龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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このSSを読んで下さる方々の中には、
『響と遊星はどうなの?くっつくの?え、やめて』
と言う人がいるかもですが、朗報です。

響と遊星をくっつけるつもりはありません。
ひびみくはジャスティス、これ基本な。

決して未来とアキ姉ちゃんにダブルで怒られるのが怖いワケではありまおっと誰か来たようだ





第4話『力と希望は、なお暗き深淵の底から』-1

 あの日から……翼さんが倒れ、私達が始めてチームとして動き始めてから、数日が経った晴れた日の朝のこと。

 

「……うん、ここだ」

 

 私は日曜日を利用し、学園の外にあるお屋敷を訪ねていた。和風建築の立派な造り。

 きっと築何十年とか、そんな奴だと思う。

 玄関の前にある門には、叩きつけるような字で書かれた『風鳴』と言う表札が掛けてあった。

 もちろん、翼さんの家じゃない。

 二課の司令官の弦十郎さんの家。

 

(私はもっと強くならなくちゃいけない。その為には…!)

 

 了子さんに相談して、ここの家を聞き出し、早速出掛けた目的はただ一つ。

 

(いつまでも遊星さんに頼ってられない。私自身がもっと戦えるようにならなくちゃ! ようやく筋肉痛も治ったし!)

 

 あの戦い…遊星さんと力を合わせて生まれた必殺技、シンクロ・シンフォギアは、とんでもないパワーを秘めていた。

 ただし私はその後、全身筋肉痛でロクに動けず、翌日の授業内容も頭に入らなかった。

 

『ただの過労ね。取り敢えず、湿布貼っとけば治るわ』

 

 何とか了子さんお手製の湿布薬(え、中身は内緒? なんで!?)を貼りまくり、その日の夜には痛みは引いた。身体中薬臭くて堪らない中で、私はより一層の決意を固めた。

 

 ―強くならなきゃ! 湿布にまみれた臭さマシマシのヒーローなんて聞いたことないし! ―

 

 戦う度にこんなになってたら身がもたない。

 その時に頭の中に浮かんだのが弦十郎さんだ。

 シンフォギアに頼らずに強くなる方法があるとすれば、それはこの人に聞く以外にありえない。

 そう思い、わざわざここまで来たのだった。

 

(よしっ!)

 

 強くなる為には何でもするのだ。

 そう決めた。

 翼さんの想いに報いる為にも。

 

 

「……立派な屋敷だな」

 

 

 と、大きな家の門を見上げて呟いたのは、私の隣に立つ異世界からの旅人さん。

 不動遊星さん、21歳。

 ちなみに独身。

 

「ここに1人で住んでるのか?」

「はい。休日は家で鍛錬に励んでるらしいです。了子さんも言ってました」

「鍛錬か…成る程、只者ではないと思ってたが、それなら戦い方を教えてもらえそうだな」

「はいっ」

 

 私は拳を握って答えた。

 私が二課の基地で特訓したい旨を伝えた時に、偶然来ていた遊星さんも、突然一緒に行くと言った。

 いきなりの申し出に対して私は目を丸くしたけど、遊星さんは大真面目だった。

 

『遊星さんも? そりゃ私としては、一緒にやれるのは嬉しいけど…』

『俺も自分を高めたいと思ってな』

『え?』

『……協力すると言いつつ、俺は心のどこかで、お前たちと一線を引いていたのかもしれない。だが、風鳴が血を流してまで皆を守ろうとしたり、立花が今奮い立っている姿を見て、俺も応えたいと思ったんだ』

『遊星さん……』

『俺も一から戦いを学ぶ必要がある。頼む。一緒に走らせてくれ』

 

 

 遊星さんの凄いところ。

 きっと、どこまでも自分の気持ちに素直になれるところなんだと思う。

 本当に戦おうとしてくれている。きっと、それは私達のためだけじゃない。自分自身のためなんだ。

 

 

『はい! こちらこそ、よろしくお願いします!』

 

 

 なら私も、素直にならなきゃ! 

 この人の隣で、真っ直ぐに走る為にも! 

 そう決意した私達は、こうして2人で文字通り門を叩くことにしたのだった。

 

「けど…これどうやって開くんだろ?」

「チャイムを鳴らせば良いんじゃないか?」

「あ、普通にあった。えい」

 

 インターホンを押して、一瞬の緊張。

 ややあって、低い声が聞こえてきた。

 

『風鳴だ』

「あ、あの! 響です!」

『響君? どうした?』

「お休みの日にすみませんっ。お願いがあって来ました!」

 

 私は声を張って答える。

 弦十郎さんは沈黙の後、『今行く』とだけ言って通信を切った。

 

「あの人は、何か武芸を収めてるのか?」

「私も詳しくは知らないですけど、でも、相当強いのは間違いないです。実際に見ましたから」

「そうなのか?」

「はいっ。ギアを使った翼さんの必殺技を一瞬にして止めて見せたことがあるんです。素手で」

「………」

 

 遊星さんは目を細めて私を見る。

 あ…信じてない、これ。

 うぅ…だ、だって、そりゃ、私もにわかには信じられなかったけど、目の前で見せられたら信じるしかないじゃないですかっ。

 

「……それは幾ら何でも言い過ぎじゃないか? シンフォギアを無手で止められたら、それは装者より強いことになる」

「い、いや、ほんとですよぉ!」

「それと」

 

 私は慌てて誤解を解こうとした時、

 遊星さんは私の目を見て苦笑しながら言った。

 

「また敬語になってるぞ」

「あ…」

「ここは学校じゃ無いんだし、今日は休みだ。普通でいい」

 

 そうだった。

 私は慌てて俯く。

 特訓を受けに行くと決めた時、私と遊星さんはある決め事を二人で交わした。

 一つは、これから困難が待ち受けている筈だけど、二人で協力して乗り切ること。

 そしてもう一つ……

 

「そ、そうだったね、遊星」

 

