龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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感想、メッセージ、誤字脱字報告などなど本当にいつもありがとうございます。
このSSが、遊星や響の活躍が、皆様の心の活力に少しでもなってくれたらなと思います。



第5話『兆しの行方は、集いし想いの果てに』-4

「よし、これでエンジン回りは…」

 

 タイヤ部分は、乗り手の相性やコースなども考慮しないと何ともしがたい。

 退院したら、風鳴本人に乗ってもらいながら、その都度改良していくのが良いだろう。

 少なくとも、出来る限りのことはやった。

 

 表の駐車場で、道具を広げながら風鳴のバイクを見る。

 

(良い出来だ)

 

 一目見て、彼女のこだわりが感じられた。

 決して至高の逸品と言うわけではない。無論、市販品とは比べようもない高性能だが、それ以上にパーツ一つ一つに至るまで、とても丁寧に扱われているのが伝わった。

 

(もう少し穏やかな出会いが出来ていれば、風鳴との関係も少しマシになったかもしれないな…)

 

 今更考えても仕方がない。

 斬り合い寸前まで言った事を思えば、バイクを他人に預けようという気になってくれただけでも御の字だ。

 いや…寧ろ…

 

(愛機をいきなり預ける…と言うのは、少し信用され過ぎな気もする……)

 

 俺の中で、ある可能性が浮かび上がった。

 こうして俺に好き勝手させているのも、俺の行動を把握し、怪しい所がないか炙り出す為ではないだろうか…と。

 風鳴も、会話している時は一見穏やかに見えていたが、俺に対して警戒を全く解いてない風ではなかった。

 

(俺を試しているのか)

 

 だとしても。

 

 限られた環境で最善を尽くす他はない。

 そう思った俺は、再びバイクのカバーを外すと、自身のDホイールから予備パーツを出し、繋ぎ直す作業に取り掛かった。

 時代と場所は違っても、二輪走行の構造上、共通するパーツは幾つかある。今から行うのは、それを取り換える、というものだ。

 

(良い顔をされないかもしれない……だが…)

 

 おこがましいと言われればそれまでだ。

 

 ただ……このマシンを見た時、その仕上がりの良さと裏腹に、彼女自身の心の膿を垣間見た気がした。

 マシンは乗り手を映す鏡だ。見ればどんな性格か、何を求めているのか、何を考えているのかが自ずと読み取れる。

 その辺りはデュエルに通じるモノがある。

 

 

『遊星も、自分の気持ちを分かって貰えるように頑張らなきゃ』

 

 

 響が言ってくれた言葉が思い出される。

 俺自身も、壁を殊更作りたいわけじゃない。むしろ逆だ。これが吉と出るか凶と出るかは不明だが……

 

 

「先生」

 

 

 その時、遠くから俺を呼ぶ声がする。

 振り返ると、一人の女生徒が、駐車場の入り口に見えた。

 

「……小日向」

 

 少し前に、後者で別れた筈の少女が、鞄を持って俺の前へと立ちはだかるように、ゆっくりと歩いてくる。

 

「こ、こんにちは、先生」

「あ、ああ」

 

 先程別れた時と、少し様子が違って見えた。

 直前までは、俺や響を疑念の目で見ていたのがありありと感じとれたが、今は少し違う。

 微笑を浮かべ、人当たりの良い性格が浮き出ているようにも思えた。

 

「どうした、こんな所に?」

 

 ゆっくりと、慎重に尋ねる。

 

「どこか、具合でも悪いのか?」

「先生こそ、どうしたんですか?」

 

 張り付いたような微笑のままで、小日向は問い返す。

 

「それ、先生のバイクじゃないですよね?」

「ああ、これは……知り合いのだ。調子を見てくれと頼まれてな」

「風鳴翼さんのものですか?」

 

 息がほんの一瞬止まった。

 俺の動揺を見抜いたのかは分からないが、小日向は続けて言った。

 

「あの…ごめんなさい。さっき、図書室の向こう側から見えたから。翼さんの病室で先生と……響が、一緒にいるのを」

 

 なんということだ。

 まさか見られていたとは。

 確かにこの建物はリディアンと併設されており、学園の校舎には幾つか病室を覗けるスペースがある。だが注意は怠らなかった…

 

(あの時に見られたか…っ!)

 

 いや、一瞬だけ…風鳴の部屋が荒らされたと勘違いしてしまったあの数分間のみ、流石に俺も焦って外へ注意を払う余裕が無かった。

 

 修羅場はくぐっているものの、俺の危機管理能力や仕事はあくまで素人だ。緒川さんの様な訓練を積んだ動きではない。

 その僅かな綻びがこの状況を生んだのだ。

 

「用事って……翼さんのお見舞いだったんですか?」

「……ああ」

 

 まずい。

 実際に知られるかどうか、とは別だ。彼女に疑いの目を向けられること自体避けなければいけなかった。

 ここで響との繋がりを勘繰られるわけにはいかない。俺がいる時はまだしも、響自身、秘密を隠すということに長けてない。ルームメイトの小日向相手では必ずどこかにボロが出る。

 

「風鳴とは、あまり顔を合わせる前に入院してしまってな。見舞いも兼ねて、色々と話をしたかったんだ。だが…こういうのは不精でな」

 

 表情を変えないように努め、何とか言い訳を繋ぎ合わせていく。

 

「立花に話したら、相談に乗ってくれてな。今も一緒に付き添いで来てくれたんだ」

「そう…ですか」

 

 無理の無い範囲で取り繕う。

 嘘は言っていない。誰かの見舞いなんて殆ど行ったことがないし、彼女とのコミュニケーションで悩んでいたのも事実だ。

 真実を誤魔化すには真実を混ぜて話す方が容易だと云う。

 ただ、この数か月、彼女を見て思ったが、勘の鋭いところがある。これで納得してくれるかどうか……

 

 

「分かりました」

 

 

 予想に反して、小日向は納得した様子で頷いていた。

 

「私、先に寮に帰って待ってますから。あまり遅くならないようにって、先生からも言ってもらって良いですか? 私が言っても聞いてくれなくて」

「あ、ああ…」

 

 そう言って、彼女はお辞儀をした。

 逆に面喰ってしまった。

 もう少し食い下がって来るかと思っていたが……

 

「じゃあ、これで失礼します」

「小日向…っ」

 

 だが、俺が口にするより早く、彼女は頭を上げて、そのまま走り去ってしまった。

 慌てて追いかけようとするが、そう言う訳にはいかなかった。

 運命というものは皮肉だ。

 よりにもよってこんなタイミングで、小日向は俺と響が風鳴と共にいるのを見てしまい、そして今も、すれ違いを生むキッカケとなってしまった。

 

 

「おーい、遊せーいっ!」

 

 

 小日向の姿が見えなくなってから数瞬。

 俺の後ろから別の声がする。聞き間違える筈も無かった。

 振り向くと、さっきまで話題の渦中にあった少女が、病院の入り口側からこちらへと走ってくる。

 

「響っ」

 

 俺は振り返って彼女を見る。

 

「やっぱり駐車場にいた。翼さんが、バイクの様子を見てくれてるって言ってたから。いや~ごめん、さっきはつい寝ちゃって……遊星?」

 

 俺は急いで小日向の走り去った方向を見る。

 人の気配はない。

 どうやら本当に帰ってしまったようだ。

 

「何かあったの?」

「あ…いや」

 

 躊躇った。

 さっきの出来事を話してもいいものか。

 本来なら言うべきだ。もしこの後、不意に小日向から追及されれば狼狽するのは目に見えている。何らかの対策を打つべきだ。

 だがこの時、気持ちは少し後ろ向き……いや、ある種の後ろめたさを感じていたのかもしれない。

 

