龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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前回前書きに書いた皆様のデッキはなんですか?に中々にレスが多くて楽しいです。

このSSも日刊ランキングなどで名前入りするようになっていて、本当に嬉しいです。
これも皆様の応援のおかげと、感謝しております。これからもご愛読のほど、よろしくお願い致します


第2話『すれ違う夜と、流星』‐3

 ―響、どうしたの? 

 

 

 未来の声を思い出す。

 電話越しに、今日は流れ星を見られないことを告げる。

 未来は暫く黙ってて、それでも仕方ないよと、優しく受け入れてくれた。

 

 ―部屋のカギ開けておくから、あまり遅くならないで

 

 そう言って電話を切った未来の声。悲しそうな顔をしていた。私も泣きたい気分だった。

 

 ―ありがとう……ごめんね…

 

 そう言って謝ると、私は後ろを振り返る。

 

 そこは地下鉄の駅への入り口。地下ホームへと続く階段の途中から、敵はたむろしていた。

 不思議と、沢山のノイズが地下鉄駅の入り口に密集する光景を見ても、いつもみたいな恐怖は湧いてこなかった。

 それ以上に私の中にある燻りが、情けなさが、怒りが、私を前へと進ませた。

 

 

 ―Balwisyall Nescell gungnir tron―

 

 

 心に浮かぶ、聖詠を唱える。

 瞬間、光に包まれる私の体。

 身体を引き裂かれそうになる感触の後に、爆発する程の熱さを覚える。

 昂ぶり荒ぶる私の思いを白い蒸気となって吐き出すプロテクター。

 すぐに私の変身が完了した。

 

「……よしっ!」

 

 気持ちを、ノイズへと切り替えた。

 私の強い視線に応えるようにシンフォギアが力を発揮する。

 音の波が伝播するように一瞬空気が歪むと、それまで半透明に発光していたノイズはその輪郭をはっきりと露わにした。

 

「……っ」

 

 身体が震える。

 すぐに回れ右して逃げ出したい。

 けど、今日の私は違った。恐怖は恐怖でも、その中から湧き上がる感情があった。

 悔しさと悲しさと…約束をダメにされた怒りだった。

 

「……だぁっ!」

 

 勢いそのままに駆け下りて、やってきたノイズに拳を振り上げる。カエル型のノイズが千切れて四散した。

 前は、おぞましいと思って気持ちが悪くなった。けどそんなことは無い…ううん、気持ちそのものは消えてない。

 そんな弱い自分に対する意識まで、私は怒りへと変えていた。

 

「…っ! この…はぁっ!」

 

 私は知らず知らずのうちに歌を響かせる。

 今まで歌えたのは、初めてギアを纏ったあの日だけだったのに。あの時は無我夢中で、共に巻き込まれた女の子を助けるその一心だけだった。

 けどそんな生温い感情じゃ無い。身勝手で汚くて、弱々しくて、それでも振り切れない馬鹿みたいな気持ちだ。

 しっちゃかめっちゃかな気持ちのままに、私は歌を歌い、ノイズを叩き潰していく。

 

『立花、聞こえるか?』

 

 耳につけられたイヤーパッドマスクから、声がする。バイクの排気音がした。遊星さんだ。

 Dホイールを使ってここまで来てるに違いない。

 

『無理に答えなくて良い。俺が来るまで…』

 

 私は安心しそうになって…

 

「分かってますから、大丈夫ですっ!」

 

 それを振り切った。

 

『…!』

 

 向こう側で遊星さんはきっと驚いてる。

 けどもう私は自分でも感情がよく分からなくなっていた。

 

「私は、私にできる事をやるだけです!」

 

 そう言って再びノイズ達を蹴散らして、地下の駅奥深くまで進んでいく。

 ノイズもどんどん数が減っていって、私を危険だと認識したらしい。大勢のノイズが私に襲いかかった。

 

(…だからなんだっ!)

 

 なんでこんな奴に…と私は拳を振るう。

 

(こんなのがいなければ…!)

 

 どうして惨めな気持ちにさせられなきゃいないんだッ、って気持ちで溢れた。

 

(流れ星…見られたのにっ!!)

 

 こんな…気持ち悪い、バケモノなんかにメチャクチャにされて…それでも平然としてる顔の無い怪物が憎らしい。

 

(こいつらのせいで…!)

 

 こいつらのせいでこいつらのせいでこいつらのせいでこいつらのせいでこいつらのせいでこいつらのせいでこいつらのせいで!!!! 

