龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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第5話『兆しの行方は、集いし想いの果てに』-3

 あの惨劇から30分後。

 

「よし」

 

 終わりが見えてきた。

 果てしない激闘だった。

 感無量……正に感無量だ。

 

「……そんなのいいから」

 

 いやいや。

 これは誰かがやらなくちゃダメなヤツです。

 

「私、緒川さんからお見舞い頼まれたんです。だからお片付けさせて下さいね」

 

 私は洗濯物を畳みながら言った。

 

「……ぅ」

 

 翼さんは顔を赤くして俯く。

 ……緒川さんが私を派遣した理由が分かった気がする。

 とにかく洗濯物を畳み、ゴミを集めて捨てて、紙の資料は分かる範囲で整えた。

 ちなみに、翼さんが探しても探しても見つからなかったって言う携帯端末は、ちゃんとベッドに備え付けてある引き出しに入ってました。

 

「わ、私……その、こういう所に気が回らなくて…」

「いえ、そんな気にしないで下さい」

 

 考えてみれば、私だって疲れて帰ってきた日はそのまま荷物を放り出すこともある。

 私よりずっとハードなスケジュールをこなした翼さんに部屋の片づけまで丁寧に、なんて酷だ。

 これ位なら私も役に立てる。

 とは言え……

 

「でも、ちょっと意外でした。翼さんは何でも出来るイメージがありましたから」

 

 畳んだ洗濯物をタンスの中に閉まって、片付けは完了した。

 達成感で胸が一杯になった私は、ちょっと嬉しそうに言う。

 普通のファンが知ったらガッカリする人もいるかもしれないけど、こういう部分もあるって知って寧ろ嬉しかった。

 

「…真実は逆ね……私は戦うことしか知らないのよ………」

 

「よし、お終いですっ! え? 何か言いましたか?」

「い、いえ。何でもないわっ。それより、済まないわね。こんな事までさせて…」

「いえいえ」

「いつもは、緒川さんが良くやってくれてるんだけど……」

「……え」

 

 い、今、とんでもない爆弾発言、出しませんでした? 

 

「ええっ!?」

「?」

「お、おお、男の人を、へ、へへへ、部屋に!?」

「ええ……あ」

 

 翼さんも自分の行ったことに気付いて、顔を赤くする。

 ま、まさか…緒川さんと翼さんは…その、そう言うご関係だったんですか…!? 

 

「た、確かにっ、か、考えてみれば、色々、問題ありそうだけど…!」

 

 とんでもないスキャンダルだ! 

 いや、でも緒川さんは表向きは翼さんのマネージャーだし…有名人とかアイドルはよくそう言う人と結婚するって聞いたことある…

 

「そ、その、散らかしっぱなしなのは良くないから、つい……子どもの頃から…」

「え、子どもの頃?」

「緒川さんは……私が、小さい時から面倒を見てくれていて……歳の離れた、お兄さんみたいな人で」

「え? そうなんですか?」

「緒川さんの家は、昔から風鳴家と繋がりがあるから。その縁で…」

「あー、なるほど…」

 

 確かに、二人はアイドルとマネージャーっていうか…お姫様と従者ってイメージがする。

 

 おお、それはそれでロマンスが……なんか、こう…うん、あれだ……

 

 ダメだ、私じゃイメージが追いつかない。

 

 

『響、俺だ。入っても構わないか?』

 

 

 その時だった。

 聞き慣れた声が部屋の外から聞こえる。

 

「あ、遊星。うん、どーぞ」

 

 私が答えると同時に、部屋のドアが開いて、ペットボトルを抱えた遊星が中へと入って来た。

 

「……綺麗になったな」

「でしょでしょっ。あ、通信機もちゃんと見つかったよ」

「そうか」

 

 感心したように病室を見渡す遊星。

 と、その時、ベッドに腰掛ける翼さんと目が合った。

 

「あ…」

「…」

 