「……響は、何かあったのか?」

「ううん。ちょっと買い物に出ようかなって思って。それで、遊星はどうしてるかなって」

「買い物?」

「うん。おばちゃんの」

 

 ぐぅう~、と鳴る深く低い音。静かに彼女の顔へ視線を移すと、顔を赤くして頭を掻いていた。

 

「……お好み焼きを、はい。お腹が空きまして」

「そ、そうか」

「い、いやっ。でもね! おばちゃんも言ってたんだけど! お腹が空くと良い考えも浮かばないっていうか、悪いことばかり考えちゃうんだよ!」

 

 真顔で頷くと、慌てて響は捲し立てた。けだし名言だよね! と親指をぐっと立てて全力で笑うが、すぐに真顔に戻って本音を話した。

 

「…翼さんにアームドギアを扱うコツを聴こうとしたんだけど…イマイチぴんと来なくて」

 

 響なりに、明確な戦う手段。俺やチューナー抜きでも戦える必殺武器を研究するつもりだった。翼とそこまで話し合えるようになったことに俺は安心していたが、それでも響が言うにはあまり理解の範疇には無かったらしい。

 

「おばちゃんのお好み焼き、持ち帰りも出来るからさ。翼さんの分も一緒に買って、皆で食べようかなって。美味しいもの食べてお腹いっぱいになれば、きっといい考えも浮かぶよね!」

「……」

 

 俺のデュエリスト生命を賭けてもいいが、絶対に響は満腹になったところで眠りに落ち、良い考えは生まれないだろう。

 何故こんな風に自信を持って言い切れるかというと、過去に同じ様な発言をして散財し家計を圧迫した挙句、結局は成功に結びつかなかった男を一人知っているからである。

 

 しかしここで否定してもそれこそ良い結果にはならないし、俺達にも食事は必要だ。

 

「…ダ、ダメですかね?」

「いや。そうだな、やってみてもいいかもしれないな」

「だ、だよね!」

 

 やはり、小日向のことは話しておいた方が良いだろう。

 その後で、緒川さんや了子さんに相談すれば、上手い話の逸らし方を彼女に教えてくれるかもしれない。

 

(小日向も、完全に響を疑ってるわけじゃなさそうだ。あまりこちらから警戒し過ぎても、良い結果にはならないかもしれない)

 

「待っててくれ。今、片付ける」

「あ、いいよ。ちょっと走ればすぐだから」

「俺もあの店に用があってな。機械の様子を見ようと思ってる」

 

 なるほど、と響は納得して頷いた。無論、嘘ではないが、これは彼女と共に行動する方便だ。

 未だに俺達がネフシュタンの鎧の少女や、彼女を擁する黒幕…あるいは、二課の内部にいるスパイに狙われているのは変わらない。

 今は二人一組で行動する方が賢明だ。

 

「あ、それ翼さんのバイク?」

「ああ。丁度一区切りついたところだからな」

「え、もう? 凄いなぁ、さすが遊星!」

「少しパーツを取り換えただけだ。風鳴が気に入ってくれるといいんだが」

「ふうん…そう言えば、さっき見た画像とあまり見た目は変わらないね」

「ああ」

「どう違うの?」

 

 かいつまんで響に説明をすると、分かったような分からないような顔をしている。

 

「まあ…あとは本人のフィーリングだが…」

「大丈夫だよ。遊星が改良したんだもん。きっと翼さんも気持ちよく走れるよ」

 

 そういう響の目はお世辞でもない、純粋に信頼に溢れていた。

 それ自体は素直に嬉しかった。

 

「そうだな」

 

 短く応えると、俺は荷物をまとめてDホイールに収め、響と一緒に病院の裏手の方から商店街へと続く道へと歩き始めた。

 

「あれ? 遊星、そっちじゃないよ」

「いや…今、そっちに行くとマズい」

「え?」

 

 お好み焼き屋『ふらわー』は、学園から学生寮へと続く並木道を通り過ぎ、そこから坂道を下って行けばすぐに市街地へたどり着ける。

 だが…このまま行くと、万が一、小日向とバッティングする可能性がある。

 

 

「実はな……響が来る直前に」

 

 

 本当に運命は皮肉屋だ。

 いや…この後のことを考えれば、寧ろ彼女達の問題を解決するタイミングはここが限度だったのだろう。

 もう先延ばしにするわけにはいかなかった。

 小日向未来と立花響は、俺が知っている以上に硬く強い絆で結ばれていたのだ。

 

 それを誤魔化していれば……亀裂が入るのは自明の理だった。

 

 ――――! 

 

「っ!?」

「これは…!」

 

 けたたましく鳴る警告音。

 俺と響、お互いのポケットから鳴り響いている。

 間違いない、二課からの緊急通信だ。

 急ぎ取り出すと、弦十郎さんの声は双方に同時に響いた。

 

 

『俺だ! ネフシュタンの鎧の少女が現れた!』

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

『お腹空いたまま考え込むとね、嫌な考えばかり浮かんでくるもんだよ』

 

 お好み焼き屋『ふらわー』のおばちゃんが、前にそう言ってくれたことがあった。

 確かにその通りだった。

 腹が減っては戦は出来ぬ。そう思えば、まずは美味しいものを食べないとね。

 

 

 そう考えた……私はバカだった。

 

 

 どれだけお腹が満たされても、心にぽっかり空いた穴だけは、塞がらない。

 それを嫌と言うほどに、私は分かっていた筈なのに。

 

 

『ネフシュタンの鎧の少女が現れた!』

「あの子が…!」

 

 忘れもしない。

 この時の私の頭は、扱いきれないアームドギアと……そして、あの子のことで一杯だった。

 私と遊星を狙い、ノイズを操って、そして翼さんに重傷を負わせた女の子。

 

『この基地にまで、一直線に向かっている。狙いは恐らく、デュランダルだ』

 

 師匠の緊迫した声。

 デュランダルは移送作戦に失敗して、またリディアンの地下にある二課の基地に保管し直されている。了子さんが基地を改造して、誰にも取られないようにするって言ってた。

 けど、二課の基地の場所は誰にも知られてない筈なのに……

 

「遊星…!」

「…弦十郎さん、二課の場所がバレたのか?」

『その可能性は低いだろう。これだけの高エネルギーを発しながら近づけば、俺達に警戒されるのは明白だ。恐らくこれは敵の陽動……いや、挑発と考えられる』

「挑発…!?」

 

 私は息を呑んだ。

 

「狙いは俺達か」

『恐らく間違いあるまい。奴さん、とうとう痺れを切らしたようだ』

 

 そうか。私達が狙いなのも変わらないんだ。なら遊星か私の、どっちかが先に狙われてもおかしくない。

 

『既に周辺地区に避難警報は発令した。奴は東方面から、リディアンに向けて高速で移動している。二人は直ちに、こちらまで戻って来てくれ。住民のいない区域で、彼女を迎え撃つんだ』

「了解ですっ。すぐ向かい……遊星?」

「東方面…っ!?」

 

 けど、私より先に愕然とした声が出たのは遊星だった。

 

『どうした遊星君?』

「弦十郎さん、ネフシュタンの少女の進行方向に、生体反応はあるか?」

『なんだって? どういうことだ?』

「知り合いがその方向に走っていった。このままだと鉢合わせになる!」

 

 師匠の愕然とした声。

 此処から東ってことは……丁度、学生寮に帰る並木道がある。

 けどこの時間帯、人通りは殆どない。警報が鳴ったら、なおさら人は寄り付かない筈なのに……

 

『藤尭っ』

『とっくにやってますよ!』

 

 藤尭さんの声がする。そして次の瞬間、私は凍りついた。

 

『衛星からの映像、確認しました。女学生が一人、リディアンの生徒です!』

「響、急ぐぞ! このままだと、小日向が危ない!!」

「え…」

 