 戦いの時や、二課の本部でいる時には、敬語を使わない事。

 私はこういう年上の人や先輩への礼儀みたいなのは当たり前だと思ってたし、周りもそうしてたからいきなり言われて戸惑った。

 けど……彼の言葉を聞いて、私はそれを受け入れることにした。

 

「前にも言ったが、俺達はチームだ。余計な上下関係はない方が良いと思う。気を遣って肝心な時に遠慮し合ってたら、いざという時に連携が取れないからな」

「う、うん…」

「それに、俺も敬語を使われるのは性に合わなくてな」

 

 そう言って遊星さん……ううん、遊星は笑った。

 年上の…それも男の人をそんな風に言うのは逆に緊張しちゃうような気もしたけど、妙な気遣いは取っ払った方が良いというのは私も同感だったし、何よりそう言って遊星の方から歩み寄ってくれたという事の方が嬉しかった。

 

「お、おすっ、じゃあ、改めてよろしくね、ゆ……遊星っ」

「ああ。こちらこそだ。響」

 

 何時の間にか、遊星も私のことは『立花』じゃなくて名前で呼んでいたことに気付いたのは、初めてそう呼んでくれたあの日の戦いの数日後だった。

 

「あ、はははっ。な、なんか照れるなぁ。男の人を名前で呼ぶなんて、そんなの初めてだから」

「そうなのか?」

「う、うん。リディアンは女子高だし、私もそんなに男の子と話す方じゃなかったし」

「そうか…」

「ゆ、遊星は……その、そういうのは気にしないの?」

「特にはな。まあ、俺はそういう上下関係に拘る環境にいなかったからな。仲間達とも、普通に話してた」

「そうなんだ…」

 

 こうして話すようになったとはいっても、私はこの人のことを、未だに知らない。

 異世界から来て、科学者をやっていたって言う事くらい。

 だけどどこにいて、何を見て、何を聞いて、誰と一緒に生きてきたのか。そんな事は全然知らなかった。

 聞きたいとは思うけど……けど、余り聞く気にはなれなかった。

 だって、遊星は今こうして私を助けてくれるけど、元は仲間とはぐれて一人、いきなり赤き竜によってこの場所に連れてこられた。それなのにあんまり根掘り葉掘り聞いたら、それは辛い思いをさせちゃうんじゃないかって、そう思うとどうしても憚られた。

 

「ん? どうかしたか?」

 

 でも、聞かないでおくのはそれこそ変な遠慮なのかもしれない。

 もちろん変に詮索するつもりはないけど……

 

 

「おう、待たせたな……っと、遊星君も一緒か?」

 

 

 私が遊星に何かを訊こうとしたその時、重たい門が開き、中から作務衣姿の弦十郎さんが姿を現す。

 いつもながら身体中から精気が漲っている雰囲気がする。あと作務衣姿が異常なほどに良く似合ってる。多分世界一かも。

 

「こんなに朝早くからどうしたんだ?」

 

 ぼんやりそんな事を考えてた私は、すぐに気を引き締めた。

 色々と頼み方を考えて試行錯誤をしていたんだけど、私はこういう時の礼儀作法なんて知らない。ここは思い切ってストレートに頼み込むのが一番という結論に達した。

 

「たのもー!」

「な、なんだいきなり…!?」

「響、それは相手が出てくる前に言う言葉だ。頼みに来る時の挨拶じゃない」

「え? あ、あ、そっか…」

「頼み?」

 

 顔を赤くしてると、弦十郎さんが目を丸くする。

 遊星が横から補足してくれた。

 

「俺達は、訓練を申し出に来たんだ」

「訓練?」

「はい。私達に、戦いを教えてください!」

 

 そう言って私達は頭を下げる。

 要領を得ないと言った風で話を聞いてきたので、ここに至るまでの経緯を説明した。

 

「なるほどな……この俺が、君達にか」

「はい。弦十郎さんなら、きっと凄い武術とか知ってるんじゃないかって」

「俺からも頼む、弦十郎さん」

「……」

 

 しばらく、弦十郎さんは腕を組み、黙って目を瞑ってしばらく考え込んでいた。

 …やっぱり、何か変なことだったんだろうか。私みたいな素人が急にこんなすごい人の所まで頼みに来るのは……けど、私には何もない。何もないなら何でもやる。それが私の結論だった。それに一人でガムシャラにやるより、相手に見てもらった方が絶対に良いに決まってる。

 それに何より……私達には時間が無かった。

 

(今も翼さんは病院で戦ってる……一刻も早く強くならないとっ)

 

 この間みたいにシンクロ・シンフォギアで何時までも勝てるなんて保証はどこにもない。それに私の隣にいる異世界の出身者は、いつもとの世界に帰るのか分からないんだ。たとえ一人でも戦いぬける力を身に着けないと……もう無力な自分ではいられない。

 

 

「……一つ言っておく」

「え?」

「俺のやり方は、厳しいぞ」

 

 

 やがて眼を開いて、弦十郎さんは、静かに私達二人に向かってそう言った。

 今度は私が驚いて一瞬目を丸くする番だった。けど、強くなれるという希望だった。その事実を噛み締めて、グッと拳を握りしめた私は、力強く返事をした。

 

「はいっ! よろしくお願いしますっ!!」

「よろしく頼む、弦十郎さん」

 

 こうして、この日から私達の特訓の日々が始まる。

 しかし、弦十郎さん……いや、師匠の修業は、確かにハッキリ言って生半可なものではなかった。

 厳しさ、キツさ、激しさは勿論だけど、何より……

 

「時に響君」

「はいっ!」

「そして…遊星君。聞いておくことがある」

「…なんだ?」

「君達は、アクション映画とか嗜む方か?」

「「……はい?」」

 

 初っ端から言ってること全然分かりませんでした。

 

 

 

 第4話  『力と希望は、なお暗き深淵の底から』

 

 

 

