まだ二話分しかアップしていないにも関わらず、感想を下さったり、お気に入り登録して下さる方々がいて、本当に嬉しいです。
読んで下さる方がいるというのが、心からの励みになります。これからもどうか、よろしくお願いします。
考えなかったわけではない。
寧ろその方が色々と納得いく。この車もモーメントでなくガソリンを使って走っているし、未だに金属板に塗装した標識を使っている。
何より俺自身、かつて時を超えて同じような時代に飛ばされた経験がある。
ならばこの事態も受け止めるしかないと言えよう。
「いや、災難だったねぇ。エンストだってか?」
「ええ…」
「通りかかったのが俺で良かったよ。これから帰るところだかんな」
運転手の男は気さくに俺に話しかける。
俺の素性は一切聞かず、Dホイールを荷台に乗せて人のいる所まで乗せてくれることとなった。
ここにいてもどうにもならない俺は好意に甘えることにした。
「まぁ気ぃ落とすな、知り合いの工場まで連れてってやる。腕利きだし、俺が言えば格安で直してくれるぜ」
「ありがとうございます…」
「なぁに、困った時はお互い様ってな。俺はいつでもそうしてるし、実際そうした方が人生上手くいくってもんだ。俺はそう親父から教わって娘にも教えてる」
見てくれこれが娘だカワイイだろ、と尋ねてもいないのに彼は俺に立て掛けてある写真を見せてきた。
人懐っこそうな笑顔を浮かべた少女が、母親と二人で写っている。
「明日が誕生日だ。仕事仕事であんまりいてやれなかったが、なんとか間に合いそうだ」
「それは良かったですね」
俺は心の底からそう言った。まだ状況は変わらず、事態の真相も掴めないが、彼のような人間に会えたのは僥倖だ。
周辺の環境を見ても、この国の治安はかなり安定しているらしい。
「兄ちゃんは何やってんだ? バックパッカーか? 俺も昔は旅をしたもんだ」
「いえ…俺は一応、科学者です。街のモー…いや、ライフラインに関わる研究をしてます」
「ほお、するってえと、水道局とかガス会社とかかい?」
「それとは少し違うんですが…」
はぐらかしながらも、俺はこの人との会話を続ける内に、どこか安らぎの感覚を覚え始めていた。
やがて道路には他の車も見えるようになり、向こう側にはビルの光も瞬いているのが分かる。
どうやらもうすぐ大きな街に着くらしい。
(まずはDホイールの修理だな。そして現状把握しなければ…)
仮に、ここが過去の世界だと仮定しよう。
もしかするとイェーガーたちも近くにいる可能性もゼロではない。
それに考えてみれば、俺が実験の時に見た光も…
(そうだ。あの現象も解明しなくては……)
と、そこまで考えて、俺は疑問を持った。
ただのモーメントの出力の上昇であそこまでの光を発したのか。そして、ネオ童実野シティとは違う場所に転移したのか。その原因を……
(もう既に赤き竜は役割を終えて、俺たちの前から姿を消したと言うのに…それなのに、何がきっかけだったんだ……それに、頭に聞こえたあの声は…)
『戦うんだ、遊星』
「っ!?」
「どうしたい、兄ちゃん?」
男性が声をかけた、その時だった。
突然、道路の脇に設置されているスピーカーから、唸るような警報音が鳴り出した。
次いで無機質な音声が流れてくる。
『日本政府、特異災害対策機動部よりお知らせします。先程、特別避難警報が発令されました。直ちに最寄りのシェルター、又は避難所に退避してください。繰り返します……』
スピーカーからは警報音と共に声が流れ続ける。
特異災害…? 一体なんのことだ?
