龍姫絶唱シンフォギアXDS   作:ディルオン

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遊戯王現役時代はドラグニティでした。
例え一体だけでもそこから連鎖して高レベルシンクロ召喚に繋げられるのが、5D'sに通じるところがあって好きでした。

征竜とかいう連中に絆断ち切られたけどね
皆さんの使ってたカードカテゴリがありましたら、ぜひ教えてください。


第2話『すれ違う夜と、流星』‐2

 廊下を出た私は、不動先生の後ろをちょこちょこヒヨコの様についていく。

 な、何だろう……普通に考えれば任務の事だろうけど、でも今このタイミングで言うかなぁ? 

 

(やっぱり罰かなぁ…)

 

 そ、そんな…目の前が真っ白になりそうだ。

 あれだけ宿題を出されたんだ。ペナルティがあってもおかしくない。

 また悪いイメージが湧き出てきた。

 

(ま、マズい……今日だけは何としても凌がないと…っ!)

 

「……」

 

 不動先生は私の気持ちを知ってか知らずか、ズイズイ先へと進んでいく。

 いや、多分知らない…私の予定なんてこの国を守ったりすることに比べれば小さすぎる。

 こんな事で自分の予定を優先させろなんて、翼さんが聞いたら今度はビンタじゃ済まない

 

(分かってる…分かってるけど……でも、私にとって、これは……)

 

 胸が締め付けられた。明るい外の喧騒がやかましく聞こえた。無邪気にはしゃいでる他の生徒の声がますます私の気持ちを落としこませた。

 情けなさと不安と恐怖はどんどん膨らんでいく。

 

「ここならいいか」

 

 そう言って不動先生はある空き教室の中へと入った。

 私も入るのを確認すると、先生は誰も見ていないことを確認して扉を閉めた。

 傍から見たら怪しい関係に見られるだろうけど、私には周りを気にする余裕なんてない。

 

(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!)

 

 何度も頭の中で謝り続けても、この気持ちを捨てることなんてできなかった。

 だって……約束したんだもん。

 

「今回の授業の事なんだが…」

「あ、あのっ!」

「ん?」

 

 私は土下座する勢いで頭を下げた。

 

「お願いしますっ。遊せ…せ、先生の課題は明日には絶対、絶対に提出しますから。だから、少しだけ待ってください!」

 

 ただでさえレポートの提出期限を過ぎてるのに、この上あの量の宿題まで出されたら身動きが取れなくなってしまう。いつノイズの出動があるか分からない状況では、私の日常は完全に吹っ飛ぶ。

 人の命がかかっているんだ。そんなの関係ない、と言うかもしれない。けど、今日の約束だけ話が別だった。

 

「今日は大事な約束があるんです! 友達とずっと前から約束してて、その、そりゃ、宿題より大事かって言われたら何も言えないけど……!!」

 

 けど、私にとっては命と同じくらい大切な…ううん、大切な人との約束だった。

 例えあの宿題の量が倍になったとしても、今夜の予定だけは崩したくなかった。

 

(う、うう、怒られる…絶対怒られる…!)

 

 

『知らん。そんなことは俺の管轄外だ』

 

 

 とか言われるに違いない…! 

 ああ、神様…! 

 

「…立花。俺が添付した課題はあくまで自主的なものだ。別に俺に一々断りを入れる必要はない」

「ふえ?」

 

 しかし、不動先生が苦笑気味に言った言葉で、私は我に返る。キョトンとして上を向いた。

 

「ノイズとの戦いで学業との両立は大変だろうからな。本部に来る時間帯を利用して、俺も勉強は教える。そっちの方は気にするな」

「…へ?」

「言っただろう。学業面でもサポートすると。何かあったら、俺の課題を言い訳にしていい」

 

 そう言う遊星さんの顔は大真面目だ。

 つ、つまり、あの山積みにされた課題は……

 

「あ、あ~…そ、そういうことですか」

「だから今日は提出が延びてるレポートに集中して構わない。それだけを伝えに来た」

「あ、あはは…ど、どーも、ありがとうございます…」

 

