大事なことなのでもう一回言います。
お待たせしました
焦げた異臭が鼻を突いた。
炭と化した周辺の草花が飛び散り、俺の視界を覆う。
その隙間を縫うようにして上空から急降下したフライトノイズが、奮戦していたスピード・ウォリアーを真っ二つに切り裂いた。
「っ! スピード・ウォリアー!?」
『ウオオオッ!?』
死角からの攻撃に為す術なく、白鎧の戦士は爆散し光の粒子化して消えていく。
『スピード・ウォリアー、消滅しました!』
『救援を向かわせろっ! 何としても助けるっ!』
通信機から送られる情報と支援を元に、俺は防衛戦に徹していた。
だが圧倒的に敵と、火力が違い過ぎる。
いきなりの急襲によってDホイールは車輪をやられ、逃げることもおぼつかない。
何とか間一髪でDディスクを取り出すことには成功したものの、おびただしい数のノイズに攻め立てられ、圧倒される。
『遊星君、何とか持ちこたえろ!』
「くっ……!」
切り込み隊長とも言えるスピード・ウォリアーを失ったことで、もう俺は守勢に回るしかなかった。
そして奴らはそれを見逃すはずはない。
ヒューマノイド型のノイズが一斉にこちらに突撃してくる。
俺を守るように待機していたモンスターたちが果敢に挑みかかるも、彼等では太刀打ちできない。
『ピピィっ!?』
『チチッ!?』
「ロードランナー……ボルトヘッジホッグ…!」
敵を一体だけでも倒してくれたのは僥倖だった。
だがそこまでだった。クロールノイズに押しつぶされてボルトヘッジホッグは消滅し、続くフライトノイズの攻撃を受け止めたロードランナーも、ヒューマノイド型の集団攻撃によって敢え無く散っていく。
(仲間が……俺の、カード達が…!)
目を覆いたかった。
あれほど俺を慕い、支え続けてくれたカード達が消えていく。
あざ笑うかのように奴らが消していく。
人の儚さと虚しいと切り捨てていくように…。
「!? しまった…っ!」
一瞬でも動揺を許してしまったのがいけなかった。
後ろから一体のヒューマノイドが忍び寄っていることに気付かなかった。
「ぐうううああっ!」
背部に走る衝撃、咄嗟に身体を横っ飛びに飛ばし、攻撃を回避する。そのまま走り込み、距離を取った。
赤き竜の加護がある限り、ライフポイントが俺とノイズを阻む最後の壁として機能する。
だがそれも4000と言う数値の範囲内でしかない。
そしてまだ、このノイズたちの戦闘力をどうやって換算できるのか、それもまだ分かっていないのだ。
(っ…直撃か……! 残りライフは……)
ディスクに表示された数値を見る。
既に俺の生命線は残り1000を切っていた…!
壁となるモンスターも存在しない。
俺の盾となるのはもう…!
「くず鉄のかかしっ!」
鉄製のかかしが出現し、突撃してきたノイズの動きを封じて弾き飛ばす。
しかしここまでだった。
「っ!」
二撃、三撃と繰り出されるノイズの攻撃。
やがて効果時間は終了し、くず鉄のかかしは再び俺のディスクに伏せた状態でセットし直されてしまう。
これであと一分間は攻撃を防げなくなる。
そしてその一分を耐えきれる手札が……今の俺にはない。
「…こんなところで……!」
このタイミングで俺 1人しかいない平野に現れるなどおかしい。
一連の事件に人間の影があるとするなら、やはり俺を狙っているのか……
だがそんな思考をしている余裕もない。
(考えろ……何か、方法がある筈だ…!)
『遊星君、頼む、死なないでくれ!』
その時だ。
藤尭さんが、俺に向かって叫んでいた、
『こんなところで、俺は終わりたくない! 君とロクに話をしないまま終わるなんて絶対に嫌だっ!』
彼の誠意と覚悟と優しさが伝わる。
俺を……異邦人である俺を、彼等を分かってやれずに、それでも歩み寄る心を俺に向けてくれた。
そしてそれは一人じゃない。
『あなたが来た意味も、私も、皆も、まだ見つけ出せてないのよっ! だから私も諦めたくないわ!』
友里さんも叫ぶ。
胸が震える。
俺も終わりたくない。
―何をそんなところで腑抜けている。立て―
理不尽な世界でも輝き続ける光がある。
俺がここに来たのは、無為に死ぬためじゃない。
風鳴に血を流させるためじゃない。
立花に、涙を流させるためじゃないんだ。
俺の進むべき道を見つけられないままに、このまま終わらせない。
何より……
「俺は、諦めないっ!!」
絆を、結ばないままでは…いられないんだっ!