 嘘であってほしかった。

 けど私が言葉を発するより先に、遊星は翼さんのバイクの隣に停めてあるDホイールに跨ると、予備のヘルメットを私に手渡した。

 

「早くするんだ!」

「わ、分かった!」

 

 話を聞くより先に身体が動いた。

 ヘルメットを大急ぎで被ると、遊星の座るシートの後ろに跨るように乗った。

 キィイイイン! と独特のエンジンが回転する音が聞こえる。

 同時に液晶画面が起動して、Dディスク部分が虹色に光り始めた。

 僅かな振動と一緒に、遊星はクラッチを踏み、手元のボタンを操作する。

 

 瞬間、私達は風になって一直線に加速した。

 大道理を出ると、そのまま並木道へと向かう路地裏へと入る。

 思わず私は遊星に尋ねた。

 

「遊星、小日向って…!」

「……俺のミスだ」

「えっ…!?」

「響が来る直前に、小日向と話していたんだ。病室で、俺と響が一緒にいるのが校舎から見えたらしい」

 

 絶句した。

 そうだ…未来は、前から図書室で、借りたい本があるって言ってた。

 あの図書室の窓からは、病室が見えるんだ。

 何で考えなかったんだろう……未来が私達を見ている可能性だってあったのに! 

 

「遊星…!」

「今は彼女を助けるぞ。まだ遠くへは行ってない筈だ!」

「う、うんっ!」

 

 師匠からの連絡はない。

 ノイズが出てないなら、まだ大丈夫かもしれない。

 あの子だって、無闇やたらに人は襲わない……そう信じたい。

 ううん、信じるしかなかった。

 あの子が残酷で、人をいたぶる事をなんとも思わない人なら……

 

(お願い……お願い、未来…無事でいてね!)

 

 戦う相手を信じるなんて、バカなことを…翼さんなら、そう言って怒るかもしれない。

 けど怒られて未来が助かるなら、私は何回だって怒られる。

 そうじゃないと私は……! 

 

『ネフシュタンの反応、Dホイールとの距離を詰めています。距離およそ6キロ、接触まであと150!』

「掴まれ! 一気に加速するぞ!」

「…っ!」

 

 私が遊星の腰にしがみつくと同時に、彼がクラッチを踏む。

 一気に加速されたDホイールは、音を置き去りにする勢いで小道を駆け抜けた。二課の人が送ってくれるデータを元にして、最短距離を突っ走る。

 強風がヘルメット越しでも感じられる。

 その中でモニターに表示された二つの光点……私達とネフシュタンの鎧の反応は確実に近づいていた。

 

(戦う……あの子と戦う…!)

 

 いや、その前に未来を助けなくちゃ……! 

 こうなったら、もう隠してられない。此処から離れてなんて言いようがない。

 無理矢理にでも連れ出して、安全な所まで移動するしかない。

 

(ごめんね、未来……でも!)

 

 私、未来を守らなくちゃ! 

 そして、あの子と向き合わなきゃいけないの! 

 私は心の不安を振り払いながら強く想った。

 …その果てにあるモノを知らないで。

 

 

「いたぞ! 小日向だ!」

「未来っ!!」

 

 人影が見えた。

 まだ小さいけど、小さいころから知っているあの姿を間違える筈ない。

 未来だっ! 

 同時に、遊星がスピードを緩める。

 私は急いで横っ飛びに跳ねるようにしてDホイールから降りて着地した。

 

「響っ!」

 

 未来がいるのに、遊星は私を下の名前で呼んだ。多分、走行中のバイクから飛び降りるなんて無茶をしたんだろう。でも私は危ないとかそんなこと考える余裕はなかった。

 何故なら……

 

『ネフシュタン、接触しました!』

 

 友里さんの声が、もう後ろにあったDホイールから聞こえる。

 そこから遅れて

 

 

 ―――………見つけたぞ! 

 

 

 声が、した。

 並木道の方角。夕焼けを背に浴びて、逆光でシルエットしか分からなかったけど、確かにそこからの声を私は捉えた。

 禍々しい茨の鞭と、魚の鱗に覆われたような白い鎧。仮面に隠れてよく見えないけど、確かなのは、私とそう変わらない歳の女の子が、その正体を隠していること。

 

「ネフシュタンの…っ!」

 

 遊星が歯噛みする。

 その間に、最悪の形だった。私達が同時に同じ場所で出会うなんて……

 しかももっと酷かったのは、

 

 

「あ、響っ! おーいっ」

 

 

 未来が、全く状況を分かっていなかった! 

 

「未来、こっちに来ないでっ!!」

「えっ…?」

 

 向こうが私に向かって笑顔で走ってこようとする。

 瞬間、私と未来の間に亀裂が入った。

 

 

「お前が……お前がアアアアアアッッ!!!」

 

 

 叫び声がする。鎧の女の子が、その鞭を飛ばして私を攻撃した。

 けど、私が呼び止めたせいで、照準が狂ったのか、鞭は大きく逸れながら地面を抉る。

 コンクリートが地響きを立てて砕けていく。

 

 

「きゃあああああっっ!!?」

「未来っ!」

 

 飛ばされそうになる程の爆風と衝撃の中で、私は未来を必死に探す。

 

「っしまった!? 他の人間がいたのかっ!!?」

 

 鎧の女の子の叫びがした。

 向こうも未来がいることが分からなかった。夕焼けのせいなのか、それとも木陰で丁度隠れて見えなかったのか。

 けど、私の意識はあの子に向いていなかった。

 だって……

 

「マズい! 車が……小日向、逃げろっ!!」

 

 遊星が叫ぶ。近くに止めてあった車が、攻撃の反動でオモチャみたいに軽く宙へ跳ね上がり、そして……狙いを未来へと定めて落下していた。

 

 

「っ…っ…う、っ…げほ、げほ…な、なに……いったい…?」

「未来ぅっ!!」

 

 私は必死に走った。

 土煙の中で僅かに見えたシルエット。煙に巻かれて、その場にうずくまっている未来目掛けて私は走る。時間は止まっていた。

 その中で、全部が見えていた。師匠の声がする。その後で友里さんの声が、藤尭さんの声が。

 後ろでは遊星が、カードを引き抜いてDディスクにセットしようとしているのも分かる。

 けど、足が遅い。

 私の身体が前へ進んでくれない。

 全てがお伽噺みたいにゆっくりと穏やかに進む錯覚の中で、私の心臓はドンドンと身体を打ち鳴らしていく。

 

「………ぇ」

 

 ああ、未来が……未来がしんじゃう……!! 

 いや、いや! いや!! 

 こんなのいやだいやだ助けて助けて助けないと助けないと助けないとっ!!! 

 

「うわああああああああああっっっっ!!!!」

 

 Balwisyall Nescell gungnir tron―

 

 その叫びは、私の心を呼び覚ます。

 新しい力。心臓の奥深くから聞こえるもう一つの鼓動が、私の身体を組み替える。

 歌声が閃くのと同時に、私は叫んでいた。

 

「ああああああああっっっっ!!!!」

 

 気が付くと私は聖詠を唱え終えて、ギアのプロテクターを装着していた。

 そのまま拳を握りしめて、未来を庇うようにして立ちはだかると、落下してくる乗用車を狙って一気に右腕を振り上げた。

 

「だああっ!」

 

 一瞬だけバキンと言う重くて鈍い金属音と、腕に感じる衝撃と重さ。けど何も動じなかった。何も考えられなかった。

 私は勢いそのままに拳を振り抜く。

 気付いた時、車はキリモミ回転をしながら遥か後ろへと吹き飛んで行った。

 例えギアを装着してても、こんなパワーを出せたことは一度だってなかった。親友の危機が、私の力を引き出してくれていた。

 

「はぁ……はぁっ…はあっ…!」

 

 真っ白になった頭で、必至に呼吸を整える。

 ネフシュタンの女の子は、無関係の子を巻き込んだことに動揺していたから、こんな隙だらけの私を見るだけだった。

 私も、突然の出来事に意識が追いつかない。

 けど……それはほんの少しで、飛んでいた意識は、後ろから聞こえるか細い声で引き戻された。

 

 

「……ひびき?」

 

 

 小さな声。

 けど確かに聞こえる。

 驚きと、悲しみと……それと、恐怖と……

 

 ―――力の使い方を知るという事は、すなわち戦士になるという事。それだけ、人としての生き方から遠ざかるという事よ―――

 

 翼さんの言葉が蘇る。

 ああ、そうか……

 あの人が言っていたのは……こういうことだったんだ。

 

「ごめん」

 

 胸の痛みを押し殺して、私は引き絞るようにして、それだけを言った。

 ごめんね、未来。

 でもね、しょうがないんだよ。

 未来を、守るためだったんだよ。

 けど、だから……だからね……絶対に守るからねっ! 

