ユーザーはオタク スキルを実行します   作:ウェーヴ・カン

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代守狩氏
 年齢:二十七歳
 所属:自営業(何でも屋を営業。基本的には手伝い程度の仕事だが、時にはその手を
    赤く染めることも……)
 趣味:写真を撮るのが好きで、時々町にカメラを持って出かける
 能力:『憑依像(ミミック・オーダー)
     ???


第5話

 暗殺者は焦っていた。

(私としたことが……完全に見くびっていた。あの護衛の二人、ただモノではない。戦闘慣れした熟練の戦士だ。特に、目つきの悪い男の方。あの女は大した障害にもならないだろう……が、あの男は違う。私の殺気にも押しつぶされず、俊敏な動きを見せた。次に奴と対峙した時は勝てるかどうか不安定すぎる。今は退き、応援を呼んだ方が良い……)

 一度離れた右手はどうにか能力でくっつけたが、未だに鋭い痛みをじんじんと感じる。一人では勝てないと悟った彼は、逃げの一手だった。とにかく逃げる。ターゲットは完全に把握した。情報を流せば、必ずや別の者が襲うだろう。

 瞬時に攻めから逃げに転換したその判断力は、彼の長年の経験による賜物だ。時には逃げを取ることは非常に重要だ。

 

 だが、彼の予測は甘かった。敵の視界から離れたなら大丈夫だと安心しきっていた。その目つきの悪い男の戦闘力は、彼の予想をはるかに上回る者だったのだ。

 どこからともなく、ヒューッと風を切るような鋭い音が聞こえたかと思うと、次の瞬間暗殺者の数メートル先で地面が轟音と共に爆ぜる。発された衝撃で、暗殺者は軽く数メートルを飛行した。空を舞った暗殺者は何とか受け身を取って着地する。

 地面に巨大なクレーターを作ったソイツは、しゃがみの姿勢からゆっくりと立ち上がると、こちらを睨みつける。

 その眼は殺意に溢れており、たとえ熟年の暗殺者でも震え上がるようなもので――――その存在は、まさしく悪魔のように見えた。

 

 

 

「よォ、おっさん。随分遠くまで逃げたじゃねェか」

 飛び散ったアスファルトの破片を足先でどかしながら、殻井は悠々と代守へ近づく。そしてお互いの拳が届かない、しかし一歩踏み入れば攻撃できる最良の間合いで彼は制止する。

「……随分お早い到着でしたね。感知系の能力で?」

 正面からでは勝てないことを知っている代守は、防御のみに神経を集中させる。

「ハッ! テメェに教えると思ってんのか? そういうテメェも随分と逃げ特化の能力じゃねェか」

「良ければ逃げ特化ということで、逃がしていただいてもよろしいのですが……」

「こンな状況で面白い冗談だな」

「……ダメですか」

 口を動かしながら代守の頭はフル回転する。正面切っては勝てない相手に勝つためには……奇襲だ。対峙して以降話を続けているのは装備を整えるための時間稼ぎ。

 そして、装備は整った。後はいいタイミングで仕掛けるのみ――――

「ところでよォ……」

「? 何でしょうか」

 適当に話を合わせ代守は敵の隙を探る。さすがに奇襲を掛けられては一たまりもないだろう。心の中で彼はにやりとほくそ笑む。だが次の瞬間、その余裕は木っ端みじんに砕け散る。

 

「そっちの準備は終わったか? さっさと始めよォぜ」

 

 一瞬にして代守の心がすっと冷え切る。

 恐怖。初めに感じたのはそれだった。長年暗殺を仕事としてきた自分の手の内がまだ十代そこらの子供に見破られるとは――――

 しかし、見破られたとは言っても熟練の殺し屋は年季が違う。常人なら気力が失せ、戦おうとすらしないであろう状況。この場において未だ闘志を失わず戦闘の選択を取ったのはさすがというべきか。

 代守はすぐさま隠していた武器――――大量の点火済みマッチ――――を殻井へ向かってばらまく。

「ンな玩具(おもちゃ)みてェなモンで俺を殺せッかよォ!」

 しかし当然、殻井も常人を超越する身。拳を振るい火炎を突破、その先にいる代守へ渾身の一撃を放つ。

 

 ――――が、その一撃は空を切った。清々しいまでに、繰り出した拳がスカリと空振る。

 