「うわああああああっっ!!」
前方より襲うノイズに完全に虚を突かれた時、いきなり横から飛んできた影がノイズへ直撃する。
いきなりの衝撃に耐えきれずに、そのヒューマノイド型は霧散消滅した。
唐突な乱入者に困惑する俺をよそに、地面を転がった影はすぐに起き上がって、俺の元へと駆け寄った。
「……た、立花!?」
『響ちゃん、合流に成功しました!』
「はあっ! はあっ! はぁっ!!」
息を切らし、全身を汗まみれにし、身体を泥だらけにして、立花響が俺の前に立っていた。
「立花……」
どうしてここに…
そんな疑問を一瞬浮かべた俺をよそに、立花はよろよろと近づき、両腕を掴んだ。
「遊星さん、怪我、ないですかっ!?」
「……ああ」
「……っあ…っっ……良かった……無事で、生きてて……良かったです……」
呆然と応える俺に、けれど立花は俺を見て泣きそうなりながらも、微笑みを浮かべた。
彼女に助けられたのは、これが初めてだった。
学校から、ここまで走ってきたのだろうか。ギアを纏っても、彼女の身体能力ではここまではまだかなり時間を要する筈だった。
だが考えに耽る間もなく、再び轟音が俺達の身体を震わせる。
「……!」
『巨大ノイズ、三体を確認! 装者と不動遊星に向かって進行していますっ!』
『ノイズの増殖止まりませんっ! 数およそ60まで!!』
大地がうねって軋みを上げるその元凶は、遠くより俺達を視認し、徐々に距離を詰めてくる。
巨人型を先頭にし、更に要塞型が追随する。後方ではギガノイズが次々と小型のノイズを吐き出しながら、着々と攻撃準備を整えていた。
「くっ…!」
更に状況は悪化している。
このままでは立花を逃がすことも覚束なくなってしまう。
何とか彼女だけでも…
「立花、下がれ……! 隙を見て俺が…」
「いやですっ!」
しかし俺の言葉を、彼女は撥ねつけた。
一瞬戸惑う俺に対して、立花は猛然と前に出た。
「私も……私だって、戦いますっ!」
あの日、風鳴と俺との衝突を阻んだ時とは違う。
盾となって、俺を守るために。
「何を言ってるんだ! いいから逃げろ! お前の力じゃ…!」
「それでも、もう目を背けたくありませんっ!」
そう言って立花が走り出した。俺の手を引いて。
「ごめんなさい……私逃げてましたっ!」
泣きそうになる恐怖を殺して。
「自分の中にあるモノから逃げたくて、それで必死で、周りをちゃんと見なくてっ!」
今までの自分自身を見つめて。
「それで、怖くて震えちゃってましたっ!」
それでも受け止めたいと願って。
「はぁ……はぁ……! ひぃ…ふぅ…!」
「立花……」
攻撃が次々と迫る中で、立花は俺の手を引きながら間一髪のところで躱していく。
今まで逃げるだけだった彼女は、奴らの行動パターンを無意識に刷り込んでいた。
(今までの、立花とは、違う……?)
変わったのか?