 

 

『いかん! 響君避けろ!!』

 

「…えっ?」

 

 怒りは視界を歪ませる。だから冷静になれって、私はこのずっと後に教えてもらった。

 けどそんな事を考える余裕も、ブドウを頭に乗っけたような紫色のノイズの攻撃に気づくこともないままに。

 

「きゃあああああっっ!?」

 

 私は爆発と共に落下してきた天井の下敷きになった…。

 

『立花、聞こえるか? 応答しろ、立花っ!』

 

「…ッ…ぁ…か……ぅ…っ」

 

 身体中に走る激痛。

 歌が途切れた。

 シンフォギアの力が弱まるのを感じる。

 あのブドウノイズの仕業だった。

 

『立花、聞こえるかっ。遊星だ。応答してくれっ!』

 

 あの頭についてるブドウの実みたいな球が接触した瞬間、爆発が起こった。

 了子さんが言っていた。ノイズは普通に攻撃するだけじゃないから気を付けなさいって。

 

「……は…っか…ふっ…」

 

 コンクリートの重圧が私を苦しめる。抜け出そうにも身体の隙間に挟まったように天井の破片が積み重なり、もがくこともできない。

 

(…痛い……っ)

 

 火薬と焦げた異臭が鼻をつく。

 痛みの向こう側で、微かな光が見えた。

 あいつらだ。

 隙間の向こうから、あいつらがいた。

 私から何もかも奪った奴等が…

 それでいて平然としてる奴らが…

 私たちはこんなに苦しんでるのに、何も感じず何も考えない……そんな奴らが…! 

 

 

「見たかった」

 

 

 私はこんな奴らなんかの為に…! 

 

「いっしょに……見たかったっ」

 

 弾け飛ぶ音がした。

 私が弾いた。

 吹き飛ばしたんだ、瓦礫の山を。

 

「流れ星…一緒に見たかった!!」

 

 私は叫んだ。

 天井だったコンクリートの塊があちこちに飛び散る。取り囲んでいたノイズが次の瞬間、また襲い掛かる。

 私は感謝した。

 襲ってくる怪物に

 痛めつける敵に。

 だってそうすればするほど、

 

 

「あ、ああああっ……あああああっっ!!」

 

 

 私は、あいつらを倒す力が湧いてくるんだから。

 

「がぁっ!!」

 

 私はノイズを倒した。

 叩いて、蹴って、踏んで、潰して、

 あいつらがしてきたように炭の塊に変えていく。

 

「……っ!」

 

 私の視点は一つを見ていた。

 あれだ。

 ノイズの群れのリーダー。

 ブドウ頭の紫の怪物。

 放り投げた球体をなくしたソレは、戦う手段を失って一目散に地下へと逃げていく。

 

(逃すもんか……っ!)

 

 お前だけ逃げられると思うな…! 

 絶対にあいつだけは許さない! 

 私は階段を駆け下り、地下のホームへと進んでいく。

 

「お前たちガ…!」

 

 低くてくぐもった声がする。

 あれ、これ私の声? 

 

「誰かのヤクソクヲ犯し…!」

 

 私はゆっくりと階段を降りる。

 ぐしゃって音がした。

 壁が潰れてへこんでいた。

 あれ? 脆いなぁ、もう。

 

「争いノない世カイを…!」

 

 ブドウが駅のホームを走っている。

 行く手を阻むようにノイズが数体近付いた。

 ああ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ!! 

 

「なんでもナイ日常ヲ…っ」

 

 消えろ、消えろ、消えろ! 

 いなくなれいなくなれいなくなれ!! 

 お前たちさえいなければ!! 

 

「略奪すると! 言うのナラッ!!」

 

 暗い夜道で吼える。

 吐き出す。絞り出す。奴等を押し潰して解放する。

 全てを。抑圧された全てを。

 

「ガッ、アアアウアアッッ!!」

 

 怒りのままに叫び上げて、ノイズの一体のツノを掴んだ。

 ここ千切ったらどうなるのかな? 

 

「ウアアッ!」

 

 なんだ、悲鳴上げないんだ。

 ノイズだから声出ないんだ。

 じゃあ良いよね? もっと痛めつけても

 もっと壊しても

 もっと潰しても

 だってこいつらだってそうしてきた

 なんでも無い日常を

 幸せを

 ありふれた日々を

 そんな気持ち悪い身体でみんなの幸せを潰して殺して炭にして泣かせて砕いて…

 

「ああああああああっっっ、!!」

 

 ああ、気持ちいい。

 そうだ、これだ。

 私はこれがしたかったんだ。

 私はこれが見たかったんだ。

 

 これが…これが…

 

「あ…あ…」

 

 

『流れ星、一緒に見ようね』

 

 

 違う

 違う

 私が見たかったのは、こんな汚いのじゃないのに……

 やだ、やだ…! 

 もっと、未来と、ずっと一緒に……! 

 

 

「立花っ!」

 

 

 その時遠くから声がして。

 同時に目の前にはあのノイズが再び球を放ってきて…

 私の意識は、爆発で溶けた。

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 俺はようやく駅構内の入り口まで到達する。

 ここから先にDホイールでは無理だ。

 スタンディングモードへとDディスクを移行させ、左腕のデバイスにセットさせる。

 

≪モーメントアウト≫

 

 ガイダンスボイスが流れると同時に、俺はデッキからカードを引き抜き、右手に構えた。

 そのまま駆け足で、地下へと向かう。

 

『響ちゃん、セルノイズを追って進行中です』

『彼女の体は大丈夫なのかっ?』

 

 弦十郎さんの緊迫した声が飛ぶ。

 俺の心臓の鼓動も早まるのを感じた。

 

