ユーザーはオタク スキルを実行します   作:ウェーヴ・カン

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第2話

 朝というのはつくづく鬱陶しい。特に、朝日が(まぶた)の裏を刺すように照らす時。強制的に目を開けさせられる。小鳥のピーチクパーチク言う、コーラスがバックについているのなら尚更だ。耳まで不愉快になる。

「クソ、うッせェな……」

 快眠の妨害に不快感を覚えながら、殻井兜兜(からいとうと)は目を覚ました。外部からの刺激で無理に起きたせいか、いつもより身体が重い。脳の動きも鈍いようだ。視界が、僅かに霞がかかったような感じだ。

 感じる違和感に顔をしかめ、ベッドから降りる。一度大きく体をぐっと伸ばし、全身をほぐす。さっきよりは、幾らか軽くなった気分がする。

 壁の時計はもう9時を指しているが、今日は日曜日。休日だ。普段なら7時半以降は朝食が下げられてしまうが、彼の住む学生寮は休日には配給がないので、多少寝坊しても問題ない。

 さて、今日はどうするか。

 眠気覚まし兼朝食代わりの缶コーヒーを片手に、椅子に座った殻井は思考する。高校は休みだし、友達、というか知り合いがほとんど皆無に等しいので、誰かとどこかへ遊びに行くようなこともない。行きつけのゲームセンターは、約9割のゲームをクリアしている。ただでさえ少ない所持金を、いたずらに消費する必要はないだろう。

 やることねぇな、とベッドに再び寝ころび二度寝しようとしたところで、机の上の携帯がヴーヴーとバイブ音を鳴らし始めた。薄い液晶画面が小刻みに震えている。

「……クソ、うッせェな……」

 数十秒待ったが、震えの止まる気配がないので、仕方なくベッドから起き上がる。携帯を手に取った殻井は、嫌そうに顔をしかめた。画面には『天賀谷千夏(あまがやちなつ)』の文字が表示されている。

「何だ、こんな時間に」

『えー? まだ8時過ぎだよ』

「早すぎるッつッてんだよ」

 わざとやってんのかコイツ、と眉をひそめる殻井。この女の前には、殻井の恐ろし気な三白眼も、震えあがるような恐怖を(あお)る声も、すべて無効化されてしまう。天然ッて野郎は厄介だなァ、と思わず呟く。

『天然が何って?』

「……何でもねェ。天然……天然魚介が旨いッて話だ。…んで、何の用だァ?」

『うん。えーっと、仕事が一件あって…』

 また仕事か、めんどくせェ。

 最近、仕事の依頼が多い。前までは一週間に一,二個だったのが、三週間程前から五,六個に増えている。世の中、知らないところで色々複雑な事情で溢れかえっているものだな、と思う。

「依頼主は?」

『私』

「おッと、急に電波が。悪ィがあと四十八時間後に掛け直してくれ」

『こら、逃げない。報酬は『Bread』の味噌ラーメン大盛、チャーシュー厚切り奢るから』

「……餃子と炒飯付きで手を打ってやらァ」

『……わかった。その代わり、ちゃんと仕事してね? 詳しいことはメールで送るから。じゃあね』 

 ツー、ツーという会話の後を引く音が流れ、通話が切断された。メール画面を開くと、天賀谷の言った通り新しいメールが届いていた。

 資料を見た限り、内容は一人の少年の護衛。しかも、護衛の目的地は『灰醍寮(かいだいりょう)』、ここだ。任務難度欄には、でかでかと印刷されたEの文字。実に楽な仕事である。いつも所持金が少ないので、『Bread』――駅前にある老舗(しにせ)のラーメン屋――の味噌ラーメンはまだ食べたことがない。これっぽっちのことで味噌ラーメン(大盛、チャーシュー厚切り、餃子と炒飯付き)を食べられるのだから、願ってもいないことだ。

