龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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第6話『撃ちてし止まぬ運命のもとに、羽撃く翼在りて』-1

「ぐ、ぅう…ああああああああああっっ!!!?」

 

 喀血の叫びが、黄昏の森にこだまする。

 否、最早そこは森とは呼べなかった。

 衝撃と、装者が交わし続けた攻撃の余波、そして今まさに放たれた想像を絶する一撃。

 

 もとより緑化の為…平和と友好の証として植えられた木々が、耐えられる道理などなかった。

 

「だああああああっっ!!」

 

 響の勢いは止まらない。

 たった一撃。しかし全霊を込め、決死の覚悟で高めて、届けると信じた想いの結晶。

 それは確かにネフシュタンの鎧を貫通し、彼女に甚大なダメージを与える。

 いや…与え過ぎた。

 

「響…っ!」

 

 爆風で一瞬視界が眩む。

 勢いよくブースターを点火させた飛び込んだ響は、その加速をも味方にして鎧の少女に一撃を加えた。

 だがそこでも響は止まらなかった。ブースターから立ち上る焔は翳ることなく、尚も勢いを増して相手諸共に直進し続けた。その間に、多くの木々や岩肌を薙ぎ払い、砕きながら。

 

(強い! 強すぎる…!!)

 

 異常だ。

 確かに、ニトロ・ウォリアーの攻撃力はジャンク・ウォリアーを遥かに上回る。更に魔法カードを使った事で、更に攻撃力はプラスされているだろう。しかし、ここまでの出力は想定したものを遥かに上回っている。これは精霊の力だけではない。

 

 まさか、響の…

 

「おい、大丈夫かっ!?」

 

 ボロボロになった地面に足を取られぬように、徐々に歩を進ませた。

 土煙と爆風に視界も覚束ない中、必死に彼女に呼びかける。

 あの一撃は確実に鎧の少女を捉えていた。問題は、その衝撃と力の反動に響自身が耐えられるかどうかだ。

 

(無事でいてくれ…!)

 

 やはり時期尚早だったのかっ…!? 

 彼女の力の限界を見極めず、ニトロ・シンクロンの力を使ったのは誤算だったのか。

 己の判断に対する重圧と不審が、焦燥となって燃え上がろうとする時だ。

 

 その土煙の中で、シルエットが浮かび上がる。

 間違いない。

 あの姿は…! 

 

「響っ!」

「ゆ、遊星……っ…げほっ! げほっ!」

 

 俺を見て僅かに安心したのか、思わず急き込んでしまう響。だが、息を荒げながらも、彼女はしっかり両の足でその場に踏ん張っていた。

 急いで響の所にまで駆け寄る。

 

「大丈夫かっ!?」

「う、うんっ…私は平気!」

 

 響は土煙に遮られた前方を見やる。あの奥にはネフシュタンの鎧の少女がいる筈だ……無事ならばの話だが。

 

「あの鎧の少女は!?」

「大丈夫、だと思う…!」

「なに?」

「一撃、入ったけど……まだ、完全に止まってなかったっ」

 

 そういうが早いか、土煙は晴れ、林を抜けた土手に激突している少女の姿がおぼろげながら見えてきていた。

 ボロボロと崩れるコンクリートを押し退けながらも、何とか立ち上がろうとしているのが見て取れた。

 やがて視界も晴れて、苦悶に口元を歪めているのも確認できた。

 

 

「ぐっ……くあ……く、くそぉ…げほっ…!」

 

 

「『ダイナマイト・ナックル』をマトモに受けて…まだ動けるのかっ…!?」

「ううん、まともに入ってなかった」

「え?」

「私が拳を入れる瞬間に…!」

 

 響の言葉を追うように、両腕から垂れ下がる鞭が彼女の手元へと収まっていく。

 

「一瞬の判断で後ろへ…!」

 

 響は鞭を掴みとり、自ら引き寄せることで動きを封じた。だがインパクトの瞬間に僅かに意識が逸れ、手放した。その刹那、鞭を後方へと発射して身体を逸らし、エネルギーを減衰させたのだ。

 

(何と言うヤツだ…! 明らかに激昂した状態で、そこまでの判断を…)

 

「ぐっ……ううっ…!」

 

(だが…明らかにダメージは与えられている)

 

 あの一撃…恐らくは風鳴の絶唱にも匹敵する威力だった。捌ききれる筈も無い。

 

