ホントはもっと早くアップする予定だったんですが……すみません、喉の調子を壊し、そこから疲れが爆発したのか、夏バテみたいな状況が続いておりました。
もしかすると、この次が少し遅くなるかもしれません。
長い目で見ていただければと思います。
よろしくお願いします。
「ぶふぁーっ! つ、疲れたぁーっ!」
今日も訓練をひとしきり終えた私は、本部発令室の真ん中にあるソファに思いっきりダイブした。
ジャージ姿で寝転がるなんて女子力を完全に無視した振る舞いだけど、仕方がない。師匠の修業の前でそんな見栄や建前を気にしていたら強くなる意味がない。
「あ、朝からハード過ぎますぅ〜…」
「頼んだぞ、明日のチャンピオン」
「お疲れ様、響ちゃん」
「ありがとう、ございます。うんぐ、んぐ……っぷはー!」
友里さんが、いつものように私に飲み物を手渡してくれる。流石にコーヒーじゃなくてボトルに入ってるスポーツドリンクだけど。
「やってるな、響」
「あ、遊星! お疲れ様」
その時、遊星が扉の向こうから入ってきた。
「Dホイールの調子はどうだ?」
「問題ない。了子さんのお陰で、以前よりも出力が上がってる」
「それは何よりだ」
師匠が頷く。
遊星はこの日は別メニューだった。
シミュレータールームという、本物そっくりの映像を使っての、Dホイールのテスト走行だ。
もちろん、師匠の渡してくれたあの修行服を着て。
(あれ着ると何故か性格変わるんだよね…?)
ギザギザハートというか、師匠の言う通り、本当に野性に目覚めた感じに目がギラつくんだ。
今はもう着替えてるけど…ううん、謎だ。
ちなみに翼さんはやらなかったそうだ。映画を見た次の日に『キュアサキモリ!』とか叫んだのを見て師匠が止めた…らしい。
「藤尭さん、シミュレーションのデータは?」
「とっくにまとめてあるよ。取り敢えず言われた通り、加速度と平均速度、それとスピードカウンターの上昇比率だ。後はお節介かもしれないけど、移動速度に応じた各ノイズの反応パターンも記録してある」
「ありがとう」
遊星はデータチップをポケットから取り出し、藤尭さんに手渡す。
「すまないな、他の仕事もあるって言うのに」
「気にしなくてもいいよ。こういうのが俺達の仕事だからさ。それにこうでもしないと、君に出番奪われるし」
「え?」
「響ちゃんに聞いたわ。お好み焼き屋のテレビ、あっという間に直したんですって?」
「テレビ?」
師匠の言葉にうんうん、と私は頷く。
「はい。凄かったんですよ、あっという間にパパーッて」
あの一件はお店の常連さんの間で広まって、ちょっとした話題になっていた。
まだ学校では遊星への誤解は続いているけど、少しでも助けになれたらと、私は師匠達にその一件を伝えた。
「別に大したことじゃないんだがな」
「謙遜しないでいいさ。全くこっちは自信無くすよ。あれ程のマシンを自作して、おまけに手足みたいに操ってさ」
そう言って、苦笑しながら藤尭さんはコンソールを叩いている。
「戦士としてもメカニックとしても優秀。おまけに情報処理速度も一流ときてるんだ。君が正式に二課の所属になったら、俺はお役御免だね」
「そっちこそ謙遜はよせ、藤尭さん」
ニヤリと笑いながら、遊星は藤尭さんをジッと見つめる。隠したものを見つけ出したような目だった。
「現場に一回も訪れることなく、リアルタイムでの分析と先読みをあそこまで出来るのは、現状、アンタを於いて他にはいない」
そう言って、遊星は藤尭さんの手元を見る。私も釣られて視線を追うと、そこでオペレーターのお兄さんはさっきから休むことなくコンソールを叩き続けていた。
「この本部の人間は誰しもが超一流だ。視野の広さ、柔軟に対応する戦術眼…そして何より冷静さが求められる。俺の世界にも、これほどの人材が揃った所はない」
「だといいんだけどね」
「……おぉ」
私は二人の会話につい聞き惚れた。
何と言うか、まさにプロフェッショナルってイメージがぴったりだ。
一流は一流を知る、と師匠に教わったばっかりだけど、あれはこう言うことを指していたんだ。
「どうした、響?」
「い、いやぁ、なんか…凄い大人の会話だなって思って」
私は苦笑しながら頭を掻いて答えた。
私が腕っ節を強くしたとしても、この人達がいないと戦えない。
分かってたことだけど、私は皆に…
「ほら、色々と、他の人に支えられてばかりだから。そういう風には出来ないし…」
「………」
「ふわぁっ!?」
突然、遊星が私の側まで歩いてくると、優しい手つきで私の頭をそっと撫でた。
いきなりのことにドギマギしながら、驚いてしまう。
「な、何、いきなりっ!?」
「いや、何でもない」
遊星は微笑しながら藤尭さんに預けたチップを受け取っている。
混乱する私に、今度は友里さんが肩に手をおきながら言った。
「…支えられる人にも、仕事はあるってことよ」
「えっ、ど、どう言うことですか?」
「いつか後輩が出来たら分かるわ」
「ええ~っ?」
うぅ…なんか、はぐらかされた…!