 

 

「小日向、無事かっ!?」

「せ、せんせい…?」

「遊星! お願い、未来を安全な所へ! 私があの子を引きつけるから!!」

 

 思わず私は叫んだ。

 未来を巻き込んじゃいけない! 

 そうしないと、もう……こんな姿を、戦いを、未来に見せちゃいけない! 

 

「響も無理はするな!」

「大丈夫っ!」

 

 そう叫んで、私は飛び出した。

 

 

 ――ねえ、どうして? 広い世界の中で――

 

 

 それは、翼さんのアドバイスが響いたからなのか。

 未来を傷つけられたからなのか

 それとも、私が未来を守りたいと願ったからなのか

 或いは全部かな? 

 とにかく、私は新しい歌を、その身に響かせる。

 

「へっ! 鈍くせえのが……一丁前に挑発するつもりかよっ!!」

 

 鎧の女の子に、その姿を見せつけるようにして。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 もう、間に合わないとさえ思った。

 車が吹き飛び、落下地点に小日向がいると判断してから、咄嗟にカードを引き抜いたが、それでも到底彼女を救い出すには時間が足りなかった。

 

 響の驚異的とも言える判断と、尋常ではないそのスピードに、俺は暫くの間圧倒されていた。

 速い……速すぎる! 

 俺でさえ、彼女の変身してからのスピードをもう追い切れていなかった。あの一瞬で響は小日向の元へと駆け寄り、車を一撃で吹き飛ばしたのだ。

 シンフォギアを操るのは、心の強さ。彼女の親友への危機意識が、力を引き出した。

 しかし……これはとても…! 

 

「遊星!」

 

 その時、響の叫びで、俺の意識は引き戻された。

 

「お願い、未来を安全な所へ! 私があの子を引きつけるから!!」

 

 ハッと我に返る。

 そうだ、今はとにかく小日向の安全を確保するのが最優先だ。

 

「響も無理はするな!」

 

 俺はDホイールを吹かすと、小日向の方まで一直線に走る。一瞬だけスピードを弱めつつ、彼女の方まで向かい、そのままハンドルから手を話すと、小日向を掬い上げるようにして抱え込む。

 

 

「すまん、小日向っ!!」

「え…きゃあああっ!!?」

 

 彼女の身体を抱きかかえるようにして掴み上げ、一気にクラッチペダルを踏み込む。高速へとギアチェンジしたDホイールは、加速して響やネフシュタンの少女との距離をグングン稼いでいく。

 

「な、なにっ!? 何ですか、これっ!? せ、先生っ!!?」

 

 抱えられた中で、必死にもがいて叫ぶ小日向を、力ずくで抑え込む。了子さんから女の子の扱いは気を付けろと言われていたが、正直そんな余裕はなかった。

 響がどの程度持ち堪えられるかどうかわからない。

 今はとにかく、彼女を安全な所まで運ばなければ……

 

「せ、先生っ! 離してください! 響がっ! 響があそこにいるんですっ! 先生っ!」

 

 尚も必死に呼びかける小日向。

 この状況で親友のことだけが飛び出るその勢いに、本来なら感心するところだったが、今はこの際、足かせになってしまう。

 

「いいから黙ってろっ! 死ぬぞっ!」

「っ…っ!」

 

 つい声を荒げてしまう。

 俺の気迫に小日向も流石に押し黙った。

 しかし罪悪感に浸る間もない。

 俺の後方。さっきまで響たちがいた場所よりもさらに奥で、鈍い轟音が起こるのが伝わる。

 

「っっ…!?」

 

 小日向がビクリと体を震わせた。

 流石にもう叫びだすことはしなかったが、無理もない。親友がいた場所で破壊が起こり、しかもその渦中にありながら、自らがその混乱へと飛び込んでいく。まるでフィクションの世界のように。

 

 

『遊星さん!』

 

 

 その時、Dディスクの通信機能から、声が流れてきた。

 別任務に就いていた筈の、緒川さんだ。

 同時に、クラクションが鳴り響いた。

 並木道の反対方向から、黒塗りの乗用車が一台、こちらへと向かってきている。二課の用意した特殊車両だ。それにあのナンバーはいつも彼が使っているモノである。

 

「緒川さんかっ!?」

 

 俺は急いでブレーキを踏み、Dホイールを停止させる。同時に向こうもドリフト気味に車体を横に滑らせて急停止した。

 遮光ガラスが開き、緒川さんが運転席から顔を覗かせる。

 

「状況は把握しています。彼女は我々で保護します」

「頼む!」

 

 短く応えると、俺は小日向をDホイールから降ろす。

 未だ混乱の最中にある彼女に、俺は努めて冷静に呼びかけた。

 

「小日向、この人と一緒にいるんだ。そうすれば安全だ」

「せ、先生……な、何なんですかっ? 一体、何が、どうなってるんですか…!? 響は…響は、どうしちゃったんですかっ!?」

 

 袖を掴んで、俺を見上げながら胸の内をぶつけてくる少女。

 こんな事態に遭遇しながらも、彼女の心は親友である響に向けられている。だが、それに応えてやることは今の俺にはできないのだ。

 

「…すまない、今答えてやることはできない」

「っ…!」

「緒川さん、彼女を頼む! 俺は響の援護に向かう」

「お気を付けてっ!」

「ま、待ってください! 先生っ、先生っ!!」

 

 彼女の想いと言葉を置き去りにして、再びDホイールに火を灯す。

 一気に回転数を上げたモーメントエンジンは、彼女への未練を振り切るようにして甲高く唸りを上げ、機体を熱くさせた。

 

「さぁ、あなたはこちらへ!」

 

 緒川さんが小日向へそう言ったのが、聞こえた最後の言葉だった。

 次の瞬間、二人の姿ははるか遠くにあり、俺は元来た道を一直線に戻り始めた。

 

(既に戦いは始まってるか……耐えてくれっ、響!)

 

 今は響のことだけを考えなくては! 

 そう思い、瞬時に思考を戦いの場へと切り替えた。

 その時、Dホイールに通信が届いた。

 

 

『響ちゃん、交戦に入りました! 現在、市街地を避けて移動中!』

『聞こえるか、遊星君。響君は被害を抑えるために、人気のない所まで移動している。こちらの誘導に従って、彼女と合流してくれっ!』

「了解したっ」

 

 

 短く応えると、改めてデバイスにカードをセットし直す。

 同時にモニター画面にはマップが表示された。緑色の光点が響を指示している。最短経路を予測し、俺はハンドルを切りなおした。

 

(この距離なら、あと数分で着く…問題は)

 

 響は持ち堪えてくれるだろう。後は、どう彼女を無力化するかだ。

 敵は恐らく俺達を再び分断するか、或いはノイズを使って物量で圧倒する可能性も……。

 

 …いや、待てよ? 