「響…ここは」

「…」

「響…!?」

「……お願い、遊星」

 

 見上げてくる響。

 

 何を考えているのか。それは分かった。何よりも血で汚れることを嫌う彼女が、俺に何を求めているのか。

 誰であれ、一笑に付すだろう。

 しかし……

 

「……分かった」

 

 もし、この世界で戦える者が俺一人になってしまったら、戦い以外の選択肢は選べなかったかもしれない。

 だが仲間がいる。仲間がいれば、選択肢は増える。そしてできることならば仲間を増やし、未来への選択肢を増やす。それが、俺達の選んだ道だ。

 

「うん。ありがとう」

「気にするな。お前が選んだことだ。全力でぶつかってみろ」

「うんっ」

「テメエら……何をガチャゴチャ………っ!?」

「………」

「な、何をしてやがる!?」

 

 鎧の少女が、立ち上がり、反撃の機会を窺おうとしていた時だ。

 その声色は動揺と驚愕に代わった。

 無理もない。一撃を与え、有利に立っているこの状況で、突然響は攻撃の構えを解き、両手を開いて、その身をゆっくりと近付けさせたのだ。

 

 

「お前……おちょくるのも大概にしてやがれ!」

 

 

 困惑は防げない。少女は怒号を浴びせかける。

 しかし響は止まらない。無防備な状態で目をつぶり、少女に敵意がないことを伝え続ける。

 さっきの一撃で、響自身の覚悟は示した。ならば、あとは想いを如何に伝えられるかだ。

 

 キレイごとを信じたからこそ、今こうして俺は彼女と共に走っている。

 力で全てを解決してしまっては、俺が否定してきたモノたちと同じ道を辿ることになってしまう。

 

(俺は彼女を信じる)

 

「……答えろ! バカにしてんのかっ!? このアタシを…」

「……」

 

「雪音クリスを…っ!」

 

 それが功を奏したのか、確かに俺達の関係性は少しだけ前に進むことができた。

 

「そっか…っ…クリスちゃんって言うんだねっ! 名前ッ!!」

「な、なにぃ…!?」

 

 まるで宝物でも見つけたかのように無邪気に喜ぶ響。相手は……自ら『雪音クリス』と名乗った少女は、その様子に呆気にとられている。

 

『何をしてるんだ、響ちゃん…!?』

『まさか、敵と交渉しようって腹積もり…?』

 

「ねえ、クリスちゃん」

 

 友里さんと藤尭さんが、同時に驚愕する声が聞こえる。しかし構わず、響は続けた。

 

「こんな戦い、もう止めようよ。ノイズと違って、私達は会話ができる。ちゃんと話をすればきっと、分かり合える筈だよ!」

 

 想いを届かせんと、必死に響は叫ぶ。

 

「だって私たち、同じ人間なんだよ!」

「…っ!」

「……雪音クリス」

 

 一歩後ろに下がっていた俺も、響の言葉を受けて、前へと進んでいた。

 

「お前…っ!」

「不動遊星だ。すぐに俺達を信じろとは言わない。だが、これ以上の戦いは無意味だ」

 

 俺は不器用な人間だという自覚はある。

 

 心を通わせられる術は余りに拙い。カムフラージュとは言え、教師の役一つ満足にこなせない。

 しかし、そんな俺でも彼女を観察して分かった事はある。

 

「お前……お前も脳ミソがぱーぱーになったのかよっ。戯れてんじゃ…!」

「君の真の目的は、デュランダルじゃないな」

「っ…!?」

「え…?」

「君は残酷かもしれないが、卑怯じゃない。手段は幾らあっても、一々己に問いかけて実行している」

 

 それは、彼女が感情の動きに基づいていることの証明だ。

 彼女は、テロリスト思想ではない。

 奴らはこの少女のように、激情に身を任せない。

 何かを欲している……それは決して消えない想いだ。

 

 そして……この言の葉の数々。

 彼女から見え隠れする感情は……孤独と、絶望、そして哀しみ。

 

「もう……止めてくれ、そんなことは」

「っ…!」

「その爪と牙で……お前が望むモノは、絶対に手に入らないんだ」

 

 何故、分かるのか? 