 取り敢えず上がりなさい、と言われた私達は、奥にある立派な部屋に通された。やはり和風の家だけあって畳部屋だった。

 私はこういう家にあまりお邪魔したことがないから逆に新鮮だった。ただ一つ、違和感を放っていたのが、私達が凝視している、超巨大テレビ。

 4Kぐらいじゃなさそうなのは確かだけど、いきなりここに連れてこられた私達は、取り敢えず見ておくようにと言われた映像をじっと見ていることになった。

 

「何をするんだろう…?」

「分からん」

 

 でも修行に来て、いきなりこれを見せるのには多分何かある筈だ。あの人は無駄なことをやるような人じゃないし、これもきっと修行の一部なのかもしれない。

 

『沖田ァ! へばるにはまだ早いぞッ! 素振り一万本だ!』

『は、はい土方さん! この最強無敵の沖田さんにお任せです!』

『いいか! 俺がいる限り、ここが新撰組だァ!!』

『こふっ!』

 

 画面の向こうでは、桜色の着物を着た女の子が、厳しい鬼のような顔をした上司にしごかれているところだった。

 少女は血を吐きながらも素振りを続けて、また血を吐いて、を繰り返してる。

 ううん、大丈夫かな、この子……っていうか、なんかどっかで聞いた声がするけど……まあ、多分気のせいだ。

 

「だが、何故アクション映画なんて…?」

「さぁ…。この映画みたいな修行をするとか…?」

『最高に高めたフォニックゲインで! 最強の力を手に入れてやるぜ!!』

「……多分違うと思うが…」

 

 今度は主人公の男の子が何かヤバい表情で馬に乗って走ってる。

 まさか、こんな事をするんだろうか……

 

「どうしよう、私、馬なんて乗った事ないよぅ……!」

「だが、俺もお前に戦士としての戦い方を教えることは出来ない…弦十郎さんの指導は生き残る為には必須だ」

 

 遊星が真顔で頷いている。ま、マジすか…マジでやるんですか…? 

 けど……私達が見ているこの映画のように…人の命がかかっているんだ。

 私は思い出した。

 この状況では、手取り足取りなんて悠長に構えてはいられない。

 

『ふふふ、六合大槍の妙技…とくと味わうが良い!』

『むむっ! これが中国四千年の秘技っ!? ですが負けません! 喰らえ、無双三段斬り!!』

 

 どんな力だって、どんな特訓だって耐えてみせる。

 皆を守るために。それに何より、未来との約束を守るためにも。

 

 

「観終わったか?」

「ああ」

「ばっちりです!」

 

 

 やがて師匠が風呂敷包みを持って部屋に入って来る。丁度テレビではエンディングのスタッフロールが流れているところだった。

 

「よし、では次のステップに行くぞ。響君はこれを着たまえ」

「おお、これは…!」

「?」

 

 師匠が風呂敷から取り出したのは、さっき映画で主人公たちが使っていたトレーニングウェアだった。

 ホンモノとそっくりだけど、ちゃんと私のサイズに合わせてある。

 けどなんでわざわざ同じ服を用意したんだろう? 

 私達が疑問に思っていると、師匠は腕を組みながらそれに答えてくれた。

 

「二人には、それぞれ別のメニューを用意した。響君は、まず敵に対する恐怖心を克服するところから始めなければいけない。それには強い精神力と、『自分はできる』と言う肯定力の充実が必須だ」

「つまり……自信をつけるってことですか?」

「その通りだ」

 

 鷹揚に頷く師匠。

 そして私の横で、手渡された服をまじまじと見ている遊星を見て言った。

 

「対して遊星君は、既に強いメンタルと頭脳を持ち合わせている。あとは実践で覚えるしかない。君自身が、前線で戦う意識とイメージを身につけた時、響君と同じ視点を持つことができる」

「……より、響の立場で物事を考えられるようになる、という事か」

「うむ。結果的に、これは結束力を高める修行とも言える」

 

 そっか。

 何となく分かった。

 要するに、遊星が幾ら腕っぷしを強くしても、遊星自身が戦うわけじゃないから、私と同じ修行をしても意味がない。

 むしろそれより必要なのは、私達がより一層、意思疎通ができるようにコンビネーションを高めることなんだ。

 

「な、なるほど! 頑張ります!」

「俺も全力を尽くそう」

「一緒に頑張ろうね、遊星!」

「ああ、よろしくな、響」

「…ん?」

 

 師匠がキョトンとして見てくる。

 あれ? 私達ヘンな事言ったかな? 

 首を傾げていた私達だけど、敬語を止めて話していることに違和感を持ったんだって気付いた。

 

「学校の外では、敬語を使うのは止めにしようと、俺から提案したんだ。建前の関係性なんて、此処では意味はないからな」

「わ、私は何だかやり辛いんですけどね……」

「それに俺も、上にいるような柄じゃない」

「ってことに……なったんですけど…」

 

 しどろもどろに言う私と、あくまで真顔で答える遊星。

 

「君達の好きにすると良い」

 

 弦十郎さんはニヤリと笑って頷いた。

 後で聞くところによると、元々弦十郎さんも、下手な敬語は止める方が良いとアドバイスするつもりだったらしい。

 それに先手を取った私達は、コンビとしては悪くないんじゃないだろうか。この時には、ぼんやりとそんな事を考えてた。

 

「はいっ!」

「ああ」

 

 ところで、と遊星は渡された服を広げながら言った。

 

「……これは、何の服だ?」

「俺の好きなギャングアクション映画に出てくるストリートチームの服だ。君の中に隠された野性を、これで引き出すんだ」

 

 え? 野生? 何の話? 