が、俺が確認するまでもなく、さっきまで気さくに話していた運転手がその顔を真っ青にさせて、わなわなと体を震わせていた。
「どうしたんですかっ?」
「これは…まずい…ノイズだ!」
「ノイズ?」
次の瞬間、前方で弾けるような轟音と共に、爆発音が鳴り響いた。その衝撃は遥か後方にある俺たちの乗るトラックにまで伝わる。
空気が震え、大型トラックさえも揺れ動いていた。
「やべえ、渋滞で動けねえ…! 兄ちゃん、降りるぞ! 走って逃げるんだ!」
「ま、待ってください。一体何が…」
「ノイズが出たって言ってんだよ! 死にたくねえなら急げ! 早く来い!」
そう言うと彼は俺の腕を掴み上げ、強引に引っ張るようにして助手席から引き摺り下ろした。
訳が分からないままに車両から降ろされた俺は、そのまま腕を引かれて、道路を走り出した。
状況の変化に追いつけないが、それでも一つ、目に飛び込んできた光景があった。周りの車からも人々が次々に降り立ち、元来た道を反対方向へと走っていた。あっという間に車と車の隙間は、乗っていた人たちで埋め尽くされてしまう。
『おい押すな!』
『詰まってるんだよ、無茶言うな!』
『お願いです、子どもだけでも!』
あちこちから怒号と悲鳴がこだまする。
その場に居る全員が恐怖と混乱に支配されている。
俺は周囲の状況に圧倒され困惑した。
「い、一体何が…」
その疑問の答えを告げるものはすぐ背後まで迫っていた。
『ぎゃああああ!』
後方から、悲鳴が聞こえる。最初は小さくものだったが、やがて数を増し、その声をどんどん大きくしていく。
冷たい風が後ろから吹いていく。
背中を何かがはい回るような感触を覚えた。身体は走って熱くなっている。人の熱気で温度も上がっている筈なのに…この寒気と悪寒はなんだ。
そして振り向いた時、『奴ら』はいた。
「っ!?」
人と、人の隙間から見え隠れする無機物の塊。
夜の街のネオンサインの様に明滅するそいつ等は、まるで子供の書いた落書きのような姿をしていた。
歯を剥き出しにしたオタマジャクシ、角を生やした芋虫、手がハサミになっている頭のない人…色も姿も統一性のないそいつらは、這うように動き、またはロボットの様に歩いてこちらへと近づいてくる。
「な、なんだあれは…!」
初めて見る物体だった。
デュエルモンスターズのカードなどではなかった。それならこの悪寒の説明がつかない。奴らはもっと恐ろしく、そして醜くて邪悪な存在だ。理性よりも本能が告げた。あれは俺たち人類の理解の範疇を超えた『物』であると。
辺りの熱気が、汗となって額から滴り落ちるのが分かる。
本当の恐怖がここから始まった。
『助けて…助けてくれええええ!』
その内の一体が、ある青年に組み付いた。
次の瞬間。
『いゃだぁ!! 助けて! 死にたくない! 死にた…』
青年の身体は組み付かれた部分から黒く絵具でも塗るかのように染まり始めた。
見る見るうちに全身を黒く浸食された彼の身体は次の瞬間……
「あ、ああっ…!」
俺の目の見える所で、バラバラになって霧散した。
「……っ…っ…」
身体が固まる。
声が出ない。
今の青年はなにをされたんだ、どこへ消えたんだ。
これで本当に死……
(死んだのか……人間が……あの妙な奴等に取り付かれて、それで……)
ワナワナと身体が震える。
脚も同様だった。俺は恐れていた。目の前のこの事実を。平然と人を死に追いやった、この奇妙な物体たちを。
人の悲鳴が一際大きくなる。だが俺の耳には入らない。
奴等は標的を俺達へと変えて、闊歩し始めた。
「兄ちゃんこっちだ!」
運転手の彼が咄嗟に俺の手を引いて、高速道路のガードレールから外へと飛び出した。
次の瞬間、そこにいた人たちは押し寄せる謎の物体の群れに襲われる羽目になってしまった。
「うぉっ!?」
「ぐぅっ!!?」
慌てて飛び出したものの、間一髪で難を逃れた。
だが、未だに高速道路に取り残された人たちは、車とお互いの身体で圧迫され身動きが取れない。
俺達の後を追おうとガードレールから飛び出そうとした人たちも、間に合わずに襲われていく。
『ああああっっ……』
『ママ、ママァッ!!』