『バイタルに異常なし。ですが脳波に乱れが生じています』

 

 そもそも俺は、この世界の表面しか見ていなかった。

 こんな世界で生きている人々が、まともな精神状態で生きていけるわけがなかったのだ。

 それは例えノイズに殺されない力を持っている立花も…いや、その力に晒され続けた彼女だからこそ、俺は気持ちを慮って、側にいてやるべきだった。

 

「っ…これは…!」

 

 天井が崩れ、コンクリートが粉々になってあたりに散らばっている。

 セルノイズの爆撃を受けたに違いない。

 

「立花、どこだ!?」

 

 必死になって叫ぶ。最悪の可能性を感じるのを押し留めた。

 

(落ち着け…本部であの子の生存は確認出来てるんだ今すぐにどうこうということは無いはずだ)

 

 だが気絶していた方が良かったのかもしれない。そうすれば俺が彼女を救出すればよかったのだ。

 空白の後に、轟音とともに大気が揺れ、身体は一瞬硬直した。

 

「……っ!?」

 

『あ、ああああっ……あああああっっ!!』

 

 続いて聞こえてくる叫び声。

 苦痛とも悲鳴とも取れるそれは、まるで暴風のように反響して地下鉄中を駆け巡る。

 

(これは……)

 

 俺の中に不安より先に浮かぶ思いがあった。身の危険ではなく、心を不安にさせるこの声は…

 

『お前……ガ…! 誰……ヤクソクヲ…し…!』

 

 くぐもって無線から声が上手く届かない。

 代わりに本部にいる人間からの緊迫が聞こえた。

 

『フォニックゲイン、上昇止まりません』

『アウフヴァッヘン波形、反転を確認! 響ちゃん暴走していますっ!!』

 

 同時に、俺の腕にある痣が鈍く発光する。

 瞬間、伝わってきた。

 彼女の叫びが、怒りが、悲しみが、苦痛が。

 

『遊星君聞こえるっ!?』

「了子さんかっ?」

『今すぐに彼女を止めて!』

「っ…何が起こってるんだっ?」

 

 了子さんはいつもの飄々とした態度は消え、余裕の無くなった声で俺に伝える。

 もう一方では、立花のものとは思えない叫び声がこだましている。

 

『争い………世カ…を…! なんでもナ…日常ヲ…』

 

『暴走現象よ、彼女の負の感情をシンフォギアが増幅させてるわ。このままだとバックファイアで、あの子怪我じゃ済まないっ!』

「何だとっ…!」

 

 瞬間、今度ははっきりと俺自身の耳が捉えた。

 

『略奪すると! 言うのナラッ!!」

 

 泣いているんだ、立花が。

 シンフォギアは精神状態が能力に影響する。

 強い想いがギアの能力を引き出すというのなら、つまりそれは『コントロールできない程の気持ち』は、『ギアをコントロールできない』状態へと直結するという事だ。

 そしてシンフォギアはあくまで物だ、有機物じゃない。それが人体へ及ぼす影響は計り知れない。

 

「っく…待ってろ、立花っ!」

 

 もう俺はノイズのことも一瞬忘れ、急いで階段を駆け下りた。

 戦闘の後と思しき炭の塊が散乱している。俺を踏み倒しながら、地下鉄の最奥であるホームへと辿り着いた。

 

 

「ガッ、アアアウアアッッ!!」

 

 

 そこに立っていたのは獣だった。

 あの小さく縮こまっていた少女の名残はその身体の輪郭にしか見出せない。

 目は血走り、歯を剥き出しにし、息を荒げて無人の地下鉄を闊歩する。

 

「立花…!」

「フアアッ!」

「立花っ!!」

 

 俺は叫んで彼女に駆け寄った。

 肌もドス黒く変色している彼女は俺の声を聞いても反応しなかった。代わりに組み敷いたノイズをその手で掴み上げ、引き千切り、蹂躙する。

 

(これが暴走…!?)

 

 こんな姿が、あの小さな少女だと言うのか? あの小さなペンダント一つに、ここまで人を変える力が…! 

 

「アアアアッ!」

 

 立花の叫びで俺は我に帰る。

 そうだ、このままではあの子の何もかもが危険だ。

 

(やるしかないのか…っ!)

 

 カードを構えて、俺は逡巡した。守るべき相手に刃を向ける。その行為が俺の腕の動きを鈍らせる。

 だが……必死に呼びかけても正気に戻らないなら、もう手段は選べない。

 

 

「シールド・ウォリアーを召喚!」

『ムゥン!』

「立花を止めろ!」

 

 俺の指示を受け、槍持ちの戦士はそのまま走り出すと、立花の下まで駆け寄っていく。

 

『ヌッ、ウゥッ!』

 

 そのまま後ろから彼女を羽交い締めにした。既にボロカスとなったノイズの破片が飛び散って宙を舞う。

 だが…

 

『ウッ!? ウオォ…!』

「っ、シールド・ウォリアー!」

 

 立花がシールド・ウォリアーの腕を掴み、そのまま無造作に逆方向にひねり揚げた。

 俺は戦慄する。シンフォギアを使ったとはいえ、デュエルモンスターズの精霊を直接力で圧倒している…それも力任せにだ。

 

(バカな…立花にあれほどの力は無かった筈だ…!)