 

「藤尭さん、ノイズの反応はあるか?」

『いや、こちらからは確認できない。響ちゃんの所でも同様だ。ネフシュタンの反応だけが、彼女と接敵している』

「どういうことだ?」

 

 敵は明らかに今回、手を変えてきている。

 こちらにも分かる、あからさまな出現。そしてノイズは現れない。

 何かの罠か? 

 いや、それなら今こうして俺達が分断されている時にこそ、ノイズを出現させればいい。

 それをさせないという事は…

 

(敵に何らかのアクシデント……いや、楽観視はできない。なら、俺達をまとめて撃破するための策か?)

 

 敵が俺達の予想も出来ない手段を講じてくるのだとすれば、勝利のカギとなり得るのは、向こうも知らない戦術をこちらも整えることだ。

 

(ならばっ!)

 

『遊星君、そこの並木道をくぐれば、響ちゃん達の所へはあと少しよ!』

「分かったっ!」

 

 友里さんの指示を受けると、俺は急いでDホイールを急停車させた。

 そして腰にあるカードケースから、数枚のカードを抜き取ると、Dディスクのデッキを取り出して、組み替える。

 

『遊星君、何をするつもり?』

「スタンディングに切り替える」

『けどそれじゃ、機動力が』

『構わん、遊星君に任せるんだ』

『司令…!』

 

 友里さんを制しながら、弦十郎さんの声が届く。

 

『遊星君、十分に注意してくれっ。どうやら相手は、ノイズを発生させる例の聖遺物を所持していないようだ。だとすれば何らかの罠か、伏兵も考えられる』

 

 流石は二課の指令だ。俺と同じ結論に至っていた。

 デッキの組み換えを終えると、急いでデバイスをDディスクへとセットする。

 ガイダンスボイスが設定終了を告げると共に、急斜面を降りて、反応のある場所へと駆け出す。

 

『モーメントアウト』

 

「今いくぞ、響っ!」

 

 もうこの時には、俺の中から小日向未来と言う少女のことは、殆ど抜け落ちてしまっていたのだった。

 その時だ。

 再び轟音が辺りに飛び交い、木々がメキメキと音を立てて崩れていた。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 私の数センチ横を、鞭がしなって掠めた。

 

「っ!!?」

 

 もう一回、横っ飛びに跳ねる。

 そのまま側転を数回繰り返していると、さっきまで私がいた場所の地面が砕けて、生い茂る気がバキバキへし折れた。

 

(足を止めちゃ駄目だ!)

 

 足裏に力を込めて、地面を這うようにして、私は森の中を駆けた。

 あの子の鞭が今度はこっちの足を狙ってくる。水平の薙いでくるそれを、ジャンプして躱す。すると今度はもう片方の鞭が盾に伸びて私の顔面を目掛けて打ち下ろされた。

 

 空中に飛んだ私は逃げようがない。けど…! 

 

「っああああっ!!」

 

 横に生えている大きな樹の幹を思い切り蹴り上げる。

 反動で真横にダイブした私の側面を、縦に襲う鞭が通過して行った。

 

(あ、危なかった…!)

 

 未来が襲われて、相手に何の恨みも無かったのかと言われてら、多分ウソだ。

 けど、この状況でそんなものは何処かへ行ってしまった。

 そんな感情に突き動かされたら、絶対に今頃叩きのめされて地面に転がっていたに違いない。

 

(やっぱり強い……強過ぎる!)

 

 翼さんだって敵わなかった相手なんだ。

 まだ私の及ぶ相手じゃない。分かってたつもりだったけど、それでもいざ面と向かうと、勢いに圧倒される。

 

 

「オラッ! オラっ!! どうした、逃げるだけかっ!!」

 

 

 距離を取っちゃいけない。私にはあの子や遊星、翼さんみたいな飛び道具がない。

 そう思っても、何度も何度も繰り返し出される攻撃。

 反撃しようとしても体勢を立て直す暇も無かった。

 

「いい加減にしやがれ! チョコマカチョコマカとぉっ!!」

 

 避け続ける相手に痺れを切らしたあの子。

 私に向かって叫び声を上げながら更に攻撃は激しくなっていく。

 

(ダメだ…どうしたらっ!)

 

 この状況を切り抜けなくちゃ…! 

 でも、どうしよう…! 

 前みたいに相手の鞭を掴みとることはできない。向こうも警戒して……

 

(前みたいに…)

 

 そうだ。

 私は思い出す。

 この間、工場で戦った時、私はあの子に何をしようとしたか。

 

(前みたいにしちゃいけない! あんな……力で壊してちゃ駄目なんだっ!!)

 

「うぉらああっ!!」

 

 正面から襲い掛かってくる鞭。咄嗟に両腕でガードする。高い音と一緒に、衝撃が全身に広がる。勢いを殺しきれずに、数メートル後ろまで吹き飛ばされたけど、何とか踏みとどまった。

 

「へっ、ドンくせえのがやってくれるなっ!」

「私は『ドン・くさい』なんて名前じゃない!!」

「はっ?」

「私は立花響、15歳!」

 

 負けちゃいけない! 

 力じゃない。強さじゃない! 

 胸の中にある子の想いだけは、ヘシ折られるわけにはいかない! 

 

 ――戦の中、あなたが心に思い浮かべていることは? 

 

 あの時、翼さんの問いかけが蘇る。

 イメージするんだ。私の中にある気持ちを。出来るだけ具体的に、出来るだけ強く! 

 

「誕生日は9月13日で、血液型はO型! 身長は、この間の測定では157センチ! 体重は……もうちょっと仲良くなってから教えてあげるっ!」

 

 私は必死になって捲し立てる。

 こんな戦場で戦う女の子の気持ちを、最初から理解はできない。なら、せめて私のことを知ってもらうんだ。

 私に戦う気持ちがないってことを、まずは伝えるんだ! 

 

「趣味は人助けで、好きなものはご飯&ご飯! あとは……」

「……な、なにトチ狂ってやがる、オマエ…!?」

「彼氏いない歴は年齢と同じです!」

「人の話聞いてんのかコラァ!!」

 

 女の子は叫ぶ。

 けど私は構わず捲し立てた。

 乙女の秘密を暴露するなんていう暴挙が、どこまで意味があるのかなんて分からないけど、それでもやるんだ。

 

「だって私達は、ノイズと違って言葉が通じるんだから、ちゃんと話し合いたい!」

 

 戦いたくない。

 分かり合いたい。

 どうしてあなたは戦うの? 

 どうしてそんなに怒っているの? 

 何を求めてるの? 

 何をそんなに……

 

「なに悠長なこと言ってやがる! この期に及んでぇ!!」

 

 哀しい眼をしてるの? 

 

「ふんっ! はっ!」

「なっ!?」

「ほっ! はっ! ふああっ!!」

 

 相手は私目掛けて再び鞭をしならせて攻撃してくる。私は相手を見据えて、攻撃を回避することに集中した。

 

「ちくしょうがああっ!」

 

 めまぐるしい攻撃。けど、さっきより躱しやすくなってた。

 向こうが攻撃を緩めたのか、それとも私の目が慣れたかは分からない。

 

 けど、その中で私の想いはどんどん強くなっていった。

 

 やっぱり私、この子と話し合いたい。

 根拠なんてない。

 やっぱり彼女は悪者で、誰かを傷つけることに理由なんてないのかもしれない。

 

 でも……

 

「話し合おうよ! 私達は戦っちゃ駄目なんだよっ!!」

 

 避けながら必死に叫ぶ。

 その声を聴いたら分かるよ。

 そんな風に、辛い叫びをしているのを聞いたら、私は戦えない。

 

「だって言葉が通じていたら人間は!」

 

 人間はきっと分かり合える。

 こんな事を、私みたいな人間が言うのはおこがましいって分かってる! 