『ぐぎゃああっっ!』
震える俺と悲鳴をよそに、運転手が必死に俺を起き上がらせて、先へ進ませた。強く握られ、腕に走る痛みが、皮肉にも俺に何とか理性を保たせていた。
彼が居なければ呆然としたまま死んでいたかもしれない。
「クソどもが! 好き勝手やりやがって!!」
苦悶の表情を浮かべて、彼は叫んでいる。怒りと恐怖が腕越しにも伝わった。
「一体…」
「ああっ!?」
「一体あれはなんなんだ……!? みんなはどうして…」
「どうしてってアンタ…ノイズぐらい知ってるだろうが! そこかしこに現れて、人を消し炭にしちまうバケモンだ!」
「なんだって…!」
ノイズ。人を炭に変える怪物。
そんなものは聞いたことがないと、正体と事実を突き止める前に、俺達はただ走って逃げることしかできなかった。
辺りには何もない。俺がここに来た時と同じような草原が広がる。
『ひいいいい!』
悲鳴がすぐ後ろから聞こえて、咄嗟に俺達は振り返る。
『いやだぁあああっ! 誰か、誰か助けてえええ!』
何とかガードレールから這い出て走っていた一人の女性が、ノイズと呼ばれたその物体に追いつかれ、組み敷かれてしまっていた。
不意に反転し、走り出そうとしたが、それを運転手に止められた。
「待て兄ちゃん! どうするつもりだ!」
「っ、だが、このままではあの人は…!」
「ダメだっ! ノイズに捕まっちゃ、もう逃げられねえ!」
『ああああ…っ!』
断末魔の悲鳴もむなしく、僅か十数メートル先にいた人間だったソレは、バケモノと共に虚しく黒い炭の塊となり、崩れ落ちる。
「っ、こんな…こんなことが…!」
なんだこれは……これが現実の出来事なのか…!?
腹の底から嘔吐感がせり上がってくる。
見るもおぞましい光景だった。
「っうう…」
「気持ちはわかるぜ……だがこれは俺たちじゃどうしようもねえんだ…!!」
「…っ!」
食いしばるように言葉を吐き出す彼に、俺も押し出そうとする怒りを留めることしかできなかった。
しかし、感傷に浸る余裕さえも、ソレは許さない。
「うっ…!」
「や、奴ら俺たちに気付きやがった! 走れ兄ちゃん!」
「…っ!」
心の中で消えて行った女性にわびつつ、俺達は走った。
悲鳴が遠ざかっていく。いや、消えていくのだ。あの怪物に炭とされて。それでも俺達は走った。どれだけの距離かも分からないままに、ひたすら。
ざぁざぁと風が吹いている。
「うわぁっ!!?」
だが例え大の男でもこれだけ走り続ければ足に来る。まして彼は夜通しでトラックを運転していたのだ。無理もない。俺は急ぎ彼に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「ち、ちくしょぉ、こんなとこで死んでたまるか…!」
「掴まって下さい! 早く…!?」
手を伸ばし、彼を起き上がらせようとする。
だが……
「うぅ…!?」
「囲まれた…!」
十数体のノイズが、俺達の周りをいつの間にかずらりと取り囲んでいた。
不気味に全身を発光させて、ゆっくりと確実に俺達との距離を詰めてくる。狩りをする動物のようだった。確実に相手を仕留めるために、俺達を逃がさぬよう、逃げ道を塞いでいた。
「あ、兄ちゃん…俺に構わず逃げろ…!」
「な、何を言ってるんだ!」
「早くしろ…! 兄ちゃん1人なら、逃げられるかもしれねえ…!」
反論として俺は、彼のズボンが赤く染まっているのが見えた。
裾の部分から切り込みが入り、滴り落ちている。さっき転んだ時に何か鋭いものにぶつかったのだ。
血の量からみてかなりの深手だ。これでは逃げることもおぼつかない。
「早く行け、兄ちゃん!」
「馬鹿を言うな! 恩人を置いていけるか!」
「バカヤロォ…! このままじゃ2人共お陀仏だぞ!」
「だとしてもだ!」
見捨てるなんて選択肢すら思い浮かばなかった。必死に彼を起き上がらせ、肩に手を回す。彼の身体が重く俺にのしかかる。それは命の重さだった。一人では到底背負いきれるものでない人の……だがそれでも俺は、目の前の命が消えていくのを、もう見ていられなかった。
何とか助けなければ、せめてこの人だけでも……!