いや、立花は立花のままだ。
変わっていない。弱くて、怖がりで、それでも気持ちを捨てない少女だ。
(むしろ……)
「私の理由、なんて、大したことないですけど……!」
そうして立花は、ポツリポツリと喋りはじめた。
それは俺が初めて聞く、偽りない本音だった。
「私……友達のおかげで、本当に救われたって思う時があって……それだけで私、最高に幸せって思ったんです。それまであんまり深く考えなかったし…全然つまらないって言うかもしれない………でも」
拳を握り俯く立花。
その小さい身体に、どれほどの痛みと嘆きと、そして決意があったのか…ただ幸せを生きる、それさえ叶えられずに…
だが彼女は、もう泣いているばかりの子どもではなかった。決然と顔を俺に向けて、力強く言い放った。
「それでも、私にとっては、大切で、守りたいものなんですっ。だから私の、この気持ちは……この気持ちだけは…何があっても絶対に捨てませんっ!!」
何かが変わっていたのではない。
戻ったのだ。
今まで殻を被っていた自分を脱ぎ捨てて。
これは立花響と言う、一人の少女の強さだった。
「だから、こんなものに、負けたくない! 私の気持ちにだけは、嘘はつかない!」
己の気持ちに向き合うこと。
それは理想としても、辿り着けない人の業。
『如何なる場所でどんな困難に逢おうと、お前には立ち向かう力がある。だから目を背けるな』
けれど、あるんだ。
こんなにも近くに。
力はここにある。
俺達の間に。
「っ……ぅ…っ!!」
ノイズが、更に迫る。
更に数を増やし、視界はノイズで埋め尽くされようとしている。
立花が震えている。
「……この世界に」
「えっ」
「不必要な物なんてない」
……安心しろ、もう大丈夫だ。
やっと……やっと思い出せたよ。俺も。
「どんな小さな何かにだって、必ず存在する意味がある。立花が守りたいと思うものにもある、絶対に」
ゴミ溜めの中にあって正しく手を繋ぐことを忘れない人達が、俺の心を支えてくれた。
その人達の為にも、俺はネオ童実野シティを美しい街にしていきたい。
だが、偶然にも訪れたこの世界で、今何の罪もない人々が、突然の怪異に襲われ、命を落とし、平和が脅かされ続けている。
「……逃げていたのは、俺も同じだ」
一人で見知らぬ世界に飛ばされ、
周りを見ることが、信じて一歩を踏み出す勇気を持てずにいた。
それを思いださせてくれたのは、友の記憶と……
「俺一人と…絆を失いかけたカード達だけで、戦うことはできないんだ」
ああ、そうだとも。
答えは既に、俺の目の前にあったんだ。
「だから、俺も一緒に戦いたい…一緒に戦わせてくれ」
俺はチャレンジャーだ。
この世界に入り込んだ異物、漂流者、ストレンジャー…
だが、だからこそ、このか細くても力強く一歩を踏み出そうとしている少女と共に、歩み出さなければいけない。
その果てに未来があると信じて。
「……俺と一緒に走ってくれないか。守りたいもののために」
弱気とも取れるその言葉。
だが彼女の…立花響の瞳は、最早何も迷わない。
「私なんかでも……いいですか……?」
「お前の力が、必要だ」
俺がやらなければいけないこと。
それは彼女を助けることじゃない。
「響」
立花の……響の手を繋ぐことだったんだ。
「……はいっ!!」
この少女と共に戦うこと。それが俺の為すべきことだ!
「っ!?」
「なにっ…!?」
「わ、わわっ、なにこれ!?」
繋いだ手が、熱く光る。
心に訴えかけられる。強く強く、更に熱く。
鼓動が高まる。心臓の音が聞こえる。
これは俺達二人の鼓動。掌から発した光が辺りを照らしていく。
まるで、初めてこの世界で赤き竜が助けてくれたように。
「俺の腕の痣が……」
「ガングニールが……光ってる…!」
他者を束ねるドラゴンヘッド。
そしてこの時には明かされていなかった、響の持つアームドギアの特性。
その二つが重なり合うことで初めて発揮される奇跡。
「え…?」
光は収束し、最初にそうだったように俺の手へと降り立っていく。重なる俺と響の手に、『それ』は姿を現した。
ゆっくりと、俺たちは重ねた手を開いて見た。
「これ……もしかして……」
「どうしてここに…あれだけ探しても見つからなかった一枚が…」
だが、間違いない。
これは俺のカードだ。
光沢は失われず、新品同様に光を灯し、破損や劣化はまるで見受けられない。
いつまでも力を貸してくれていた、あの時のように。
『力を、合わせて』
声が聞こえた気がした。
これは、赤き竜なのか?