 私は顔を真っ赤にして頷いた。

 遊星さんは私ができないことを見越して敢えてあの量を出したんだ。忙しさの言い訳に出来るし、ゆっくりでもこなせば学力アップにも繋がって、勉強に足を引っ張られることもなくなる、と。

 けどね……どうも手先が器用な人は、どっかが不器用になるみたいだ。

 

「あ、あの……」

「何かあったのか?」

「あ、い、いえ……」

 

 ごめんなさい、先生……伝わらないですその優しさ。

 

 真剣に私を心配してくれる不動先生の思いやりで、その一言だけはどうしても言い出せなかった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

 

 放課後、授業と残りの業務を終えた俺は、機動部二課の地下本部へと足を伸ばした。

 

「ふぅーん、なるほど。これが遊星粒子…」

 

 地下施設で、俺はモーメントエンジンの構造を簡易的にだが了子さんに話すことにした。無論、口外しないことを絶対条件にしてだ。

 

 

「安心して。私も必要以上に聞くつもりはないわ。これでも科学者として一応プライドは持ってるつもりよ。他人から教えられた理論で有名になってもつまらないし、意味ないでしょ?」

 

 

 了子さんはニコニコしながらそう言った。遊星粒子の事を聞くのは、あくまで科学者の性故だから、という事らしい。

 科学者には二通りいる。自分の研究を世に知らしめ、栄誉を追う者。そして自分の研究のみに没入し、他には一切興味を示さずに学問に身を捧げるもの。

 了子さんはどちらかと言えば後者だった。

 この手の人間は手柄を横取りすることを良しとしない。それ自体が負けを意味するからだ。

 

「んー、にしても遊星粒子とフォニックゲインの結びつきが未だによく分からないのよねえ。そもそも運用の基礎理論からして別物だしねえ」

「確かにな……遊星粒子をモーメントの回転に合わせるのに対して、フォニックゲインは音の振幅を応用してる……だが実際にモンスターの精霊とシンフォギアは共鳴している」

「確かキミの話だと、このカードって言うのは、元々各地に伝わってる伝承や神話を元に作られたのよね」

「その説も曖昧だがな。源流は古代エジプトにあるとされているが…」

「という事は、元々二つは力の引き出し方こそ違うけど、同じ性質を持った兄弟なのかもしれないわね」

「そうかもな……どの道、この世界のテクノロジーでは、まだ使いこなすには至らないと思うが」

「そうねえ。まだ制御は難しいわね…少なくともあと四半世紀は見ないと」

「すまないな」

「いいのよ、いいのよ。興味深い発見だけど、君以外では手に負えそうにないしね。そ・れ・よ・り」

「?」

「私としては、君自身に興味があるんだけなぁ」

 

 了子さんはそう言って、しなだれかかるように俺の肩に手を置く。

 その行為の真意が読めず、目を丸くしていると、急に猫なで声になって彼女は口を開いた。

 

「ねえ。ちょおっとで良いから、ワタシのオネガイ、聞いてくれないかしら?」

「お願い?」

「そ。ここじゃないトコで、二人っきりで色々調べさせてほしいの」

 

 とろんとした、上目遣いの瞳で俺を写し取りながら了子さんは俺にもたれかかった。

 細くて白い指が俺の膝を這う。ぞわりとした冷たい感覚に襲われた。

 

「何処から来て、どんな秘密があって、そしてどんな生を歩んだのか……お姉さん、とっても気になっちゃて。夜も眠れなくて」

 

 彼女の一言が、まるで催眠術の様に蠱惑的に俺の脳へと響いてくる。とろりと蜂蜜のような甘い香りが鼻腔をくすぐった。彼女の身につけた香水の香りだろうか。了子さんは徐々に俺に身体をよせてくる。

 柔らかな肢体の肉の感触、女性独特のふくらみが俺の触覚を刺激する。

 余程の変人でなければ彼女のやろうとする事の察しはつくだろう。だが……

 

「ねえ、どうかしら…?」

「それだけカフェインをガブ飲みしてれば、不眠にもなる」

「…」

 