 

 だが事実として彼女はモンスターを圧倒するほどの強さを使っている。

 立花は一際大きな叫びを放つと、まるで狼のように手の平でシールド・ウォリアーの鳩尾へと一撃を叩き込む。

 

『グアッ!?』

 

 シールド・ウォリアーはそのままもんどりうって転倒し、俺の足元にまで転がる。

 だが立花はそれでも飽き足らないように、こちらへと身体を、向け歩き出す。

 

「……ウゥッ」

「立花…っ!」

 

 俺は疼く右腕を抑えながら彼女を見据えた。

 

「があっ…あ、あああああああっっっ!!!」

「立花っ!!」

 

 我を忘れ、肉食獣のように飛び込んでくる彼女。間一髪でシールド・ウォリアーが間に合った。

 その左手に持つ大楯を突き出し、腕を捌いた隙に、俺は横から躍り出て彼女の身体を抱きとめる様に押さえつけた。

 

「ぐぅ……なんだ、この力は…!?」

「アアアアアアアッッ!」

「立花、もうやめろ!」

 

 耳元で叫んだ。

 彼女の喚きが逆に俺の耳をつんざき、切り裂かれそうだ。まるで内側から刃を突き立てられたような感触。

 その時だった。

 

 

『……ノイズのエネルギー収束…確認!』

『…聞こえな……のか!? 遊星君、響君! そこから逃げろ!!』

 

 

 無線が戦闘の影響で入りにくくなっていた。さらに竜の痣の力の解放と、シンフォギアとのリンク現象。

 本部からの声は全く届かなかったのに、俺は立花に気をとられるばかりで、弦十郎さんたちの声はおろか、この近くに潜伏している筈のセルノイズの影響さえ忘れていた。

 

「しまった!!」

 

 目の前にいつの間にか立っていたそいつは、葡萄の実を象ったような球体を数発こちらへと転がしてくる。

 立花を押さえ付けていた俺は身動きが取れない。

 まずい、このままではかわすどころか、カードも…! 

 

『ウオオオオッッ!!』

「っ!?」

 

 響を共に抑えていたシールド・ウォリアーが彼女を手放し、球体に向かって突撃する。

 大楯を構えて俺たちとの間の壁になるようにして。

 彼のやることが、手に取るように分かってしまう。そうあるべしとカードに命を吹き込んだのは、他ならぬ俺自身なのだから。

 

「ぐぅううっっ!!?」

『グアアアアアアッッ!』

「シールド・ウォリアー……っ!」

 

 無数の爆弾の直撃を受け、シールド・ウォリアーの盾が砕け、槍が粉々になる。

 咄嗟に俺は立花を庇うようにして床に押さえつけ、その場に伏した。

 爆炎の中で、光の粒子になって消滅していく戦士が見える。

 

「っく…!」

 

 声を出そうにも、余波と突風で視界もおぼろげになる。

 この爆風の中で、俺は歯噛みすることしかできなかった。完全に俺のミスだった。

 奴を警戒していれば、くず鉄のかかしを発動させることも、予めモンスターを召喚することだってできた筈だ。

 それをみすみす…! 

 

『セルノイズ、反応微弱。ですが、徐々にエネルギーが再収束されていきますっ』

 

 弦十郎さんの声で、前方を見た。

 煙の向こうで、薄紫のシルエットがぼんやりとだが確認できる。

 奴だ。この群れを率いていたボスのセルノイズ。

 だが向こうは一旦攻撃を仕掛けたにもかかわらず、ゆっくりとその姿を消し始めた。

 

『セルノイズ、後方へ移動を確認!』

『チィ、次の攻撃に備えて距離を取るか…!』

 

 爆風に紛れて逃げるつもりだ…っ! 

 奴はその身体に付いた房のような球体で爆撃を仕掛けられる種だ。

 だが一旦全ての球体を放出してしまうと、戦う手段を無くしてしまう。その為これまでの戦闘データから、攻撃後は姿を隠したがるという特徴が確認されていた。

 

(まずい、このままでは…!)

 

「……ぅ」

 

 その時、俺の腕の中で、微かに聞こえる息遣い。

 視線を落とすと、そこには元の姿に戻った立花がいた。

 

「……っっ…」

「立花、大丈夫かっ!?」

「…ゆ、遊星さん?」

 

 呆然と俺を見上げる立花。もうさっきの様な覇気も怒気もない。普通の女学生となった眼に俺が映っていた。

 

「わ、私、あれ? 遊星さん、何時の間にここに…私、何やってたんですか……?」

「え…?」

 

 俺が言葉を失ってしまう。

 

「まさか、覚えていないのか、今の事を…」

「え、え? 覚えてないって…?」

 