 あかーん。

 私はハッとなってつい遊星に呼びかけた。

 

「ゆ、遊星っ、飲み物、買ってきてくれた?」

「あ、ああ。下の売店にあった物だが…」

「ありがとー。翼さんも頂きましょ? ね?」

「え、ええ……」

 

 遊星からビニール袋を受け取って、その中から一本、スポーツドリンクを翼さんへと手渡した。

 

 どうにか遊星に事の次第を伝えたら、何とも言えない顔をして、遊星は外は、出て行った。

 うーん、何だか悪いことしちゃったなぁ……。

 いやいや、変に溝を掘るよりこうするしかなかったんですよ、私は……

 

「……」

「……」

 

 けど、元々ある溝を埋めるには力不足でした。

 

(うう……気まずい…)

 

 考えてみたら、遊星は最後、翼さんと一騎打ちをするかもしれない状況だった。

 それも私が未熟なばっかりに……ある意味、私よりも複雑な関係だ。

 

(私の責任だ。私が何とかしなくちゃ!)

 

 きっと緒川さんは、遊星と翼さんの仲を良くする目的もあったに違いない。

 ここは私が二人の仲を取り持たなければ…! 

 

「あ、あのぉ……!」

「ん?」

「なに?」

「……」

 

 ……どーしよっかな……

 

「……お二人の御趣味は?」

 

 お見合いかっ! 私は仲人さんなのかっ! 

 目を丸くした二人を見て、私は思わず天井を仰いだ。

 ああ、助けて未来! 

 さっき約束を破ったばかりなのに、私は親友を求めずにいられなかった。

 板場さんなら『アニメだとこういう展開』みたいな作戦を思いついてくれるのにぃー…! 

 

「……趣味か」

「趣味…」

 

 けど二人の根が真面目なのが幸いした。

 真剣に考えてくれている。

 そして、意外にもこれが正解だった。

 

「…バイク」

 

 ぽろっと出た、その単語に、今度はこっちが目を丸くした。

 ふと見ると、遊星も少し驚いた様子で翼さんを見る。

 

「風鳴もバイクに乗るのか?」

「まぁ……一応は。休日はツーリングにも…」

「し、知らなかった」

 

 なんということだ。

 風鳴翼ファンを自称しておきながら、その隠れた趣味も今まで聞いたことがないなんて…。

 トップアーティスト、国家防衛の剣、どの側面にも当てはまらない趣味だった。

 

「どういう奴に乗ってるんだ?」

「画像くらいなら…あれ? 端末、さっきまでここに…」

「これですか?」

「あ、ありがとう…」

 

 数分前まで手元にあったのに、もう場所が分からなくなってる……

 こりゃ確かに緒川さんも大変だ。

 そんな事をぼんやり考えてると、画像を映して私達に見せてくれた。

 

「スポーツ系のハーフカウルか。良いデザインじゃないか」

「格好いいですっ! この赤い塗装とか!」

「そ、そう? そう言ってもらえると……一応、外装周りは自分でやったから」

「翼が一人でか? それは凄いな」

「いえ、先生ほどでは」

 

 ん? 

 今、翼さん、遊星のことを…。

 

「楽しいよな。マシンに乗って走るのは」

「まあ…高速で走り抜けるあの感覚には、得難いものがあります」

「風を切ってスピードに乗ると、世界が変わって見える」

「うん。それは同感です」

 

 確かに、と頷く翼さん。

 …なんか会話が噛み合ってる。

 と、言うものの、私は覚えた違和感にキョトンとしたままだった。

 

「しかし、ツーリングというと、この辺りにサーキットか何かがあるのか?」

「え? ああ、国が保有している試験場を使わせてもらって……あとは大体、街を走ったりとか」

「そうか…そういう場所があったのか。俺は、Dホイールの性能を公にはできないからな。外ではあまり全力で走れない」

「それだと、感触など掴みにくい部分もあるのでは?」

「確かにそうだな。二課のシミュレーターを借りてはいるが」

 