 経験が薄いとは言え、そんな手が通用するほど俺も子どものつもりはない。第一こんな色仕掛けで秘密を暴き出そうとするなど、それこそ彼女のプライドが許すはずがない。

 

「遊星粒子の事は教える。だが俺も、必要以上にこの世界に干渉したくはない。本来ない筈の知識を教えれば、それは歴史を乱すことと同じだ」

 

 ただ便利と言うだけで使い倒せば、それは世界の破滅を招く。それだけは阻止しなければいけない。それが、世界を託したもう一人の自分への……未来への誓いだ。

 

「それでも知識欲に負けるというなら、アンタはそれまでの人間という事だな」

「はぁ……そう言われちゃ、引き下がるしかないわね」

 

 いともあっさり、了子さんは俺からすぐにぱっと身を引いた。白衣やらメガネやらを着直している間に、俺はコンピューターの画面を切る。彼女自身も、こんな事で俺が靡くとも思っていないだろう。

 

「ごめんね~、キミみたいなイケメン見ると、つい試したくなっちゃって」

 

 アハハハ、と手を振る了子さん。

 俺は溜息をつく。どうにも食えない人だ。科学者と言うのは少なからず変人だ。俺も含めて。だがこの人は、そのどれとも違う『何か』がある。

 この言葉も、どこまでが本気なのやら……

 

(だが、ちょうどいい機会か…)

 

 話の流れで、ここで切り出そうかと思い出したことがあった。本人のいる前では言い辛かったが、今なら誰もいないし、彼女も嘘は言うまい。

 

「一つ、聞きたいことがある」

「あら何? 私の櫻井理論について? 良いわよぉ~、たっぷりじっくりねっとりしっぽりと教えてア・ゲ・ル」

「立花のことだ」

「…響ちゃん?」

 

 俺は鷹揚に頷く。了子さんは目をキラキラさせて身を乗り出した。

 

「あらやだ! 遊星君ったら、ああいう子が好みなのっ? 分かるわぁ~、なんて言うのかしらね、放っておけないタイプって言うの? 保護欲、庇護欲を増進させるわよねえー! あ、それとも逆かしら? 虐めちゃいたい感じ? どっちも良いわぁ~!」

「……」

「いずれにせよ、教師と教え子の関係を超えた禁断の愛の予感ね? それどころか時空を超えた奇跡のカップルッ、う~ん、私も恋愛百戦錬磨だけど、二人は見てて中々…」

「了子さん」

 

 ぐだぐだしてきた。

 早く本題に移らせろ。とばかりに軽く睨むと、テヘ、と舌を出して了子さんは椅子に座りなおした。

 

「ごめんごめん、バカやったお詫びに、私が知ってる限りでいいなら答えるわ。どうぞ?」

「……そもそも、どうして彼女は戦うことになったんだ?」

 

 ここに来た当初から、気になっていた疑問だった。

 

「…ふむ」

「適合者だという事は聞いた。だがそれはたまたま彼女に才能があったというだけだろう。どうして戦いと縁のない立花が巻き込まれた? 何がきっかけで立花はここに連れてこられて、この二課の一員になったんだ? それが知りたい」

「私達が偶然発見した…じゃ、説明にならないかしら」

「本当に偶然か? それにアームドギアも出せない少女が、どうして戦い続ける?」

 

 アームドギア。

 それはシンフォギアに装備されている固有の武器の事だ。聖遺物は本来、神々や英雄、成人、偉人が用いたとされる伝説の持ち物だ。それに由来した能力が装者には与えられ、その象徴が、使い手の心象風景を具現化した兵装…アームドギアである。

 了子さんによれば、彼女が望めば、ガングニールはその真の力を彼女に合わせた形に変換して与える。ガングニールとは、古代北欧の神『オーディン』が使ったとされる槍である。普通に考えれば、槍や、それに類する形の武器が出現する筈だった。

 俺はその事を了子さんから最初に教わったのだが……立花響には、アームドギアを出現させることがどうしてもできなかった。戦い続けて一か月、彼女にはその気配すら訪れない。

 