 

「……気に入ったようだな」

「ああ。昔、デュエルギャングと戦ってた時のことを思い出す」

「え、でゅえるぎゃんぐ?」

 

 微笑して頷く遊星。

 ……やっぱりこの人もよく分かんない。

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 晴れた日の朝。

 風鳴弦十郎宅の庭内には、立派な巨木がある。

 その枝に吊るされた巨大サンドバッグを、響は一心不乱に叩いていた。

 

「たぁ! たぁ! はぁっ!」

 

 響と共に弟子入りし、修行を開始して2週間が経過した。

 響と俺は必ずしも同じ環境で訓練を行うわけではなく、主に響の場合はフィジカルトレーニングを重点的に行っている。

 

「ふんっ! ふんふんっ!!」

 

 今やっているのは、基礎的な筋力トレーニングや持久力アップの為の走り込みと言った、俺の世界の人間が見れば前時代ともとれる手法。

 が、実は理に適った特訓だ。

 

(シンフォギアは、心の強さが性能を引き出す。響はまず、何より心を強くしなければいけない)

 

 身体能力もそうだが、前のめりにチャレンジをし、それを乗り越えることで精神性を養う。根性を鍛えるだけならば、寧ろこうした昔ながらの古臭い訓練の方がプラスにもなる。もちろん、身体を壊さないように休息時間、筋力の超回復など、現代の医療知識も取り入れている。

 更に弦十郎さんの上手い所は、響の現在の身体からどの程度までできるのか、何が最善なのかを逐一観察し、メニューを柔軟に変更している点だった。

 

(やはり只者ではないな)

 

 指揮官としてのみならず、指導者としても一流だ。

 日本の防衛を担う機関の長と言う肩書は伊達ではないという事か。

 

 

「そうじゃない! 雷を掴み、イナズマを食らうようにして打つべし!」

「言ってること全然分かりません!」

「考えるな、感じるんだ!」

「取り敢えずやってみます!」

「『やってみる』のではない! 『やる』んだ!」

「はい師匠!!」

 

(それでいいのか…)

 

 

 まあ、俺には理解できないノリが多数展開されるのだが、響はそれを受け入れているのだから何も言う必要はない。

 むしろ、直観と勢いで乗り切る響には合っていると言えなくもない。

 

 

「はあぁぁぁ……っっ」

 

 

 弦十郎さんのアドバイス? を受け、響は一歩下がると、サンドバッグを見据えて、意識を集中し始めた。ピリピリとひりつく様な空気が辺りを支配し始める。

 恐らく響の中には昨日見たアクション映画の映像が流れ込んでいるだろう。

 技のイメージと創造力を働かせるためには、映画はうってつけだ。特に響のような形から入るタイプには。

 

「っ、でやぁ!!」

 

 そして響がグローブをはめた拳を突き出した次の瞬間! 

 吊るしていた枝が勢いを殺しきれずに引き千切れ、サンドバッグは遥か後方にまで吹き飛び、盛大な音を立てて池にまで落下した。

 

「…!」

「や、やった!」

「うむ、いいぞ!」

 

 ……見事だ。

 いや、想像以上である。

 幾ら響がトレーニングを積んだと言っても、この数週間でここまでの筋力とスタミナを獲得するのは尋常ではない。

 恐らく響がガングニールそのものと融合しているのことが原因だろう。彼女の元々持つ精神力と相まって、ある程度まで肉体を強化しているに違いない。

 

(響は、あの日以来何かが変わった…)

 

 つまりそれは、彼女の心境の変化が起因している。戦うための決意、覚悟だけではない。

 根本的に、人と向き合う目…心の何かに変化が起きたのだ。

 それがあの日の、シンクロ・シンフォギアの進化へと繋がった。

 

「こちらも、スイッチを入れるとするか」

「オス! お願いします!」

 

 これは俺も負けてはいられない。

 自分の中に熱いものが感じられる。

 WRGPに出ていた時と同じ感覚を再び味わうとは思わなかった。それも、こんな年端もいかない少女相手に、だ。

 遅れは取れない。俺も全力でぶつからなければ。

 

「その前にサンドバックを戻すぞ」

「あ、ごめんなさい! 遊…先生」

「気にするな。それと、ここは学校じゃないんだ。遊星で構わないぞ」

「あ、そ、そうでしたね…いや、うん。ありがとう、遊星っ!」

 

 響も、この頃は俺に対してはフランクに話しかけるようになってくれた。敬語を使わない事にも戸惑いは無くなりつつある。

 仲が深まった証と思いつつ腕をまくって、落ちたサンドバッグを両手で掴んだ、その時だ。

 

「……?」

 

 池の金魚がバチャンと音を立てて跳ねる。

 その拍子に立った水飛沫が光を当てて反射され、俺の視界に飛び込んだ。

 いや……違う。

 これは、太陽光の反射じゃない。

 水の奥から……何かが光っている。それが内側から水に透けていたのだ。

 俺はサンドバッグを引き上げ、改めてゆっくりと、透明な液体の中に手を通す。

 

「ん? どうした?」

「遊星?」

「……」

 

 二人の言葉も入らず、ただ静かに、水の隙間に指をくぐらせた。

 光っている水の奥……池の底で淡い光を発し続けている、手のひら大の『それ』をゆっくりと掴んで、引き揚げた。

 薄い虹色の膜に守られたその一枚は、引き揚げられた瞬間、光を放出し、正体を露わにする。

 俺は目を見張った。

 

「…これはっ…!」

 

 どういうことだ? 

 どうしてここに……!? 

 

「ど、どうしたの?」

 

 慌てて響が俺の元へと駆け寄ってくる。

 俺は立ち上がると、その手の中に納まっている物を見えるように差し出した。

 

「カードだ。俺のデッキの…」

「ええっ!?」

 

 響がその場で跳び上がって驚いた。俺も心の内では彼女と同じだ。

 

「それって、遊星が無くしちゃった一枚……ってことだよね…?」

「ああ……」

「ううむ…俺の池はついこの間掃除したばかりだ。こんなものはなかった筈だが…」

「えっ」

 

 目を丸くした響が、弦十郎さんを見る。

 流石の彼も、この事実には驚きを隠せない様子だった。

 飛び散ったカードの行方は、未だ掴めていない。

 無論、緒川さんをはじめとする調査部が全力で捜査中だが、痕跡すら見つからない。

 先の戦いで戻ってきたジャンク・シンクロンで、ようやく一枚目だ。

 が…

 

