ユーザーはオタク スキルを実行します   作:ウェーヴ・カン

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第3話

「……じゃ、いつも通り…」

「任せてください。すぐに片付けます」

 来客が帰ったのを見届けると代守狩氏(しろかみかりうじ)はさっさとテーブルの上の茶と菓子を退場させる。残ったのは一枚の封筒のみ。ソファに腰かけ、彼は手近にあった折り畳みナイフで封を切った。

 応接用の部屋はただでさえ狭い家の間取を大幅に消費する。お陰で残る小さな二部屋に寝室と食事場を寄せなければならない。それ故、客がいない時はこうし応接間で作業をする。普段狭い部屋の代守からするとこの時間が断トツに落ち着くのだ。

 駅から徒歩二十分ほど離れた、小学校近くの古びたマンション。その一室に、代守狩氏は住んでいた。その部屋は、彼の住み家であり仕事の事務所でもある。

 看板やポスターこそないが、ある業界では彼は割と有名人だったりもする。

 ある業界、とは。それは、平和に明るい太陽の下で暮らす一般的な生活とは真逆にある世界。即ち裏社会。

 代守狩氏という人間はその世界の中でも、必須と言って良い存在の一人だ。

 彼は、人の儚く尊い命をその手で散らすことによって、生きる。即ち、人を殺して金を得る。

 彼は殺し屋だ。

 と言っても、自ら進んで殺し屋になったわけではない。彼の超能力が暗殺向けであったわけでもないし彼に殺しの才能があったわけでもない。ただ、何となく人生を過ごしていたらこの仕事に流れ着いた、というだけである。

 別に代守自身この仕事に不満を感じたことはない。むしろこんな仕事を四、五年も続けていると、ある種のスリルや興奮さえ感じるようになる。それはトーナメントに勝ち進むボクシング選手の持つものにひどく似たものだ。人を殺せば殺すほど代守の中には更に大物を求める欲求が生まれてくる。

 元はタダ人だった彼をこの厳しい裏業界でトップ近くまでのし上げた理由がこれだ。彼はその溢れ出る欲に忠実に従った。心の思うままにナイフを振るい、引き金を幾度となく引いた。時には起こる失敗を元に、思案し、改善し、さらに成長する。

 そうして彼は育ち、力を得、もはや裏社会に敵なしといった高みまで上り詰めた。実に、正真正銘のダークホースという名が相応しい人物だ。

 今や大物の標的は十人に十人の割合で彼に依頼が来る。その標的の中には、ある一国の大統領だったり、ある地方一帯を牛耳るギャングのボスであったり、ある時などは国内すべての貴族が対象だったりもする。

 誰もが無茶だと感じる注文ばかりだが、代守は全てをやってのける。もはや彼に殺せぬ有名人など存在しない、と言っても過言ではない。

 だが、それだけ数多く大物を葬ってきた人物である故に。今回の依頼には覚えず驚愕の色を見せてしまった。

「十六歳の……一介の高校生…?」

 瞬間、怒りが全身を駆け巡る。何たる侮辱だ、と。これまで多くの人間、それも実行困難と言われた者達ばかりを手掛けてきた彼のプライドが、爆発寸前までに一気に膨れ上がる。

 しかし資料を二枚三枚と読み進める内に、その怒りはいつしか平穏に、それどころか喜びにさえ変化した。

「…………ッッッッッ!」

 こみ上げる笑いを押し殺し、代守はいいでしょう、いいでしょう、と何度も頷く。

 読み終えた資料に火をつけ完全に灰へと化すと、彼はすぐに支度へかかる。着ていた私服からスーツへと切り替え、内ポケットに折り畳みのナイフを一本、小さな手のひらサイズの箱を数個それぞれ収納する。

 支度を整えると、俄然気が入ったように再び押し殺した声でクックと笑う。

「……『表』の方は、まだ()ったことがありませんからねぇ…」

 立ち上がり、靴を履いてドアに手をかける。ガチャリ、という音と共に彼は外へ踏み出した。

 その顔は。

 まさに死刑執行前の執行人のそれによく似た笑みだった。

 

 

 

 

「なあなあ。しりとりしねぇ?」

 ドライブ開始からすでに二時間半。未だに茜色に染まる空を眺めながら、倉斗から提案が発せられる。車が発進して以来保たれていた沈黙が瞬時に緩んだ。氷の上にアツアツのお湯を垂らしたような感覚だ。

 殻井は眠ってしまったか横になったままピクリとも動かないが、運転を続ける天賀谷は元気に答えた。

「あ、しりとりする? ごめんね倉斗君。何にもないから退屈だったよね。私、結構強いよ。兜兜君? 起きてるでしょ? 一緒にやらない?」

 言われて目が覚めたのか元からなのかは定かではないが、就寝の姿勢のまま殻井が応答する。

「あァ? しりとりィ? いつのガキの遊びだよそりゃ。やんねェーよ」

「あ、やるんだ。よかったー。じゃあ私からね? ここは定番の……りんご!」

「………一回だけだァ」

 お姉さんパワーを存分に発揮して殻井の言い分を捻じ曲げると、天賀谷は勝手に始めてしまった。病室で聞いた話だと倉斗十六、殻井もそれに同じ、天賀谷だけ十七だったはずだが、一つ歳が違うだけでここまで差が出るのか、と倉斗は感心すると共に僅かな恐怖さえ覚える。

 これからこちらの世界で暮らすにあたり、彼彼女らと共に過ごすなら尻に敷かれる気しかしない。

「あ。じゃあ次俺で。ご、ご……ゴジ〇!」

 思わず答え、次の瞬間はっと後悔する。〇ジラは倉斗のいた世界、つまり『表』の世界の超有名怪獣だ。裏世界にも同じ存在があるとは考えにくい。というか大抵のファンタジー系マンガだと異世界に怪獣映画などないだろう。