『今こそ、歌と我らの力を一つに。我がマスターよ』
違う。これはこのカードの声だ。
カードの精霊が呼びかけて、俺に力を貸してくれる。
「歌…力を、合わせる…」
その時だ。Dディスクが再び起動を始めた。
初めて響や風鳴と出会った日のように、モーメントの回転数が上昇し、すさまじい勢いで出力を上昇させていく。
中空に、ディスプレイが表示された。
≪SYNCHRO SUMMON STAND BY≫
文字が視界に入りこむ。
まさか……
『元々二つは力の引き出し方こそ違うけど、同じ性質を持った兄弟なのかもしれないわね』
了子さんの言葉が蘇る。
同じ性質。
つまりそれは、モンスターの効果や魔法の力を共有できるという事……
「…そういう…ことだったのか……っ!!」
今、全てが繋がる。
赤き竜が俺を呼び寄せたのは、この世界の人間を選ばなかったのは、俺と言うデュエリストこそが……いや、俺と響と言う存在が、起死回生の力となり得るからだった。
「ゆ、遊星さん?」
「響、アレをやるぞ」
「あ、あれですか!?」
一瞬キョトンとする響だが、言ってることが分からずにすぐ問い返す。
「……って何でしたっけ!?」
「俺のカードの力を、お前の持つシンフォギアに上乗せする。合体技だ」
「合体技!?」
そんなのあったの、と叫ぶ響。
ああ、俺も今まで知らなかった。
だが、今ならできる。
「信じろ、ここまで来た自分自身と、その可能性を。そうすれば、お前の中に眠るガングニールは、絶対に応えてくれる筈だ!」
「……信じる…?」
「響に力があるのは、絶対に無駄なことなんかじゃ無いんだっ! 全てに意味がある!」
そうだ。彼女がアームドギアを出せない理由。
それは力と言う概念を、彼女が心の底で違う意味で捉えたからに他ならない。彼女にとって戦いとは、敵を倒す事ではない。
つまり響にとって武器というのは、敵に向ける必要がないものなのだ。
どんな人にでも手を差し伸べる心の強さ、それこそが……
「お前の力、俺に預けてくれっ!」
「……っはいっ!」
Dディスクのモーメント回転数は更に唸りを上げて上昇。
同時に蓄積されていた遊星粒子を、周囲に散布する。
俺の手に握られたカードを、スリットに縦置きでセットする。
来てくれ、俺の……俺達の逆転の一手よっ!
「チューナー・モンスター、ジャンク・シンクロンを召喚!」
瞬間、空間が歪み、そこから現れ出でる、キーカード。
茶のアーマーに身を包んだ、二頭身の技師を思わせる姿を持ったモンスターが、フィールドに出現した。
「こ、これが新しいカード?」
戸惑う響をよそに、俺はジャンク・シンクロンに指示を飛ばす。
チューナーモンスターと呼ばれる彼の力を使うことができれば、カード達はお互いを補い合い、さらなる高みへと進化できる。
「ジャンク・シンクロンの効果発動っ、このカードが召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスターを、特殊召喚できる!」
墓地へと送られたカードが一枚、俺の元へと戻る。
そして、同時に墓地に眠るカードの効果を更に発動させた。
「そしてチューナーが存在する時、このカードも蘇生できる!」
これが俺のデッキに秘められた力。一体一体は弱くとも、その力を束ねて重ね合せることで、召喚の制約を振り切って、呼び集まることができる。
そして俺は畳みかけるようにセットしてあったカードも起動させる。
「更にリバースカード・オープン、エンジェル・リフト!」
戦いの隙を見てセットしていた、墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚できるカード。
この力で、いなくなった仲間の力を再び借り受ける。
「甦れ、スピード・ウォリアー! ボルト・ヘッジホッグ! ロードランナー!」
『ハアアッ!』
『チチチッ!』
『ピピィー!』
胸の叫びを力と変えて、消滅した三体の仲間は、俺の元へと舞い戻る。
力は、永遠に失われない。
俺と言う命が尽きるまで、彼等は戦うのだ。
戦う意志と、絆がある限り。
そして、再び仲間を見つけた。
彼女の……響のお陰で、掴み取った!
『1分間の召喚条件を無視して、一度に三体の精霊召喚…!』
『ですが、数が多すぎます…! それに彼のモンスターでは火力が…』
友里さんと藤尭さんの声が届く。
そうだ。このままでは巨大ノイズ一体にさえ及ばない。
響の力と並べても、この場を突破できない。
「…なら見せてやるさ」
『並べて』も駄目ならば『繋げる』のみ。
―そんなクズ共で雁首揃えて、よくもまあ戦う気になったもんだな―
あの時、鎧の少女は俺に向けてそう言った。
あれ程の力を持つ者ならば、俺達の力は蟻に等しい。俺だけじゃない。人類すべてが弱いのだ。その体も心も。
だが、だから前へと進めるんだ。
「クズと罵られた力が、どれ程の力を産むのかを! 絆が作り出す力をっ!」
忘れかけていた絆の力を、思い出させてくれた人がいるのなら。
俺達は幾らでも強くなれる!
「行くぞ響!」
「うああああああっっ!!」
響の絶叫がこだまする。
溢れ出る力の奔流。やはり予測は当たっていた。シンフォギアとカードの精霊は似た性質を持っている。ただその放出理論が違うだけ。
ならば出来る筈だ。
信じるんだ、俺達の可能性を。
不可能などと、そんなルールは……誰も決めてはいないのだから!
