龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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XV面白かった〜
まさにシンフォギアの集大成でしたね

これを機にまだまだシンフォギア熱はオーバーヒートします。



第5話『兆しの行方は、集いし想いの果てに』-1

 デュランダル護送任務は、結論のみを簡素に言えば、失敗に終わった。

 ただし、俺達は不利益を被った訳でもなく、寧ろその意味では成功とも言える。

 デュランダルは、元より機動部二課の管轄だった。それを政府が横やりを入れる形で自らの手元に置きたがっていた。

 しかし、この計画を後押ししていた広木防衛大臣が暗殺されたことによって、デュランダルの管理責任が曖昧となってしまい、話は混沌とした。

 

 

(結局、元の鞘に納めて、二課に保管と保護を任せると言う形に戻ったはいいが……)

 

 

 ……ややこしい話になるが、要は己の保身しか考えない連中が、厄介ごとの種を俺達に押し付けただけなのだ。

 永田町でデュランダルをそのまま守っていれば、そこに出入りする役人たちも狙われかねない。命の危機に晒されるくらいなら、と彼等は俺達に大任を押し付けた訳だ。

 

 

(……どこの世界でも、他人を利用し、蔑むという性は変わらないという事か……)

 

 

 分かってはいた事だ。

 俺達の世界も、Z-ONEが危機を知らせなければ破滅へと突き進んでいた。

 しかし、人がいがみ合い、紛争や内乱が起こったりする規模と頻度は、俺達の世界と比べても、多いとさえ感じられる。

 

 

(この不和の根源は、どこから……)

 

「ねえ、不動先生」

「……え?」

 

 

 ふと、そんな事を考え込んでいた時だ。

 正面の中年の男性に声を掛けられ、思考は中断された。

 

「街のお好み焼き屋のテレビ直したんだって?」

「ええ、まぁ……」

 

 今、話しかけてきたのは、リディアン音楽院の、食堂の調理主任だ。

 政府が管理・運営している国立学校だけのことはあり、施設や人員は最高のものが揃えられている。この広い食堂もその一つで、出される食事も学校設備とは思えないほどに美味い。

 俺も非常勤講師ではあるが、ここで教鞭をとる以上、その恩恵にあずかることができるのだ。

 

「どうしてそれを?」

「あそこのおばちゃんとは古い仲でね。それで、どうだろう? ここの厨房の換気扇も、なんか調子悪くてさ。業者も立て込んでて、修理遅れちゃうって言うし、よかったらなんだが…」

「良いですよ、俺でよかったら見ます」

「本当に? いやぁ、助かるよ!」

 

 豪快に笑う調理主任。闊達な人柄で、生徒たちにも受けがいい。女子ばかりが通うこの学校では、これくらいがちょうどいいのかもしれない。

 

「おじさーん、こんにちはー」

「おう、おはよう。Aランチでいいかな?」

「はい!」

「………」

「あ……お、おはようございます」

「……ああ、おはよう」

 

 俺はと言えば、あまり生徒との関係は良好とは言えない。

 最初は仕方ないと思っていたが、距離を置かれ過ぎても居心地が悪い。

 何よりこの間の様に妙な噂が立っては、弦十郎さん達に迷惑をかけることとなる。

 

(不動先生って暴走族だったんでしょ?)

(え、そうなの?)

(なんかゴツいバイク乗り回してるの見た子がいるんだって)

(えー、ホント?)

(それで竜のイレズミってマジヤバいじゃん)

 

「……」 

 

 あながち嘘ではない。ギャングの真似事をしていたのは事実だ。

 尤も、あの頃の俺達がやっていたのは、閉鎖された世界に押し込められた中の、遊びの延長みたいなものだ。

 別にあそこまで不安を煽られる様なモノでもないとは思うんだが……致し方ないか。

 

「先生、どうしたんだい?」

「あ、いえ…何でもありません」

 

 心が引き摺られないかと言えば、それは嘘だ。

 もう少し、教師として、彼女達と距離を狭められればとは思うが……

 

 

「あ、おじさーん。Bランチくださーい!」

「ん?」

 

 

 その時、ふと後ろから快活な少女の声が耳に飛び込む。

 思わず振り向くと、そこにはよく見知った顔が一人、カウンターまで駆けこんでくるところだった。

 

「あ、遊……じゃない、先生! おはようございます」

「ああ。おはよう、立花」

 