「⁉」

 一瞬の焦り。代守が突如消えたことで、目標を見失ったことで獰猛な獣はしばし硬直する。

 それはたった何十分の一秒のことだ。体感では迷ったかどうかさえ感じないほどの一瞬。しかしその一瞬が殻井の行動、反応を遅らせた。

 どこからともなく現れた一本のナイフが殻井の左胸に突き刺さる。

「なァッ⁉」

 そしてもう一度硬直。今度は先手を入れられたことへの驚きで。その隙に更にもう一本、右太腿にヒット。続いて三本目も繰り出されるが、本来の俊敏さを取り戻した殻井はどうにか回避。

 素早く後退し、一定の距離を取る。周囲を見渡すが、代守の姿は全く見当たらない。

(野郎……どこに行きやがった……)

 毒づきながらナイフを抜き取る。鋭い痛みが走るがこれしきのこと、慣れたものだ。

 五感を研ぎ澄まし気配を探るが、全く掴めない。本当に存在するのかと思うほどに、一切の気配を感じない。

(炎が出された時点で奴が能力を使うのはわかっていた……が、ナイフが飛んできたのは炎の中からじゃねェ。炎は俺の拳圧で吹き飛ばしたはずだ。となると……野郎の能力は単純な火炎操作じゃねェ、か)

 初対面時、そして殻井の能力で動きを探った時も炎らしきものに変化した。てっきり炎使いだと思っていたのだが……。

(炎を使うだけじゃねェ……いや、むしろ本来の能力の応用で炎を操っていた。そう考えるのが妥当だ)

 しばし思考を進めるが、不思議なことに攻撃が来ない。先ほどまではたて続けに攻撃が来たというのに……

(となると、今奴は攻撃しないんじゃねェ。()()()()んだ。能力の撃ち止めか、それとも今動けば位置が割れるか……)

 そこまで考えると、彼は自身の携帯電話を布の上からそっと撫でる。

(俺の『忘却の民(ミラーズ・レーテ)』は、あらゆる『記録』や『記憶』を探る能力。これを使えば奴を探し出すのは容易だ。……が、この能力は如何せんバカみてェなエネルギーを喰う。連発で使えば速攻で体力ゼロだ。連発するならインターバルはおよそ十五分……あと十分程度待てばいい話だが……)

 恐らく敵に倉斗の顔は覚えられているだろう。この待ち時間の間に代守に逃げられ、情報を流される。それは完全に殻井たち側の敗北を意味する。ここでじっと待っているわけにはいかない。

「クッソ、倉斗の野郎……後でシバいてやッから覚悟しとけよ」

 そう言うと、インターバルを過ぎていないにも関わらず殻井はスマートフォンを取り出し、地面に押し当てる。

「『忘却の民(ミラーズ・レーテ)』ッ!」

 殻井の全身からごっそりと力が抜けるのを感じる代わりに、溢れだした光が周囲を覆いつくす。

 その光は、アスファルトのあらゆる痕跡、記録を探る。表面上に見えるひび割れから、殻井と代守が戦闘中に動いた時にかかった圧力まで、全ての『体験』を殻井に伝える。常人では脳が破裂するような恐ろしい情報量を、殻井は人並み外れた処理能力で仕分けていく。

(表面にうっすら三センチのひび割れ、数日前に交通事故が起こった時のガラスの破片がまだ刺さっている、誰かの立ちション跡……。クソッ! どうでもいい情報しかねェ!)

 敵の能力の痕跡を見つけられず慌てた矢先、ついにその記録にたどり着く。

(能力使用後の記録! 見つけたぜ、代守ィ! ネタバレりゃ、袋の鼠だろォ!)

 心の内でほくそ笑むと、殻井は情報を読み取り始める。

 

 ………

 ………………

 