「レベル2の撃槍ガングニールに、レベル3のジャンク・シンクロンを、フォニック・チューニング!」
指示を飛ばすと同時に、Dディスクを操作した。
ジャンク・シンクロンが腰部のリコイルスターターを掴み勢いそのままに引っ張り上げる。
同時に背面のエンジン部分が音を立てて振動し、激しく明滅する。
光がやがてジャンク・シンクロンの全身を包み込み、最高潮へと達した時、それは推力に輝く光の輪となって響の全身を取り囲んだ。
『フォニック・チューニング…だとっ!?』
『モーメント、回転速度上昇します。現在150%を突破。リアクター内、出力上昇! アウフヴァッヘン波形を感知しました!』
『ガングニールと精霊種の両方から確認されています。波形パターン照合、該当ありません。いえ、これは…』
『変化してるっていうの? 新しい型に……いえ、むしろこれは……進化…っ!?』
了子さんの唖然とした声が聞こえる。
チューナーモンスターの真の力。
それはフィールドに存在するカードと、チューナーを一体、揃えて墓地に送ることにより、その条件に見合うモンスターを、エクストラデッキと呼ばれる第二のカード群から呼び出すことができる。
俺のデッキには、未だエクストラ枠は存在しない。
だが俺の狙いは、ジャンク・シンクロンによるシンクロ・モンスター『ジャンク・ウォリアー』の召喚ではない。
「集いし星よ! 新たな歌を響かせて、此処に光差す道となれ!」
胸に灯る微かな鼓動。
これは俺と、そして響の熱い想い。
そうか……俺も理解したぞ。
これは聖詠だ。
俺達がシンクロ召喚を行う時に、胸の奥から湧き出でる勝利への叫び。
それは、カードに魂を吹き込み、その想いを伝えるための、命の歌だった。
「フォニック・シンクロ!」
響の身体を、ジャンク・シンクロンの光の輪が包み、再構築する。
プロテクターを、紫を基調とするアーマーに武装させて装備。
そして風を味方につけ、力へと転化させるマフラー。
肩部のブースターと右腕のガントレットが輝く。
「出でよ! ジャンク・ガングニール!」
光を一瞬で放出し、新たなギアを出現させる。
俺達の希望を載せた力。
その名は、ジャンク・ガングニール!
「え、うええっ! なにこれ! ギアが、ち、違う色になってる!? それに形も変わってるし…!?」
「そうだ。これが俺と、俺の仲間、そして響の力を一つに束ねた力…」
響は最初戸惑っていたが、ゆっくりと自分の姿と内に宿る力を把握していく。
シンクロ召喚と、シンフォギアの合わせ技。
それがこの新しい召喚に成功した。
いや、召喚ではない。聖遺物をチューナーの力によって装者と新たに繋ぎ合わせて誕生した、いわば……
「絆の証、シンクロ・シンフォギアだ!」
「シンクロ・シンフォギア…!」
「行くぞ響、俺たちの力で、この街を守るっ!」
「…うんっ!」
響は拳を握りしめた。
彼女も分からないことだらけだろう。けれど通じ合うものもある。
それは……
「受けた借りは…」
「百倍にして返してやるぞっ!」
「うりゃあああああっ!!」
こんな怪物を野放しにしておけないという事だっ!!
「行くぞ皆っ!」
さあ、もう雌伏の時は終わりだ。
あいつ等に見せつけてやろう。俺達の力を。
この世界を蹂躙する奴らに、人の心が描く奇跡と進化を!
この世界に生きる人々の願いを集めて!
「せええええええええ―」
一瞬にして距離を詰める。
響の拳が、正面にいたヒューマノイドの顔面を直撃した。
いきなりの奇襲に回避できず、当然粉々に爆散する。
だが、彼女の攻撃は留まらない。
「っっえええええええっっ!!!」
振り抜いた拳は衝撃となって周囲へと伝播し、瞬く間に暴風となって辺り一帯のノイズへと拡散する。
彼女のエネルギーはノイズの位相差障壁を諸共に貫通し、実体化したノイズを蹴散らした。
一撃。拳を突き出したのみで、倒した数は12体!
「……へ?」
尤も、それに驚いているのは立花だった。
…俺も衝撃を隠せない。
これが……これがシンクロの力を重ねたシンフォギアの力か…!
「……なに、今の…! 軽く振っただけだったのに…!?」
だが俺は構わず拳を握りしめる。
行ける…これならば俺達は戦える!