 立花響。

 俺がこの世界で絆を深められた少女であり、恐らく学園内で最も信頼している子だろう。

 デュランダル護送の時には、完全聖遺物であるデュランダルを土壇場で起動させ、ネフシュタンの少女を退けることができた。

 その反動で、しばらくは疲労困憊となり動けずにいたが、すぐに復帰して、今では早朝のランニングもこなせるほどまで回復している。

 

(驚異的なまでの回復力だな。やはり、聖遺物であるガングニールと融合状態にあるお陰なのか……)

 

 

「響、幾らお腹空いてるからって、はしゃぎ過ぎ」

「ごめーん、もうお腹と背中がくっ付きそうで」

「もう…あ」

 

 

 と、ぼんやり考えている時、響の後を追いかけるようにして、黒髪の少女が一人、食堂の入り口から姿を現した。

 

 

「おはよう、小日向」

「お、おはようございます……」

 

 

 しどろもどろに返事を返す少女。

 彼女…小日向未来は、響の小学校以来からの友人らしい。どんな時でも側にいて、お互いに大親友だと言える間柄だと、響は満面の笑みで語っていた。

 とは言え、突如この学校に来た正体不明の教師には、未だに心を許せるほどではないのだろう。

 お互いに気まずい雰囲気があるのを、何となく察してしまう。

 

「……」

「あ、そうだっ、遊……先生」

 

 そんな時だ。知ってか知らずか、響が俺に声を掛けたのは。

 

「もし良かったら、朝ごはん一緒に食べませんか?」

「え?」

 

 突然の申し出に俺は目を丸くする。隣ではやはり小日向が驚いたように響を見ていた。

 

「……俺は別に構わないが」

「じゃあ、私先に席取っときます。未来ごめん、私の分貰っといて」

「ちょ、ちょっと響っ」

 

 自分の分のトレイを小日向に押し付けると、響はあっという間に食堂の隅の方まで走り出してしまう。俺達はキョトンとしながらその様子を見つめていた。

 これは……もしかしなくても、俺が浮いているのを案じているのだろうか。

 

「……」

 

 そう思った時、ふと小日向と目が合った。

 

「……良いのか?」

「あ……べ、別に私は、大丈夫です」

「そうか。すまないな。気を遣ってくれて」

「いえ……」

 

 やはり戸惑いがちに、小日向は視線を外すと、料理長から出来上がったランチメニューを二人分受け取っている。

 その表情からは、何を慮っているのか、上手く読み取れない。仕方のない出来事と言えば、その通りなのだろう。

 しかし、俺は彼女と響との関係と言うものを、この時にはまだ知らなかった。

 いや……甘く見ていたのだろう。

 

 響と、小日向。

 

 この二人の繋がりは、まさしく『絆』であり……響にとっては、世界の全てだった

 

 

 

 第5話  『兆しの行方は、集いし想いの果てに』

 

 

 

「どう…?」

「コンビレンチを取ってくれるか?」

「あ、はい」

 

 私は言われた通り、遊星の工具箱の中から柄に穴の開いたスパナを取り出して手渡す。

 学園の食堂の奥……厨房の中、脚立に乗って換気扇を除いている遊星は、それを握りしめると、再び奥でカチャカチャと部品をいじくり始めた。

 

「……ああ、ここか」

「?」

「ペンルーターを」

「あ、はいっ」

 

 放課後、食堂の修理をするという遊星に、ついつい手伝いをする、と意気込んでついてきてしまったけど、案の定何をやってるんだかサッパリ分からない。

 私に出来ることと言えば……

 

「いや、悪いねえ。生徒にまで手伝わせちゃって」

「いいえ、気にしないで下さい。好きでやってるんですから」

 

 遊星が修理している間、換気扇のパーツの油汚れを取ることぐらいだった。

 流石に長い間付けっぱなしだと、かなり汚れが酷い。

 けど、こういうのを掃除するのはテクニックより寧ろ根気だ。この手の作業なら私は自信がある。

 

「よし……響、ストリッパーを頼む」

「す、すとりっ…!?」

「? そこのハサミみたいな奴だ」

「あ、ああ、これね…はい」

 

 時折脱線しながらも、作業は順調に進んだ。

 小一時間経つ頃には、換気扇は元通り、綺麗に直っていた。

 汚れもかなり落ちて、新品みたいにピカピカなのを見ると、ちょっぴり私も誇らしくなる。

 