「なるほどなァ……」

 情報の処理を終えた殻井は納得顔で腰を上げる。

「ネタが上がったンなら対策は簡単だァ。ンじゃ早速……」

 そう言うと殻井は片足を振り上げ――――

「――――ハッ!」

 振り下ろした。

 ただ足を振り上げ、下ろす。傍目から見ると意味の分からない奇妙な行動。しかし次の瞬間にその意図が発覚する。

 殻井を中心に大きく蜘蛛の巣上の亀裂がピキりと地面に刻まれる。そして亀裂に沿って地面は崩壊、アスファルトの破片が落下していく。

 殻井自身も同様に落下しながら誰かに言う風でもなく呟く。

「正直ビビったぜ。出て来た情報が『アスファルトが代守を喰った』って情報だったからなァ。だが、今わかったぜ。代守、テメェの能力は――――」

 もう一段下の道路に瓦礫と共に着地し、ふと上を見上げる。

「物体に命を吹き込む、いや意識ッつったほうがいいか……」

 大量の瓦礫と共に落ちて来たのは殻井だけではない。遅れてもう一人、代守が殻井の視線の先で着地する。

「いや、私も驚きましたよ。まさか私の能力を見破られるなど、これまでに一度たりとてありませんでしたからね」

 驚いたと言いながらも彼には一切の焦りが見られない。殻井が眉をひそめると、代守は笑って答える。

「いえ、私の能力が晒されたと言いましても……貴方、もうそろそろ撃ち止めでしょう?」

「! ……はッ。どうだかね」

 表面上では力が有り余っているように振舞うが、殻井は内心焦っていた。

 この世界の人間には能力に対する耐性というものが存在する。

 耐性の弱い者ならば他の能力の影響を受けやすい。それは、『能力』という存在を身体が気軽に受け付けるということだ。つまり自身の能力に適合しやすく、能力を限界に限りなく近い威力を引き出すことが出来る。

 一方、耐性の強い者は他の能力の影響を受けにくい。代わりに自身の能力の本当の力を引き出すことが出来ない。故に、発動する時に耐性の弱い者よりも体力が消費されやすいのだ。

(俺ァ、耐性ガッチガチだからなァ……使えてあと二発、いや下手したら一発で撃ち止めだ。つまりあと一手。あと一手で野郎を仕留めねェと詰みってこッたァ。……ンでもう一個問題があるとすりゃァ……)

 そこで殻井は自身のポケットを布の上から手で抑える。そこから伝わってくる感触は、何かザラザラとした大量の粒のようなもの。

(さっきの能力使用でスマホがぶっ壊れッちまった。さすがに連発はきつかったか……。俺の『忘却の民(ミラーズ・レーテ)』は記録が出来るモノを媒介にする。スマホのストックはゼロだ。どっかに記録できるモンは――――)

 苦しい状況の中必死に打開策を考えるが、どうにも良い策が思いつかない。

 そして――――

「さて、そろそろ幕引きとしましょうか」

 戦場では敵がのんびりと待ってくれているわけがない。

 代守が動く。

 先ほどと同じようにナイフを投擲(とうてき)。殻井がナイフに気を取られている隙に間合いを瞬時に詰める。そしてまたもや取り出したナイフを喉元に突き刺さんとする。

 投げられたナイフを相手にしていた殻井は対応できず、どうにか身を捻るがよけきれずに刃物が頬に喰い込む。

 しかし殻井は痛がることもせず、逆にナイフを持つ代守の手を固定しそのまま代守の頭を一発、固く握った拳で殴る。その壮絶な衝撃で代守は後方に大きく吹っ飛ぶ。

 殻井は飛行する代守を追いかけるようにして追撃を試みるが、地面に触れた瞬間代守が忽然と消える。

(野郎ッ! また地面に……!)

 代守は地中を移動し殻井の死角からナイフや炎の投擲で攻撃するが、殻井も持ち前の敏感な感覚で代守の攻撃を避けて反撃を試みる。

 そうしてしばらく、一つの道路上で壮絶な攻防戦が幕を開ける。

 しかし傍目から見ても勝負は明らかだった。耐性が弱めの代守は能力をいくら使っても体力が減ることはない。しかし殻井は消費が激しい。故に能力をそう気軽に使えない。代守の超能力と己の身体能力を混ぜ合わせた戦い方に対し、殻井は己の身一つで戦っている状態だ。超能力などという不可思議な力に人間が身一つで勝てるわけがない。

 そして、ついにその時は来た。

 代守の放ったナイフが殻井の右脇腹に突き刺さる。

「がッ……!」

 よろけて体勢の崩れた殻井を見、隙ありとばかりに代守が攻めたてる。代守の拳とナイフの斬撃が殻井を襲い、一瞬のうちに殻井は瀕死に追い込まれる。

 倒れてもはや満身創痍の殻井に、代守はゆっくりと近づく。殻井は諦めたのか立ち上がろうとも抵抗しようともしない。

 ナイフを手の中でクルクルと回しながら代守は薄く笑って、

「貴方もなかなかの手練れでしたが、まだまだ未熟な少年でしたね。これが年季の違いというものですよ。とは言いましても、貴方はⅡ群トップ。立派に戦績を収めて来た人間です。せめて礼儀として楽に終わらせてあげますよ」