 動揺は立花にも伝わったらしいが、彼女自身、視界がおぼつかずに目を瞬かせていている。

 どういうことだ…? 暴走していたのが原因で……彼女は我を忘れるほどの感情の波に呑まれていたというのだろうか……

 だが、その疑問は了子さんと弦十郎さんの言葉で掻き消された。

 

『響ちゃん、大丈夫っ!?』

『無事ならば返事をしてくれっ!』

 

 大きなその声に意識は呼び戻された。そうだ、今は非常事態なんだ。

 

「了子さん、立花の状態はどうだ?」

『こっちで確認できるデータでは、身体に異常はないわ。暴走も収まってる』

 

 了子さんの言葉を受けた俺は立花を強く揺さぶり、起き上がらせようと試みる。

 

「おい、怪我は無いかっ?」

「え、は、はい、大丈夫ですけど…!」

「立てるか?」

「へ、平気です…!」

「よしっ…」

 

 多少ふらつきがあるものの、彼女は両の足で何とか立つことはできた。見ても目立った外傷はない。安堵しかけたが、今は奴を追わなければならない。

 

『センサーの反応復帰しました。セルノイズ、離脱していきます』

「立花、キツいかも知れないが、奴を追う。出来るか?」

「あ…」

「辛いなら、ここで待機していても構わない。どうだ?」

 

 俺は彼女の目を見据えてハッキリと問いかける。まだ意識がおぼつかないようなら連れて行くのは危険だ。それに元々、彼女は非力なのだから。

 

「……だ、大丈夫ですっ」

 

 だが彼女は俺の目をしっかりと見つめて返した。

 

「本当に行けるか?」

「は、はいっ。私も、戦いますっ!」

 

 力強く頷く立花。

 多少の戸惑いはあるものの、普段のパニックから見られる恐怖心などは見られない。あの暴走の影響も、了子さんの言う通り、これならば心配しなくても大丈夫か…? 

 

「……分かった。何かあればすぐに言うんだぞ」

「は、はいっ!」

「よし、行こう」

 

 俺達は二人で、破壊された駅のホームを走り出した。

 

『ノイズ反応、地下鉄を更に移動中』

 

 藤尭さんの中継通り、俺達の視界の端に奴はいた。

 

「見つけたぞッ!」

 

 既にセルノイズはかなりの距離を移動し、既にホームの端の部分まで移動している。

 奴の身体は再び攻撃の為の球体を作り出していた。

 

「チィ…!」

「わ、ま、またあれを……!」

「立花、俺がくず鉄のかかしで攻撃を防ぐ。その隙にスピード・ウォリアーと一緒に攻撃するんだ。出来るか?」

 

 奴の機動力そのものもかなりのものだ。モンスター一体だけでは躱される恐れもある。

 ここは奇襲を仕掛けるしかない。

 臆するかと思ったが、立花はしっかり頷いて答えた。

 

「は、はい、何とかやってみます!」

「…分かったっ、行くぞ」

 

 俺は一枚をスリットに差し込む。

 更に手札として持った左腕から、スピード・ウォリアーのカードを取り出し、構えた。

 くず鉄のかかしなら、どんな攻撃でも防ぐことが出来る。

 更にさっき破壊されたシールド・ウォリアーも、その力を使えば立花を守ってくれる筈だ。

 これならば…っ! 

 だが、奴は更に先手を打って奇襲を仕掛けてきた。

 

 

『ノイズ、エネルギーを増大させています』

「来るぞッ! 

「っ…!」

 

 

 構える俺達と、距離を詰められていくセルノイズ。だが奴は次の瞬間思いもよらない攻撃に出る。いや、攻撃ではない。その球体を天井に向けて発射したのだ。

 

「なにっ!?」

 

 驚愕した俺達をよそに、地下鉄の天井が崩れ始める。轟音と爆風をもたらしながら、俺達の視界はコンクリートの破片と再び起きた突風で埋め尽くされてしまう。立花を庇うようにしてその場に踏みとどまった。

 

「くううっ!」

 

 一瞬途切れてしまった視覚からの情報。俺はこの視界が紛れた瞬間を狙って再び攻撃してくる可能性を考慮したが、奴は更に球体を天井へと放出し、頭上を爆破し続けているのが音と崩落の反響から察知できていた。

 

(この動き…どういうことだ…まさかっ!?)

 

『地下鉄、地上部分に露出しました』

『ノイズ、さらに後退していきます』

 

 奴は元々戦うつもりはなかったのだ。例え知能に該当する部分がなくとも、敵が迫っていることをさっきの響の暴走で察知できていたのだ。炭化できず、爆破でも殺せない生体反応があれば、奴は当然別の目標に狙いを定めようとするだろう。

 このまま外へと離脱するつもりだ。

 

「あ、あれ、ノイズが…!?」

「立花、奴を追うぞ! あいつは街に逃げて別の人間を襲うつもりだ!」

「そ、そんなっ!」

「急ごう、このまま野放しにはできない!」

 

 俺の言葉と共に、再び走る。

 爆風もようやく完全に晴れて視界がクリアになったが。その眼の前には奴の姿がない。代わりに天井にポッカリと空いた穴が、俺達を待ち構えていた。穴の真下まで走りこんで上を見ると、セルノイズの姿を確認できた。