そりゃまぁ、私は未熟だし、子供だけど…後輩ができたら分かるって、何が?
って言うか、そもそも…
「師匠……私に後輩って出来るんですか?」
「ん?」
「いえ、その。自分で戦うって言っておいて何なんですけど、こんなうら若き女子高生とかに頼らなくても、他のシンフォギアを作るとか、他の武器を作るとか、ないんですか?」
「公式にはないな。日本だって、シンフォギアの存在は最重要機密として完全非公開だ」
「ですよねー」
シンフォギアを作るには色々と足りないものが多いらしい。了子さんが言っていた。
私に後輩が出来るのは当分先らしい。
あ、そうだ。了子さんといえば…
「あの、了子さんは何処に行ってるんですか?」
「ん? ああ、永田町だ」
「永田町?」
「政府のお偉いさんに呼び出されてな」
「政府?」
「本部の安全性や防衛システムに対して、関係閣僚に説明義務を果たしに行っているんだ」
師匠はとても面倒くさそうに眉をしかめる。
こんな風に顔に出るのは珍しかった。
「はぁ……なんか、よく分からないけど、大事なことなんですね…?」
「政府の役人や省庁は、俺たちを目の敵にしてるからね。ご機嫌取っといたり、ちゃんと仕事してるアピールしないと、何を言われるかわからないのさ。『トッキブツ』なんて、ふざけたアダ名を付けたりとかね」
「トッキブツ?」
「そう」
藤尭さんがコンソールの手を止めて、私達を振り返って見る。
「『特異災害対策機動部二課』を略して、『トッキブツ』…ステキな名前だろ?」
「はぁ…」
なんてネーミングセンスだろう。
口には出せなかったけど…この国の偉い人達が二課を悪くみていると言うのは嫌という程に伝わった。
「何で嫌われてるんですか…? 皆、頑張ってノイズと戦おうとしてるのに…」
「情報封鎖の為に、時々無茶を通すからね」
情報封鎖…シンフォギアの秘密を知られないようにする為の裏工作って事らしい。
(それってつまり…私が色々とやらかした後始末ってことだよね…っ)
罪悪感と情けなさが浮かんできた。
考えてみれば、私が周りを気にせず戦えるのも、普通に生活できているのも、二課の人達のおかげだった。
「ごめんなさい……私……あんまり気にしないで結構派手にやらかしてますけど…」
「響ちゃんは気にすることないわ。大体、情報の秘匿だってその上が決めたことなんだから。やり切れないわよね…」
「いずれ、シンフォギアを外交カードにしようとか企んでるんだろうな」
「ええ。EUや米国は、いつでも回天の機会を窺ってるはず……現行のテクノロジーより全く別系統の技術だから、なおさら欲しいんでしょう」
友里さんは難しい顔で藤尭さんと話している。
ここまで来ると、私には既にちんぷんかんぷんの領域に入ってしまっている。
(要はシンフォギアの事をバレないように無茶な事を繰り返すから政府の人達は怒ってて、何でバレちゃダメかと言うと、外国相手にシンフォギアを利用しようとしてて、何でそんな事をするかと言うと、外国やEUや米国が回転してて…?)