「っくっぅ…!!」
そんな俺達をあざ笑うかのように、怪物連中は無機質に無雑作に、距離を詰めていく。まるで抵抗など無意味だと言わんばかりに。
何か…何か手はないのか…!? こんなところで、訳もわからずに、いきなり現れた化け物たちに襲われて、俺は死ぬのか!? この人を巻き込んで…!
「くそ…すまねえ、母ちゃん…」
「っ!」
大切な人への、思いのこもった無念の言葉。それが、俺の胸の内を熱くした。
終わってたまるか。
こんな所で。
この人には帰る場所があるんだ。
「こんなっ…! こんな所で……っ!!」
そうだ、俺にだって……
(頼む…誰でも良い! この状況を救ってくれ! この人まで一緒に、死なせるわけにはいかないんだ!! こんな所で……)
「終わって…たまるかああああ!!」
俺にだって、生きなければいけない理由がある!
だから命は、俺達に力を貸してくれる。
再び現れた、この力を。時を超え、場所を超え、そして光をも飛び越えて、それは俺達の心を一つへと繋ぐ。
そうだ、それこそが俺の心の揺るがない信念。決してあきらめない。前へ進むことを可能にする力の源。
『オオオオンッッ!!』
それこそが絆。俺達を結びつけ、そして導いた、運命の証。
「…っ!」
突如、空中が光輝きだした。それは落雷よりもなお鋭く、強く、輝きを放って一直線に、俺の元まで降り注いでくる。
スポットライトを当てるように俺達を照らしていたそれは、やがて赤く染まり始めていく。呆然と空を見上げていた俺達は、その後で光の奥から降り立ってくる『彼』に釘付けになっていた。
隣にいる者には異常現象だ。だが、俺は知っている。
目の前にいるこれを。
「赤き、竜…?」
古の地ナスカで神と崇め奉られ、俺を戦いの奔流に招き入れた導き手。そして幾度となく俺の命を救い、数々の奇跡を起こしてきた闇の化身たちと対を成す光の竜。
かつてのゾーンとの戦いを最後に、赤き竜は俺達の目の前からその姿を消した。
その赤き竜が……
「な、なんだこりゃあ…!?」
呆然とする男をよそに、赤き竜は俺を見据え、その眼光で俺を包み込むように対峙している。
「どうしてここに………うっ!?」
突如として走る鈍い痛み。
疼きにも似たこの痛みを、俺は知っている。そうだ。俺達の運命がこの痛みとともに始まったのだ。
咄嗟に右腕のグローブを外し、袖をまくる。そこにあったのは、全てが終わり仲間達と離れた時に消滅した、竜の痣だった。
「赤き竜の痣が…! ゾーンとの戦いで消えた筈なのに…!?」
心臓が激しく高鳴っている。腕だけじゃ無い。身体中全体が熱い。さっきまで逃げ回っていた時の熱さじゃない。悪寒も消えている。あるのは、ただ身体の奥底から湧き上がるような力だ。
これは心の、魂の……俺自身の昂りだっ!
『オオオオンッッ!!』
赤き竜が、咆えた。高らかに空間を引き裂くようにして。
その叫びに呼応するかのように、俺達が走ってきた道から、唸りを上げて疾駆する一つの光があった。
「あれは…!」
「ありゃ、兄ちゃんのバイクじゃねえのか!?」
そいつはエンジンを切っているにもかかわらず起動し、トラックの荷台から飛び出してきたのだ。あっという間にノイズの群れに向かって猛スピードで突進し、蹴散らし、一直線にこちら側へと向かって来る。
あっという間にDホイールは俺達二人の目の前までたどり着き、急停車した。
『…遊星』
しばらく呆気にとられた俺は、ただ己のマシンを見つめていた。近くにさっきまで人を殺していた怪物がいるというのにそれも一瞬忘れていた。だがその化け物たちも、突然の状況の変化についていけないのか、全身を止めて俺達や赤き竜を観察するように見まわしている。
その時だ、俺の頭に、声が鳴り響いたのだ。
『戦うんだ遊星』
今度はハッキリと、俺の頭に呼びかけてくる正体が分かった。
あの時もそうだったのだ。赤き竜が、俺に呼びかけていたのだ。この時の為に。
『この星を守る為に。再びシグナーとして戦え。遊星』
語りかける赤き竜。すると、その声に呼応するかのように、Dホイールは再びエンジンを稼働させ、指示を待つことなく、メインモニターに光が灯った。
『モーメントアウト』
今度は赤き竜の声ではない。Dホイールから聞こえるガイダンスボイスだ。モーメントエンジンがフル稼働し、ディスク部分が機体と切り離され、せり上がる。スタンディングデュエルを行う時と同じだ。俺は導かれるように足を寄せ、そして左腕のデバイスをディスクにセットした。
『デュエルモードオン。スタンディングモード・スタンバイ』
瞬間、赤き竜は最後に光の結晶となって凝縮するようにその身を変えていく。
そして俺の掌に収まるほどの大きさになると、デュエルディスクの中へと収まっていった。
光が止むと、いつの間にか俺の手に握られていたのは……
「っ!!」
カード達だ!