 

「あ、あ、逃げられるっ…!」

「くっ…!」

 

 ここで逃がす訳にはいかない。

 俺はカードを構え、スピード・ウォリアーを召喚しようと試みる。

 だが、次の瞬間だった。

 その必要がないことを思い知らされる。

 

「えっ……?」

 

 セルノイズは、既に穴の向こう側から外へ出ようとしていた。

 だが時刻は戦闘が始まってから既に15分以上経過していた。

 すなわち、装者との完全合流時間だ。

 

「あ…」

「立花…?」

「流れ…星だ……」

 

 俺は宙を見上げる。

 漆黒の夜を切り裂いて、白銀に煌めく閃光が尾を引いて宙を駆け抜けていた。

 流れ星…いや、ここからあんな風に流れ星が視認できるなどあり得ない。

 それにあれは寧ろ彗星クラスの推力……

 

 

 ―……! 

 

 

 瞬間、俺達のセンサーはハッキリと捉えた。

 この戦場において凛と煌めく美しき歌声。

 例え空が燃え尽きようとも見る人の心を魅了せずにはいられない、戦乙女の命の閃光と旋律を。

 

「翼さんっ!?」

 

 響が叫ぶ。シンフォギアで強化された彼女の視力ならば、捉えられても不思議はない。

 そうか、あの光は…! 

 俺が気付いた瞬間、更に彼女の歌声が輝きを増した。

 

 

 ―………!!!! 

 

 

 文字通り一閃。

 流星より解き放たれたエネルギーが弧月を描き、空を裂く。

 発射された『蒼の一閃』は大気を震わせ、土煙を散らし、跳ね付け、まるでそこに辿り着くのは必然。

 瞬間、俺達の視界の外側で大きく唸りを上げる爆風と、もう一つの風切音。

 

『セルノイズ、爆散を確認しました!』

 

 友里さんが歓声を上げた。

 そして、言葉を失ってその場で立ち尽くす俺たちの前に。

 

「……風鳴」

「…」

 

 風鳴翼は降り立つ。

 たった今、セルノイズを真っ二つに両断し、尚も輝きを失わない、その力強い言の葉を剣に宿して。

 俺達にもはっきりと伝わった。

 俺達があれ程苦戦していたセルノイズを、彼女は到着してからものの数秒で、打ち倒してしまったのだと。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 流れ星に見えた光の筋は翼さんだった。

 私が直感的に分かった時には、既にノイズは消し飛んでしまった後だった。私たちの前に降り立った翼さんは、ボンヤリそんな事を考えている私達を冷たく見る。

 

「………」

「……」

 

 遊星さんと翼さんは、無言で数秒見つめ合った。

 私は、いつもの通り横でそれをオロオロしながら見つめ……

 

(……何やってんだろ、私)

 

 られなかった。

 出来るわけがない。

 自分が弱いことは分かってる。

 意気地がないことも。戦いを知らないことも。だから翼さんに認めてもらえないんだってことも。

 アームドギアが出せないのだって、私が弱いからに違いない。だからシンフォギアが私に応えてくれないんだ。

 

『翼、よくやってくれた』

「いえ。これより、本部へ帰投します」

『遊星君と響君も、よく頑張ってくれた。君達も戻ってゆっくり休んでくれ』

「ああ」

 

 弦十郎さんの声が聞こえる。

 私には何も返せなかった。何もしていないのも同然なのだから。

 

「……立花」

「遊星さん……」

 

 遊星さんが、私の肩にポンと手を置く。その皮手袋には、ほんの僅かに血が滲んでいる。

 

「ゆ、遊星さん、それ…血が」

「ん? ああ、どこかで痛めたのかもな」

「だ、大丈夫ですか?」

「かすり傷だ、気にするな」

 

 そう言って、今度は血のついてない逆の手で私の肩にそっと触れる。

 

「よく頑張ったな。今日はもう帰ろう」

「……」

 

 微笑みながら優しい声で遊星さんは言ってくる。

 私は涙が出そうなのを何とか堪えた。

 

「…はい」

 

 いけない。

 泣いているのを悟られちゃいけない。自分が弱いのは分ってる。心まで情けない所を見せて慰められたら、この上一層惨めだ。

 

(私は……本当に必要なのかな)

 

 駅のホームを逆に戻りながら、私はうすぼんやりとそんな事を考える。私みたいな素人は、来ちゃいけないんだろうか。今日だって、そのせいで遊星さんを巻き込んだ。翼さんにも白い目で見られ続けてる。弦十郎さんや了子さんは何も言わないけど、きっと心の底で呆れているに違いない。

 

(このままじゃ……)

 

「……立花響」

「……え?」

 

 翼さんがふと口を開いたのは、駅の入り口を抜け、公園にまで差し掛かった時だった。

 

「あなた、何時までそうしてるつもり?」

 

 私に背を向けたままで、翼さんが言葉を投げかける。

 その時に気付いた。翼さんがシンフォギアを纏ったままだという事に。私もつられて身に着けたままだったけど、今になってそれが変だと分かった。

 