あ、もうダメだ、おやすみ…。
「この世界では、欧米の経済力はそこまで落ちているんだな」
「遊星君の世界は、そうじゃないのかい?」
「ああ。デュエルモンスターズの経済効果で、未だに米国は一大国家だ」
「ふーん…前にも思ったけど、そんなにカードゲームが世界を左右するのか?」
「デュエル自体もそうだが、何よりデュエルにまつわる最新関連技術が、世界経済に影響を及ぼす部分がかなり大きい……」
「なるほど。ソリッドビジョンや、モーメントエンジンも、悪用すればそれだけで勢力図を一変しかねない……だから遊星君の世界では、日本が技術を独占してるのね」
「ああ。海馬コーポレーションの、3代目社長の海馬瀬戸と言う男が、軍事利用を徹底的に差し止めさせたからな。実質的に、軍事介入をある程度抑制しているという見方も……」
遊星の言葉を子守唄に、私は眠りに落ちようとしていた。
ただでさえ政治・経済の成績はぶっちぎりのトップなのに……もちろん、下の方で。
こんな会話、分かるはずない。
「こっちは経済破綻が数年前から連続して起こってね。特に欧州は『暗黒大陸』と言われるほどさ」
「なるほど」
「お、おぅ……」
「響、どうした?」
「い……いやぁ、なんか、凄い大人の会話だなって思って……こふっ…!」
「響ちゃんには、まだ難しかったかしらね」
「経済の勉強も、大人になるには必須だよ」
「あー! やめてとめてやめてとめてやめてぇー!」
私はソファでゴロゴロとのたうち回った。
なんで体使った後でこんな頭まで使う修行までやらなきゃいけないのか。こんなのはカリキュラムにはありません!
「だが、確かに本来なら、響君にこんな血生臭い話を聞かせる必要はないんだがな…」
と、師匠は低い声で言う。
私はその横顔を、頭痛にうなされながら何となく見た。
それはさっきの私と同じ、情けなさと罪悪感みたいなものが、垣間見えた気がした。
「異世界から来た遊星君にとっても、こんな話は、全く関係ないというのに」
「いや…俺の世界も変わらないさ。紛争が続く国や地域も沢山ある……ノイズがいない分、遥かにマシだとは思うが、それでも、実質に変化はないのかもしれないな……」
そして、その時の遊星の目は…
悲しい顔をしていた。
(遊星は…)
何処から来て、何処へ行こうとしていたんだろう。
ふと、そんな事を思い浮かべた時だ。
「司令、緒川さんより通信です」
「……繋いでくれ」
発令室に高いコール音が鳴り響く。
師匠の言葉で、友里さんがコンソールを操作すると、巨大なディスプレイに『Sound Only』の文字が表示された。
『司令、お忙しいところ、失礼します』
何度も聞いた緒川さんの声が伝わる。
けど……気のせいかな。
ぱっと聞いた感じ、そんな変な風には思えない。
それなのにどこか、普段の緒川さんにはない硬さがあったような気がした。
「構わん、どうした?」
『そうですね。良いニュースと悪いニュース、どちらにしますか?』
「…取り敢えず、苦手なもんは早めに片付ける主義だ」
『そうですか……では』
そう言って、ひと間置いて緒川さんは話し出す。
『広木防衛大臣が、暗殺されました』
私がうなされていた話題は、決して遠い世界の出来事ではなかった。
目の前にあるモノだけを見るのは、とても怖いことなのだと、この時に私は初めて知った。
・・・・・・・・・
俺の世界と、この世界の大きな違いは二つ。
一つは当然、ノイズの有無。
そしてもう一つが、デュエルモンスターズの存在だ。
デュエルモンスターズを生み出したインダストリアル・イリュージョン社のある米国、そしてモーメントやソリッドビジョンをはじめとするテクノロジーのノウハウを熟知している海馬コーポレーションを擁する日本。
この二つが、俺達の世界での二大大国だ。
「いや…俺の世界も変わらないさ。紛争が続く国や地域も沢山ある……」
海馬瀬戸と言う奸雄の活躍で、日本の経済はトップを独走する結果となった。
だが、それは彼の築いた功績によるものだ。人類全てが醜いエゴを捨て去らない限り、世界から争いは無くならない。
だからこそ、俺達の未来は、一度破滅へ向かって進んだ。
(……Z-ONE…)
かつて、対立した男を思い出す。
あの男は、ネオ童実野シティを消滅させることで、破滅の未来を救おうとした。だがこの世界に来て、彼の選択はやはり誤りだと悟ってしまった。
人自体が変わらなければ、世界は混沌としたままなのだ。
『広木防衛大臣が、暗殺されました』