「ジャンク・ガングニールは、俺のカード『ジャンク・ウォリアー』の効果を継承している」
「じゃんくうぉりあー?」
「ああ」
かつて俺と共にあって、幾多の難敵を退けてきたその効果は、フィールド場に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力分、自身の攻撃力を上昇させる。
そして今、俺たちの場には、スピード・ウォリアーとボルト・ヘッジホッグ、そしてロードランナーがいる。
「俺のカード達が、お前に力を与えている。今のガングニールの出力は、一時的だが数十倍近くまで上がっている筈だっ」
「みんなの、力……」
俺の仲間が、響を取り囲む。
力強く、彼女を支える。
彼女に呼びかけた。
『ムンッ!』
『ピピッ』
『チーッ!』
俺達がついてるぞ。
君は一人じゃないんだ。
負けるな、頑張れっ!
そう語りかけている気がする。
「皆が、力を貸してくれるんだね…」
「そうだ、俺と、俺の仲間達が、お前の力になる!」
この世界に、必要ないものなんて無い。
どんな物にだって、生まれてきた意味がある。
全ての出来事に意味がある。
風鳴の血も、響の涙も、そして、ノイズに散らされた儚い命にも。
それらを繋ぎあわせて託した、天羽奏と言う一人の少女の命にも。
「よし、行くよみんな!」
『オオッ!』
響の号令と共に、一斉にモンスターたちが散開し、攻撃を開始した。
俺もそのまま見ているつもりはない。
「響を中心にフォーメーションを組め! ロードランナーは巨大ノイズの攻撃に注意するんだ!」
『ピピッ!』
ノイズたちはいきなりの攻撃に戸惑うも、すぐさま隊列を組み直した。
縦横無尽に襲い来るノイズたち。
だが、奴らは一つミスを犯した。
今までと違い、やはり敵は統率された動きを見せている。
誰かにコントロールされているという証拠に他ならない。
「響、右だっ!」
「だりゃああっ!」
「スピード・ウォリアー! フライト型が来るっ、回避しろ!」
『オオッ!』
つまり無雑作に動くのではなく、効率を重視して頭を使っているという事だ。
その事実を俺と言うデュエリストに知らせたのが敗因となる。
即ち、知的生命体同士ならば、同じ盤面での将棋が行える。相手の行動を予測して、先手を打てば、地力で勝るこちらは必ず勝てる!
『遊星君、左よりクロール型だ!』
「くず鉄のかかしを発動!」
弦十郎さんの指示で、俺自身を攻撃しようとするノイズを阻む。
瞬間、響が踵を返してノイズを掴み上げ、そのまま前方の群れに向かって投げ飛ばした。
「てええええっ!」
もんどりうって転倒したノイズがボウリングのピンの様に散らばると、そのままエネルギーの余波を受けて爆散し消滅する。
巨大ノイズが近づこうとするが、そちらはロードランナーが壁となって抑え込んだ。
『敵ノイズ、残存数10にまで減少っ』
友里さんが現状を報告する。
俺が発令室からの情報を受け取り、敵の戦略を分析、そしてそれに見合った作戦行動を響に伝え、仲間の支援を受けた響が突貫する。
響が殴り、スピード・ウォリアーが蹴散らし、ロードランナーは防ぎ、ボルト・ヘッジホッグが攪乱していく。
幾重にも重なる仲間の声。
矢継ぎ早に飛ばされる指示と命令。それぞれが全力を尽くして戦う中で、ついに藤尭さんが叫んだ。
『目標残り3! 巨大個体を残して消滅しました!』
俺たちの前には、そびえ立つ巨大ノイズが三体。
巨人型と芋虫型、そして要塞型。
だがここまでの戦闘で、俺は奴らの攻撃力を概算だがおおよそ見抜いた。
仲間の力を借り受ける『パワーオブフェローズ』を使った響の力ならば、倒すのは容易。
相手もその事を分かっている……ならば次の戦略は……!
『遊星君、奇襲だ! 奴らの度肝を抜いてやれ!』
「!」
弦十郎さんの一喝。
俺の戦略を読んでいたか。
流石だ。俺にはまだ、あのカードが残ってる!
「響、奥のギガノイズに攻撃だ!」
「えっ?」
「奴がノイズを増やしている。増殖される前に片付ける!」
「わ、わかりましたっ!」
ギガノイズとは、一番奥にいる芋虫の型をしたノイズだ。奴がいる限り決着はつかない。
響は俺の指示のもと、背面のブースターを点火させノイズに向けて突撃した。
大地を蹴り、着火されたブースターから炎が吠え猛り、彼女を一直線に目標まで突き進ませる。
「うおおおおおっ!」
「叩き込めっ! スクラップ……!」
そしてナックルガードを装着したガングニールの拳で、勢いそのままに叩きつけた!