10枚にも満たないが、それでも確かに、俺の意識が消えた後、どこかへ消えてしまっていたと思われた仲間達だ。
それが、今再び俺の手に……という事は。
(迷ってる暇はない! 今はこいつと、再び現れた赤き竜に賭ける!)
人殺す怪物。
助けを求める人。
現れた赤き竜
そして舞い戻ったカード達。
ならば俺の為すべきことは一つだけだ!
「来い! スピード・ウォリアー!!」
俺は戻ったカードのうち、一枚を選択。ディスクのモンスターゾーンに表向きにしてセットする。
瞬間、俺の腕の痣、そしてモーメントが同時に光り輝くと、カードに描かれたそいつは、明確なヴィジョンとなって、本当に実体化していた。
『トォ!』
俺達を守るように降り立ったのは、幾度となく俺のデッキの切り込み隊長として活躍し、幼い時から共に在った歴戦の勇士。
風の如く疾駆するその者の名は……スピード・ウォリアー!
「な、なんだこりゃ!?」
「いけ、スピード・ウォリアー!!」
『ハァッ!』
「ソニックエッジ!」
俺の命令の元、スピードウォリアーは一直線に駆けだすと、背中のブースターを点火。ノイズと呼ばれた怪物の内一体に向けて突撃した。
圧倒的な加速力で距離を詰め、勢いそのままに繰り出された回し蹴りは、鋭い刃の様にノイズの内一体を強襲、瞬く間に粉砕する。
「の、ノイズが…消えちまった!」
「スピード・ウォリアー、そのまま奴らを攻撃するんだ!」
『オオオッ!!』
加速したスピード・ウォリアーの吶喊は終わらない。奴等に意思の様なものは感じられなかったが、それでも突然の事態の変化に追いついていないようだった。回避する間もなく、繰り出されるスピード・ウォリアーの攻撃によって粉砕、消滅していく。
今度は奴らが炭となり霧散していく番だった。
(モンスターが本当に実体化して、あの怪物たちに立ち向かう事が出来ている……? これはまさか、赤き竜の力…!?)
あくまで立体映像の延長でしかないデュエルモンスターズのカード達だが、俺はこの現象をかつて体験したことがある。
サイコデュエリストと呼ばれる超能力者たちは、カードに眠る力をその潜在能力によって実体化させ、本当にダメージを相手に負わせることまで出来るのだ。他にもカードに宿る未知の力により酷似した現象を俺は何度も体験した。もし、赤き竜の力によってそれが再び起こったのだとすれば…
「う、うわぁ!?」
一瞬、気を取られた時だ。
後ろに回り込んでいたノイズたちが、歩けない男性に向かって襲い掛かろうとしていた。
俺は咄嗟にもう一枚のカードをセットし、モンスターを召喚させる。
「っ! シールド・ウォリアーを召喚!!」
『ムンッ!』
「その人を守れ!」
『ハァ!』
左腕に大型の盾を構えた戦士が一人、俺と怪物たちを阻む壁となって立ち塞がる。シールド・ウォリアーはその盾でもって敵の攻撃を防ぎ切り、そして返す刀で右手の槍を相手に突き出した。
鋭い一撃に貫通された敵の身体はそのまま炭となって崩れ落ちる。
(行ける…行けるぞ…! このままモンスターたちの力を借りることができれば!)