緒川さんから、もたらされたこの一報が、その証拠だ。
「…え」
「……」
「そんな…っ!!」
「嘘だろ…!?」
一瞬にして、さっきの和やかな雰囲気は吹き飛んでしまう。
この場に居て、状況も分からずに戸惑っていたのは、俺と響だけだ。
だが、暗殺と言う尋常ならざる単語が出てきたことで、暗澹な空気が蔓延するのは伝わってしまう。
「広木防衛大臣……と言うのは?」
俺はゆっくりと言葉を選んで、弦十郎さんに問いかけた。
振り返ると、彼は重い口を開いて返答する。
「……二課の活動を陰ながら支援してくれていた、最大の理解者の一人だ。さっき言った、己の保身ばかり気にするような連中ではない、数少ない人物だった…っ」
「俺達が何とかやってこられたのも、あの人の後ろ盾があったからだってのに…!」
藤尭さんが戦慄した表情で溢していた。
同時に俺達の心も、安穏とした日常から、荒々しい戦場へと強制的に呼び戻された。
彼らの話していた国際状況、そして日本を取り巻く諸国の圧力……分かっていた筈だった。
だが俺自身……何処か他人事のように感じていたのは、彼等に守られていたからに他ならない。
「それで、犯人は?」
『分かりません。既に多数のテロリストや武装勢力から、犯行声明が出されています。永田町を出て、再開発の跡地を走行中に……我々としても迂闊でした…』
無論、暗殺された側も馬鹿ではない。何らかの対策手段は講じていただろう。
その隙間を縫って一国の要人を暗殺するというのは恐らく……
「司令…」
「ああ。ただのテロ屋の集団にこんな真似は出来ん。明らかに計画的に練られた犯行だ」
弦十郎さんが歯噛みする。
ここは決して平和な世界じゃない。
ノイズという化物の存在など、その実、可愛いモノだ。
サテライト以上に人の強欲と暴力が渦巻いている。今はまだ、この国には表面化していないだけなのだ。
「……」
「響、大丈夫か?」
「え……あ、うん。ごめん…なんか、実感湧かないって言うか…」
「…確かにな」
響は俺の横で呆然としたまま、ただ緒川の話を聞いていた。
無理もない。こんな話、普通の学生には重過ぎる。
彼女は世界の残酷さを知るには余りに幼い。戦う覚悟を決めたとはいっても、まだ子どもなのだ。
「……了子さんは?」
だが…次の瞬間、彼女はハッとなって弦十郎さんに詰め寄った。
「了子さん、永田町に行ったって…」
彼女の言うように、了子さんが狙われても不思議はない。
シンフォギアの開発者であり、如何に豊富な人材が揃っているとはいえ、彼女こそ唯一替えの利かない人物。この二課の要と言ってもいい存在だ。
(装者を狙って返り討ちにするより、遥かに確率が高い…!)
「緒川」
『……依然として、連絡が付きません」
「…そんな」
響の顔が青ざめている。
たった今、人が人の手で殺されたという事もそうだが、恐らく衝撃を与えたのは、その魔の手が身近な人間に迫っているという事実だ。
「響、落ち着け。まだ何かあったと決まった訳じゃない」
「け、けど…!」
手を取り、揺さぶるように言って聞かせた。気休めにしかならないとは分かっている。
俺自身、心の底から這い出でようとする暗い予感を払拭出来ずにいる。
考えたくはない……考えたくはないが…!
やはり、そうなのか。
この中に…!
「直ちに了子君の行方を…!」
「やっほーい! ただいまー! やー、キツかったわー、首都高速メチャ混みでさぁー!」
プシューという音と共に、後ろのドアが開き、同時に気の抜けた素っ頓狂な声。
俺達が全員、油の切れたゼンマイ人形の様にゆっくりと振り返る。
『……』
「あれ? どうしたの?」
そこには、さっきまで全員の脳裏に、最悪の状況として死体として横たわっていた筈の女性が悠々と笑いながら立っていた。
「……」
「了子さん!? え、い、生きてるんですか!?」
「ヒドっ!? 幾ら遅刻したからってあんまりじゃない、それ?」
明らかに不機嫌そうな顔をして顔をしかめる了子さん。
どうやら本当に無事なようだ。
僅かに安堵が戻った二課の面々を見て、了子さんは目を瞬かせている。
「…なに、一体どうしたの?」
戸惑う了子さんに、弦十郎さんが今あったことをゆっくりと聞かせる。
「……うっそ…広木さんがっ!?」
流石の彼女も、この報告は予想外だったらしい。
驚きを通り越して、言葉もないようだった。
話によれば、つい数時間前に本部基地の重要性について話して聞かせた相手が、正にその広木防衛大臣だったというのだから。