 そう言うと代守はナイフを振り上げ――――

「……た……と、か」

「? 今なんと?」

 代守はナイフを振り下ろす手を止め、訊き返す。

 殻井は相変わらず苦し気に小さな声で、しかしはっきりと言葉を紡ぐ。

「俺が……ただ、やられる……ためだけ……に、ここに倒れていると……思った、のかと……言ったんだ……」

「?? 貴方は何を(おっしゃ)っているのでしょうか。貴方はもう満身創痍。指一本動かすこともままならない。頼みの綱である能力も携帯電話がなく、使えない。そんな貴方に何が出来ると言うので――――」

「俺の……」

 代守の言葉を遮るように殻井が言う。

「俺の能力……『忘却の民(ミラーズ・レーテ)』は記録の読み取り、および再現だ。そしてそれを使うためには媒介……物事を記録するモノが必要だ」

「ですから貴方はそのような物品をもう何一つ持っていないのですよ。それで何が出来ると言う――――」

「この世に記録するモノは様々に存在する。レコーダー、ビデオカメラ、携帯電話。パソコン、紙でさえも俺は媒介として使用できる。だが、そんなものがなくとも俺たちは最も身近なところにそうしたモノを持っている。この世の人間誰もが持っている」

「そんなものどこに――――」

「そろそろだぜ、代守。死ぬのは俺じゃねェ。死ぬのはテメェだ」

 殻井の殺意剥き出しの眼に、代守はバカにしたように笑うと、ナイフを持ち直す。

「そこまで負け惜しみを言うような人間だとは思っていませんでしたよ。もう妄想は十分です。さて、もう終わりにしましょう」

 改めて、といった風に代守は一礼すると、代守は今度こそナイフを振り下ろす――――

 

 しかしその一撃(トドメ)が殻井に達することはなかった。

 

 代守はナイフを振り下ろそうとする姿勢のまま静止していた。その目は生きていることを疑うほど大きく見開かれている。

 一瞬の沈黙。すべての時が止まったような静寂が流れる。

 そして次の瞬間、代守の全身から炎が噴き出しその身を覆いつくす。人の肉が焼ける嫌な臭いが辺りを漂う。

「……残念だったなァ」

 ゴウゴウと燃え盛る炎を見つめながら、殻井は既に命が消え去った代守に呟く。

「脳。それは俺たちの最も身近な記録手段だ。脳には全ての体験した記録が詰まっている。俺が能力を使ったら媒介にしたモノはヤベェ負荷がかかる。機械の方が記録手段としてはハイスペックだから数回は()つが人間の脳なんざ一瞬で溶けちまうだろォよ。炎はテメェが車溶かした時のンを借りたぜ。ま、耐性の関係上発動が遅くなってたから中々の賭けだったがなァ」

 殻井は全身の痛みを抑え込み、無理矢理に立ち上がる。

「さァて、天と倉斗ンとこに戻んねェとなァ……」

 などとぼやき、殻井は再び地面に蜘蛛の巣を描き、仲間の元へ戻る。

 

 二人のとある男の壮絶な戦いが、大量のひび割れとともに、新たな『記録』としてその場に刻まれた。

 




代守狩氏
 能力:『憑依像(ミミック・オーダー)
    あらゆる物体(生物以外)に意識を吹き込む能力。
    意識を吹き込んだ物体に命令し、意のままにすることが出来る。
    
    (参考)
    作中地面に隠れていたのは地面に意識を与え、『自分を一時体内に(かくま)え』と命令した。
    右手をくっつけたのは、自身の皮膚に接合の命令を下した。



みなさんどうもこんにちは。
ウェーヴ・カンです。
前回のあとがきでは『一週間ペースを目標に……』などとぬかしておりましたが……もう四週目ぐらいですね……
申し訳ございません……。本当に書くのが遅くて遅くて……。発想がなくてなくて……。テレビゲームをしすぎてしすぎて……。
え? 絶対最後のが原因でしょって? さ、さぁ~? 何の話か作者にはさぱ~リ。(汗)

と、とにかく次の投稿は一週間後の予定です。(はいフラグ~なんて思ったそこの君! ……その通りだよ(泣))
可能な限り作者も全力を尽くしますので、相変わらず更新遅い上にグダグダ文章&ストーりーでございますがどうか今後ともお付き合い、よろしくお願いします
それでは今回はこの辺で……また次にお会いしましょう
さようなら!
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