 とはいえ、この光景は素直に嬉しかった。

 話題が盛り上がって行くのを感じるっ。

 おお、やったぞ、私。

 

「確かに、私も実際にやってみると、どうもハンドリングに難がある時がある……最近は触ってないので、今度点検しようかと思っていて…」

「なるほどな…ハンドリングということは、ベアホイールか、フロントフォークか…タイヤはどうだ?」

「一応、メンテナンスはしています。この間、交換したばかり」

「そうか。となるとステアリングのボールレース部分が…」

 

 …あ…やめて止めてやめて止めてぇ〜…

 私に、その手の専門用語は、眠気を誘う絶好のお薬に…

 

(あ、でも…)

 

 これをキッカケにフレンドリーに話せれば、遊星と翼さんの中も縮まるかもしれない。

 それに遊星と共通の趣味が見つかったのも、嬉しい誤算ってやつだね。

 なんか『とにかく思いっ切り振ったバットがボールに当たってホームランだった』みたいな気分だ。

 

(うんうん、よかったよかった…)

 

 そして私の意識は、私の中に生まれた二人のツーリングの光景に溶けて消えていくのだった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 風鳴とのバイク談義に、俺はいつの間にか熱が入っているのを感じた。

 この世界に来て初めての感覚だ。

 やはり、同じモノを共有できる人と言うのは、一緒にいて楽しいものだ。

 

 それに、俺も彼女に近付けると言うのが嬉しかったのかもしれない。

 

「なるほど。そうすれば、車体を安定させつつ、コーナーで振り切ることができると…」

「ああ。少しクラッチのタイミングをずらす必要があるが、そこはマシンとの呼吸だ」

「呼吸か…」

 

 ふむふむと、アゴに手を当てて答える風鳴。

 

 無論、Dホイールは両輪駆動な上、モーメントによる出力制御が可能だから、ガソリンエンジンを使うこの世界のマシンに出来ない技も多い。

 だが、彼女のライティングテクニックは話を聞くに中々のものだ。

 これなら、上手くマシンを調整すれば、再現可能な技も増えるだろう。

 

「何回か試してみると良い。風鳴なら、コツさえ掴めればきっと上手くいく筈だ。後はそうだな…スケートはどうだ?」

「スケート?」

「体幹を鍛えるのにうってつけだ。周りへ意識を配るのにも役立つ」

「スケートか……あまり行ったことが……いや、一度もない」

 

 俺は目を丸くする。

 

「そうなのか?」

「その、こういう生活をしていると、あまり世間の遊びには疎くて…」

 

 意外に思われるかもしれないけど…、と言う風鳴。

 俺は少し驚いた。彼女みたいなアーティストとのギャップ……というだけではない。

 

 同じ事を、同じ様な表情で言った少女を、俺は一人知っている。

 

「いや……少し、仲間のことを思い出した」

「仲間?」

「そいつも、スケートには行ったことがないって言っていたからな」

 

 そう言えば…

 

『あ、あの遊星っ。今日のことは、皆には言わないでね。二人でスケートに行ったとか、そういうの、絶対に禁止だからっ! 分かった!?』

 

 アキは顔を真っ赤にして俺に何度も口止めをしていたな。

 別に言い触らす必要もないから、頷いてそのままだったが……

 

『いい、龍亞と龍可もだからねっ。絶対に内緒よ!』

『ええー? なんで? 二人ともいいムードむごっ!?』

『わ、分かったわっ! 誰にも言わないから! いいわね、龍亞?』

『モ、モガモガ…っ!』

 

 そう言って龍亞を抑え付けていた龍可の何とも言えない表情は忘れられない。

 帰り道、俺と龍亞が二人で首を傾げていると、龍可は終始呆れた顔をしていた。

 あれは何だったんだろうか…? 