どうやらこのノイズと呼ばれる奴等は一体一体だけではそれほどの脅威ではないようだ。この炭と化してしまう攻撃にさえ注意していれば、カードの力で倒すことができる。
これならば…!
「う…!?」
一瞬の安堵。だがその隙に、次なる脅威はすぐそこまで迫っていた。元々の夜の闇が深まる時間帯だったが、更に周囲の光を掻き消すように暗くなっていく。いや、何かの影が俺達と周囲を覆っていた。
俺達が仰ぎ見ると、そこにはさっきまでのノイズとは比べ物にならないほどの大型がそびえ立っていた。
まるで巨大な芋虫の様なそいつは、ゆっくりとこちらまで近づいていた。
「でかいっ!」
『ウッ!?』
そいつは標的を俺達ではなく、数メートル先で敵を蹴散らしていたスピード・ウォリアーに定めていた。
その巨体を捩じるようにして体当たりをする芋虫型。
スピード・ウォリアーは負けじと立ち向かっていくが、質量が違い過ぎる。迫りくる巨体に耐えきれず、そのまま押し潰されてしまった。
『グウア!?』
「スピード・ウォリアー!?」
何かが弾けるような音とともに、スピード・ウォリアーが光の粒子となって消滅する。瞬間、俺の身体に鈍い衝撃が走った。
「くぁっ!?」
咄嗟にうずくまるように膝をつく。
まさか、これの感触は……
「兄ちゃん、どうした!?」
男の言葉で何とか立ちあがる。その際、Dディスクが、視界の隅に入った。
(ライフが減った…!? コイツの攻撃が、俺のライフポイントを削っているのか…!)
直感で俺は察した。
細かい理屈は分からないが、今の感触は俺のモンスターがやられた時のダメージだったのだ。モンスターが実体化するという事は、受けるダメージも現実になるという事に他ならない。
(だとすれば、俺のライフがゼロになった時、俺の身体は…!)
いや、それ以前に、俺自身がこのノイズと接触してしまえば……
「…させるか!」
俺は死ぬわけにはいかない。こんな訳も分からない怪物どもに!
俺は生きて帰ってみせる。この人と一緒に!
残っている手札を確認する。デッキ全てが戻って来ているわけではない。それどころか赤き竜が俺の元に持ってきてくれたのはわずか数枚に過ぎない。だが、それでも…!
「…来てくれ、ロードランナー!」
『ピピィ!』
ピンク色のヒヨコのような小さなモンスターが俺の指示を受けて実体化した。
迫りくる大型芋虫に対峙するロードランナー。
スピード・ウォリアーを倒した奴に、恐らくロードランナーでは太刀打ちできないだろう。
だが……
『ピピピィ!!』
ロードランナーはその小さな羽を広げると、俺達を背に防御の構えを取る。巨大芋虫は気にも留めずに踏みつぶそうとするが、奴の攻撃はロードランナーを包むようにして現れた防御膜によって防がれる。
『ピッ!』
倒れない相手に、さすがの向こうも違和感を覚えたようだ。何度もロードランナーを踏み潰そうと、押しつぶそうとその巨体を捩じり、攻撃を加え続けるが、防御膜はビクともしない。
(よし、ロードランナーがいれば、あの巨大な怪物の攻撃は防げる!)
ロードランナーは実際のデュエルモンスターズのルールでも、高い攻撃力を持つ敵との戦闘では破壊されない効果を持っている。奴が強ければ強いほど、この場では俺達を守る壁として役割を果たしてくれる筈だ。
「今の内に…!」
見るとシールド・ウォリアーが後ろから迫っている敵をほぼ薙ぎ倒している。
これで突破口は作られた。
俺は横で呆然となっている男性の肩に再び手を貸し、起き上がらせようとした。
「立てますか?」
「あ、ああ……兄ちゃん、アンタ一体…?」
「話は後ですっ。さあ、今の内に逃げましょう!」
急ぎ肩に手を回して起き上がらせようとする。
その時だ。
『グッォ!?』
「っ!?」
俺達を守っていたシールドウォリアーが悲鳴を上げながら消滅する。
振り返ると、後ろに更に脅威が迫っていた。
何処から現れたのか、無数のノイズが背後から襲い掛かり、数でもってシールド・ウォリアーを圧倒し、破壊してしまったのだ。
「ッ…し、しまったっ!」
まずい、手が塞がっている。ロードランナーは前方の敵を防ぐので手いっぱいだ。
このままでは……!