 簡単だ。

 俺達がそうだったから。

 

「世界を変える為に、今あるモノを壊す。それを負の感情に任せて成し遂げても、あとには何も残らない。絶望が支配して、それで終わりなんだ」

 

 チーム・サティスファクションは、居場所を求めていた。

 その先にある光を。幸せを。

 だが残らなかった。何もかも。

 窓の外の景色に憧れながら、その向こう側を見ようともしなかったんだ。

 

 ジャックは失望、

 クロウは拒絶、

 鬼柳は壊れ、

 そして俺は…一度、空っぽになった。

 

「……れ」

「本当は……君も分かっているんじゃないのか?」

「……まれよ…」

「君は、このままでは決して」

 

「黙れええええええっっ!!!」

 

 稲妻の如き咆哮。

 

 

「……くせえんだよ……」

「っ…!?」

「嘘くせえ……青くせええっ!」

 

 周囲は振動し、まるで猛獣のいななきのように…。感情の暴風雨は、俺達の言葉を阻む壁となる。

 

「テメエが……テメエみてえな大人が……あ、…がっううっ!!?」

 

 再び俺達へと歩みを向けようとしたその時だ。

 突如、少女の口元が苦悶に歪む。

 其の場でうな垂れると、腹部を抑えながら、その場にうずくまり始めた。

 

「な、なんだ…!?」

「く、クリスちゃんっ!?」

「あ……ああ……ち、ちくしょう…こんな、時に……!」

 

 腹を抑え込みながらも、苦痛の色は隠し切れていない。先の戦闘ダメージによるものではなかった。痛みの堪え方が普通ではない。

 見れば、雪音クリスの腹部は、響の攻撃で鎧が破損し、肌が露わになっている。だが目を引いたのは、その向こう側だ。

 

「くっっ……グゥ……こ、こんなんで………ヤロォ……!?」

「な、何あれ…っ?」

「鎧が……食っている…!?」

 

 その表現しかできなかった。鎧の断面から伸びた神経が血管の様な細い何かが、彼女の身体を這う様に伸びている。

 

『遊星君、そのまま彼女を拘束するんだ』

「しかし弦十郎さん…!」

『分かっている。だが、このままでは彼女も危ない』

『ネフシュタン、エネルギー再蓄積を開始しました。同時に破損個所、復元していきますっ!』

「なに…っ!」

 

 友里さんのオペレート。瞬時に俺も司令官たる男の『直感』を理解した。

 

「まさか…ネフシュタンの鎧とは……!」

「え…?」

「再生の蛇…そうか、あの鎧は、周りを食いながら諸共に再生しようとしているんだっ」

「そんなっ…!」

 

 ネフシュタンとは、古代ヘブライにある蛇の名前である。

 脱皮からくる『再生』の象徴として描かれる蛇は、神と同一視されることもある。

 その権能をあの鎧が文字通り受け継いでいるのだとすれば……

 

(このままでは危険だ!)

 

 人体も負傷した際、傷内に破片等が残ると、それを取り込んだまま細胞は再生してしまう。取りこんでしまった異物によっては命に関わることもある。

 響は慌てて、雪音クリスの元まで走った。

 

「クリスちゃん!」

「響っ!」

「ぐっ……っ……!!?」

「大丈夫、クリスちゃん、しっかり!」

「て、めえ……は…っ!」

 

 俺も急ぎ、彼女の元まで駆け寄ろうとした。

 だが……雪音クリスの闘争本能は、まだ潰えてなかった。

 寧ろ、響の優しさは着火剤となってしまう。

 怒りは吐き出せば終わりだ。

 しかし悲しみは、傷を癒すまで、幾らでも燃料を肉体に供給せしめる。例えその宿主の生き物が、内側から食い破られようとしても。

 

 

「クリス…」

「…ふっとべ」

「え?」

「響、離れろっ!!」

「アーマーパージだぁあああっ!!」

「っぐっっっっああっ!!?」

 

 

 瞬間、少女の身体は光に包まれ、同時に響の身体はジェット噴射のような勢いで吹き飛ばされた。それは真後ろにいた俺も纏めて、怒涛の如く流されていく。

 

「ぐううっ!」

「きゃああああっ!!」

 

 もんどりうって地面を転がり、激しく地面に打ち付けられる。

 頭が飛びそうになるのを堪えながら、俺は受け止めた響を確認する。

 

「だ、大丈夫、遊星…!?」

「あ、ああ…! だが…!」

 

 二人とも、目立った外傷はない。俺自身は服がボロボロになったが、受け身を取ったお陰でそれほどのダメージではなかった。

 響のシンフォギアも、目立った損傷個所はない。

 

(なんてヤツだ……外装を無理矢理に剥がして浸食を止め、更にそれを攻撃に転化した……!)