「おお、直ってるよ! ありがとう!」

「長年使用して、大分ゴミが溜まってたみたいですね。それと軸が歪んでいて、配線に影響していたみたいです」

「あらら、そうだったのか…どうりで変な音がすると思った」

「他の部分も錆びて脆くなった箇所が幾つかありますから、それはまた改めて直します」

「そうかい? いやぁ、不動先生がいてくれて助かったよ。ありがとね」

「いえ、この位は」

「立花さんもありがとうね。わざわざこんな時間まで付き合ってくれて」

「いえ。元通りになってよかったです」

 

 満面の笑顔でお礼を言うおじさんに、私もつられて笑顔になって返す。

 こうやって誰かの役に立てることを実感できる瞬間って言うのが、私にとって何よりも幸せな一時だった。

 恨んだり憎んだり、そんなのが一切無い空間。ここでは皆が幸せな雰囲気に浸っていられる。世界中がこういう空気に包まれれば…なんて、私は性懲りもなく思う。

 

 

「お礼に、おじさん秘蔵のデザート、コッソリ二人にご馳走しようかな」

「え、いいんですかっ? あ、でも、別に何もそこまで…」

「いやいや、大したことじゃないからさ。これ位はさせてくれよ。ね?」

 

 

 そう言っておじさんは、いそいそと大きな冷蔵庫へと向かっていく。

 何とも言えず気まずそうな雰囲気の遊星だったけど……

 

「…いいんだろうか?」

「う~ん…おじさんもああ言ってくれてるし、折角の好意なんだし、いいんじゃないかな?」

 

 確かにお礼が欲しくて人助けをしたいわけじゃない。

 けど、でも、折角美味しいデザートをくれるって言うなら、それはそれで欲しいよね。

 決してデザートと言うワードに心惹かれたわけではないのです、ハイ。

 

「助けられてばっかりじゃ、相手だって心苦しくなっちゃうよっ」

「……そういうものか」

「そうだよ! …って、もしかして、遊星甘いモノ苦手?」

「いや。糖分は頭に良いからな。それなりに食べる」

 

 へえー、と私は意外そうに頷いた。

 遊星にもそう言う可愛い所があるんだ。

 学校の皆も、その辺りを知ってくれたら、好感度上がるんじゃないかなぁ…

 

「どうした?」

「ううん、何でもない」

「そうか…疲れてるなら言ってくれ。無理につき合わせてしまったからな」

「そんな事ないよっ。それより、遊星の方が疲れたでしょ? 脚立に乗って作業しっぱなしだったんだから」

「俺は問題ないさ。思ったより換気扇も壊れてなかったからな。あれ位なら、少しの部品交換で何とかなる。それより…」

 

 

 そう言うと、遊星は厨房に置いてある道具を色々な角度からじっくりと見まわしていた。何をしているんだろうと私が首を傾げると、フライパンを一つ持ち上げて、うんうんと頷いていた。

 

 

「やっぱり、調理器具も幾つか痛んでるな」

「え…そうなの?」

「ああ。今度来た時にでも修理することにしよう」

「……」

 

 目を丸くしていた。

 手先が器用なだけでも凄いのに、遊星は私よりもずっと視野が広かった。

 それだけじゃない。知識や技術を持っている事だけじゃない。

 それを余すところなく、誰かの為に躊躇わずに使えることだった。私はいつだって空回るけど、遊星はそれが一番大切なことだって解ってるから。

 例え、世界に一人で放り出されたとしても。

 

「遊星は凄いね。色々な事を知ってて、それで人助けができるんだもん」

 

 ポツリと、いつの間にか私は呟いた。

 

「響?」

「私も……遊星みたいに頑張らないとなぁ」

 

 そう。私は、何もかも足りない。

 遊星みたいなメカニックの腕前も無ければ、強さだって翼さんや師匠に遠く及ばない。身体も、技も、力も、まだまだだ。もっと強くならないと、沢山の人を守れない。

 

「響は頑張ってるさ。十分すぎるほどにな」

「それじゃ、駄目なんだよ」

 

 私は拳を握りしめながら言った。

 

「私、もっともっと強くならなきゃ」

 

 出ないと、また『あの時』みたいなことが続いちゃう。

 

「……護送任務のことを気にしてたのか?」

 

 遊星は静かに言う。

 心の奥を、言い当てられた気がした。

 私は頷いた。

 

「うん……きっと、そうだったのかな」

 

