だけを出してきた。

 もしかして呼んでいるのだろうか?

 トラブルがあったら不味いと思い誠袈の手を取る。

 

 

 それがトラブルの引き金とも知らずに。

 

 

「わっ!?」

 

 

 彼女の手を取った瞬間、噺はいきなり試着室に引き込まれた。

 …中に居たのは……

 薄紫色のネグリジェを見に纏った誠袈だった。

 ネグリジェ特有と言っても過言ではない生地の薄さから、ハッキリと下着が見えてしまう。

 

 

 脳が情報力に耐え切れずキャパオーバー。

 頭が茹でダコのように熱くなり、湯気が出始める。

 誠袈も恥ずかしくなってきたのか、兄同様頭が茹でダコ状態。

 思考が半ば停止中のその時──事件は起きてしまった。

 箱の中のような試着室のカーテンをチラリと覗く瞳。

 

 

「誠袈さん、噺くんどこに…………変態。」

 

「ちょ!待って!淑さん!誤解、誤解だから!」

 

「……兎に角、早くそこかて出てきて下さい。…誠袈さんも噺くんも、纏めてお説教です。」

 

『……はい。』

 

 

 楽しい買い物だった筈が、カフェで小一時間説教され。

 

 その日一日、噺は変態さんと言われ続けたそうな……




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