 

「先生?」

「いや、な、なんでもない。秘密にしろと言われていたんだ。うん、忘れてくれ」

「…はあ」

 

 首を傾げる風鳴を尻目に、俺は頭の中でアキを必死に宥める。

 無論、彼女がここでの出来事を知る由もないのだが……だからと言ってバラすのは不誠実だ。

 

「ただまあ、確かに少し驚いたな。風鳴は有名アーティストと聞いていたからな。むしろそういうのには敏感と思っていた」

 

 俺は話題を変えるべく、彼女自身のことへと言葉を掛ける。

 それに対して、今度は風鳴が目を丸くする番だった。

 

「いや……私はただ……」

 

 彼女は、そこで言葉に詰まる。

 しまった…つい、深入りしすぎたか。

 ここに来て思い掛けずに話が弾んだせいか。余りプライベートに関わる質問をするべきではなかった。

 しかし、風鳴はまた思わぬ言葉を俺に投げかけた。

 

「先生は…」

「ん?」

「あ、いや…貴方自身の話を聞いたことが無かったから。そう言う、仲間がいるという事も」

「確かに、話す機会はなかったな」

「仲間とは、どういう人達だったの?」

 

 風鳴が俺に興味を示すというのは、それこそ意外だった。

 だが、俺としても彼女に自分を知ってもらう、良い機会かもしれない。

 

「仲間と言っても、生い立ちは色々だったな。昔からの知り合いもいたし、初めは敵対した奴も多かった。すれ違って、ぶつかることしか出来なかった奴も大勢いた。ただ……俺達は、居場所を求めていた」

「居場所?」

「皆、孤独を埋めるように戦っていた。その理由はそれぞれだったが……一人一人が、自分は何者なのか、そしてどう生きるべきなのかを探していた」

 

 考えてみれば、自分の生い立ちは響にさえ話していない。

 前回、作戦前に緒川さんに俺自身の出自を少し語ったが、仲間の情報を初めて晒す相手が彼女…と言うのは、存外奇妙な感覚だが、悪いとは思わなかった。

 

「その内に一人…また一人と、運命に導かれるようにして集まっていった。この痣が、その印だ」

「竜の痣…確か、シグナーと言う…」

「ああ。この痣を持つ者が俺の他に5人…それが俺の、かつて戦った仲間達だ」

「その人達と別れて独りでいるというのは、どういう気持ち?」

「え?」

 

 思いがけない問いかけに、俺は彼女の顔を見る。

 

「誰もいない世界に独りでやってきて……どうして戦うの?」

「それは……」

 

 風鳴はそれまで淡々と質問を重ねているだけだったが、それまでとは違う、熱の篭もった言葉に、つい俺は驚いたような顔をする。

 

「…ごめんなさい、変な事を言ったわね」

 

 ハッとなって、風鳴は顔を伏せた。

 

「元に世界に帰るために、貴方は戦っているのだから…当たり前のことか」

 

 苦笑する風鳴。

 だが彼女の言葉はその通りだ。

 俺は帰りたい。一刻も早く。仲間たちの元へと帰って、皆を安心させてやりたい。

 

 だが、それでも。

 いや、だからこそだ。

 

「……俺は独りじゃないさ」

「え?」

「例え時空を隔てていたとしても、俺達は繋がっている」

 

 目を閉じて、右腕の竜の痣を撫でる。

 シグナーの証からは、何も伝わらない。これが元の世界ならば、仲間達の鼓動を感じることができた。何か危機が迫っていれば知らせてくれることも……しかし、今それはない。

 

 ないけれど、伝わるんだ。

 

「絆は、確かにここにある」

 

 俺はここで戦う。その意味もまた、俺達を結び付けてくれるもの故だ。

 

「響は、そんな俺の想いに応えてくれた。だから俺は戦うんだ」

 

 こんなものは抽象的で、答えにもならないかもしれない。

 ただ…詰まるところ、単純な理由もある。

 