 机の引き出しを開け、中にぎっしりと並べられた十数個のスマートフォンの中から藍色のものを一つ選び、ズボンの右ポケットにしまう。続いて、手にしていた連絡用の携帯電話も逆ポケットに入れようとしたとき、ふと資料の護衛対象の情報欄が目に入った。

 名前:倉斗仁(16) 出身:『(フロント)』 特徴………

「……『(フロント)』、だァ?」

 思わず眉をひそめる。

「…………」

 急に、難易度が3ランクほど上がった気がした。

 

 

 

 

 

「よし、お疲れ様。これで終わりだからあとはもう好きにしてていいよ。検査結果は後で寮の方に送っておくから。『灰醍寮』で合ってるよね?」

「? ……あ、はい。ありがとうございました」

 『寮』という言葉に首を捻りつつも、にこやかに笑う医者に礼を告げ、倉斗は診察室を後にした。窓から見えた空は、もうオレンジ色に染まっている。

(もう夕方か……検査だけで一日消費しちまったな……)

 自分の病室に向かいながら、倉斗は今日一日の出来事を整理する。

(まず、目覚めたら天賀谷さんがいて……そこで超能力見せられて気絶。それで、そっから二時間後にもう一回覚醒して、残りは病院で検査か。………あれ? イベントらしいイベント、何も起きてなくね?)

 再び首を捻りつつも倉斗は歩みを進め、割り当てられた病室のスライド式ドアをガラリと開ける。

「あ。お帰り、倉斗君。検査終わった?」

 依然として椅子に座り読書をしていた、黒髪を長く伸ばした少女・天賀谷千夏が帰って来た倉斗に気づき、声をかけた。本当に、『美少女』という言葉をそのまま再現したような人物だ。見る度にいちいち見惚(みと)れてしまう。

ドアを静かに閉めると、奥に進んでベッドの上に座る。

「はい。今終わったところです」

 返してから、ふと医者の言葉を思い出し、尋ねてみる。

「ところで、検査が終わった後に『寮』がどーのこーの言われたんですけど……何のことですか?」

 天賀谷は少し表情を曇らせ、

「あー……まぁ、すぐに分かるよ」

「? ……それはどういう――」

「邪魔するぜェ!」

 曖昧な答えに眉をひそめ、もう少し詳しく聞き出そうと口を開きかけた刹那。勢いよく病室のドアが開いた。

 

 

 

 ずかずかと一切の遠慮なしに入って来た人物は、黒の半袖Tシャツと膝までのジーンズで身を固めた、やや細身の男だった。左右に揺れ動く、程よく伸びた前髪の隙間から覗く鋭い眼は、猛獣を連想させる。

「あ、殻井君。早かったね。てっきりゲームセンターに寄って来て、遅くなるのかと……」

 警戒心剥き出しの倉斗とは対照的に、天賀谷は変わらない様子で声をかける。どうやら知り合いのようだ。安心して、警戒を解く。殻井と呼ばれたその人物は、座る天賀谷のベッドを挟んで反対側――窓際の方面――の壁にもたれかかるようにする。天賀谷と殻井が、ベッドの上に座る倉斗を挟みこむような形になる。殻井が返答する。雰囲気と同じように鋭利な声だった。

「9割方全クリのゲーセンなんざ、ただのガラクタ収容所だ。行く価値もねェ。……で、依頼の護衛対象って奴ァコイツか?」

 急に話題に引き出され、びくりと震える。

 護衛? 何のことだ。状況が全く掴めない。さっき言っていた『寮』と関係があるのか?