「……」

 

 背中越しなのに、翼さんの覇気が伝わる。

 瞬間、私はビクリと身体を震わせた。

 

「……つ、翼さん…?」

「その男の影に隠れて怯えるばかりで……自分は情けないと慰められるのを待ち続けて、殻に籠って………そんな中途半端な姿で人を憤懣させるのはいつまでだと聞いている」

「……っっ!」

 

 もっと早くに気付いておくべきだった。

 翼さんは、戦いでは私に興味がないと目を逸らしていたのは、私を本当に見るためだという事に。

 私はずっと、この人に見られていたんだという事実に。

 

「答えなさい」

 

 身を翻す翼さん。

 以前のように、剣を突き付けられたわけでも、睨み付けられたわけでもない。

 ただ防人の使命と言う意思が鋭い刃となって、私の胸を刺す。

 

「…わ、私は」

 

 苦しい。

 息ができない。

 お腹が締め付けられる。

 そんな事すらも自分で気付かないままに、ただ永遠に時間が過ぎるような感覚に襲われる。怖い。翼さんがじゃない。その後ろにあるもっと大きないものが、私を責め立てている。呼吸さえも困難になっていく中で、耳元から届いた無線が、割って入った。

 

『翼。響君も疲れてる。今は…』

「すみませんが司令。ここは以前の様には引けません。どうしても問うておかねばならぬものです」

『翼っ』

 

 弦十郎さんの語気が強まる。

 けど翼さんの視線は弱まるどころか、逆に強く私を射抜いた。

 

「弱かろうと、傷つこうと、それが本人の覚悟なら黙りましょう。ですが……」

 

 一歩、翼さんは踏み出す。無意識に私は後退していた。

 それが余計に、この人の眼光を鋭くした。

 

「……櫻井女史、お尋ねします」

『ん? 何かしら?』

 

 了子さんの声がする。何気なしに振る舞っているのが優しさだと私達は気付いていたけど、次の一言で、全員が凍りついた。

 

「彼女の適合係数が下がっているのではないですか」

「っえ…」

『…まあ……上昇はしてないわね』

 

 少し沈黙した後で、了子さんは答える。こんな口調で言う了子さんを私は初めて聞いた。それなのに私はただ怯えてばかりで苦しくて……

 

「このまま放置すれば、ギアの維持すらできなくなります。そうなる前に戦場より遠ざけるのが、せめてもの慈悲です」

 

 そう言って翼さんは私に向かって歩き出す。直感的に悟った。この人は私から無理矢理ガングニールを奪い取るつもりだ。どういう手段で私から取り上げるかは分からない。そもそも私の中に埋まっているこれを取り出すのはお医者さんでも無理だった。

 けど……もしかすると翼さんは、この時に私を全力で叩き潰して、戦意を失わせようとしたのかもしれない。

 

 

「………」

「ゆ、遊星、さん」

 

 

 だから、遊星さんは、私と翼さんの間に割って入った。仲間の絆を大切にすることの人だから。

 けど今の私は、そんな事なんて知らずに、ただ縋りたい衝動に駆られてしまう。

 

「まさか止めないわね」

「……」

 

 そんな甘えを。

 遊星さんの優しさを、強さと混同した私の弱さを見抜くかのようにして、翼さんは斬って捨てる。

 

「あなたがこうして庇っているから、彼女は戦えない。それどころか戦う意思すら奪っている。適合係数が下がっているのがその証拠だ」

 

 もう一度、私はその身体を震わせた。

 今度は勘違いじゃない。翼さんが私を睨み付けている。

 本能的に唇を舐めた。

 

「その子を鈍らせたのはあなた自身だ、不動遊星」

 

 ハッキリと翼さんが断言した。

 違う。

 私だ。

 間違いない。非難されているのは私だ。

 私のせいで、遊星さんまで……

 

「…それでも」

 

 遊星さんもそれは分っていたに違いない。

 私を守れば守るほど、弱い私はそれに縋ってしまうことを。影で怯えるばかりで、何も出来なくなることを。

 

「俺は彼女を見捨てる気はない」

「何故?」

 

 それでも彼は見捨てようとしなかった。

 それが不動遊星の強さだったから。

 

「仲間、だからだ」

 

 庇うようにして両手を広げる。

 目の錯覚なのか、遊星さんの右腕にある痣が見える気がした。あの時、一瞬見えただけだった、竜の顔を描いた不思議な赤い痣。

 その竜の眼が、私を射抜く。

 

「ならばそちらが構えるか」

 

 甲高い音がする。

 ふと顔を上げると、翼さんはギアの左足のスリットパーツから、細身の剣を抜き出し、遊星さんに突き付けた。

 

「馴れ合って慰め合うのが仲間の印と言うのなら、貴様もその子と同じ鈍らだ。そんな男と、私は戦場を駆けるつもりは微塵もない。それを否定するというのなら、貴方が代わりに覚悟を示しなさい」

 

 翼さんは本気だ。

 この人は冗談や脅しで剣を抜くような人じゃない。

 

「……ゆ、遊星さ」

 

 言葉が出ない。

 けど、それでも遊星さんも引かない。翼さんも一旦抜いた剣は簡単に納めない。

 

「え…あ……」

「下がってろ」

 

 だから、二人は向かい合うしかない。

 何の理由も目的もない。意味も、誠意もない。

 信念も正義だってあるもんか。

 

「…めてください」

 

 心臓が押しつぶされそうだった。

 何で? 