「うーん、むにゃむにゃ…」

「…」

「おお、翼さん、そこでターンバックです……わー生きてるって感じ……ええ、なんで合体しないんですか…!?」

「……」

 

 要はこの少女を、放っておけないのだ。色々な意味で。

 共に戦うと言いつつ、目下それが最大の理由かもしれない。

 

「みくー、どこぉ? え、地球のなか…? ならだいじょーぶ…オゾンより下なら…うん…」

「何の夢を見てるの…?」

「……またコーヒーでも買ってくるか」

「……どうも」

 

 何故か深々と首を垂れる風鳴。

 どうも彼女の様子を見るに、以前みたく響に対して当たりの強い様子ではない。

 二人きりにさせても、離れすぎなければ問題ないだろう。

 

「……不動…先生」

「ん?」

「その……よければ、私のバイクも、今度見てほしい」

「ああ、何なら今見てくるか?」

「それは……」

 

 逡巡していた様子だったが、意を決したようにまたお辞儀をする。

 俺はゆっくり頷き返すと、響を起こさないよう病室から外へ出る。

 

 夕闇へと近付いていく太陽は、1日の作業を終えて、その荷を下ろそうとしている。

 次の仕事に備えて、力を蓄える。

 

 俺達も力を貯めておこう。

 できることならば、今も刃を研がんとする、この少女と共に。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

『さあ、風鳴翼と不動遊星、同時にコーナーへ入った。ここを先に抜けた方がチェッカーフラッグの栄光を掴みとることができるのです』

 

 行け遊星! 頑張れ翼さん! 

 

『フハハハ、ちょせえ!』

『おーっと、ここで乱入者だぁ! えらいハリキリガールがやってきたぜぇ!』

 

 ああ、あれはネフシュタンの女の子…!? 

 どうしてここに? 

 いけない、何とか止めないと…! 

 

『緊急改札機で止めるんだっ』

『なにぃ!』

『キップヲイレテクダサイ』

『何故通れない!?』 

 

 あ、翼さんも止まった。

 そっか、モノレール乗ったことないんだ、翼さん

 

『インチキ効果もいい加減にしろ!』

『貴様それでもデュエリストか!』

『リアリストだ。そして俺はレアだぜ』

 

 キリッとした顔で遊星が笑う。

 そんな、遊星がこんな卑怯な事するなんて…! 

 

 

「ちょっと」

 

 

 肩を揺さぶられて私はハッとなった。

 

「あ、あれ? 翼さんっ!? 改札機は?」

「……随分お疲れみたいね?」

「へ……は、はひっ! す、すいませんっ」

 

 しまった……いつの間にかうたた寝をしてしまったんだ。

 慌ててヨダレを吹く。ああ、なんて情けない…ついつい、椅子にもたれかかったままで。

 

 うぅ、サイアクだ。私、呪われてるかも。

 

 翼さんには前にもご飯粒付けながら話し掛けて、恥ずかしい思いをしたことがあった。

 

「いえ、こちらこそ片付けをさせてしまったから。少し休んでなさい」

「……はぁ、ごめんなさい」

 

 ポリポリと頭を描きながら顔が赤くなるのを感じた。

 遊星も起こしてくれればよかったのに…! 

 ん? あれ? 

 

「あのぉ、遊星は?」

「駐車場」

「え?」

「私のバイクが停めてあるから…様子を見ると言ってね」

「そうなんですか?」

「それと、貴女の飲み物を買ってくると言っていたわ。眠気覚ましに」

「そうなんですか……」

 

 ありがとうございます先生。

 でも、もうちょっと分かりやすい気遣いが欲しいです。

 どちらかと言うと乙女心に特化した…いや、贅沢は言わない方がいいよね。

 

