物事には必ず、表と裏が存在する。
それらは、まるで正反対の性質を持つ。
表にないものは裏にあり、裏にないものは表に存在する。
それは、誰にも曲げることのできない、自然の法則である。
今、我々が生きている、この世界。
私たちは、あたかも、人間が住む世界がこの世界のみだと、思い込んでいるが、それは間違いだ。
この世界は、『表』である――所詮、『表』でしかない。
ここで、先ほどの法則に則るならば。
①表があれば、裏もある
+
②この世界は『表』である
=『裏』の世界が存在する
それは、隣にあって、隣にはない世界。
・・・・・・俗にいう、
しかし、どれだけ強固なものでも、必ず綻びは生まれる。
『表』と『裏』。決して交わることのない二つの間に、それらを結ぶきっかけが生まれる。
そして、決してあってはならない、伝説が生まれる。
これから始まる物語は、ただ一つのことに気を付ければ良い。
「
当たり前は、当たり前ではなくなり、当たり前でないものは、当たり前になる。
この、過酷で苦痛な世界で。
少年は何を見せ、何を語るのだろうか――――。
「――――ッ⁉」
目覚めると、見知らぬ部屋にいた。
質素な部屋だ。自身の寝ているベッドが一台、それに小さな机と椅子、更に、その椅子に座っている15,6歳程の少女。
現時点で得られる情報はこれだけだ。
「・・・これじゃ、状況確認すら、無理があるか・・・」
少し考えこむと、
「・・・よし、寝よう」
そのまま布団を被りなおして・・・・・・
「――って、私がいるじゃない! 無視しないでよ!」
「ナイスノリ、ありがとうございます! ・・・でも、ツッコミで、ベッドひっくり返すのはやりすぎ⁉ ちゃぶ台じゃないんだよ⁉」
「・・・というわけで覚醒した、俺ですけど。・・・ここどこ?」
ベッド返しで、完全に目の覚めた少年――
ベッドに腰かけたまま、目の前の少女に尋ねる。
「どこ、かぁ・・・・・。口で言うのはちょっと難しいかな・・・」
「じゃあ、身体で語れば?」
「そうね、身体なら・・・って、何さりげなくすごいことぶっこんでんのよ!」
ゼロ距離ラリアット。助走がないのに、首がもげそうになる。
「痛っててててて・・・・・ジョークですよ、ジョーク。フランシアンジョーク」
「・・・君、日本人でしょ。それはさておき、さっきの質問の答えね」
少女は、長く伸びる自身の黒髪を、指先でくるくるといじりながら、
「ここがどこなのかは、外に出ればわかる。・・・重要なのは、ここがどういう世界なのかってこと」
「どういう世界、とは?」
倉斗は訝し気に尋ねる。
「・・・・・・それも、見たほうが早いね」
そういうなり、少女はさっと立ち上がり、部屋の入口――ドアの前まで移動する。
そして、右手の人差し指と中指で、何かをつまむような仕草をする。
彼女がその手を、くるりと――ちょうど、ティースプーンでカップの中を混ぜるように――動かす。その瞬間、
「ッ⁉ ・・・・・・は? 消えやがった⁉」
倉斗の言葉通り。
少女の姿が、一瞬にして、掻き消えた。
思わず立ち上がり、ついさっきまで彼女がいた所まで移動、手を動かすが、何の手ごたえもない。
部屋中を見渡すが、目に入るのは、変わらない殺風景な室内。
少女の姿はおろか、気配すら感じない。
その奇怪な現象を前に、よろよろとしながら倉斗はベッドに、ドスンと再び腰掛ける。
倉斗の頭が恐怖と困惑で埋め尽くされ、完全停止している、その時、
「どう? ビックリした?」
いたずらっぽい声を、唐突に後ろからかけられ、倉斗はベッドから跳ね上がり、部屋の隅まで後ずさる。
「あれ? ちょっと驚かせすぎたかな?」
ベッドの後ろ。お茶目に笑うのは、間違いなく先ほどの少女だ。
「ゆ、ゆゆ、ゆゆゆゆ幽霊ぃッ⁉」
歯をカチカチと鳴らしながら、倉斗は後ずさりをやめない。
「ちがうって。ほら、ちゃんと足あるし」
「あ、ホントだ。よかった~(ほッ)」
「うわ~。これで安心しちゃうんだ。こんな人、初めてだなぁ」
少女はくすりと笑うと、倉斗を立たせようと、手を差し伸べる。
差し出された手を、まだ怖がる倉斗だったが、少し彼女の手に触れて、人間らしい熱を感じると、安心したのか、今度はしっかりとその手を握る。
「ふあ~。超ビビった。今の、なんだったんだ?」
怖がっていた倉斗の姿を思い出したのか、少女はもう一度くすりと笑い、
「言ったでしょ。ここが何なのか教えるって」
倉斗をベッドに座らせ、自身も椅子に腰かけると、彼女は言った。
「ここは、君たちが住んでいる世界の、隣であり、隣にないところ。君たちの世界の裏の世界。
だから、
表にないものは、裏にある。――私たちは、異能力者、超能力者なんだ」
・・・現実は、逃避しようとしてもできない。
倉斗の視界がブラックアウトする。
・・・・・・どうやら、何かヤバい設定の世界に連れてこられてしまったらしい。