「それじゃ、どうして…」

「……」

 

 カードに、破損はない。

 今まで水中にあったにも関わらず、新品同様に光沢を放っている。

 俺を幼少期から支え続けた、相棒とも言える一枚は、無言のままこちらを見ている。

 再会できた喜びか、はたまた、とんでもないところに放置された怒りか…いずれにせよ、身体は稲妻に打たれたように、その場に固まってしまった。

 

「…よかったな」

 

 弦十郎さんが俺の肩に手を置く。彼は笑って言った。

 

「弦十郎さん…」

「大事なものなんだろう? 君を見ていればわかる。経緯はどうあれ、それが何よりだ」

「本当に良かったね! 遊星っ!」

 

 響も、カードと俺を交互に見ながら力強く言う。

 自然と、俺も微笑して二人に答えていた。

 

「ああ……ありがとう」

 

 そうだ。

 まだ全て揃わないし、理由も不明。

 が、それでももう一枚、再び俺の元へと帰ってきてくれた。

 それだけで今は十分だ。

 

「よく帰ってきてくれた……ニトロ・シンクロン」

 

 ―当たり前ですよ。いつでも共にいる、貴方の仲間なのですから―

 

 新たに戻ったチューナー・モンスターの精霊が、そう囁きかけた気がした。

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 私の修業は順調に進み、それだけじゃなく、遊星の元にも強力な仲間が戻った! 

 

 チューナー・モンスターと呼ばれるカードの力を使いこなせば、戦術は一気に幅を広げる……と言うのは、遊星の受け売りだった。

 

 

『え、じゃあ、このカードを使えば、私のガングニールもあの時みたいにパワーアップできるってこと?』

『ああ、恐らく可能だ。了子さんも言っていたが、カードの精霊とシンフォギアは似た性質と力を持っている。となれば、このカードを使えば、新しいシンクロ・シンフォギアを生み出せる』

 

 

 遊星によれば、チューナーと言うのは、より強い力を生み出すためのカギとなるモンスターらしい。

 例え弱い力しか持たないカードでも、彼等の力を借り受けることで、新しい次元へと進化できる。

 

『ほうほう、興味深いわねえ。精霊とシンフォギアを合わせて、新しい形へと変化させるフォニック・シンクロ……ギアの固有波形を調律し直すことで、更に装者の深層意識や心象と言った心の力と噛み合わせて、強く昇華させるってとこかしら……正に『チューナー』ねっ』

『ああ。このシンクロ召喚を使うことで発生するある種のエネルギーが、俺達の時代の発展の元になっている』

『モーメントの? それってつまり、カードの精霊やデュエリストの進化へ向ける意識を、遊星粒子が汲み取ってるってこと? ますます惹かれるわぁっ!!』

 

 と、了子さんが話へ割り込んできたところで、私の意識は途切れた。

 ごめんなさい、言ってること全然分かりません。

 まあ、つまり、もっと強くなれるってことですよね。

 

『とは言え……今の響には扱い辛いかもしれないな』

『え?』

『こいつをキーにして呼び出すモンスターは、強い火力を秘めている。瞬間的な爆発力だけなら、ジャンク・ウォリアーよりも遥かに上だ』

『あ、あれより!?』

 

 私は一瞬耳を疑った。

 あの時フォニック・シンクロを使った時に出したジャンク・ガングニールだって相当な強さだ。

 師匠も言ってたけど、多分、単純な腕っぷしの強さは翼さんの必殺技より強力だった。

 

『響自身へかかる負担も考慮しないと、今度は筋肉痛じゃ済まないかもしれない』

『そうねえ。カードの実体化に関しても、まだまだ研究不足だし、安定した戦力にするためには、もうちょっと時間が必要かもね』

 

 と、了子さんも頷いていた。

 つまり、遊星は私の身体を心配してくれていたのだ。

 私も、それにはゾッとしたけど、二人の言うことには従うことにした。私が倒れたら、皆に迷惑が掛かってしまう。

 何より私だって望んで怪我をしたいわけじゃない。

 

 

『よし。響君は、メンタル面のトレーニングと並行して、体力作りを強化しておこう。規則正しい生活と、毎日の食事だ。これを続けるだけで違うっ』

 

 

 そう師匠は力強く言った。

 了子さんも、カードの力の研究をより進めると言ってくれている。

 

『新たな力を使いこなす事が出来れば、それはより多くの人を救うことに繋がる筈だ』

『よ、よろしくお願いしますっ!』

 

 私は恵まれている。

 皆が私の為に身体を張って、毎日頑張ってくれている。

 なら、私はそれに報いなきゃいけない。

 この人達の温かい心は、きっと、奏さんが私に託してくれたものの一つだから。

 

 

 

 ・・・・・・

 

 

 

 そして私は、背を押されるように、更に自分を奮い立たせた! 

 

 

(取り敢えず腹が減っては戦は出来ぬ!)

 

 

「ご飯&たんすいかぶーつ!」

「…」

 

 その日の放課後。

 運良く身体の空いた私は、久しぶりに未来や創世ちゃん達と一緒に食事に出かけることになった。

 行き先は『ふらわー』と言う、近所にある商店街の中のお好み焼き屋さんだった。

 おばちゃんが一人で切り盛りしている店で、その味は控えめに言って70億万点。

 何度食べても飽きがこない、この味わいは一言じゃ語り尽くせなかった。

 

 

「はぐっ! ばくばくっ! もぐもぐっ!!」

 

 

 まず店から漂う香ばしい匂い……お財布や体重を気にして、守備表示になっている私の心に対して、貫通効果を持っている。

 ここでライフを大きく削られた私は、もう抵抗する術を持たないで店の中に入るしかない。

 

「おかわりっ!」

「はいよっ」

 

 そして焼いている時のジューと言う音が、食欲にダイレクトアタック! 

 ついでに言うと、この効果は無効に出来ない! 

 っていうか、するつもりもない! 

 

(この待ってる間が辛いんだよねえ…!)