「貴女は」

「え、はい?」

「彼を…呼び捨てで呼んでいるのね?」

「え、ああ、遊星ですか? そうです。学校以外では、敬語はなしにしようって。ノイズと戦うのに、そう言うの意味ないからって。最初は戸惑ったんですけど、実際にノイズと戦う時には、気兼ねなくできるって言うか…」

 

 あはは、と苦笑しながら説明する。

 そう言えば…さっきのやり取りで私も気付いた事がある。

 

「翼さんは、遊星を『先生』って言うんですね?」

「あ、ああ……まぁ」

 

 今度は少し翼さんが苦笑する番だった。

 倒れる直前まで、ただ「不動遊星」としか言ってなかったのに…

 

「その…知らなかったから……リディアンで、教師をしていたのね? 私も、生徒の一人だから、任務外では、敬語をと思って」

 

 モジモジしながら話す翼さん。

 ちょっと、カワイイじゃないですかやだー。

 なんて心の底で思った事は黙っておいて……

 

「そう言えば、翼さん、遊星が来てから、ずっとツアーとかコンサートとかで、学校は殆どお休みでしたもんね」

「ええ…ここに運ばれてから、報告書越しに初めて知って…」

「え、報告書?」

「読めるようになったのは最近だけれど……その……貴女のことも聞いているわ」

「わ、私ですか?」

「ええ…私が抜けた穴を、貴女が埋めてくれているとね」

 

 そう言って、気まずそうに翼さんは私を見る。

 これは…もしかして、私のことを……

 

「…い、いえ、まだまだです。遊星とか、師匠とか、二課の皆さんに助けてもらってばっかりで…」

 

 私は翼さんを見てなかった。

 完璧な歌姫。天才。みんなの憧れ。

 そんな周りからのレッテルだけに惹かれて、本当の翼さんの素敵な所を見られなかった。

 また私は、本当の翼さんを知らない。

 またこの人との間には、大きな河が横たわっている。

 それは装者としての実力だったり、心構えだったり、単純にお互いを知らなかったり……理由は色々だけど…

 

「……貴方は」

「え?」

「どうして戦うの? 聞かせてほしい。貴女が戦う理由を」

 

 翼さんも、私を初めて本当に見てくれているのかもしれないと、私は勝手に思った。

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは今まで死線を超えてきた貴女が分かっている筈」

「あ……」

 

 そう言って私を見つめる翼さんの目は、今まで見たことのないものだった。

 怒りでもなければ、まして私を評価しようとするものでもなかった。

 奏さんの後継者として……違う。

 ただ、私を、本当の意味で知りたいんだ。

 

「……よく分かりません」

「え?」

「私、人助けが趣味みたいなものだから……それで…」

 

 だから、私も本気で答えようとした。

 こんな答えしかできないのが情けなかったけれど、でも、それはずっと私の中で燻り続けている言い様のない想い。

 

「それで? それだけ?」

「だって…だって、人助けは競争しなくてもいいじゃないですか。私には人に誇れるような特技とかないから、せめて、自分に出来ることで皆の役に立てればなーって……あ、あはは」

 

 嘘はついてない。

 けど…きっと、本心でもない。

 子どもの頃から、誰かに何かをしたいと言う想いはずっとあったけど……多分、そのままだったら、私はこの学園にも入ってないかもしれないし、もっと別の夢を見つけてるかもしれない。

 そうならなかったのはきっと…

 

「キッカケは…」

「……」

「…キッカケはやっぱり、あの事件かもしれません」

 

 それは私にとって、世界の終わりを告げた日で、新しい世界を生きる始まり。

 

「奏さんだけじゃなくて、あの日……沢山の人が亡くなりました……でも私は、生き残って…今も笑って元気にご飯を食べることができます」

 

 多分あんなことがなければ、私は一生命の大切や健康のありがたみなんて知ることはなかっただろう。

 私だけじゃない。

 人が人らしく生きるためにある沢山のものを、人は知らずに生きている。

 