「確かに、アームドギアが出せない理由はよく分からないのよね。素質は確実にあるわけだし、かといって本心で戦いたくないのなら、そもそも聖遺物そのものが起動を拒む筈よ」

「あの子が…それでも戦わなければいけないと、無理矢理に思い込まされている事はないのか?」

 

 意思の無い者を無理矢理戦わせる力はシンフォギアには無い、という事だった。だとすれば、残る可能性は……

 

「私達が……あの子を脅迫したり、親類縁者を人質に取っている…ってことかしら?」

「いや。あんたや弦十郎さんが、そんな手段を取っているとは考えたくはない。だが…」

 

 もしそれが…俺達シグナーが巻き込まれたように、『運命』と呼ばれるような狂気と脅威によってもたらされた破滅への道であるならば。彼女を守らなければならない。彼女のような純粋な子どもを巻き込むような連中がいるならば、俺は許さない。

 俺がシグナーだからじゃない。

 不動遊星だからだ。

 

 

「んー……まあ、しょうがないか」

 

 

 了子さんが口を開いたその時だ。

 けたたましく緊急アラートが基地内に響き渡り、同時に照明に赤く明滅する。この音と灯り同時に訴えかけるシグナルが示すことはただ一つだ。

 

『遊星君、了子くん、取り込み中すまない。ノイズだっ』

「…っ」

 

 部屋の無線機能に音声が入り、弦十郎さんの声がする。俺は無意識に拳を握りしめていた。

 

「あらら。空気読めない連中ね。ま、そんな機能があいつ等にあったら苦労しないわね、ウチら」

「話は後で聞かせてもらう」

「ええ、待ってるわ」

 

 俺は白衣を脱ぎ捨て、代わりに椅子に掛けてあったジャケットを着こみ、Dホイールを待機させている格納庫へと急ぐ。

 

『遊星君。翼は今、レコーディングでここから離れたスタジオにいる。彼女が合流するまで、何とか響君と被害を食い止めてくれっ』

「了解したっ」

 

 そう言えば……立花は今日、大事な約束があると言っていたが……。

 いや、感傷だ。ノイズが現れたとなれば放っては置けない。それは立花も重々承知の筈だ。大丈夫だ、あとで俺もフォローすれば問題ない。今はノイズを片付けることが先決だ。

 そう思っていた。

 ここ数日で、ノイズと戦うことに慣れてしまっていた。それは油断と呼ぶにはあまりにも小さい揺らぎ。それが悲劇へと繋がることを、誰も知らずにいた。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 先生のお助けのお陰で、何とか猶予を貰った私は、すぐさま教室に戻ってレポート作成を再開した。休み時間、自習時間、昼休み、放課後、許される時間を全てぶち込み、持てる全ての集中力を注ぎ込む。創世ちゃん達も協力してくれた。

 

「うりゃあああああっっ!!」

 

 ペンを握っている私に代わって、お弁当の中身を口に運んでくれる係だ。未来は呆れてたけど、私はマジも大マジ大真面目。皆がここまで応援してくれてるなら、なりふり構ってなんかいられない。

 

「ほああああああっっ!!」

 

 自慢じゃないけど、私は中学の時から勉強は遅れ気味だったし、こういう修羅場をこなした経験は一度や二度じゃない。対処法は心得ている。

 書きなぐる、書きなぐる、書きなぐる。

 消しゴム、消しゴム、消しゴム。

 言葉、言葉、言葉。

 

「乱れ撃ちだああああっっ!!」

 

 私はどちらかというとアナログ派なので、こういう時はペンで書いた方が圧倒的に早い。

 パソコンだと一々修正もメンドクサイし。

 

「ちゃんと書きなさい。再提出になっちゃうから」

「あ、はい、ごめんなさい」

 

 時々未来の注意を受けながら、私は加筆・補足・追記・修正を繰り返し、そしてついに……

 

「出来たぁっ!!」

 

 完成だっ! 