 

 残ったエネルギーで、ああして鎧ごと弾き飛ばせば、鎧の再生に巻き込まれることはない。更に至近距離でいた響はその衝撃をまともに受けてしまう。

 我流のようでいて、その実、したたかな戦術眼だった。

 

(だが、これでは彼女も戦う手段は…!?)

 

 そう考えた俺は甘かった。

『したたか』と評していながら、年頃の少女と甘んじていたのか。この時、響の手を取って逃げるべきだったか。いや、初めからその選択肢はなかった。彼女自身、保険が無ければ、戦場に来る筈はなかった。

 

 

 ―――Killter Ichaival tron

 

 

「…………え」

 

「見せてやるよ。『イチイバル』の力をな」

 

 

 何故ノイズを出さないのか。

 彼女のプライド? 

 信念? 

 罠? 

 

 違う。もっと単純な理由を見落としていた。

 

 

「まさか……これって」

 

「はああああああああっっ!!!」

 

「聖詠……!?」

 

 

 それは力比べでも負けないという、純粋な『自信』だった! 

 

『イチイバル、だとォっ!!?』

『アウフヴァッヘン波形、検知!』

『過去のデータとの照合完了! 間違いありません、コード『イチイバル』ですっ!』

 

 管制室からの悲鳴。それが俺達にプレッシャーと畏怖を植え付けた。

 

「イチイバル…ッ!?」

『遊星君、響君! 今すぐそこから離れろっ!』

「っ、しかし…!」

『早くするんだっ! もしそれが失われた第二号聖遺物だとすれば、今の君達では勝てないッ!』

「第二号聖遺物……じゃあ、あれは…!」

「シン、フォギア……!?」

 

 先のアーマーパージで塞がれた視界。その土煙が晴れた時、既に向こうは戦闘準備を終了していた。

 

「……歌わせたな」

「……ッ」

「クリス、ちゃん…!」

 

 現れたのは、今度こそ、雪音クリスの素顔だった。

 ヘッドギアを付けてはいるが、ネフシュタンの様に顔をバイザーで覆われていない。端正で、まだあどけなさを残す少女の表情は、憎しみに歪んでいた。

 そして、赤と白に縁どられたインナーと、腰から伸びた炎を思わせる紅のユニットパーツ。

 その質感、意匠……そしてさっき聞こえたあの呪文……間違いない。

 

 

「アタシに! 歌をッ! 歌わせたなアアァッッ!!」

 

 

 咆える雪音。

 瞬間、彼女の両腕の鉄鋼が、その叫びを受けるかのごとく、形状を変えていく。やがて『ソレ』は彼女の両腕へと収まり、その先端を俺達へと向けて、握る指先を絞る。

 この伸びた形状…左右に広がる弧月状のフォルムと、そして『イチイバル』と言う名前……! 

 

「ボウガンッ!!?」

「響、離れろっ! 奴は…!」

「教えてやるよ……アタシは歌が、大嫌いだッ!」

 

 二律背反する歌への想い。

 この時は知りえなかった愛憎渦巻く彼女の本心。

 それは皮肉にも、翼と並ぶだけのシンフォギア適合率と、イチイバルのポテンシャルを獲得することに成功していた。

 

 

 ――― 疑問…? 愚問! 衝動インスパイア! 六感フルで感じてみな! 

 

 

「っ!?」

「これは…歌かっ!」

 

 彼女の歌が響き渡る。

 その一声だけで、彼女の歌い手としての力は遥かに洗練されていた事は素人の俺でさえも分かった。

 音楽は幼少時よりの教育によって才能を伸ばされるという。

 

 なんということだ……彼女のその比類なき歌声を……誰かを傷つけ、破壊することにのみ使い、そしてその想いはシンフォギアとなって具現化している。

 

 ――― 絶ッッ! Understand? コンマ3秒も 背を向けたらDie! 