 だからわざわざ、放課後に遊星についてってまで、人助けに拘ったんだと思う。

 

「私がデュランダルに触れたせいで、あんな事になっちゃって……」

 

 あの護送任務のあった日のことを思い出した。

 私と、あのネフシュタンの鎧を着た女の子との戦いで、私はピンチに陥ってた。

 その時、ふとした拍子に起動してしまったデュランダル。必死に捕られまいと掴んだその手は、次の瞬間、大勢の人を消し飛ばす破壊の凶器へと変貌した。

 

「それは響、お前のせいじゃない。了子さんも言ってただろう。完全聖遺物の力は未知数なんだ。起動したデュランダルがどういう性質を持つのか、あの時は誰にも分からなかった。お前の気に病むことじゃない」

「それでも、だよ……」

 

 しょうがないじゃ、済まされなかった。

 デュラダンルを掴んだ時、私の中の意識は黒く塗りつぶされた。

 曖昧な言い方でしか表現できないけど、了子さんが言うには、危機意識や恐怖をデュランダルが増幅してしまった。

 破壊衝動に支配された私の身体は、真っ先に襲い掛かってきたあの子にデュランダルを振り抜いた。

 

「怖いのは、支配されちゃったことじゃないんだ。それで、躊躇いなく、あの子の剣を向けちゃったこと……」

 

 デュランダルの一撃は、あの工場を跡形もなく消し飛ばしてしまった。

 もうあの場所は使い物にならないと、後で聞かされた。

 師匠や了子さんは気にしなくていいと言ってくれたけど……あとちょっとで、その了子さんさえ巻き込んでしまうところだったんだ。

 

「負けないだけじゃ、相手に勝つだけじゃ、何にも意味がないんだって、思い知らされた……私は、ゴールで終わっちゃダメなんだよ」

「……」

 

 強くならなくちゃ。

 師匠や遊星が言ってくれる所よりも、もっと先へ進まないといけない。

 皆を守れるように。約束を守れるように。

 その為に、私は装者になったんだから。

 

「………分かった」

 

 黙っていた遊星は、真面目な面持ちで、ゆっくりと頷いてくれた。

 きっと、私のやりたいことは、ワガママなのかもしれない。遊星や師匠、了子さん達が協力してくれるおかげで、私は頑張れてる。

 だから、それなら尚更、頑張らないと。

 

「ただ、無理だけはするなよ」

「うん。大丈夫、師匠にもちゃんと相談するし、睡眠もしっかりとってるから」

「それだけじゃない。一人だけで危険を冒そうとしないでくれ」

 

 そんな私を、遊星は見守ってくれる。

 見てくれた上で、一緒に走ろうと言ってくれる。

 

「俺達はチームだ。一緒に強くなって、一緒に戦うんだ」

 

 そうだった。

 力だけに溺れた人間がどういう末路を辿るのか、師匠の見せてくれた映画で嫌と言うほどに勉強した私には、遊星の言っている意味が分かる。

 それに遊星も、一人だけでは戦えない。皆で戦って、皆で勝たないと、意味がないんだ。

 

「俺のカードも、一枚だけでは強くなれない。皆との絆があって、初めて意味を成す。それには響、お前の力が必要だ」

 

 そう言った遊星の目は、とても暖かい。

 こんな私でも…色んなものを壊してしまった私にも、意味があると言ってくれる。

 

「……うん。ありがとう」

 

 それが、私にとって一番の救いだった。

 この時までそう思ってた。

 一番大切なものがすっぽ抜けてたのに。

 

 

「おーい、二人とも待たせたね」

 

 

 けど、おじさんがお皿を持って戻ってきたから、私の考えは中断された。

 

「うわぁ! 美味しそう!」

「はっはっは、そうだろう」

「……確かに旨そうだ」

「『旨そう』じゃなくて、ホントに旨いぞ、これは」

 

 アッハッハ、と豪気に笑うおじさん。

 と、更に続けておじさんの言った言葉に、私はもうさっきまでの考えを再開することも忘れてしまった。

 

「ああ、そうだ先生。さっきトレイの間に挟まってたんだけど、これ何だか分かるかい?」

「え?」

「誰か生徒が落としたのかな…?」

 

 ぼんやりそんな事を考えた時、おじさんは手に持つ落つ『それ』をひょいと差し出して見せる。

 視界に入った瞬間、私は仰天して「あっ!」と叫ぶのをなんとか堪えた。

 