『フィストオオオオオオォっ!!』
芋虫型は正にこれからノイズを放出するところだった。後方に控えていた奴を最初に攻撃するとは思っていなかったのだろう。
敵は呆気にとられたまま、響を見送るしかない。
口元から体内に潜り込み、そのまま中を貫通してブチぬく。真っ二つに分断されたノイズの全身をエネルギーの渦が駆け巡った。
ブチブチと気持ち悪い音を立てて敵が崩れていく。
『ギガノイズ沈黙!』
『し、しかし、残りノイズ、不動遊星に向かって進行していきます! このままでは…!』
「……読めていたさ」
響は、俺を信頼して、疑問に思うことなく真っ直ぐに最短距離を突き進んだ。
故に敵は向こう側にいる響に目もくれずに俺を狙うという策に出る。
そんな事は百も承知だ。
だからこそ、俺はこのカードを発動させていたのだ。
「永続魔法『ドミノ』の効果発動!」
響が攻撃を行う直前、俺は既にこのカードを装填していた。
自分のモンスターが戦闘で相手を破壊した時、フィールドの自分カード一枚を墓地に送るごとに、敵をその枚数分破壊できる、このカードを。
「スピード・ウォリアーと、ロードランナーを墓地へ送り、残りの巨大ノイズを破壊する!」
『トオオッ!』
『ピイイっ!』
「いけえええええっっ!!」
二体のモンスターは俺の指示を受け取り、その身体を粒子へと変換させて出現したカードへと集まる。
ドミノのカードから光の縄が出現した。それは崩れていくギガノイズを拘束しつつ、俺の元へと引っ張りよせる。
正にカードの名前が示す通り、ドミノ倒しのようにして倒れ込んだギガノイズは、要塞型ノイズと縺れ合って転倒し、そのまま巨人型をも呑み込んで大地へと崩れ落ちさせた。
「………っ!!」
振動する大気。
轟音が俺達の耳を貫く。
続いて聞こえる静寂……死闘の残滓。
響はいつの間にか俺の元へと駆け寄って、態勢を整えていた。
その果てに……何分間にも、何時間にも続くかと思われた、その時に友里さんの声が伝わった。
『敵の全滅を確認。増援反応、ありません』
心臓の鼓動がやけにうるさく感じた。
だが、その後にやってきた静寂が、俺達の身体に汗を流させた。戦いが終わった、その緊張の解放の証拠として。
「……私達………」
「……響」
「遊……星…さん」
振り返る響。
俺を見上げて、呆然と立ち尽くす。
夕焼けの光が、彼女の頬を照らしている。その顔を、俺は絶対に忘れない。
勝利の女神となって、俺を導いてくれた、手を繋ぐ光を。
くしゃりと、頭を撫でた。
「勝ったぞ、響」
「……うん」
「俺達は生きてる。勝って、生き残ったんだっ」
「……うん!」
生きて、希望を明日に繋げた。
この日、俺は彼女の心からの笑顔を、初めて見たのだった。
・・・・・・・・・・
「ん~~~~~!」
戦いが終わって、現場検証に訪れた了子さんは、俺の身体を舐め回すように観察していた。
「んねえ、遊星くぅ~ん」
猫なで声で俺達にすり寄ろうとするも、ひょいと躱した。
「ああん」
「悪いが、調べるのは後にしてくれるか?」
「いけずぅ。それじゃ、女の子に嫌われるZE☆」
キャラが分からなかった。
恐らく深夜まで起きていてテンションがおかしいのだろう。
いや……彼女なりの、労いなのだと、俺は信じることにした。
「まあでも、あとで身体はちゃんと検査させてもらうわよ」
真面目な顔に戻った了子さんは俺を見て言う。
「私の櫻井理論を一つも二つも上回ったさっきの力、解明しなくてはね。君達の健康の為にも」
「……ああ」
「それにしてもさっきの力は凄かったわねえ。チューナー…だったかしら? あれが君の言っていた、本来の力だったのね」
「…まだ、あれだけじゃないさ。チューナーは一体だけじゃない。他にも揃っていない奴等がいる」
「あれより、もっと強くなるんですか?」
そう言って側に来たのは、オペレーターの友里さんだ。
最早恒例になったコーヒーカップを、俺達に差し出してくれる。
「友里さん」
「はい、お疲れ様。あったいものどうぞ」
「サンキュー」
「ああ。あったかいものどうも」
微笑して、俺はカップを受け取った。