 私の中で、もし他より優れている部分があるなら、少しだけそれを知っていることだけ。

 それしか私にはできない。

 何もなかった私にできたのは、せめて今を生き抜くくらい。

 

「だから私は…せめて誰かの役に立ちたいんです」

 

 私が生き残った事には、きっと意味がある。

 ううん、意味を見出さなきゃいけない。

 そうじゃなきゃ、いなくなった人達の想いはどこへ行けばいいのか……

 

 そして私は……

 

「明日もまた、笑ったり、ご飯を食べたりしたいから…だから、人助けをしたいんです」

 

 当たり前じゃないか。

 困ってる人を助けるなんて。

 

 そして私に力があるなら、

 それが私を助けてくれた人の力だというのなら、

 私は私に恥じない生き方をしたい。

 

 きっとそれが、奏さんに報いる方法だから。

 

「…貴女らしい、ポジティブな考え方ね」

「そ、そうですか?」

「でも……それは前向きな自殺衝動なのかもしれない」

「え? じ、じさつしょうどうっ?」

 

 翼さんは苦笑しながら言った。

 私の思考は中断された。

 

「誰かの為に自分を犠牲にして、古傷の痛みから救われたいという、自己断罪の表れなのかも」

 

 あまり私にはピンとこなかった。

 ただ他人事の様に、フィルター越しの画面を覗き込むみたいな違和感を覚えながら、私は翼さんの言葉を心で反芻していた。

 けど、私の心と翼さんの言葉の食い違いは、どうしても拭えなかった。

 

「私、何か変なことを言ったんでしょうか?」

「……」

「……あ、あははは」

 

 つい、笑って誤魔化した。

 そうなんだろうか。

 自分の根っこに自殺願望が……って言われたら、混乱したり、悲しんだり、図星なら動揺したりするかもしれない。

 けど、私は自分でも驚くほど冷静だった。

 

「は、はは……」

「…はぁ」

 

 また苦笑して溜息をついた翼さん。

 うっ、と私は息を飲んだ。

 また幻滅させてしまったんだろうか。

 気持ちが中途半端で、戦う覚悟の無いままと見られてしまうのは、流石に情けない。

 

 けど、翼さんの胸中を、私が推し量ることはできなかった。

 

「す、すみません……やっぱり変でしょうか?」

「……変かどうかは、私が決めることじゃないわ。貴女が自分で考え、自分で決めることね」

「私、が」

 

 当たり前だった。

 翼さんと、私は違うから。

 私達は似ているようで、違うものを見ていた。

 この時には、まだ気が付かなかったけど。

 

 でも、それはもっと後の話だ。

 風鳴翼と言う剣を携えて、縦横無尽に振るう王様が現れるまで……まだかなり時間がある。

 

 この時に私の中に生まれたのは、ある疑問だった。

 

「あの…一つ聞いていいでしょうか」

「なに?」

「私、やっぱりアームドギアが出ないんです」

 

 ふと、胸の内を明かしていた。

 

「それで?」

「そ、それで、ですね……何か、アドバイスを頂けたらと…」

「……貴女、私の話を聞いてた?」

 

 あっけらかんとした質問に、逆に翼さんは呆れた様子だった。

 

「アームドギアは心の有りよう。貴女が自分で強く想わない限り、アームドギアは現れない」

「そ、そこなんですっ」

 

 つい、強く聞いた。

 

 自分で決める。

 つまり、私の心のあり方や、戦う理由を…

 私は何のために…

 助けてくれた奏さんや翼さんのため? 

 困ってる人を助けるため? 

 ノイズを許せないから? 

 あの日、亡くなった人達への罪滅ぼし? 

 ……どれも正解な気もするし、どれも間違ってる。

 

 うん、多分これじゃない。

 私が戦う理由は、きっとこれじゃない。

 

 じゃあ何だろう? 