「…どうしてここに」

「あれ? もしかして、これ先生の持ち物かい?」

 

 遊星は落ち着いているように見えたけどそうじゃなかった。

 驚きの余り声が出なかったんだ。

 当たり前だった。

 あれ程に探して見つからなかった遊星のカードがまた一枚、こんなふとした日常の合間に見つかったんだから。

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

 

 食堂でお菓子をご馳走になった後、私達は人の少なくなった校舎を、中庭へ向かって歩いていた。

 話題はもちろん、さっき料理長のおじさんから受け取ったカードである。

 

「……『カード・フリッパー』」

 

 今まで見た様なモンスターカードとは違う、緑色に縁取られたそれをジィーッと見つめながら呟く。

 

「今までのカード達と種類が違うんだよね?」

「ああ。デュエルモンスターズで使うのは基本的に3種類ある。モンスターカード、魔法カード、そして罠カードだ」

 

 私は遊星からちゃんと『でゅえる』のルールは教わらなかった。

 戦い始めた時に、余計な知識をつけさせるのも混乱させてしまうと考えてのことだった。

 ただ、私達のコンビネーションの為に、一応は知っておいた方がいいかもしれない。

 

「直接、敵と戦う力を持つのがモンスターカードだ。それに対して、プレイヤー…つまり俺が直接使う魔術の力が込められたカードを魔法カードと言う」

「ふーん…この前使ってた『ドミノ』もそれだよね?」

「そうだ。そして罠カードが、この赤色のカード達だ。文字通り相手を罠に掛けたり、奇襲をかける時に使われる」

「む、難しい…」

「本当なら、もっと細かく分類される。速攻魔法、永続罠にカウンター罠…」

「あーやめて止めてやめて止めてやめて止めてぇー」

 

 ごめんなさい、ナマ言いました…! 

 私が文字通り頭を抱えたので、遊星も中断する。

 うぅ、私こういうゲームとかの解説は余計苦手なんだよねぇ…! 

 

「そうだ、カードって言えば…」

 

 何とか話題を切り替えようと思った時。

 ふと気付いて顔を上げた。

 

「遊星のカード達、その前に戻ってきたんだよね? それも二枚も」

 

 それはデュランダル護送任務の際、窮地に陥った遊星に届けられたカードだった。

 遊星は胸ポケットからそれを取り出すと、私に見せる。

 

「ああ、これだ」

 

『ゼロ・ガードナー』…そして『ワンショット・ブースター』と書かれたカード達。

 

「緒川さんが届けてくれたんだよね?」

「ああ」

「凄いね、私達が戦っている間に、ちゃんとカードを探してきてくれたんだから」

「……」

 

 私の言葉に、遊星は黙ってしまう。

 実は私のいうことは、この時は少し間違っていた。

 

「遊星?」

「どうも、緒川さんが外から探してきたわけではないらしい」

「え?」

「新聞紙に挟まっていたそうだ」

「しんぶんしっ…?」

 

 すっとんきょうな声が出た。

 つまりそれは……もしかしなくても…

 

「って、まさか、私が読んでたあの」

「翼の記事の載っていたスポーツ紙だ」

 

 こくんと頷く遊星。

 あの時に私が気分転換にと広げていたあの新聞…その隙間に挟まってたらしい。

 私は唖然とした。

 

「全然気付かなかった…」

「いや…幾らなんでも二枚も挟まっていて気付かないのはおかしい」

 

 遊星の言う通りだった。

 私だけならただのドジで済む話かもしれない。

 けど緒川さんまでいてその場で気付かないはずが無かった。

 それに今まで見つかったカードも、変な見つかり方だった。

 

「つまり……どういうことだろ?」

「分からない…だが、単純に探せば見つかる、という事でもないようだ」

「うーん…?」

 

 どうしようもないと思いつつ、またしは首を傾げる。

 要は、普通の探し物みたく落としちゃったとか、どこかへ飛ばされたとか、そういうことじゃないらしい。

 そもそも……カード達は遊星がこの世界へ来た時、どうやっていなくなってしまったんだろうか。

 初め、遊星は異世界へワープした衝撃で飛ばされたって言ってた。けど、そう言う単純な話じゃあ多分なくて……

 

「もしかすると…考え方が違うのかもしれないな」

「考え方?」

 

 私はおうむ返しに尋ねると、遊星は頷きながら口を開いた。

 