 けど、それでも私は、私達は生きてるんだ。それはきっと争う為じゃない。そんな事しても、何の意味もないんだから! 

 

「ねえ、お願い、話を」

「うるせえ、黙れえええっ!!」

「っ!!?」

「……に…ねぇ…」

 

 私の叫びを初めは聞いていた鎧の女の子は、攻撃を一旦やめると、だらんと鞭をその場に垂らして、ぼそぼそと何かを呟き始めた。

 

「え…」

「気に入らねえ……気に入らねえ、気に入らねえ!」

 

 それは私に向けられた怒りと、憎しみと、悲しみの籠った、血の叫びだった。

 

「分かり合えるものかよ…人間が……人間がそんな風に出来ているモノかよ……!」

 

 僅かに俯いて、バイザーに隠されて、表情は分からない。けど私は、思わず歯を食いしばっていた。

 

「気に入らねえ気に入らねえ、気に入らねえ気に入らねえ気に入らねえっ!!!! お前が! お前があ! ムカつくんだよっ!! てめええっ! 分かったことを! 知ったような口いてるテメエが! それでベラベラ喋ってるテメエがアアアアアアアッッ!!!」

 

 何度も何度も、怒り狂った彼女は私に向かって気持ちを叩き続ける。びりびりと空気が振動する。本当に、あの子の叫びで、空気が揺れていた。

 

 

「お前を引きずって来いと言われたが……もうそんなのどうでもいいっ!!」

 

 相手が拳を握り締めながら叫ぶ。

 

「お前をこの手で叩き潰す! 今度こそ! お前の全てを踏みにじってやる!!」

 

 この気持ち……悲しみと、痛みと……そしてどこか申し訳ない気持ちで、私の胸は一杯だった。どうして私は、この子に罪深さを覚えてしまったんだろうか? 

 

「ぐおおおおおっっ!!」

 

 唸り声をあげて、向こうが宙にジャンプする。

 そして鞭を高々と掲げると、あの子の頭上では、光の玉が出来始めていた。

 それは周囲に防風をまき散らして、徐々に大きくなっていく。

 

「っ…!」

 

 息を呑んだ。バチバチと白黒に明滅しながら、どんどん光の玉は大きさを増していく。

 

(あれは……)

 

 

 前に見たことがあった。翼さんと戦っていた時に出した。あれをまともに受けて、翼さんは倒れてしまった。まともに受けたら、防ぎきれない。避け……ダメだ! 避けちゃ駄目だ! あの子と分かり合いたいと願うなら! あんなものくらいで下がっちゃいけない! 

 

「私だって……私だって、やられるわけにはいかないんだ!!」

「黙れええええええっっ!!!!」

 

 受け止めてみせる! あれがあの子の怒りだっていうのなら! 

 

「ぐっぅ……うぅううううううっっっ!!」

 

 発射された球体を私は真正面から受け止めた。

 ジリジリと熱い、まるで太陽を受け止めてるみたいだ。おまけにダンプカーに正面衝突されたみたいに衝撃が私の顔面に襲い掛かってくる。鼻が潰れそうになるような感覚に襲われながら、私は必死に願った。

 

 どうか力! 力を! 力を! 

 相手を壊す為じゃない。悲しむためじゃない! 

 この子に胸の内を伝えられるだけの力を! 

 

「コンちくしょうめがああああっっ!!」

「っ!!?」

「持ってけダブルだあああああァ!!」

 

 二発目っ!!? 

 そんな気持ちを封じ込めるようにして、向こうは更に叫び続ける。

 私が守りに入っている間に、あの子は更に大きな球をもう一つ作り出していた。まるで、全ての言葉に蓋をするようにして。

 

「う、ううっ、うあああああっっ…!」

 

 私は戦えない。

 戦いたくない。

 身体中の骨がへし折られそうだ。

 

『俺達はチームだ』

 

 瞬時に蘇る、今度は遊星の言葉。

 今私が倒れたら、今度は遊星が一人で戦わなきゃいけない。

 そうだ、私が戦うのは、私だけの為じゃない。

 例え一人で戦えなくても! 

 

「ぬうううあああああああっっ!!」

 

 ゆっくりと、ゆっくりとだけと、徐々に体が軽くなる。

 光球の勢いが、少しずつ弱くなってきている。違う。私は無意識のうちに、力のコントロールを覚え始めていた。

 即ち、私のアームドギアを! 

 

「なにっ!?」

「あああああっ!!」

 

 掴みとったエネルギーを、そのままおむすびでも握るみたく、ぎゅっと両手で抑え込もうとする。そうだ。相手にエネルギーがあるなら、それを利用して、私の物にして、受け止める。

 それを、武器としての形にすれば…!! 

 

「……うわっ!!?」

 

 けど、集まってきたエネルギーは、私が『ある形』を思い浮かべた瞬間、弾け飛ぶようにして霧散した。そのまま光の粒になって、エネルギーは何処かへ飛んで行ってしまう。

 

「え、エネルギーが……!?」

 

 形に成らない!? 

 確かに翼さんの言葉を思い浮かべた。

 覚悟だってあった。

 強い想いを常に持ち続けた。

 けど、記憶の中にある奏さんの構えた槍をイメージした瞬間、私の手に封じ込めたエネルギーは消えてしまった。

 

 

「チョコザイが過ぎんだよおおおっっ!!」

 

 

 トドメとばかりに放たれる三度目の光球。

 しまった…! 

 さっきの勢いで受けた衝撃が抜けきってなかった。

 私の目の前に迫る光の玉。脚が動かない。腕も痺れて、ガードに回す余裕がない。

 

「っ!!?」

 

 咆える私の寸前で、光球は爆発した。

 瞬間、私は爆風を利用して後ろへと飛ぶ。

 その時、私は理解した。

 

 彼女が放った、ネフシュタンのエネルギーを。その身体に握りしめた時に、横から割り込んできた『ソレ』が、光球を弾き飛ばしたのだ。

 

「コイツは……!?」

「『くず鉄のかかし』…!?」

 

 私と光球の間に飛び込むようにして生えてきた、ボロをまとった鉄屑の案山子が、私を守る盾になってくれていた。

 今まで何度も私を助けてくれた『能無し人間』―――けど、今は彼が世界一勇敢な助っ人だった。

 

 

「待たせたな、響っ!」

「遊星っ!」

 

 

 よろめいた私の身体を、遊星が受け止めていた。

 一瞬脱力しそうになった。ううん、事実、遊星が来て、本当に少しの間だけど、気が抜けてしまった。

 それだけ、目の前にいるあの子の力は驚異的だった。

 

「『くず鉄のかかし』を、フィールドに再セットするッ」

 

 遊星の声で、かかしは赤く縁どられたカードに吸い込まれるように戻っていく。

 

「ありがとう、助けてくれて」

「いや、良く持ち堪えたぞ」

 

 そう言って、遊星は私の頭に手を置いた。

 うん、と私は強くうなずく。

 遊星がいてくれるなら、私は……私達はまだ戦える! 

 

「きやがったな、異邦人…!」

 

 遊星が来てくれたはずなのに、それでも向こうの意志は途切れない。

 ギリリ、と歯噛みをしながら、鎧の女の子が私達を睨み付けた。

 

「舐め合って馴れ合って吸い付きやがって…!!」

 

 寧ろ、より強い怒りを、私達にぶつけてるみたいだった。

 鎧の女の子が咆えた瞬間、周囲の岩や木々はまるで紙切れみたいに衝撃で吹き飛ぶ。まるで怒りを食べて巨大化する怪物だ。

 

「好都合だ。そこのクソバカ女と合わせて、テメエも夏のバッタみたいに引き千切ってやる!」

「っ…!」

「響」

「遊星……」

「フォニック・シンクロだ。それしかこの場を切り抜ける方法はない」

 

 遊星は静かに言った。

 その指は、音を立てることなく、カードに添えられている。

 ジャンク・シンクロン。

 あの時に私を救ってくれたチューナー・モンスター。

 

 確かにあの時の力を出すことが出来れば……皆の力を借りたら、あの子を追い払ったり、やっつけることはできるかもしれない。

 でも……

 

 

「響?」

「待って」

 

 それじゃ、前と同じだ! 