 

 まさにデス・ゲームッッ! 

 

「はい、どうぞ」

「わーいっ! いただきまーすっ! あぐあぐっ! むしゃむしゃ!」

 

 ほわっと、広がるジューシーな食感と、お肉の焦げた風味、それがおばちゃん自家製ソースとまじりあって……ああ、もう。

 口が噛んで喉を通り、胃袋を過ぎても幸福感を送り届けてくれる。

 正に人類の文化の極みっ!! 

 もう止めて! とっくに私のライフはゼロよっ! 

 

 

「立花さん、今日もたくさん食べますねぇ」

 

 

 詩織ちゃんが呆気にとられて私を見つめる。このお店を見つけて教えてくれた彼女には感謝の言葉もありません。

 

「そんなに食べて大丈夫?」

「ひぃやひぃやふぇいきふぇいき(いやいや平気平気)。ふぁいひんほはんひふらはへへもふとふぁひぁい(最近ご飯いくら食べてても太らない)」

「いや言ってること全然分からんって」

 

 もぐもぐしながら答えた私に、呆れながら弓美ちゃんが言った。

 言ってる意味を唯一理解してくれている未来が、私の手元に水の入ったコップを差し出してくれた。

 

「平気じゃないでしょ。そんなに急いで食べたらお腹壊すよ。はい、お水」

「ふぁりかと(ありがと)、みふ(みく)……んぐ、んぐ……ぷはー! いやー、相変わらずおばちゃんのお好み焼きは絶品だなぁ!」

「ありがと。そうやって頬張ってくれると、作り甲斐があるってもんだよ」

「お代わり!」

「え、また!?」

 

 空になった皿を差し出した私に、創世ちゃんが目を丸くした。

 

「ビッキー、最近なんか変だよ? カラオケでとんでもなく熱唱したり、朝からグラウンドでめちゃくちゃ走ったり」

「急に熱血スポ根アニメに影響されたとか?」

 

 呆れながら言う弓美ちゃん。

 確かに一ヵ月前からの私なら考えられない事だった。

 でも、無理をしているわけじゃない。

 師匠の言うように、体力トレーニングを続けていると、自然とそれまで入らなかった筈の大量の食事がするりと喉を通るのだ。

 しかもこの後でトレーニングを行うと、あっという間にまたお腹が空いてきてしまう。

 もう、私が入学する前に決めた一か月の食事代はあっという間にすっからかんになってしまった。

 幸い、トレーニングの為の食事は装者の必須要素だ、と言って師匠が掛け合って、食費に関しては心配しなくてもよくなった。

 後で領収書を、こっそり貰うのが少し大変だったけど。

 

「い、いや、そう言うんじゃないけどね。取り敢えず、目の前のことを全力で取り組みたいと言いますか」

「響……」

「ほら、ヒナも心配してるよ?」

「え、あ…」

 

 ぎくりと、未来を見て私は目を逸らしてしまう。

 創世ちゃんの言うように、心配と……あと、訝しげの視線が目に入ってしまった。

 

「…う、ううん。別に心配してないよ。あとで食べ過ぎたー、って言うなぁって思っただけだから」

「くすっ、見破られてますね」

「あ、あはは、大丈夫、大丈夫、その辺りは計算してるし…」

 

 それに未来が苦笑して答える。

 私の心がチクリと痛んだ。

 食事に向かっていた私の気持ちが引き戻された。

 そう……この数週間で、私が気にしている唯一のこと。

 私は未来を騙していた。

 必要なことなんだ。私は何度も未来に話そうとした。朝早くや、夜遅くに出かける意味を。元気がなかった理由も、今頑張ってる理由も。

 

(分かってる……話したらいけないって…)

 

 未来を巻き込みたくはない。

 もし知られたら、誰かが容赦なく未来を襲う。

 そんなのは嫌だ。

 そうだ、必要なんだ。私が、こんな思いをするくらいで未来を守れるなら……

 

「立花さん?」

「響、どうしたの?」

「やっぱりお腹痛くなった、ビッキー?」

「あ、ううん、違うよ、そうじゃなくて…」

 

 私が慌てて話題を変えようとしたその時。

 

 

「いらっしゃーい」

 

 

「あ…」

「…不動先生?」

「ええっ!?」

 

 驚いて振り返る。

 入口の所には、つい昼間まで授業をしていた筈の遊星が立っていた。

 向こうも少し驚いたみたいで、キョトンとしている。

 

「立花か。あと……小日向と、安藤と板場と寺島も一緒か」

『…こんにちは』

 

 全員、何となく頭を下げる。

 微妙な空気に豚玉を焼いている最中のおばちゃんが声を掛けた。

 

「あら、みんな知り合いかい?」

「え、えとぉ…」

「学校の先生です。私達のクラスの副担任で、研修でいらしたんです」

 

 詩織ちゃんが解説してくれる。

 

「へぇ、そう。じゃ、そちらへどうぞ」

「どうも」

「………」

 

 五人座っていたカウンターの隣に座る遊星。自然と、端にいた私の横に来る形になった。

 ……さっきまでそれなりに楽しかった雰囲気が一気に固くなってしまう。

 別に遊星が悪いわけじゃないんだけど……。

 

(ど、どうしよう…!)

 

 未だに遊星とウチの生徒の関係はあまり良いとは言えなかった。

 授業のやり方や遊星の性格もそうだけど、つい最近明らかになってしまったある事件も、更に追い打ちになってしまった。

 

(ねえ、不動先生って、腕にも入れ墨あるってホント?)

(え、そうなの?)

(い、いや、違うよっ。あれって、生まれつきのものなんだって、私聞いたしっ)

 

 創世ちゃんと弓美ちゃんが話すのを、私は慌てて止めた。

 竜の頭を模した痣は、何も知らない子からすればヤクザのタトゥーと変わらない。一度それを先生に見咎められて、呼び出されたことがあったのだ。

 

(何とか師匠が色々やって止めてくれたけど……)

 

 けど、生徒の噂まではどうしようもない。このままだと、根も葉もない憶測が立ちかねない。

 ただ、急にこの世界に来て手さぐりで先生をやっている遊星に、そんな立ち回りを演じるのも可哀想だった。

 私に出来ることと言ったら、行く先々で余計な誤解を生まないように説明するしかなかった。

 

(……よし、ここは私が何とか皆との仲を取り持てば……!)