 

「遊星っ!」

「ぐっ!」

 

 咄嗟に響は俺の手を引いて走り出す。

 瞬間、発射されたボウガンの光の矢が、先程俺のいた場所を正確に射抜く。深々と空いた穴を確認する間もなく、響は俺の腕を掴んで、必死に後方へと走り出した。

 

「はあ! はあ! はあ!」

「ちょせええええッッ!」

 

 爆音が暴力となり降り注ぐ。

 

 続けざまに発射されるレーザーショットの様な矢は、俺達を確実に追いやっていった。

 ただ連射しているのではなかった。残ったもう一丁のボウガンを使い、辺りの木々を薙ぎ倒し、破壊することで、移動を困難なものへと変えていく。これでは響のフットワークは生かせない。

 まして、俺を抱えた状態では……! 

 

「シールド・ウイングを召喚ッ!!」

 

 咄嗟にカードを引き抜いてセットする。

 シールド・ウイングはその場で大翼を畳み、盾となって俺と彼女の間に立ち塞がる。

 が……

 

 

 ――― 心情! 炎上! 強情マトリクス 沸点ピークでくだけ散れ

 

 

「もっともっともっともっともっとオオオオッ!!」

 

『カ、カカ、アアアアアアアッッ!!?』

 

 

 ーーーBreak!! Outsider! 

 

 

 立て続けの攻撃に耐えきれず、シールド・ウイングは霧散して消滅する。

 こんなことが…! 足止めにすらならない、だとっ!? 

 確かにシールド・ウイングが止められる攻撃は1分間に2回のみ。しかし俺達もモンスターも移動しながら攻撃を捌いている。

 その隙間を縫ってピンポイントで攻撃を当てたというのか…!? 

 

(ダメだ、相性が悪すぎる…! 加えてこちらはもう……!)

 

 一人による、多方向からの多重攻撃を行い、一斉制圧。

 力任せの戦法だが、だからこそ、正面切って攻略するためには手札が足りな過ぎる…! 

 

 

 ―――傷ごとエグれば忘れられるってコトだろ? 

 

 

「えっ!?」

「マズい! 響っ!」

 

 俺は咄嗟に彼女の手を振り払った。

 瞬間、銃撃の煙で見えなくなっていた彼女が……雪音クリスが、その足で俺の腹部を蹴り上げてくる。

 

「ごっ……!」

 

 ネフシュタンほどではないにせよ、シンフォギアで強化された一撃が深々と鳩尾を抉りこむ。肺の空気がカラになり、俺の視界は真っ白になった。瞬間、気が付くと身体は真横に吹き飛ばされて、巨木の幹に激突させられる。

 

 

 ーーーイイ子ちゃんな正義なんて剥がしてやろうか!? 

 

「っ……っかはっ……!?」

「遊星っ! 遊星っ!!」

 

 

 響が叫ぶのが聞こえる。

 ダメージを確認する余裕もない。

 朦朧とした意識の中で、ガクガク震える足を支えにしようとする。しかし、上手くいかない。身体が言うことを聞いてくれない。

 

 ――― HaHa!! さあIt's show time! 

 

 俺を封じた雪音は、さらに攻撃を苛烈にする。

 両手のボウガンは更に大きさを増して、細い円筒を束ねた形状へと……そして腰部の白いパーツが左右に展開する。あれは……あのパーツに収まっている円筒は……まさ、か…!? 

 

「遊星、大丈夫!?」

「……げろ……に、げろ……ひび、き…ッ!」

 

 必死に酸素を取り込んで、それだけを伝える。

 だが既に、相手は攻撃の準備を完了していた。

 

 

 ―――火山のよう殺伐Rain! 

 

 

 イチイバル―――それは、北欧に伝わる狩人の女神『ウル』が使ったとされる、必中の弓。矢は相手を仕留めるまで追従し、更に持ち手に栄光の加護を与えると言う。

 本来なら、持ち手に勝利をもたらす槍『ガングニール』と性能は互角……だが、接近戦しかできない響に、この弾幕は凶悪過ぎた。

 

 

 ―――さあ お前らの全部全部全部全部ッッ! 

 

 

 やがて発射される、多弾頭ミサイルと、そして両腕に構えたガトリングガンの一斉掃射。

 イチイバルの矢が、俺達の視界を覆い尽くした。

 

「………あ」

「……」

「遊星っ!」

 

 言葉が出ない。

 響が俺に覆いかぶさるのを感じた。

 俺だけでも守ろうというのか? 

