龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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世界規模で大変な事態ですが、だからこそ頑張りたいと思います。
これからゆっくりとかもしれないですが、書き続けたいと思います。
何卒よろしくお願いします。


第5話『兆しの行方は、集いし想いの果てに』-2

 小日向未来は、私の1番の、親友だ。

 どんな時も側にいてくれて、

 私が帰ってこられる、たった一つの『ひだまり』

 どんなに世界が広くったって、

 どんなに大勢の人がいたって、

 彼女の代わりはどこにもいない

 そう、未来は……

 

 未来だけは……。

 

 

『あの…この力を、誰にも話しちゃダメなんでしょうか…』

 

 

 シンフォギアの力の説明を、了子さんから受けた時、私はそう尋ねた。

 未来を裏切りたくない。

 彼女にだけは、せめて本当のことを話したくて。

 

 けれど、何も知らなかった私のそんな甘い気持ちは一蹴されてしまった。

 

『俺達が守りたいのは、人の命だ。それを、分かってはくれまいか?』

 

 師匠はあの時、そう言って私を宥めた。

 なにも知らない子どもに言い聞かせるみたいに。

 ううん、『みたい』じゃなかった。

 

 私はなにも知らなかった。

 あの時も、今も……

 力を持つということ、

 力を知るということ、

 そして…

 

『力』は、とても恐ろしいということを。

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

『今後、出来る限り響君の側にいてやって欲しい。君自身もそうだが、敵はいつ、どんな手段で響君を略取するか分からん。こちらでも護衛は付けるが…』

 

 

 弦十郎さんから言われた言葉が蘇る。

 敵がどんな理由で俺や響を狙っているのかは不明だが、奴等の牙は想像以上に俺達の身近にまで喰い込んでいる。

 いつ何時、どんな強硬策に出るか分かったものではない。

 

「……響」

「え…? あ、未来」

 

 周囲を警戒するのは当然ながらも、何より注意すべきは情報の漏れだ。

 敵のスパイがどこに潜んでいるか分からない以上、俺たちの正体は誰にも知られるわけにはいかない。

 

「……」

 

 例えそれが、響と心を唯一許し合った最大の友であっても。

 

「その…何か、あったの? 不動先生と一緒で…」

「あ、ううん。何でもないよ」

「もしかして…また補習とか?」

「いや、そうじゃないよ、うんっ」

 

 響は慌てて誤魔化した。

 小日向はどこか物憂いような視線で、俺と響を交互に見ていた。

 不審というより、不安に感じているようだった。

 

(良くない噂が立っている俺と共にいれば当然か)

 

 響の耳にも入っている筈だが、それでも彼女は何かと気を遣ってくれている。

 本当なら彼女にも変な噂が立ちかねない。距離をおくべきなのかもしれないが、1人のところを狙われるとも限らない。

 

「実はね、遊せ…先生が、翼さんの歌に興味あるって言うから、私のCDを貸そうかなって思って」

「…ああ」

 

 しどろもどろに答える響に、俺も頷いた。

 じっと…その様子を窺いながらも、小日向は「そう」とだけ言い、それ以降は追求しなかった。

 

「あ、未来の方は何かあったの?」

「あ、うん…これから買い物行こうかなって思ってたんだけど、一緒に行かない? それで、この間のお好み焼きの約束…」

「…あ」

 

 気まずさが流れる。

 小日向と食事をする約束をしていたらしい。ノイズの急襲を恐れて、日取りを決めなかったが、裏目に出た。

 

「……」

「ご、ごめん、たった今用事が入っちゃって」

「あ…そうなんだ」

 

 恐る恐るいう響。

 だが小日向は微かに眉を上げた程度で、あまり驚いたりしていない様子だった。

 

「あ、あはは…せっかく未来が誘ってくれたのに……私、呪われてるかも」

「気にしないで」

 

 本当に残念そうに、響は言う。そんな彼女に対して、親友である少女は優しかった。

 

「ご飯は、また食べに行けばいいし。私も今日は別の用事入れることにする」

「うん…ありがとう」

「それじゃあね。失礼します、先生」

「ああ」

「……」

「あの」

「?」

「先生、CDよく聴くんですか?」

「いや、普段は余り聴かないな。ただ、こう言う学校だから、俺もCDくらいは嗜もうと思ってな…」

「……そうなんですか」

「どこか変だろうか?」

「いえ、ちょっと面白いなって思って…それじゃ響、またね」

「あ、うん…」

 