 先生に言われた箇所は全て書き込み、自分の意見も何とか沢山の文字数に変えて空欄を埋めた。改心の出来、とは言えないまでも、取り敢えず今自分に出来る全力である。

 バシッ、としなるぐらいの勢いでペンを叩きつけた私は、急いで他の分の資料と一緒に用紙をまとめた。

 

「お疲れ様、響っ」

「うんっ、未来たちのお陰だよっ!」

 

 隣では未来が我が事の様に喜んで手を叩いている。私も吊られて笑顔になって立ち上がった。だがまだ終わってはいない。最大の難所はこの後に控えているのだから。

 

「じゃあ、私これ出してくるねっ!」

「私も行くよ」

「ありがとっ」

 

 こうして私達は教員室へと急いだ。

 夕焼けの光が眩しく光る。

 既に放課後……夕日は傾きつつある。夜の帳って奴だ。ここで受け取ってもらえなければもうどん詰まりだよ…! 

 私は何とか体裁を整えたそれを持って、教員室までたどり着く。未来に待つように伝えると、扉を一気に開いて待ってくれていた担任の先生の机までダッシュする。

 

 

「先生! 失礼します!」

「立花さん、教員室では静かに」

「すいません! 遅くなりましたがレポートです!」

「話を聞きなさい!!」

 

 

 テンションがハイになった私に、先生の甲高い叱責が跳ぶ。もうこれで何度目なのか分からなくなってきた。

 しかし今日の私は構っていられない。急いでまとめたそれを突き出した。

 

「よろしくお願いしますっ!」

「……よくもまあ、これでレポートですと胸を張れたものですね。これがレポートなら子どもの落書きだって『新しい言語体系だ』って胸張って学会に提出できるでしょう」

「い、いやぁ、それほどでも…」

「褒めていません」

「……え」

 

 そこから数十分はお叱りタイムだった。

 

「そもそも時間を過ぎています。それを分かっていますね?」

「はい、すいませんでした…」

「内容もメチャクチャです。もっと整理しなさい。レポートのまとめ方ぐらい、今どき中学でも習う事です」

「おっしゃる通りです……」

「あと壮絶に文字が汚いですヒエログリフですかこれは」

「返す言葉もありません…」

 

 と。かなりお叱りを受けた。

 ただ、この人の良い所は、私を嬲ろうとして怒っているんじゃないってこと。ちゃんと次に繋がるように、私がキチンと卒業して一人前になれるように、心を込めて叱ってくれる。私には、それが嬉しかった。誠実に私と向き合って、受け入れてくれる人は……お母さんやおばあちゃん、それと……今も外で待ってくれている親友くらいしかいないと思っていたから。

 

「立花さん聞いていますかっ!」

「は、はいっ!」

「あなたはもう、本当にいつもいつも…!!」

 

 あ、やば……油断してるとすぐこれだ……

 ゴメン、未来……立ちっ放しは辛いだろうけど我慢して…私も頑張るからね…! 

 心の中で何に対する誓いなのかよく分からない決意をした後、私は再び先生のお説教に晒された。

 

「~~~!」

「~~~!!」

「~~~~~~~~~!!!」

 

 無限に続く時間なのかと思ったけれど、それでもチャイムが鳴ったので、何とか先生も時間と言う感覚を思い出してくれたらしい。

 私もようやく懇願して、受け取ってもらえることに成功した。次は期日を守るようにと何度も釘を刺された末、私は教員室を無事に脱出する。

 

 

 

「……あ、響」

「…ごめん、待った?」

「ううん。先生はなんて?」

「壮絶に字が汚いって。ヒエロなんちゃらみたいって言われた」

「そうじゃなくて、レポート受け取って貰えたの?」

 

 未来が私の顔を覗きこんだ。

 まるでお姉さんみたい。未来はこうやって、私の前から後ろから、いつも支えてくれていた。そして今も、こうして難所を乗り越えることができたわけだ。

 

「それがね…」

「……ごくり」

「……今回だけは特別だって!」

「ホントに!?」

「イエーイ!! おつかれちゃーん!!!」

 