 慌てて訂正を掛けようとするがそれよりも早く殻井が口を開いた。

「ゴ〇ラだァ? やけにマイナーなモン出すじゃねェか。ンじゃ俺はラバーストレッジャだ」

「……は?」

 何の抵抗もなくゲームを続行する殻井に思わず5秒は絶句してしまった。

「……え、…ゴジ〇知ってんの?」

「何言ってンだ。テメェが言ったんだろォが」

「いや、……そうなんだけど……え、マジで?」

「何度もうっせェなァ。あのオレンジのバカ派手な道着着た有名キャラだろォが。背中に丸印でゴって描いたァ」

 殻井は鬱陶しそうに解説するが、倉斗からすると驚きでしかない。まさかこの世界にも〇ジラがいたとは……。それも少し違った趣旨らしいが。

「え? ゴジ〇って大怪獣じゃねぇの?」

「倉斗君のとこではそうなの?」

 思わず口から出た疑問に天賀谷が答える。

「私たちの世界では、マンガの主人公。子供のころから武芸を究めて、大きくなったら七つ集めると願いが叶うって言われているモン〇ターボールを探しに行くんだよ。ボールの色は真ん中で別れてて、上が赤でしたが白」

「……待った。なんか色々混ざってるから。情報量多すぎで頭パリピーになる」

「ちなみに題名はゴジ〇の奇妙な……」

「OKストップ。この話は終わりにしよう。そのうちスタ〇ドとか使いそうになってくるから。それから後々デュ〇ルスタンバイとか言い始めてマジでワケ分かんなくなるヤツだろこれ。つーか何で二人とも二次元作品に詳しいワケ。この世界オタクしかいねぇの?」

 とりあえず、ゴジ〇さんの大怪獣イメージがつぶれない内に必殺早回しツッコミで話を切り上げる。このまま聞いていると本当に脳内イメージが崩れ去る気しかしない。天賀谷がすごーい、展開全部当たってるよ、とかなんとか言っている気がするが気にしないでおこう。というか気にしたら負けだ。

 気を取り直してしりとりを…つーか何だよラバーストレッジャって、と倉斗が思案を進めようとした時。不意に横合いから声が掛かった。

「オイ。あそこのジジイ、くたばる気か?」

 いつの間にやら身体を起こした殻井がいやに真剣な声で言う。その視線は車の進行方向だ。

 殻井の目線を追うようにして倉斗もフロントガラス越しの外の景色を注視する。すると確かに。あと三、四十秒後にはこの車が通りすぎるであろう場所に何か人影が見える。高速移動する鉄の塊が行き来するこの高速道路上に、よく単身で立てるものだ。

 はっきりと見えたのは発見から数秒後。更に近づき、やっと人物像が見える。

 男だ。歳は若くも老いてもいない二十から三十、といったところか。そこそこの長身だ。黒いスーツで装備を整えている。伸びる黒い足は長くモデルを思わせた。(おとこ)前、というよりは男前、といった全体として爽やかな雰囲気を纏う人物だ。その顔は悪魔か何かのように気味悪く微笑んでいる。

「自殺志願なら()いてやってもいいけどよォ……」

「……いやダメだろ」

「何か違ェなァ。なんつーか……空気がヤバいッつーか……ピリッと来るんだァ」

 そうこうしている内に車は着々と前進する。残り百メートルといったところか。

「なーンかなァ……」

 九十メートル。

「どっかで見たツラしてンだよなァ……」

 八十メートル。

「雑誌か? いや、違ェな……そうだ何かの資料だったなァ……」

 七十メートル。

「兜兜君、リストじゃない?」

 六十メートル。

「そうか、リストだァ。確か……」

 五十メートル。

「クッソ、あとちょいまでキテんだがなァ……」

 四十メートル。

「どうでもいいけど早くしてくんね⁉ マジでぶつかるって!」

 三十メートル。

「……そうだァ…そうか! 代守ってヤロォだ!」

 二十メートル。

「だが何で……そうか…倉斗、テメェだ!」

 殻井は全て納得したような顔になると、ドアに足をかけ、そのまま足先に力を込める。瞬間、その華奢とも呼べる細い足が見た目からは想像できない強大な力で車のドアを吹っ飛ばす。

「天ァ! テメェも降りろ!」

 残り十メートル。

 そのまま流れるような動きで、彼は倉斗をひっつかみそのまま車外へ飛び出る。あわせて天賀谷も運転席から必死で飛び出る。三人はそのまま地面をしばらく転がった。全くついていけない状況だったが、転がる振動の痛さでそれどころではない。全身がアスファルトで擦れる感覚に、顔をしかめる。

 残り距離ゼロ。

 慣性に従い進み続けた大質量の鉄が男に衝突した――――

 ように見えた瞬間、大質量の炎が瞬時に車を覆い、瞬殺的なスピードで車を跡形もなく蒸発させた。

 




 皆さんこんにちは。
 ウェーヴ・カンです。
 今回は第三話、ということで投稿させていただきましたが、いかがだったでしょうか。
 今までかなり低速気味だったため、今回は大きく(話を)進めさせていただきました。
 登場人物が現時点で、一話に一人ほどのペースで出現しているため混乱する方も多いと思いますが、どうぞこれからもユザオタを末永くお願いいたします。
 ところで、一つお詫びしなければならないことがあります。
 前回のあとがきに、今話で殻井兜兜が活躍予定と書きましたが……まあ見ての(読んでの?)通りであります。ということで、第四話でかなり殻井が活躍する予定にさせていただきます。本当に申し訳ございません。
 さて、短いですがそろそろお時間です。
 また四話でお会いしましょう。
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