 どうして、この二人が戦わなくちゃいけないの? 

 この人たち、何も悪いことしてないじゃないか。

 遊星さんは他の世界から来て必死に元の世界へ帰ろうとしている。

 翼さんは、あの日、私を助けてくれた『あの日』から一人で戦い続けてきた。

 

(……違う…っ)

 

 バカだ私は。

 何をやってるんだ。

 ただこれは、私が弱くてしょうがないから……情けないから……

 私が悪いんじゃないか。

 私が惨めにこんな風だから、それで二人は向かい合ってる。そんな事も分からないのか大馬鹿者め! 

 私は自分で自分を引っ叩きたい衝動を情けなさで抑え込んだ。

 

「立花…」

「お願いですから止めてくださいっ!」

 

 必死に懇願した。

 逆に今度は私が二人の間に割って入り、両手を広げて。遊星さんを抑え付けるようにして叫んだ。

 分かってる。

 私がこんな事を言う資格がないんだってことぐらい。

 

「私が悪いんです、悪いのは私ですっ!」

 

 弱いのは私のせいだ。

 惨めなのは私のせいだ。

 それなのに遊星さんに甘えてたのも私のせいだ。

 

「お願いします。打つなら私を打ってください! 斬るなら斬って下さい! でも……っ!」

 

 ここで庇われたら、本当に私は卑怯者だ。

 そうしたら私は本当に誰とも顔を合わせられなくなる。二年前、私を助けてくれた『あの人』にも、誰とも口を利けなくなってしまう。

 だから……だからこそ……

 

 

「でも私にだって、守りたいものがあるんですっ!!」

 

 

 何もせずに退場するのだけは嫌だ。

 このまま私は終わりたくない。

 ここで下がってしまったら、私はもう、嘘つきと同じだ。そうしたら、私は……

 

 

 ―人殺し! 

 

 瞬間、脳裏に浮かんだのは、人々の怨嗟の声だった。

 

 ―死ね! 

 ―お前だけ助かりやがって! 

 ―なんであなただけ生きてるの? 

 ―お金貰えるんだって? 

 ―そっちが死ねばよかったのに! 

 

 

 記憶が蘇る。

 もう思い出したくない。開けたくない苦痛の蓋。

 あの頃に、戻りたくない……

 守られて、壊してしまうのは、もう嫌なんだっ! 

 

 

「っ……っ……」

 

「だから?」

 

 

 苦しい沈黙が、叫びたいのに叫べない時間が、永遠に続くかと思われた時だった。

 

 

「だから? で? どうすんだよ?」

 

 何時の間にか、その子は居た。

 

「………え」

 

 

 私達に何も気取られず、気配も見せずに。

 遊星さんや翼さんがいたというのに、誰もその子の存在に気が付かずにいた。

 朧月が雲の裂け目から姿を現すと同時に、彼女の姿は露わになった。

 

「……っ!?」

 

 ゾワリと、私の背中を何かが這った。

 身体中を刺々しい白銀の鱗みたいな鎧で覆われて、正体は見えない。けど、一目見た瞬間に、私はその存在に恐怖した。

 あれはノイズじゃない。けどそれ以上に危険なものなのだと、私には分かってしまう。

 いや……やはり分かってない。

 

「……こいつは…!?」

 

 この場でその恐怖を理解していたのは、他ならぬ、この中で最も鋭い剣を持っていた人だった。

 

「……い」

「え?」

 

 翼さんが呆然と立ち尽くす。

 遊星さんと私が呆気にとられて翼さんを見ても、向こうは全く反応せずに、真っ青になって突如現れたその存在を凝視していた。

 やがて月明かりが私たち全てを明るく照らした時に、翼さんは今度こそ、皆にも聞こえる声でハッキリとこう言った。

 

「……ネフシュタンの……鎧」

 

 月明かりが、私達を照らす。

 四月だというのに、やけに寒かった。

 それなのに、風は全く吹いていない。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 

 次回予告

 

 ―私の弱さが、遊星さんに、翼さんに、血を流させる

 ―俺の弱さが、風鳴を、立花を、孤独にさせる

 ―私は、どうしたらいいの? 

 ―俺は、何処へ向かえばいいんだ? 

 

「響には、響のままでいてほしいな」

 

 ―私は、私のままで、強くなりたい

 ―俺は……

 

「忘れるな、俺達の絆は永遠だ」

 

 

 次回、龍姫絶唱シンフォギアXDS『落涙と、覚醒の鼓動』

 

 

 ―俺の、為すべきことは……

 




みんなのヒロイン登場
テレビでは熱中症のニュースなども流れ始めました。皆さん、体調には十分ご注意下さいね。
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