 抑えきれない喜びを胸に、私は未来に報告をする。一瞬戸惑ったみくの顔が、ぱっとひまわりが咲いたように輝いた。

 それを見て私もつい嬉しくなって飛び跳ねる。

 そのままハイタッチをしようと手を出して……

 

 

『立花さんっ! 廊下で騒がないっ!!』

 

 

 先生の叱責が跳んできた。

 別の意味で飛び跳ねそうになった私は身を縮こませて未来を見る。いつもの苦笑を浮かべて、それでも私の親友は喜んでくれていた。

 

「ごめんごめん……でも、これで流れ星みられそうだねっ」

「うんっ」

 

 ボロボロになりながらも、私には徐々に喜びの光が差していた。

 未来とはこの間からずっと約束をしていたことがあった。今日見られる、こと座流星群を見る約束だ。ニュースを見てからずっと予定してた。

 このところ、ご飯もろくに一緒に取れない日々が続いていたから、余計に嬉しさも倍増している。

 

「響はここで待っててっ。教室から鞄取ってきてあげる」

 

 未来はそう言うが早いか、さっと身を翻して廊下を駆ける。私は慌てて飛びとめようとするが、既にみくは曲がり角まで走っていた。

 

「い、いいよー、そんなのーっ」

「響は頑張ったから、そのご褒美ー!」

 

 そう言ってニコニコしながら、未来は廊下も向こう側に消える。夕日に寺sれた横顔が一瞬見えて、とても綺麗だった。

 

(やっぱ未来は足早いな~。流石元陸上部っ)

 

 私も今すぐに飛び跳ねたいくらいだった。

 やった。これで行ける。流星群を見に。

 未来との約束、破らないで済む。

 ずっと前からしていた約束。

 ノイズが出てからこっち、忙しかったけど、遊星さんのお陰でレポートに集中できたし、今からなら夜には余裕で間に合う。

 温かくして行かなきゃ。

 飲み物も持って行こう。甘くてホッとするようなやつを。

 あと風除けにタオルケットも……

 

 

「………っ」

 

 

 シグナルが呼ぶ。

 私の携帯じゃない。逆側にいれてある、何時でも気付きやすいようにしている、二課から持たされた通信機。そしてこの機械が鳴るという事は、私の取るべき行動は一つしかあり得ない。

 情け容赦なく、私の日常は打ち砕かれた。

 

「……はい」

 

 私はゆっくりと、端末に手を伸ばす。頼む。何かの間違いであってくれ。機械の故障とか、或いは何のとりとめのない話とか。了子さんの冗談とか……そう、だ。ただのブリーフィングなら、何とか深夜の時間帯には間に合うかもしれない……そんな淡い期待を込めて、恐る恐る返事を待った。

 

 

『響君。ノイズの発生を検知した。すまないが、直ちに現場へ急行してくれ』

 

 

 そんな都合の良い世界なら、今私はこんな事をしていない。こうして私は、装者として戦ってなんかいないのに……

 

『響君、聞こえるか。響君?』

「……はい。聞こえてます」

『大丈夫か? 何処か、具合でも悪いのか?』

 

 ここで体調不良だと嘘をつけば、私は星を見られるのかな? 

 ……考えただけで恐ろしい。

 その間にも、何の罪もない人が炭に変えられてるかもしれないって言うのに……私は自分自身に嫌気が差した。

 

「い、いえ、大丈夫です。すぐに、向かいますからっ」

『そうか。翼と遊星君にも連絡している。翼は距離があるため、まずは遊星君と合流して、ノイズの拡散を抑えてくれ』

 

 弦十郎さんの緊迫した声が伝わる。

 それは拒否も回避も許さない、戦う者としての宿命が込められていた。いや…分かってるんだ、私の我儘なんだってことは。だって、戦うって決めたのも私だし、戦うことの意味をまるで知らずに生きてきたのも私だ。

 けど…だけど……こんなの……

 

(私が……やらなきゃいけないんだ…!)

 

 悲し過ぎるよ…! 