 

「私……あの子に伝えたいっ!」

「だが…っ」

「私の気持ち……今はまだ、モヤモヤでワヤクチャで、何言ったらいいのか分かんないけど、でも……私、あの子と戦いたくなんてないよっ!」

 

 遊星の右手を掴んで止める。

 私の手は震えていた。

 怖い。

 今更、戦うのは怖いってことを思い出した。

 それだけじゃない。

 

『上手くいかなかったら、私の気持ちはどこへ行くの?』

 

 その不安が心を支配しようとしている。

 けど、止められない。

 だって……

 

「しかし、このままじゃ、俺もお前も倒れるだけだぞっ」

「なら、私は、この気持ちごとぶつかりたい!」

「……」

「相手に気持ちを伝えられないままなのは、もっと嫌だからっ!」

 

 どくん、どくん

 

 心臓の鼓動が聞こえる。

 それは私の中のたった一つの想い

 

 目は背けない。

 

 それだけは絶対に譲れない、私だけの誓い。

 その決意は、力を引き出す。

 私と遊星の繋がりを、より深くして、力へと換える。

 

 

『ニンッ!』

 

 

「え?」

 

 その時、カードは光を放った。

 

 ジャンク・シンクロンじゃない。その隣にある、遊星が持っていたカードのうち、もう一枚だ。

 乾電池みたいな胴体に、機械の手を生やした、漫画のキャラクターみたいな姿。

 これって、確か……

 

「ニトロ・シンクロン…!」

 

 そうだ! 私が師匠と特訓をしていた時、庭の池から見つかったあのカード! 

 

『ンムッ!!』

 

 実体化されてないのに、カードは私達に何かを伝えたがっている。その証拠に、この精霊の叫びは、確かに私達の頭へと、心へ届いていた。

 

「これって…!」

「力を使えと言うのか?」

『…』

「……分かった、頼むぞ」

『ニニゥ!』

「…遊星?」

「響、俺が時間を稼ぐ」

 

 静かに、ポーカーフェイスのままで、遊星は頷いて言った。

 

「お前は自分の想いを高めることに集中しろ」

 

 じっと私の目を見据えて。

 

「俺の想いも載せて、奴に直接届けるんだ」

 

 直接届ける。

 その言葉は、私の曇りを晴らしてくれた。

 

「……あ」

 

 そうか。

 何を勘違いしてたんだ、私。

 奏さんみたいにはなれないって、分かってた筈なのに。

 

(そうだ…エネルギーはあるんだ! アームドギアで形成されないのなら…!)

 

「なにゴチャゴチャ話してんだ……?」

 

 その時だ。痺れを切らした、鎧の女の子が、大地を踏みしめて、こちらへと近づいてくる。

 

「ほら、こいよ。この間の妙な変身を使うんだろ? やってみろよ。その隙があったらな」

 

 生唾を呑んだ。ツゥ…と、汗が額から落ちてくる。

 

「俺を信じろ、響」

 

 それでも。

 遊星は、届かせると言ってくれた。

 ならこの人は、必ずやってくれる。

 私を導いてくれた、暗い夜空で輝く光り星。

 この人が、向かうべき道を指示してくれるというのなら……

 

「うん。分かった」

 

 星に願いを。

 私に力を。

 

 

「……テメエ」

 

 

 鎧の女の子が、静かに、怒りに打ち震えながら拳を握りしめた。

 

 うん、あなたは、何かが許せないんだね。

 ごめんね。

 私はこうするしかできない。

 

 でも……だからこそ、あなたを止めるね。

 

 それが私の選んだ道だから。

 あなたを止めなくちゃ、私が、あなたが、もっと辛くなるような気がするから。

 だから私は歌うんだ。

 

 

「行こうっ、遊星!」

 

 

 誰もが、青臭いと断じるだろう。

 戦うより先に分かり合いたいと願うのは。

 けど私は……私達が巡り合った、この意味は、その青臭さだ! 

 私はそう信じてる! 

 

「させるかよおおおおっっ!」

 

 女の子が、地面を蹴って、飛び出そうとする。

 けど、それよりも一瞬素早く、遊星の右手は動いていた! 

 

「手札一枚を墓地へ送り、『カード・フリッパー』発動!」

 

 そうだ。フォニック・シンクロをする為には、遊星がモンスターを呼び出すまで待たないといけない。

 それに、私が戦っている間は召喚やフォニック・シンクロが使えない…! 

 けど相手の攻撃を止められる『くず鉄のかかし』はもう使っちゃった。あれはあと一分近く待たないとダメだ。

 それを見越して、遊星は動いていた。

 

「なっ!? があっ!!?」

 

 私がガードをしようとした時だった。

 彼女の動きが止まる。

 それだけじゃない。

 攻撃をしようとしていたその腕が、まるで操り人形みたいに勝手に動いている。あの子の意志じゃないのは私にも分かった。

 

「な、んだ、これ……!!? くそっ…か、身体が、勝手に……!!?」

 

 まるで自分を庇うようにして、向こうは腕を構えて、顔を覆う。

 師匠が見せてくれたプロボクサーのガードの構えだった。

 そうだ。あの子は防御の姿勢を取っている。

 

「て、めえぇ……な、に、しやがったァ!?」

「カード・フリッパーは、モンスターの表示形式を入れ替えるカードだ。お前は一分の間、守備態勢を取らざるを得なくなる」

「ん、だと…!?」

 

 遊星が使ったのは、あの時食堂のおじさんから受け取った魔法カード。

 手札を一枚捨てないといけないけど、その代わりに攻撃している者は防御を、逆に守りの構えを取っている相手は、自動的に攻撃の姿勢へと強制的に変えられてしまう。

 それが、このカード…『カード・フリッパー』の力! 

 

「更に、ジャンク・シンクロンを召喚!」

 

 これなら、一分の間、私達は自由に行動できる。

 畳みかけるようにして、遊星は次のカードをセットしていた。

 遊星の指示を受けて、モンスターが現れた。

 それは、山吹色の鎧を身に着けた、機械みたいな二頭身のモンスター。

 あの時私たちの前に現れて助けてくれた精霊。

 

「ジャンク・シンクロンの効果発動! 墓地のレベル2以下のモンスター一体を、特殊召喚する!」

 

 そうだ。

 ジャンク・シンクロンは、失った仲間を一度だけ呼び戻すことができる。

 あの時に呼んだのはスピード・ウォリアーだった。

 けど今回は違う。

 鍵になるのは、私達の熱い思いを体現してくれる、あのカードだ! 

 

「行くぞ響、このカードの力が、お前の道を切り開くッ!」

「はいっ!」

「戻って来い! ニトロ・シンクロン!!」

 

『ニニニニィーイッ!』

 

 さっき捨てたカード。

 それこそが、遊星と私に語りかけてきたニトロ・シンクロンだった。

 ジャンク・シンクロンの力を使えば、カードを一旦捨ててもこうしてまた戻って来てくれる。そのことまで計算して、遊星は『カード・フリッパー』を使っていた! 