 止めろ! そう叫びたかったが、余力がなかった。

 

 

 ―――否定してやる

 ーーーそう否定してやる! 

 

 

 少女の歌は、咆哮は、魂の悲鳴だった。

 これだけの想いを歌に乗せられるだけの技量と誇りを持っていながら、彼女は誰かを傷つける。

 

 

(…ここまで、なのか……!?)

 

 

 無力感よりも、俺の中で怒りと悔しさが一瞬にして迸り出た。

 こんな……こんな辛い歌を、年端もいかない少女に歌わせ、そのくせ何もできない自分への怒りだった。

 

 こんな苦しみがあっていいものか! 

 何故だ! 何故彼女がこんな事をしなくてはならんのだ! 

 

 俺のやり場のない怒りは、しかし伝える術もない。その感情の正体は、俺が後から自覚したものだった。

 ただの焦燥としか、この時の俺には映らず……

 

 爆音が、轟き、辺り一面を焼き尽くした。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

「はあっ! はあっ! はあっ!」

 

 

 あの子の叫びが聞こえる。

 心の膿を吐き出すために、歌を歌って、吐き散らしている。そんなの………哀し過ぎる。

 

 けど、私達は余りに無力だ。

 私……また間違えたのかな……? 

 

 私に、『壊す』以外の選択肢は初めからなかったのかな……遊星の言う通り、初めから戦っていれば、こんな事にはならなかったのかな……だから私は……また、遊星まで傷つけて……

 

(でも、こんなの……)

 

 あの時、病室で伝えた私の決意……

 

(人助けがしたい……)

 

 誰かを助けたい。

 困っている人の、心からの笑顔が見たい。

 例え相手が、誰であろうと、私は……

 だって、私が助けられたから

 あの日貰った命を、誰かに繋げたくて……

 

 

「………え」

「……な、んだと……っ!?」

 

 

 そうだ。

 私はまだ生きている。

 まだ、私の想いは、悩みは、悔しさは、まだ止まっていない。

 だって生きているから。

 生きてさえいれば、人は幾らだって悩めるから。

 

「ゆ、遊星……」

 

 私は驚き、慌てて遊星を見る。

 遊星じゃなかった。

 彼自身も、突如の事態に驚きを隠せない。

 

「私たち……無事、なのかな…っ?」

「あ、ああ……っ」

 

 ついさっき……私はクリスちゃんの使うシンフォギア……イチイバルの力に圧倒されていた。

 もうここまでだと思って、追い詰められて……咄嗟に遊星だけでも庇おうとして……でも、あの子が発射したミサイル野獣は、私達の身体に全く当たっていない。爆音と剛音が鳴り響いて、それだけ。

 

 その答えは、目の前に在った。

 

「これは……?」

「壁か…いや……っ」

 

 私達の目の前に、巨大な壁が出現していた。

 白くて、私達の顔が映りこむくらいに磨き上げられたピカピカの壁。

 夕焼けに反射して、まるで大理石でできた高級マンションの壁面みたいだ。リディアンの校舎だって、幾らピカピカに磨いてもこうならない。

 

「ま、まさか……!」

 

 そうだ。

 シンフォギアに対抗できるのは、シンフォギアだけ。

 クリスちゃんの攻撃を阻めるモノがあるとすれば、それはこの地球でたった一つしかない。

 私達を護ってくれたもの。

 この目の前の壁を作った人……

 

 

「盾…かよっ!?」

「違う」

「なにっ!?」

 

 

 そう、違う。これは……あの人の…! 

 

「剣だッ!」

 

 曰く、

 

 その速さは風の如し、

 その静けさは林の如し

 その激しさは火の如し

 その佇まいは山の如し、

 

 その凛とした立ち姿、まさしく剣の如し! 

 

「待たせたな、不動……そして、立花ッ」

「っ、翼さんっ!」

 

 私達を救った巨大な一振りの剣……その柄の頂に、あの日、私を救ってくれた奏さんのように、逆光を浴びて、翼さんは立っていた。

 美しい、歌姫の再来に、私の顔は、いつしか輝いてる。

 

 

 

 第6話『撃ちてし止まぬ運命のもとに、羽撃く翼在りて』

 

 

 




次回でバトルパートは終了します。
今週末にでもアップできれば嬉しいですが…頑張ります。
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