 

 私のお節介がまた発動した。

 遊星の為にも、少しでも関係性を良くしたい。

 何より……私をあんなにも助けてくれるこの人が、悪い目で見られているというのが、とても嫌だった。

 

「あ、あのっ」

「ん?」

「遊……先生、どうしてここに来たんですか?」

「いや、仕事帰りだったんだが、ここから良い匂いがしてな。この手の店は初めてなんだが…色々とあるな」

「あ、それだったら、最初は豚玉がオススメですよ。あとイカ玉と、トマトチーズと、シーフード盛りと、焼きそば乗っけたのも! あとはね…」

「…立花さん、いつの間に不動先生と親しくなったんですか?」

「え?」

 

 詩織ちゃんが怪訝そうに私を見てくる。

 慌てて誤魔化した。

 

「あ、じゅ、授業で分かりにくい所があったから。色々と教えてもらってて……」

「…あんたそんなキャラだったっけ?」

「い、いやほら、先生の授業は面白いし、興味が湧いてくるから、つい気になっちゃって。ほ、ほらほら、先生早く頼んだ方が良いですよ」

「そうだな。じゃあ…」

 

 そう言って遊星はメニューから一つ選んで注文する。

 おばちゃんが焼いている最中、やっぱりぎこちない雰囲気は続いた。さっきまであんなに食欲を刺激してきた香ばしい匂いも、今は余り感じられない。

 う~、どうしよう……! 何か、何かないかなぁ! 遊星と皆が親しくなれる方法とか……授業の話……んな事をJKが学校の外で出来るわけない! ええっと、皆が興味ある話題は……恋バナ? 

 いやいや、そんなこと聞けない。遊星に恋人…が、いるかどうかは置いといて、それどころか、誰も知り合いがいない場所まで放り出されたのに、そんな人間関係なんて答えようがない。

 

「立花、難しい顔をしてるが、どうしたんだ?」

 

 遊星のせいだよ……とは言えない。

 私が心の中で悶々してると、詩織ちゃんがふと沈黙を破って話しかけた。

 

「あのー、先生って何処からいらしたんですか?」

「ん?」

 

(ぬあー、一番答えにくいところーっ!)

 

 彼女もこのまま関係性が微妙なのは嫌だったに違いない。

 けれどその気遣いが逆に混乱を招いた。

 主に私の頭の中に。

 ど、どうしよう、遊星……!? 

 

「え、ええっと、それはねえ…」

「なんでビッキーが答えようとしてんの?」

「あ、あはは、そ、それは、あの……!」

「………仕事で色々な所を回ったからな。何処か、と言うと答えにくいな」

「そうなんですか?」

 

 私の混乱をよそに、遊星は表情を崩さずに答える。

 

「前は技術者とか修理屋をやっていたからな。仕事上、何箇所も回るんだ」

「何箇所もって…そんな前から働いてたんですか?」

「ああ。18の時から、になるのか。それ以前からも幾つかな」

 

 さらりと流すその仕草はとても大人だ。

 けど…18歳? 

 そんな前から遊星は科学者をやっていたんだろうか? この場の嘘かもしれないけど……

 

「え、もしかして先生、メチャクチャエリート? 高学歴で飛び級とか? アニメみたいな…」

「いや、俺は学校には…」

「あぁーーっっ!」

「うわ、何よもう!?」

 

 弓美ちゃんの質問に答えようとした遊星を差し止めるべく、急いで外に止めてある遊星のDホイールを指差しながら叫んだ。

 

「あのバイク先生の? い、いやー、かっこいいなぁー!」

「あ、ホントだ…あれ、先生のなんですか?」

「ああ、まぁ一応な」

 

 遊星自身もキョトンとして私を見る。

 何をいきなり言っているんだ? いつも見てるじゃないか? とでも言いたげだ。

 やっぱり……遊星は私が必死に庇ってることに気付いてない。

 何となく、薄々勘付いてたけど、間違いない。

 彼は所々が天然だった。

 

「でも、見たことない形ですね。外国のメーカーですか?」

「作ったんだ」

「作ったって…え、あれ自作!?」

「そんなに大したものじゃない。厳密にはスクラップ置き場に有ったものを作り直しただけだからな」

「い、いや、十分凄いんですけど…」

 

 へー、と感心したように皆が遊星を見る。

 うーん、良いんだろうか、そんなこと言っちゃって……確かに凄い人って言うのは分かって貰えたかもしれないけど、余計に謎感が深まっちゃってないかな…

 言い出したの私だけど……

 

 

「はい、おまちどうさま」

「おーい、おばちゃーん、テレビまた調子悪いみたいだよ」

 

 

 と、その時。

 奥のお座敷に座ってた、中年のおじさん達が声を張っておばちゃんに話しかけてきた。

 

「ありゃりゃ、本当に?」

 

 丁度出来上がったお好み焼きを遊星に差し出したおばちゃんは、カウンターを出て、座敷へと歩いていく。

 私たちも気になって、その様子を何となく眺めていた。

 

「もう寿命かもねえ」

「結構前から置いてあるしな。型も古いし、そろそろ買い換えたらどうだい?」

「そうしたい所だけどねぇ…」

「そういや、このテレビ随分昔からあるよなぁ?」

「ああ。店開けた時からなんだよ。なんかここまで来ると、この子も相方みたいな気がしてさ。なかなか捨てられないのよ」

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 座敷の向こう側に鎮座している旧式のテレビは、所々傷もあって、明らかに年代ものだった。でもその古臭い感じがお店にあっているような気もする。

 私も子供の頃から使ってる持ち物は中々捨てられないタイプだし、おばちゃんも気持ちも何となく分かる。

 

 

「…よかったら、見ましょうか?」

「え?」

「ええーーーっ!!?」

「ひ、響が何でそんなに驚くの…っ?」

 

 

 未来が隣で仰天するのも気付かず、私は跳び上がってしまう。

 何でここでそういうことやっちゃうかなこの人わっ!? 