 この時、俺は致命的なミスを犯してしまったことに気付かなかった。

 結果的に最悪の事態は免れたとは言え、思い出してもついゾッとしてしまう。

 

「大丈夫か?」

「え? あ、うん。平気だよ。未来の言う通り、約束はまた別の機会にすればいいし。今は翼さんのことも心配だから」

「……そうか」

 

 しかし、この時は響のことを心配するあまり、頭の片隅から、小日向とのやりとりはすぐに消えてしまったのだった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 数十分後、

 私たちは、まるで時代劇で仇打ちを狙う侍みたいに病室の前に立っていた。

 多分お見舞いするのに、こんな肩力入ってるのは私くらいなもんだと思う。

 けど、だってしょうがないよ…うう、ドキドキする……! 

 

「すぅーはぁーすぅーはぁー」

「大丈夫か? さっきから同じ呼吸をしてるが…」

「い、いや…な、なんか落ち着かなくて…! フッ、フッ、フゥー! フッ、フッ、フゥー!」

「何だその呼吸は?」

「て、テレビでやってた呼吸法。これやると痛みとか緊張が和らぐんだって」

「…響、それは出産の時の呼吸法だ。ラマーズ法と言う」

「……」

 

 息が止まって、途端に心臓が高鳴るのを自覚しちゃった。

 遊星はホントに大丈夫かみたいな目で見下ろしてくる。

 

「だ、大丈夫っ。何もノイズと戦うわけじゃないしっ」

 

 私は拳を握りしめた。

 そう。別に戦いに行くんじゃない。

 ただ会う人がノイズよりも強くて最後にあった時に凄く怒られただけだった。

 

「安心しろ。今の響はよくやっている」

 

 そう言って、遊星は私の頭にポンと手を乗せてくれた。

 革手袋越しに、暖かくて柔らかい気持ちが伝わるような気がした。

 

「そ、そうかな…」

「ああ。側にいた俺がよく知っている」

 

 それに、と遊星は続けた。

 

「ちゃんと彼女と向き合うんだろう?」

 

 その言葉に、私は勇気付けられた。

 違う。自分で自分を何とか奮い立たせようとした。

 そうだよ。私はいつまでも翼さんや、奏さんの陰に怯えていたら始まらないんだ。

 まずは自分の気持ちを伝えるんだ。それで足りなかったら、もっと走る。

 今はそれしか無い。

 

「……う、うんっ、頑張るっ」

 

 私はグッと拳を握り締めた。

 その気持ちが消えない内に、私はドアの横に付いているテンキーに、緒川さんから教えてもらった暗証番号を打ち込んだ。

 認証が終わると、ドアが開く。

 

「し、失礼しまぁーす……」

 

 何を話そうかな…

 お花、翼さん気に入ってくれるといいな…

 この時まで、そんな淡い想像を膨らませていた。

 けれど次の瞬間、私達はその場に凍りついて立ち尽くした。

 

 

「……っっ!?」

「な…なにっ!?」

 

 

 絶句した。

 部屋はまるでゴミ捨て場みたいに物が散乱して、メチャクチャに荒らされていた。

 紙類やトイレットペーパーやタオル、衣類、飲みかけのペットボトル、翼さんが飲んでいたであろう飲み薬や錠剤…そこら中に物が散らばって、足の踏み場もなかった。

 酷い…こんな風に部屋が汚くなるなんてこと、普通あるはず無い。

 

「ゆ、遊星…!」

「これは一体……何があったというんだっ!?」

 

 私が隣を仰ぎ見ると、遊星は急いで部屋に乗り込んでいた。

 私も慌てて中に入る。

 

「翼さん!」

 

 思わず私は叫んだ。

 もう今までの心配ことなんて頭から吹き飛んでいた。

 翼さんの無事な姿を見られればそれで良かった。

 けれどもベッドで横になっている筈のその人は、部屋中いくら探しても見つからない。

 

「遊星っ! 翼さん、どこにも…!」

「しまった…っ!」

 

 遊星の顔も真っ青になっていた。

 いつも冷静なこの人の、こんなに取り乱した様子を私は見た事がなかった。

 

「もうこんな所にまで敵の手が伸びていたのか…!」

「え…っ!」

「敵が何処かのテロリストなら、風鳴を拉致しようと企んでも不思議はなかった…っ」

 

 どうして考えなかったんだろう…! 