「つまり、カードを俺達が探し当てたのではなく……」

 

 と、その時。

 私のポケットからアラームが鳴る。

 二課から渡されてる非常用端末。

 一瞬、私達に緊張が走る。これが鳴るのは、いつもノイズが出現した時だった。

 けど、それなら遊星の持ってる端末も鳴るはずなんだけど…。

 

「……もしもし?」

『響さん? 緒川です。今、少しよろしいですか?』

 

 緊迫した雰囲気の中、端末から聞こえてきたのは予感していた師匠の声ではなく、さっきも話題になった遊星のカードを届けてくれた人。

 

「緒川さん? 何かあったんですか?」

『いえ、急を要する類ではありません。あとで、遊星さんにも伝えて頂きたいのですが…』

「遊星なら今、隣にいますけど…」

『そうですかっ。それはありがたいです。お二人に、是非お願いしたいことがありまして』

「…え?」

 

 どうもよく分かんない。

 話し方からして、多分ノイズが出たとかじゃないみたいだけど…。

 

『実は、翼さんの容態がこの頃はかなり安定してまして。松葉杖を使って歩く程には回復できました』

「ホントですかっ?」

『ええ』

 

 緒川さんのその連絡は何よりも嬉しかった。

 まだ万全じゃないけど、生きているだけで何よりだ。

 それに最初は無事な箇所を見つけるのが難しいくらいの超重傷だったんだから、もう起きて歩けるなんて凄いよ。

 

「じゃあもしかして、もうすぐ退院とか…」

『ええ。このまま行けば、なんですが…』

「え?」

 

 緒川さんの言葉は妙に含みがあるように聞こえる。

 

『実はですね、ここまで回復が早いのは、医者も舌を巻くほどの翼さんの精神力のお陰なんですが…』

「何か、まずいんですか?」

『まずいというか、何というか……やり過ぎちゃうんですよ。順調過ぎる位なのに、本人はまだ足りない、もっと早く復帰しないと…と考えちゃうんです』

 

 つまり、幾らなんでも頑張り過ぎは身体に毒だ、と言うことらしい。

 今朝も看護師さんに見咎められて無理やりに近い形で病室に戻されたんだって。

 

「そんな事して大丈夫なんですか?」

『勿論、他の人ならアウトですけど。翼さんの場合、それで怪我がどんどん治っていくのが凄い所でして…』

「……」

 

 絶句する、と言うのは多分こういう感覚なんだな。

 私も、二年前の怪我でかなりリハビリをやったけど、今思えばよく耐えられたと思う。

 身体中が痛かったし、辛くて何度も泣いた。もう投げ出したくなったことも一度や二度じゃない。

 けど励ましてくれる未来の為、家族の為、私を助けてくれたツヴァイウイングの為に、何とかやり遂げることが出来た。

 けど翼さんは、それよりももっと酷い重傷から、もう立ち直ろうとしている。

 戦士の…防人としての心構えの…想いの差に、私は軽いショックを受けていた。

 

『響さん?』

「あ、ごめんなさい。何でもないです」

『けど、流石に病院の目を盗んで動き回るのはいけません。なので、しばらく安静に、と僕の方から釘を刺しておいたんですよ』

「釘を刺すって……まさか、物理的にじゃないですよね? あの影にナイフを突いて動けなくなる…」

『……』

「お、緒川さん?」

『さて、それでお願いと言うのはですね』

「は、はいっ」

『翼さんの様子を見てきて欲しいのです。また妙な事をしていないかどうか』

 

 私は電話越しに目を瞬かせた。

 要は翼さんがまた無理をしていないかを確認して欲しい、という事だろうけど。

 それってつまり……

 

「お見舞いってことですか?」

『端的に言うとそうなりますね。僕以外にお見舞いに来てくれる人がいれば、きっと翼さんにとっても励みになりますから』

「僕以外にって……」

 

 他の人はいないんですか? 