 

 

「レベル2撃槍ガングニールに、レベル3ジャンク・シンクロンをフォニック・チューニング!」

「はああああああああっ!!」

「集いし星よ、新たな歌を響かせて、此処に光射す道となれ! フォニック・シンクロ!」

 

 

 力が流れ込んでくる。

 あの時と同じ。

 遊星の力と、私の力が一つになる感触。二つの力が混ざり合って、溶けあう。胸の内から込み上がる力。それが私のギアの形を新しいモノへと変えてくれる。紫色の鎧と、白いマフラー。

 そして右腕の巨大な手甲。

 

「出でよ、ジャンク・ガングニール!」

 

 私と遊星の力を繋いだガングニール……ジャンク・ガングニール。

 

(けど…これじゃあ、多分、あの子に気持ちは伝えられない…!)

 

 何となく直感で分かった。

 このガングニールは、私と仲間の力を集めてくれる『繋がり』のカード。

 けど私達の力を繋ぐだけじゃ。あの子には届かない。

 なら……遊星の『力』だけじゃないなら! 

 

「続けて、レベル5のジャンク・ガングニールに、レベル2のニトロ・シンクロンをフォニック・チューニング!」

 

 立て続けに遊星が叫ぶ。

 ニトロ・シンクロンがドルドルドルと、エンジンが唸るような低音を鳴り響かせる。横に立つニトロ・シンクロンの頭のてっぺんにあるメーターが、一気に針を進ませる。

 瞬間、私の中の血液がいきなり目まぐるしく全身を駆け巡った。

 

「ぐっ、うううううっっぅ!!!」

 

 熱い! 

 沸騰するみたいに熱い! 

 身体が内側から火傷しそうだった。

 これは私の力じゃない。

 ニトロ・シンクロンの力が私に流れ込んできているんだ。パワーはそんなに強くない筈なのに、その力は私を支配しようとする。

 

 まるでデュランダルの時のように……

 

(違う!)

 

 同じじゃない。

 デュランダルは怒りや憎しみで私を支配しようとしていた。けどこれは、あくまで純粋な思い。熱い、強い、どうしようもない程に激しい感情の波だった。

 

(遊星の…遊星の、気持ちだ!)

 

 初めて知った。

 あのいつも冷静な遊星の心には、こんなに昂るような気持ちが渦巻いていたなんて…! 

 心臓が高鳴る…ドキドキする……私の中に入ってくる…何…これは……この想いは…!? 

 

 

「集いし想いよ! 新たな力を歌に込め、此処に光射す道となれ!」

 

 ―――私が決めることじゃないわ。貴女が自分で考え、自分で決めることね―――

 

 

 何もない! 

 遊星はただ、自分の強い気持ちを分け与えてくれただけだ。

 それをどう名付けるのかは…どういう風に使うのかは……どうやって向き合うかは、私が決めるんだ!! 

 

 

「フォニック・シンクロ!」

「燃え…っ…あっがれぇえええええええっっ!!!」

「ニトロ・ガングニールッ!!」

 

 

 次の瞬間、私は周囲を吹き飛ばした。

 私を駆け巡る熱い思いは、いつしか私の身体を、ガングニールを、もう一段階次のステップへと進化させていた。緑色のプロテクターと、両腕についたジャンク・ガングニールよりも遥かに大きいアームジョイント。

 背中と腰に付いたのは、多分熱を逃がすための空気穴だ。

 

「はあっ…はぁっ……はぁ…はあ…!!」

 

 深く吸って、息を吐く。それだけで、白く熱を灯した空気が辺りに充満した。

 強い……強いエネルギーだ。

 気を張ってないと、今にも倒れてしまいそうな強い迸りを、私は全身に感じていた。

 

(気を抜くな! 相手を見るんだ! 私の想いを伝えるんだ!)

 

 それを……私は、想いを、預かった! 

 なら私は、それを高めて、あの子にもう一度……渡すだけだ!! 

 

「あとは任せるぞ! 響! 一撃で決めろっ!!」

「はいっっ!!」

 

 

 ―――その場しのぎの笑顔で 傍観してるより

 

 

 私の胸に、熱い思いが宿る。

 それは私の中だけで形を成していき、やがて言葉となって紡がれる。

 

 

 ―――本当の気持ちで 向かい合う自分でいたいよ

 

 

「こいつ……また新しい姿を……しかも、これは……この瞬間に、アームドギアまで!?」

 

 

 ―――きっとどこまでも行ける 見えない未来へも飛べる

 

 

 あの子の動きが元に戻る。

 

「させるかよォ!」

「!!」

 

 この歌は、いつの日にか、忘れ去られて居た、ガングニールのもう一つの魂の叫び。

 自分がここにいる意味と、あなたとこうして交わる意味を問う物語。

 私は諦めないよ。何度だって問いかけてやる。その果てに、きっと大切な意味を掴みとれると信じて! 

 

 

 ―――この気持ちと、君の気持ち……重なればきっと

 

 

「なっ!?」

 

 

 ―――We are one 一緒にいるから 

 ―――Hold your hand 心はいつでも

 

 

 鞭が交錯して、私を穿とうとするその瞬間を、私は見逃さなかった。駆け巡る熱いエネルギーは、私の身体の動きと力を、何倍にも引き上げてくれる。

 鞭は掴んだ。

 それだけじゃない。

 

 

 ―――今を生き抜く為に! 

 

 

 遊星が教えてくれた、このカード……ガングニールに想いを載せてくれた、本当は遊星が持っていたカード、『ニトロ・ウォリアー』の、その真の力。

 

「ニトロ・ガングニール、効果発動!」

 

 

 ―――私たちは 出会ったのかも しれない

 

 

 魔法カードを使った後、一撃だけ、私の力は更に上昇できるッ!! 

 

 そう! 

 その勢いは! 

 雷を握りつぶすように! 

 ネフシュタンの鎧であろうと、貫き通す槍になれ! 

 

「食らわせろッ、響ッ!!」

 

 

 ―――私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ

 

 

 最速で! 

 最短で! 

 真っ直ぐに! 

 一直線に! 

 胸の響きを! 

 この想いを! 

 伝えるためぇにいいいいっっっ!!!! 

 

「ぐっ…! あああああああっっ!!?」

 

 ―――微笑みを―――

 

「シングアウィズアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

「があああああっっ!!??」

 

 めり込む拳、瞬間、放たれたのは、爆音と衝撃。

 私が念じたこの時に、手甲に蓄積されたエネルギーはハンマーを伝ってリボルバーへ。そして拳へ、そしてネフシュタンの鎧へ。そして、それを身に纏う、あの子まで。

 一直線に繋がった想いは、確かに、あの子へと届けられていた。

 

 この一撃が、相手を傷つけてしまうこの拳が、どんな結末になるかは分からない。

 けれど、これを私は、私に出来る全力だと、信じて走る。

 

 

 ――響…? どうして…? どうしてなの響…? ――

 

 ――約束…したのに…――

 

 

 向こう側で、私の日だまりが、涙を流してても、

 私の熱が、それに気付く前に、蒸発させてしまっていた。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 次回予告

 

 ついに姿を現したネフシュタンの鎧の少女

 そして明らかになる、黒幕の正体

 俺がこの世界に来たの原因は、コイツに…!? 

 

 だが、その疑念の裏側で、一人の少女の涙が、日常へ亀裂を走らせる

 

「私……もう、響の友達でいられない」

 

 崩れていく響の世界

 どれだけ人々を守ろうと

 幾多の命が守られようと

 それだけは、ただそれだけはと、それだけを望んだはずなのに

 運命は残酷に、そして不気味に音を立てずに忍び寄り、世界を壊す

 

「やだ……いやだよぉ…こんなの……未来…!」

 

 どれだけ強い力でも……胸の痛みは癒せない

 

 次回 龍姫絶唱シンフォギアXDS『撃ちてし止まぬ運命のもとに、羽撃たく剣在りて』

 

「不動遊星、私に力を! 闇を祓う刃を与えてくれ!」




次回、いよいよ修羅場です
翼さんも活躍の予定。
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