 私や遊星が狙われたからって、それで翼さんが襲われない保証なんてどこにも無い。

 ううん、寧ろロクに動けない翼さんの方が危険だったんだ。

 

「ゆ、遊星、どうしよう、私…!」

 

 翼さんとの仲なんて考えている場合じゃなかった…! 

 もっと大切なことを気付けなかった私を呪いたかった。

 神様、お願いです。どうか翼さんを返してください。

 その為なら何回叩かれたって構いません。その後で幾らでも叱られます。

 だからどうか…! 

 

「落ち着くんだ。俺は周囲を探す。響は弦十郎さんに連絡を…!」

 

 遊星が必死に私の肩を揺さぶりながら言う。

 私は何とか平静を取り戻そうとして……

 

 

「何をしているの?」

 

 

 すぐ神様が取り戻してくれたその人のしかめ面に対面した。

 

「風鳴…?!」

「だ、大丈夫ですか!? 本当に無事なんですか!?」

 

 あんぐりと口を開けたのも束の間、ホッとする間も無く、掴みかかるくらいの勢いで、入り口に立っている翼さんに駆け寄った。

 翼さんは以前見たような厳しそうな面持ちで私たちを見ている。

 

「入院患者に無事を聞くってどういうこと?」

「だって…!」

「風鳴、無事だったのか!?」

 

 遊星も私達の元へと駆け寄る。

 ようやく私達は少し落ち着きを取り戻せた。

 

「あ、貴方まで何を…」

「これ!」

「あ……」

「翼さんが誘拐されたんじゃないかと思って…!」

 

 慌てて物が散乱した部屋を指差して叫んだ。

 相変わらず部屋は病室とは思えない…ううん、人が居る為の空間とは思えない程にグチャグチャだった。

 

「……」

「翼さん、大丈夫ですか? どこか、怪我とかして無いですか…」

「……」

 

 翼さんは俯いて何も言わない。

 あ、しまった……私がこんなに混乱したら翼さんだって…! 

 

「響、風鳴も今は安心させてやろう。まずはここを離れるんだ。敵が戻ってくるかもしれない」

「て、敵って…!?」

「司令から聞いたことがある。彼女は『風鳴家』の…この日本の防衛を一手に担ってきた一族の後継者だ…それを攫うのには大きな意味がある…!」

「そ、そうか…!」

 

 あの鎧の女の子は、『翼さんに興味はない』って言ってたけど、それもウソかもしれない。

 じゃあ、今この病院にもしかしたら…! 

 

「酷い…!」

「……」

「酷いよ! こんな風に部屋をメチャクチャにして! こんな汚い…ゴミ屋敷みたいに…!」

「……」

「ああ、恐らく最低な連中だ…! こんな乱暴なことをする連中がいるとはな…!」

「……ぅぅ」

「翼さん、どうしたんですか?」

「ショックだろうな……無理もない。自分の部屋をこんな無残に荒らされたら、堪える筈だ」

「そ、そうだよね…!」

「……っっ」

 

 私は動揺と焦りを抑え込もうとした。

 そして何とか翼さんを守り抜こうと言う使命感に燃えた。

 私は喧嘩や戦いは好きじゃない。

 けど、そんなこと言ってられない。

 

(女の子の部屋をこんな風に荒らすなんて許せない! それも翼さんみたいな人気者の部屋に昼間から! いくら私だって怒るよ!)

 

 私にだって守りたいものがあるんだ! 

 

「遊星、急いでここから…!」

「落ち着くんだ。罠が仕掛けられてる可能性もある」

「え、ええ!?」

「読めたぞ。奴らは風鳴を捕まえる為にここに潜入したが、席を外していたことに気付き、更に俺達が来たことで、慌てて逃げ出したんだ」

「な、なるほど!」

「この手の連中は必ず置き土産を残していく。証拠隠滅の為に、爆発物の一つや二つはあってもおかしくない!」

「そ、そんな!」

 

 もう緊急事態だって事は私にもわかった。

 機密保持とかなりふり構ってられない! 