 そう訊こうとして、咄嗟に口を噤む。

 

(そうだ……翼さんは、学校でも一人だったって言ってたっけ…)

 

 防人しての使命でもあるし、アーティストとしても、友達を作る余裕なんてない。

 家族だって、叔父さんにあたる師匠は二課の司令としての仕事があるし、確か今日も亡くなった広木防衛大臣の繰り上げ法要とかで出掛けてる。

 

(他の家族の人は……お母さんとかお父さんは……)

 

 訊けない。

 緒川さんがわざわざこんな風に言うってことは、きっと事情があるんだ。

 けど、一つ分かったのは、翼さんはきっと寂しいという事。

 血の涙を流して…今もなお、奏さんを想うあの人なんだから。

 

「……私なんかが行って、大丈夫ですか?」

『響さんだから、行ってほしいんです。きっと、翼さんも喜びます』

 

 そう言う緒川さんの言葉は、どこか力強かった。

 決して気遣ってるんじゃない。もしそうだったらわざわざ連絡しないだろうし。

 それに……

 

『もし可能ならば、遊星さんにも行って頂ければと思います。お忙しいようでしたら、また後日にでも…』

 

 私は遊星を見る。今迄の会話は遊星の端末にも届いている筈だ。

 そう言えば放課後は、食堂の空調を治す予定だった筈だけど……

 彼は微笑しながら、ゆっくり頷いた。

 

「大丈夫みたいです。是非、二人で行ってきますっ」

『ありがとうございます。急な連絡で申し訳ありません』

「いえっ。私も、翼さんと一度、きちんとお話したかったんです」

 

 そうだ。

 私が戦うというのは、自分の中の怖さと向き合うことでもあった。

 それは、翼さんの防人としての生き様とも向き合わなきゃいけない。

 そう思えば、その機会を作ってくれた緒川さんに寧ろ感謝しなきゃ。

 

『それでは、別件があるので一度失礼します。病室の番号等は後ほど送らせていただきますね』

「はい、ありがとうございます」

 

 そう言って緒川さんとの連絡を切ると、私は遊星と向き合った。

 

「ごめん、遊星。別の都合あったのに…」

「気にするな」

 

 私が謝るも、遊星の表情は晴れ晴れしていた。

 

「料理長には、日取りを伸ばしてもらうさ。俺も、彼女の元気な姿を見たいからな」

「そっか……ありがとう」

「いいさ。俺がやりたくてやってる事だ」

 

 臆面もなく、遊星はそう言った。彼の良い所は、こうやって自分の気持ちを素直に言えることだと思う。

 普段は無口だから誤解されがちなんだけど……

 う~ん、こういう長所を、もっと沢山の人に知ってもらえればなぁ~…そうすれば遊星も変な目で学校の人たちに見られずに済むのに。

 

「ただ」

「え?」

「俺が見舞いに行くのは、知られない方が良いかもな。風鳴は有名人みたいだし、俺みたいな新参者が急に見舞いに行ったら、怪しまれるだろう」

「そ、そんな事ないよ。学校の先生なんだから、お見舞いぐらいは行ったって」

 

 私は慌てて否定した。

 けど…本音を言えば、確かに否定できなかった。

 相変わらず遊星の評判は良くない。

 私も必死にフォローをしていたけど、やれ暴走族だの、反社会集団にいただのと、根も葉もない事を言う人までいた。

 唯一の救いは、食堂のおばちゃんや、ここの料理長のおじさんみたく、少しでも分かってくれる人が増えたことだった。

 

「大丈夫だよ。きっと、遊星のこと皆分かってくれるから」

 

 けど私は信じたい。私みたいに、きっとこれから遊星のことを知って、信じてくれる人が絶対に増えていく筈だから。私は、その手助けをしたい。

 

「そうだな……俺が危険なのはその通りだが、それでも、妙に警戒されるのだけは避けないと」

「そうじゃなくてっ」

「?」

「遊星も、自分の気持ちを分かって貰えるように頑張らなきゃ。だって私そのままは嫌だもん。遊星が悪い人みたいに見られてるの」

「……気持ちはありがたいが」

 

 遊星はきっと、心のどっかで、自分が変な目で見られるのはしょうがないって思ってる。

 けど私はそうは思わない。

 こんな良い人が誤解されたままで良いわけが無い。

 

「……よし分かった。遊星には特別に、私の宝物を貸してあげる」

「宝物?」

「えっへっへ、これは私の秘蔵の品なんだぁ。敵を知り、己を知れば百戦危うからずって、師匠が言ってたし、間違いないっ」

「?」

「実はね、私…」

 

 私が言いかけたその時だった。

 

 

「響」

 

「…え? あ……」

 

 

 親友の小日向未来が、階段の上から私たちを見下ろしていた。

 




次回、未来が浮気現場を……ヒェッ

皆さんも是非応援、よろしくお願いします。
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