―去りなさい! ―
三度、空が光り輝いた瞬間だった。
「なっ!?」
「んだこりゃあ!?」
俺達は同時に叫ぶ。
それは正に流星の刃。天から舞い落ちる千の落涙とでもいうべき光の結晶だ。
突如として降り注いでいくそれは、瞬く間に俺達を包み込む。
そして周りにいたノイズに突き刺さり爆発、霧散した。
「一体何が……っ!?」
その時、俺は見た。
一人の少女が、天を舞っていた。
見たこともない装束と鎧に身を包み、白銀に煌めく剣を二振り構えて、俺たちの前に降り立ったのである。
彼女と、視線が合う。
その時俺の脳裏に響く何かがあった。
(なんだ……この子を…俺は知ってる…!? いや…)
幾ら記憶をたどっても、彼女には見覚えがない。向こうを見てもそれは明らかだ。
しかし、彼女は俺の視線も意に介さず、返す刀で近づくノイズを一蹴し、そのまま再び天高く跳び上がる。
そして現れる力。
―散華せよ! ―
(なんだこれは…歌を……歌っているのか? 歌いながら戦っている!?)
彼女の歌が天高く高らかに響き渡る時、その歌声は力を高めて、空中に無数の光る刃を出現させた。それは雨あられと地上へと降り注いでいき、残るノイズたちをあっという間に蹴散らしていく。
―闇を裂け 酔狂の…―
そして少女はふた振りの剣を重ね合せるように構えると、彼女の意思を受け取った剣はその形状を変え、彼女の身の丈を遥かに超える大刀へと変化させたのだ。それを羽のように軽々と振り上げると、巨大芋虫ノイズへと一直線に袈裟切りにした。
―…閃光の剣よ―
朦々と立ち上る火柱が、煌々と俺達を照らしてくれている。
呆然とする俺たちの前に、降り立った一つの影。
―……ー
少女が歌い終わると同時に、辺りには静寂が立ち込めた。
草木の燃焼も、既に収まりつつある。
瞬く間に、俺達を取り囲んでいた脅威たちは、消し飛んだ。
「………」
少女が振り返り、俺達を見る。
透き通るような、美しい姿だった。
正に戦乙女とでも呼ぶのが相応しい出で立ちと容姿は、死の縁にあってさえ、いや寧ろこのような状況だからこそ釘付けになるのだろう。
だが俺が目を見張り、そして言葉が出なかったのは、彼女が原因ではなかった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「っ…!?」
少女の後ろからもう一人、別の声がする。見ると彼女とは違う色の装束を身に纏った、もう一人の女の子が俺たちの元へと駆け寄ってくる。
「あ、あの……っ!?」
「……!!」
全てが繋がったような気がした。熱風と霧散した灰に紛れて、俺達以外には感じ取れない何かが、辺りを支配する。
例えて言うなら、それは運命。陳腐な言葉に聞こえても、それ以外に形容できなかった。俺と言う歯車を以て、この物語は幕を開けたのだ。俺たちの前に降り立った少女たち……風鳴翼と、そして……
「君は……」
立花響との、出会いによって。
・・・・・・・・・
次回予告
突如として現れた謎の少女たちと、そしてノイズと呼ばれる怪物。
歌を操り、そしてノイズと戦う彼女達に連れられて、俺はこの世界の…次元を飛び越えた先にある真実を知る。
ノイズとは…そしてシンフォギアとは…
そして俺は……
次回『雑音と不協和音と、旅の始まり』
……人が理不尽に死んでいくことを、俺は決して認めない
遊星の戦いが、これから始まります。そして二課と遊星はどう関わっていくのか。
温かく見守って頂ければと思います。それでは、次回をお楽しみに。