「だとすると、カードは何としても回収しなくちゃね。けど……どうしてあの場所にカードがあったのかしら?」
「いや……」
「ん?」
二人が俺を見る。
考えを口にしようとして、止めた。
今は推論に過ぎない。憶測でものを言うべき時ではない。
「……立花は?」
「奥の車で休んでるわ。さすがに疲れたみたい」
「そうか…」
ただ、立花のことは心配だ。
彼女がどうして、あれ程までに立ち直ったのかは分からないが、それでもシンフォギアにカードの精霊の力を重ねるのが、負担になっているのは間違いないだろう。ただでさえ聖遺物と言う人外の領域に足を踏みこんでいるのだから。
「それがねえ…」
「ん?」
「響ちゃんの身体、いたって健康体なのよ。今は休んでるけど、ありゃただの過労ね」
「何だって…?」
「融合症例だからかもしれないけど……その辺りも含めて、今後君のカードの力の解析は必須でしょうね」
了子さんの眼鏡が光る。その眼は冗談ではなかった。
俺の心配をよそに、少女は今も道路沿いの向こうに泊めてある二課の黒い車で休んでいる筈だ。
「取り敢えず、遊星君」
「? なんだ?」
「これ、響ちゃんに持ってってあげて」
そう言って、友里さんはもう一つのカップを俺に差し出した。
聞けば、コーヒーはインスタントではなく、焙煎からこだわった彼女のお手製らしい。ジャックが聞けば喜ぶかもしれないな。
「……ああ、ありがとう」
「いいえ。今日はお疲れ様」
そのまま俺は彼女のいる方向まで歩いていく。
焼けた草原を踏みしめて、夜の帳が下りた広い空間を歩く。
余所風は肌に当たって、火照った体を冷やしてくれた。
「響、俺だ。友里さんがコーヒーを淹れてくれたぞ」
「……」
「響?」
「……んぅ…」
後部座席のシートに腰かけて。
彼女は穏やかな寝息を立てていた。
昨日から色々なことが重なって、そう言えば彼女もろくに寝ていなかった筈だ。
「無理もないか…」
「……なる」
「…響?」
「強く、なる、から……」
寝息を立てて、再び無邪気な寝顔を俺に見せる響。
自然と俺は、頬が緩んでいた。あれ程までに強さを見せてくれた戦士が、今ではどこにでもいる女の子だ。
いや…普通だからこそ、なのかもしれない。
彼女は風鳴とは違う。だから、俺と歩幅を合わせて、一緒に走っていける。
「……ああ、一緒に強くなろう。響」
トランクから毛布を借り受け、扉を開けると、彼女にそっとかけてやった。
響の分のコーヒーは、後で改めて届けてやるとするか。
そう思い、自分の分のカップを一口啜った。
(ジャック、クロウ、アキ、龍亞、龍可……皆…)
未だに、俺がここへ来た理由は不明のままだ。
一つだけ分かっていることがあるとすれば……皆の絆は、俺を救ってくれた。
そして今、新たな絆が結ばれた。
(ありがとう。そして……すまない)
元の世界に帰るまでには、まだ少し時間がかかるだろう。
だが……約束する。
絶対に俺は皆の所へ戻ってみせる。
この世界の危機を救ってから…必ず。
星屑がきらりと、夜空に煌めいて、そして消えていく。
第3話『落涙と、覚醒の鼓動』
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次回予告
「弦十郎さんに、戦いの特訓を受けているんだってな」
「はい、今日もこれから修行です!」
「俺のやり方は……厳しいぞ!」
弦十郎さんの元、真の強さを追い求めて邁進する響。
そして俺も、少女に遅れないように、走り続ける。それが俺達の、新たな力を切り開いていく。
そして告げられる任務。
それは完全聖遺物、『デュランダル』の護送だった。
次回、龍姫絶唱シンフォギアXDS『力と希望は、なお暗き深淵の底から』
「ところで、二人はアクション映画を嗜むか?」
「「……はい?」」
魔法カード『ドミノ』の効果はアニメ準拠という事でご容赦ください。
『発動していた』ってなんだよ。
遊戯王ではよくある事なので密に、密に。
ルールを守って楽しくデュエル!
因みに今回の話を書くにあたり、遊星バトルや遊星テーマを聴き続けながらテンション上げましたが、皆さんは5D'sBGMはどれがイチオシですか?