 

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 

『遊星君、響ちゃんは既に交戦に入っているわ。そのまま、直進して』

「了解した」

 

 友里さんの言葉を受け、一路、夕日が沈み始めた街道を突き進む。既に一帯には避難警報が発令されて、辺りには人影はいない。お陰で俺は全速力でDホイールを走らせることができた。

 

(だが、急がなければ…!)

 

 報告によれば、ノイズの数は20弱。

 これまで出現したのに比べれば少数だが、それでも彼女1人に任せるには心許ない。

 

(了子さんの話では、シンフォギアを纏っている以上、身体が炭素分解されることはなく、普通に触れることができるらしいが…)

 

 ノイズの脅威度はその特殊能力に依存する部分が大きく、炭にさえならなければ例え女学生の身体力程度でも遅れを取ることはない。

 が、それはあくまでも『大多数』がそうだと言うだけの話である。

 芋虫や巨人の形をしたギガノイズや、空中から急襲するフライト型の戦闘能力は侮れない。もし炭素分解に拠らない物理攻撃をまともに喰らえば怪我では済まない筈だ。

 

『反応、絞り込み修正完了。クロール型、ヒューマノイド型…っ、セルノイズの反応を確認っ!』

『ぬぅ…! 遊星君、聞こえたか? 急いでくれっ!』

「っ、ああ!」

 

 藤尭さんのオペレートに俺も弦十郎さんも苦虫を噛み潰した声が出る。

 悪い予感が的中した。セルノイズはパワーやスピードこそ他の型より弱く、その出現数も低いが、恐るべき能力を秘めている。

 

(何とか立花に連絡を取れれば…っ!)

 

 急いで通信を行う。

 彼女に連絡が取れる余裕があればいいのだが…! 

 

「立花、聞こえるか? できなければ返事はしなくていい。俺が行くまでその場で待機するんだ、無茶はするなよ」

 

 息も絶え絶えの、立花の悲鳴がまた聞こえてくることを予想していた。

 しかし次の瞬間聞こえてきた声は、俺の想像を越えたものだった。

 

『……分かってますから、大丈夫ですっ!』

「…なに?」

『私は、私に出来ることをやるだけですっ!』

「立花…」

 

 一瞬俺は言葉に詰まった。

 その間に、立花の叫びが俺の耳を貫く。

 

『だあああっ!』

 

 悲鳴にも似た怒号が、衝撃音と共に伝わる。同時にマップに表示されていたノイズの反応が一体消滅した。

 これは…あいつの力によるものか。

 

(まさか…立花1人で、あの数を相手にしているのか…)

 

 今までの彼女の様子からは考えられない。

 その時、通信機越しにか細いが、確かに胸に響いてくる、一筋の旋律があった。

 

『絶対に、離さない!』

 

 これは…

 

『こんなに、ほ…! ……だっ! 人の…温も…はっ!』

 

 立花の歌だ。

 シンフォギアの装者が歌うのは伊達や酔狂ではない。エネルギーを引き出し、固着させてプロテクターとした上で、更なる力を聖遺物から引き出す為だった。

 ただし欠片しか組み込まれていないシンフォギアでは、常に歌い続ける必要があり、逆に持続すれば出力は上昇し続ける。

 …だが、これまで俺は立花が歌ってる所を見たことがなかった。

 逃げ回るしかできない彼女にそんな余裕はなかったからだ。故に最低限の出力で戦わざるを得ず、苦戦を強いられた。

 

『ガングニールのフォニックゲイン、上昇中。ノイズの数は残り10にまで減少』

『あらら、どう言う心境の変化かしら…』

 

 了子さんが無線の向こうで戸惑いながら零す。

 確かに、つい数時間前に会った彼女の態度からは考えにくい。了子さんの話によれば、シンフォギアの力を引き出す決定力は力や体力に非ず、精神力が必要だ。

 それだけの心の強さを、短期間で獲得したと言うことか…? 