 

「……そんなの出来るのかい?」

「電化製品の修理は昔からよくやってましたから。見たところ、どこか断線しかかってるだけみたいですし」

「見ただけでわかんのかい。そりゃ凄い。じゃあお言葉に甘えようかねえ」

「ええ」

 

 遊星はそう言って席を立つと、お座敷の方まで歩いていく。

 創世ちゃん達も興味を持ったのか、ついその様子を眺めていた。

 私は慌てて席を立つと、遊星の後ろまで近づいていく。

 

「ゆ、遊星、大丈夫なの?」

 

 既に遊星は手袋をはめ直して、テレビをあちこち触って中を確認していた。

 私は皆に気付かれないようにコッソリ話しかける。

 

「ん?」

「い、いや、そんな風にしても…」

「ああ、大丈夫だ。やはりコンデンサだけだ。あとはセンサー部分に汚れが溜まってたな。今は応急処置で、あとでちゃんとした部品に交換すればいい」

 

 そゆことじゃなくてー! 

 

「そ、そうじゃなくてさ…あんまり目立っちゃうと…」

「……俺も古いものに愛着がある気持ちは分かるからな」

「え?」

 

 そう言ってどこか懐かしそうに、配線を手直ししたり、カバーを外す遊星の顔は、とても優しかった。

 私は今まで見たことのない表情。それはこの人の、隠れた愛情だった。

 

「いや、手馴れてるなぁ。お兄さん工場にでも務めてたのかい?」

「いえ、育ちが貧しいものですから。こうやって修理できるものは可能な限り使い回してました。どんな物にだって、そこにある以上意味があると俺は思います」

「……」

 

 どんな物にも意味がある。

 それは、あの時にも言われた。私を救ってくれた信念。

 私を支えているちっぽけな正義を認めて、背中を押してくれた遊星の言葉。あの時のことを、私は一生忘れない。

 

「いゃぁ、偉い! 感動したぜお兄ちゃん! 今時そんな立派なこと言うヤツ滅多にいねえよ。よし、俺も手伝ってやるか」

「いえ、これくらい…」

「気にすんなって。もっと広いとこのがいいだろ? おばちゃん、そっちのスペース使わせてくれるか?」

「ああ、もちろん」

「…ありがとうございます」

「あ、じゃあ僕は新聞紙とか取ってくるよ。下に敷くのが必要だろうし」

「それなら、儂のを使いなさい。もう読み終わったから」

 

 周りの大人たちは、そう言って遊星の所へと一人、また一人と集まっていく。やがて誰かが手を貸すと、それを見た周りも次々と面白そうに見始めていた。

 私はその光景を、胸がジンとなって、ふわふわと温かくなる。

 誰とでも分け隔てなく、優しい気持ちで接する遊星。

 それが周りの人間を動かして、いつの間にか大勢の人で囲まれていく。

 

「遊…先生」

「ん?」

「私も手伝いますっ!」

 

 何時の間にか、私は笑顔でそう申し出ていた。

 この輪の中に私も入りたくて。

 

「ちょ、ちょっと響っ?」

「そうか。助かる。じゃあすまないが、俺のバイクのシートの下に工具箱が入ってるんだ。取って来てもらえるか?」

「はいっ!」

「ひ、響ってばっ、待ってよっ」

 

 未来の制止を振り切って、私は外へと飛び出す。

 

「……不動先生って、一体何者?」

「さぁ…?」

 

 後ろで創世ちゃん達が首を傾げてたけど、もう私は気にしなかった。急いでDホイールのシートの下にある工具箱を持って、遊星の所まで運んでいく。

 遊星はそれを受け取ると、すぐにドライバーやレンチを使って作業し始めた。

 

「…慣れてるんだね」

「子どもの頃から、ガラクタをいじってばかりだったから、いつの間にかな」

「へぇー」

「よし、できた」

「はやっ!?」

 

 テキパキと修理を進める遊星。

 私が何をやっているのかも分からない内に作業は終了した。そのまま電源を差し込んでスイッチを入れると、多少画質は荒いものの、ついさっきまでやっていた野球中継の映像が飛び込んできた。

 

「お、映った!」

「凄えなお兄ちゃん!」

 

 おお! と歓声が沸く。

 何時の間にか店の外からも何人かが集まってきて興味深そうにこっちを見ていた。

 

「いえ、取り敢えず繋いだだけですから。後日、また改めてパーツの替えを持って伺います」

「え、そんなことまでしてくれるのかい?」

「そのつもりでしたが…ご迷惑ですか?」

「いやいや、そんなことないよ。でもお客様にそこまでねえ」

「気にしないでください。俺が好きでやってることですから」

 

 そう言って笑顔で答える遊星に、おばちゃんは戸惑ったけど、裏表のない遊星の言葉に、やがて納得してくれた。

 その様子を、私は横で眺めていた。

 

(私……変に気にし過ぎたのかな)

 

 この人は、決して孤独にはならない人だ。

 例え別世界に来たとしても、何時だって遊星は誰かに手を差し伸べる。それは、大きく広がっていて、いつの間にか輪になっている。その中心に、何時も遊星がいたんだ。

 この人みたいになりたい……こんな風に誰かを助けたい。

 私は心の底から思った。

 

 

「………」

 

 

 ただ、気付かないといけないのは……

 

「んん? 未来、どうしたの?」

「あ、ううん……何でも、ないよ」

 

 未来の翳った顔を、あまり見られなかった事だった。

 




チート主人公遊星パート2
何が凄いって別に異世界転移して神様からスキル貰ってないのに無双するんですよね。
流行ガン無視ですよコイツ
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