 表情から心情を読み取ったのか、こちらに気づいた天賀谷が答える。

「えーっと……説明させてもらうと、『表』から来た人間なんて何を引き起こすか分からないってことで、取り敢えず私たちの『寮』で預かることになったの。それで、病院からの道中、倉斗君のことを聞きつけた誰かが襲いに来るかもしれないから、護衛をつけようってわけ」

「過去にも何回か『表』からの来訪者はあったが、その度に襲撃されてる。記録があってれば、今まで『裏』に来たのは6人。やられて当日中に即死が4人だ」

 殻井の補足説明に、顔を青くする倉斗。つまり、ほぼ7割突破の確率で自分も殺られることになる。

「え………俺ってそんなに危険人物なワケ?」

「危険ッつーか不審人物なだけだ。危険じゃねェッて証明できれば、命は保証される」

 そこまで言い殻井はくくっと喉の奥で笑うと、続ける。

「まァ、今までは証明する前に殺されんのがほとんどだったんだがなァ」

「こら、殻井君。脅さないの」

 ガクガクと恐怖に震える倉斗を庇う様に、天賀谷がたしなめる。

 冗談だ、と殻井本人は言うが、今までに何人も殺されているのは事実らしい。天賀谷は、『脅すな』といっただけで『嘘をつくな』とは言っていない。

「まあ、大丈夫だよ。私はあんまりだけど、殻井君は強いから」

 安心させる様に言ってくれるが、相変わらず体の震えは治まらない。人間、一度恐怖を覚えると中々静まらないものだ。まだ、ガタガタ継続中である。

 

 

 

「オイ、そろそろ行くぞ。こんなところでビビってるよりも、さっさと発った方が(はえ)ェだろ」

 そのまま十数分。沈黙を守り続けていた中、殻井が唐突に口を開いた。

「そうだね。もうそろそろ行こっか。倉斗君、歩ける?」

 時間を置いたせいか、だいぶ落ち着いた。震えも止まっている。ゆっくりと立ち上がると、そのまま天賀谷を先頭、殻井を殿として倉斗を挟むようにして病室を出る。特に所持品はなかったので、手ぶらのままだ。

 病院内を巡るように歩き、外に設置された駐車場へ向かう。天賀谷は黒く塗られた中型の自動車に近づき、いつの間にか手にしていた鍵でロックを解除する。天賀谷が運転席に座り、殻井と倉斗は後部座席だ。車内に入るなり、殻井はジーンズのポケットから取り出した携帯端末をいじり始めた。急激に不安になる。

(護衛? ただのスマホ依存者じゃねえの?)

 倉斗のそんな懸念をよそに、天賀谷がエンジンをかけ車が発進する。

 ふと、倉斗の視線に気づいたのか、殻井が携帯電話から目を上げ、こちらを見る。目付きが悪いからか、睨んでいるようにしか見えないが。

「何バカなしてんだ、テメェはァ」

 倉斗の不安気な眼を見るなり、殻井は口角を吊り上げ不適に笑って言った。携帯電話をポケットに収め、ふんぞり返るように席に座り直すと変わらない調子で続ける。

「これでも俺ァ、Ⅱ群の一位だ。そこらのザコに負ける義務はねェぜ」

 

 

 

 




「よっ! 倉斗仁です!」
「こんにちは、天賀谷千夏です」
「は~。今日は全くひどい目にあってばっかですよ」
「え……? 病院で検査しただけじゃない?」
「………いやそれが……検査の項目がねぇ……ちょっとねぇ……(遠い眼)」
「あれ? おーい、倉斗君ー……? ……あ、気絶しちゃってる……今日三回目だ」

「ッ⁉ はっ! また気絶してた」
「今日はもう無理しない方がいいよ。ゆっくり休んで」
「現在進行形で連行中なのにどう休めと!?」
「えーっと、まぁ取り敢えず。次回は多分殻井君が頑張るので。お楽しみに!」
「無理に宣伝に繋げやがった! ………先輩の女子、恐るべし……」







 どうもこんにちは。ウェーヴ・カンです。『ユーザーはオタクスキルを実行します』、略してユザオタ。第二話です。お楽しみいただけたでしょうか。どことなく単調な表現や展開が低速気味、行間の少なすぎで読みにくい等々、何かと障害が多い小説ですが目をつむっていただけると嬉しいです。
 それではまた。三話のあとがきでお会いできることを祈っております。
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