 

「はやく緒川さんに連ら…くを…!?」

「………」

 

 犯人への怒りへ燃えていた私のスカートの裾を、くいくいと引っ張る感触。

 見ると、点滴を打たれた腕で私を引き留めようとしている翼さんの顔が飛び込んできた。

 

「……」

 

 見ると顔が真っ赤になっている。

 これは…疲れてるとか、スリルのショックとか、サスペンスへの怒りとか、そんなのじゃないような…

 

「……っ…っ」

 

 細々と、ボソボソと、綺麗で細い唇が動いている。

 

「えっ?」

 

 上手く聞き取れない。

 なんて? え? なに? 

 

「っ…の……が…」

「な、なんですか?」

「だから……の…が……その……」

「ええっと…?」

 

 恐る恐る、何度めかの緊張を抑え込みながら、耳をそば立てる。

 そうして……翼さんは、真実を語り始めた。

 

「えー…あー……えーっと…ああ…」

 

 ふんふん、

 えっと? 

 緒川さんに連絡をしたいことがあって? 

 けど通信端末が見当たらなくて? 

 仕方ないから連絡先をメモした手帳を探して? 

 けどそれも見つからなくて? 

 部屋をとにかく探しまくっても……ふんふん、荷物をひっくり返したのに分からなくて……え? 

 

 え? ちょっと待って? え? 

 

 つまり、この部屋の惨状は……つまり……

 

「……」

 

 耳まで真っ赤になった翼さんを見て、私は一気に頭に上った血が降りていくのを感じる。

 ……うん、まぁ、よくあるよ。うん。

 私だって、未来によく怒られるし。うん。

 

『響、またこんなに散らかしてっ』みたいな。

 

 ただ、私も、ここまで部屋を散らかしたことはないかな。

 まぁ、でも、しょうがないよ。

 これは事故なんだよ、うん。

 

 と、取り敢えず……そのぉ…

 

「……ご、ごめんなさい」

「……いえ」

 

 かくして、風鳴翼誘拐未遂事件は終わった。

 悲しくも虚しい事件だった。

 私はもう、こんな出来事が起きないことを心から願った。

 

「あ、あのー、遊星、多分、これ、私達の勘違い……」

 

 まあ、当面の問題としては……

 早く誤解を……解かな…いと…

 

「響、風鳴を避難させるんだ。俺はここで危険がないか…」

 

 次の瞬間! 

 

「あ、あああぁーっ!」

「どうした!?」

「わ、わ! わあああっー!」

 

 もう私は恥も外聞も宇宙の彼方まで放り出して叫んだ。

 今までのことなんてこれから起こってしまう事件に比べたら全然なんてことない! 

 だってアレが! 

 部屋に翼さんの…し、した、した! 下…ぎが…!! 

 

「どうした、部屋に何かあったのか!?」

「み、見ちゃダメ! 遊星は見ちゃダメええええっっ!!」

 

 急いで私は遊星に飛びかかった。

 

 ええ、あの時の私の反応速度は翼さんはもちろん、恐らく師匠さえ上回ってました……

 

 女の子の大切なものを守る為なら、限界なんて幾らでも突破出来るのです。

 

「な、何だ、どうして目を隠す!? 危ないから離すんだっ」

「それ以上に危ないからっ! 翼さんの大事な物が見えちゃってるから!」

「大事な物だと!? まさかシンフォギアのペンダントか!? 俺に見せろ、確認しなければ…!」

「ダメダメダメっっ! 遊星がしょっ引かれたり翼さんの大切なものが無くなっちゃうから!」

「何だ、やはり何か罠かっ!?」

「ち、違うけど、そうじゃないけど駄目だから! 男の人は出てかないと駄目だからぁあああっっ!!」

「まるで意味が分からないぞッ!」

「いいから外に出てええええっっ!!」

 

 結局、翼さんの口から直接遊星に真実が語られるまで、十数分かかってしまいましたとさ。

 ……私達、なにしにきたんだっけ? 

 





改めてシンフォギア見直してみると翼さんの散らかり方やべーな。
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