 

『難しい言葉なんて…いらないよっ!』

 

 叫びと共に風を切る音がする。

 瞬間、またノイズが一体減った。

 

『今……る…! 共鳴……ブレイブマインズ…!』

 

 …俺の思い過ごしだったのか。

 戦いには向かないと思っていたのは…

 

『……見たかった…』

 

(…え)

 

 途端に途切れる歌。

 この後に、俺は後悔することとなる。

 気付いてやるべきだったのだ。

 あの子の心は、既に限界まですり減っていたという事実に。

 

 

『セルノイズのエネルギー値増大します!』

『響君、危ない、躱せッ!!』

 

『……え?』

 

 弦十郎さんが叫ぶ。

 瞬間、無線越しに爆発音が轟き、俺の耳をつんざいた。

 

『……きゃああああっっ!!?』

「立花っ?」

 

 咄嗟にヘルメットに指を当てた。

 

『……』

 

 不安が俺の胸をよぎる。

 ジリジリと通信の向こうでは音が割れるだけだ。

 俺は血の気が引くのを感じた。

 今の悲鳴は……まさかっ! 

 

「立花、聞こえるか? 応答しろ、立花っ!」

 

 無線を限界まで感度を上げて、レーダーの索敵範囲を最大まで絞る。高速道路を切り裂く風も感じない。

 代わりに俺の額を冷や汗が流れる。通り過ぎる街路灯の明滅が鬱陶しかった

 

「くそっ…! 立花っ、返事をするんだ! 立花っ!!」

 

 返事は来ない。代わりに返って来るのはノイズ音のみ。

 モニターを叩きつけたい衝動を抑えて、俺はクラッチを踏み直し、速度を限界まで引き上げた。

 

『友里、響君の反応はっ!?』

『バイタルはイエローゾーンで止まっていますが…! 爆炎で感度が乱れていて…!』

『藤尭、ノイズの反応はどうなってる?』

『地下に潜って逃走を続けています。ですが、装者の周りに数体のクロール型。周囲を索敵している模様』

 

 司令部から悪い状況ばかりが伝わってくる。

 焦る心臓の鼓動を必死に抑えた。

 後悔が押し寄せ積み重なる。それを払いのけるようにして、無線に呼びかけ続ける。

 

「立花、聞こえるかっ。遊星だ。応答してくれっ!」

 

 何度呼びかけても、応答はない。

 弦十郎さん達の会話から、最悪の状況はない。だが、それなら何故返事がない……まさか、意識を失ったのか…? 

 

『遊星君、響君を急いで救助してくれっ。ギアが解除されれば、彼女は丸腰同然だ!』

「っ…分かってるっ!」

 

(やはり俺もついているべきだったんだ)

 

 怪しまれようが何だろうが、補習でも何でも名目を作って、彼女の傍にいてやるべきだった。

 脇道を縫い、闇夜を切り、路地を駆って駅までの道を急ぐ。一瞬のうちに数百メートルを移動している筈なのに、どうしてこんなに遅く感じるんだ…! 

 

(早くしなければ、立花は…っ!)

 

 

 その時だ。

 

『ううっ……っっうぅ、くっ……!!』

 

 向こう側で聞こえる声にならない叫び。

 これは……立花の声だ。

 意識があるのか? 俺は再び呼びかけた。

 

「立花、大丈夫か、立花っ!」

 

 一縷の希望をかけて、俺は問いかける。だが、代わりに返ってきたのは、むしろ逆の反応だった。やり場のない怒りと…強い悲しみだ。

 

『……ったかった』

「なにっ?」

『……っしょに……見たかったっ』

 

 瞬間、弾け飛ぶ音がした。

 ついで報告されたモニターからのデータは、彼女の復活を意味していた。ノイズが一体減っている。立花が攻撃を再開した証拠だ。

 

『バイタルデータ修正。響ちゃん、無事ですっ!』

 

 友里さんの歓喜にも似た報告が上がってくる。

 無事を知らせるその声に、俺は気付かない内に息を漏らしてした。

 だが…それは一瞬、安定に過ぎなかった。

 

 

『流れ星…一緒に見たかった!!』

 

 

 何かを叩きつける衝撃音。ノイズが一体消えた。

 

 




シンフォギアみてて思うのは本編での響は周りに恵まれてるなと言うのが一番思いますね。
このOTONAたちがシンフォギアの魅力の一つでしょうね。

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