「了子さんに連絡がつかないから、みんな心配してたんですっ!」
「……」
「了子さん?」
「あー…ごめん。壊れてたわ。アハハハ…」
「……」
苦笑いで誤魔化す了子さん。俺達は言葉もなかった。
科学者が自分の持つ電子機器の故障にも気付かないなど、笑いを通して呆れる所だ。
しかしこの場合は却って良かったのかもしれない。
(通信機のGPS機能を逆探知すれば、居場所を知られる要因になりかねない。この人がそこいらのクラッカーに後れを取る筈はないが……)
「でも心配してくれてありがと。けど、私は大丈夫よ。何より」
そう言って、了子さんは持っていたアタッシュケースを空に置き、ロックを解除すると、中身を取り出す。
入っていたのは、小さなデータチップだった。
そう言えば、彼女の役割は官僚への説明だと言っていたが……
「政府から受領した、機密データも、この通り無事よ」
「何ですか、それ?」
「実は了子君には、もう一つ任務があった。政府からの移送命令を受諾することだ。結果的に、広木防衛大臣が了子君を守ってくれた形となったが……」
どうやら俺達の聞いていない所で、別の話が進行していたようだ。
今までならば、俺の与り知らぬところで話を進めるのは、不信感を抱く要因になっていたところだったが……この場合は仕方がない。
(……この基地周辺に出るノイズ、鎧の少女の突然の襲撃に、本部へのクラッキング……そして今回は後ろ盾の暗殺か)
幾ら何でも出来過ぎている。
俺の中で、もう一つの予感は確信へと変わった。
「移送命令って、なんですか…?」
「うん、ここまで来たら、響君と遊星君にも話さなければならないが…」
と、弦十郎さんが口を開いたその時。
通信画面を開きっぱなしにしていたのを、俺も響もつい忘れてしまっていたが、緒川さんの声が割って入った。
『司令』
「ああ、そうだったな。良いニュースの方が残ってたか」
「あら? 緒川くん、外にいたの?」
『その話し方だと、了子さんは無事、という事でいいんでしょうか?』
「……もしかして、私のこと探してくれてたりする?」
『僕だって一応、心配しているつもりですけど?』
「あ、あはは、ごめんね~」
了子さんもバツが悪い顔をしている。
知り合いの、しかも一国の大臣が暗殺されたとなれば、仕方のないことかもしれないが。
しかし、緒川さんが大事な会話を中断するというのは、それに匹敵する報告があったという事だ。
「それで、報告と言うのは…」
『ええ。先程、翼さんの意識が回復したと、連絡が入りました』
「えっ……」
『依然、絶対安静の状態だそうですが、それでも、命の危機は脱したそうです』
そしてそれは、俺達に僅かに希望を残してくれた。
「ほ、ホントですか…?」
響は食い入るように、緒川さんに向かって問いかけた。
「本当に、翼さん……」
『はい。間違いありません』
「っ…っぅ…」
「響君…」
「よ、よかった……っ! 翼さん、無事で…っ!」
その場に謝編みこんで、目じりに涙を浮かべていた。
俺達が抑えようとして、心の底で振り切れずにいた不安要素だった。
彼女の身に万一のことがあればと、それでも言葉にしても意味はないと、ただただ祈るだけしかできないことだったが、この日、初めて心から胸を撫で下ろせる出来事だった。
「……ほらほら、可愛い顔が台無しよ。そんな顔したら、翼ちゃんにまた怒られちゃうぞ。そしたらあの子、血圧上がってまた入院…なんてね」
「しゅ、しゅみましぇん…!」
了子さんがハンカチを手渡す。
涙を拭う響の肩に手を置くその姿に、俺も少なからず、心を癒されていた。
弦十郎さんが言ったように、響も本来、こんな裏事情とは関わらせるべきではなかった。純粋な彼女の涙がその証拠だった。
「広木大臣の弔いの為にも、翼ちゃんの為にも、任務を完遂させないとね、弦十郎君」
「勿論だ。これより、緊急作戦会議を行う。関係各員に通達してくれ」
「了解っ!」
俺には分かる。
数年前の俺なら信じずに拒絶しただろう。
だが、俺は既に見たのだ。人の心が進化を踏み外した挙げ句の未来を。絶望の末に起きた破滅を。
それでも……
「まだ希望はある」
俺は自然と声に出していた。
ここには確かに、平和を願い、命懸けで戦おうとする人々がまだ大勢残っている。
彼等と共に力を合わせることが、平和への架け橋となる。
(そうだな、Z-ONE…!)
未来を託して散ったもう一人の自分に、俺は誓いを新たにした。
次回、バトルパートへと続きます。