 この胸の中にあるモヤモヤは…

 

「考えても考えても分からないことだらけなんです」

 

 もっと私は強くなりたい。

 誰も傷つけさせない力が欲しい。

 

「私のアームドギアが出せないのは、私の心が変だからでしょうか? 見つからないからでしょうか?」

 

 ガムシャラに走ろうとする私を、遊星は止めた。

 

『俺たちはチームだ。2人で強くなるんだ』

 

 遊星は強い。

 その力で、私を引っ張り上げてくれる。

 けど…それなら私には何ができるんだろう。

 このままじゃ、私はまた頼り切りになる。

 それが怖かった。

 

 もっと強い自分が欲しい…だけど、私の心が決まらないのなら……

 

「デュランダルを掴んだ時、心がめちゃくちゃになって……暗闇に呑まれかけました。それで、気が付いたら…人に向かってあの力を……」

 

 もしかして…私のアームドギアを出せないのは、多分、私の心が決まってないからなのかな? 

 翼さんも言っていた。『アームドギアは常在戦場の覚悟の現れ』だって。

 覚悟があっても武器が出ないのは、心の底がモヤモヤしてるからなのかな? 

 

「私がもっと…アームドギアを上手く扱えていたら、あんな事にもならずに済んだのに……」

 

 やりたい事は分かっている。

 その根っこが分からなくても、私が進みたいと思う道は、きっと間違ってないと信じてる。

 だって、その先にはきっと、大切な人が……

 

「戦う覚悟はあるのに…なんでアームドギアは……」

「本当に?」

「え?」

「力の使い方を知るという事は、すなわち戦士になるという事。それだけ、人としての生き方から遠ざかるという事よ。あなたにその覚悟はあるのかしら?」

 

 今度こそ、

 

 翼さんは、私を正面から見据えて問うてきた。

 違う。今までの問いとは。

 これは、あの時の続きだ。

 私達がすれ違った夜と。

 ただ違うのは、翼さんは本気だという事。

 刀を抜くという意味じゃない。

 本当に曇りない心で、私を真っ直ぐに見てくれる。

 

「……守りたいものがあるんです」

 

 だから私は答える。その背中に追いつきたいから。

 

「それは何でもない、大切な日常だったりするかもしれないけど……それを大切にしたいって、強く想っているんです」

 

 それはあの日にようやく気付けた真実。

 私の中の世界。

 私を形作っているモノたち。

 それら全てを、守りたい。

 もう喪いたくない。

 自分が弱いせいで、壊して無くしてしまうのだけは、絶対に嫌だ。

 

「けど……」

 

 想いだけで、空回りしている自分。

 そんな私から、変わりたい。

 もっと強い自分になりたい。

 

「強くなりたいです。遊星と一緒に走れるように……」

「戦の中、あなたが心に思い浮かべていることは?」

「ノイズに襲われている人がいるなら、一秒でも早く救いたいです。最短で、最速で、まっすぐに、一直線に駆けつけたいっ!」

 

 即答した。

 

 私にはそれしかできないから。そして、いくら考えても、それ以外の理由が見当たらなかったから。

 私の中にはそれしかないから。

 

「相手がノイズ以外なら?」

「それは…!」

「……」

「もし……本当に、ノイズ以外なら…どうしても戦わなきゃいけない理由があるのなら、『どうして?』っていう、胸の内を、真っ直ぐに届けたいって…そう思ってますっ」

 

 そう。

 これが、答えへ至る道だった。

 

「あなたが今言った言葉を、出来るだけ強く、ハッキリと思い描きなさい。それがアナタの……立花響のアームドギアに他ならないわ」

 

 私は強くなる方法ばかり考えていた。

 それが違うと分かるまで、あと数十時間もない。

 

 幾ら探しても、分からないのは当たり前だった。

 私の戦う理由は……私の内側には無かったのだから。

 




未来さんがとうとう浮気現場を目撃……ひぇ!?
しかし遊星との仲を誤解されるとなるとマジでシャレになんねえな。
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