もしかすると、another sideを書くかもしれないです。
後ろから夜が迫る。まだ残る昼の暑さで汗がベタついて気持ちが悪い。蝉の鳴き声がそこらかしこらから聴こえてやけに苛立つ。
今まで見ようとしなかった自分とそれを咎めて右頬を打った幼馴染のこと。けれどおかげで目が覚めた。
息が上がって苦しくて、意識も少し曖昧で、それでも一刻も早く会いたいと脚は止まることを覚えようとせず、赴くままに走る。
美竹蘭は走る。
まだ夕日は沈んでいない。
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勢いよく病室の扉が開かれる。
青葉モカはその病室から飛び出して走り出す。パタパタとスリッパが不器用な音を立てて、薄暗くなった病院の廊下に響く。
「蘭っ、蘭…!!」
羽沢つぐみは言った。死なないでと。また一緒にバンドがしたいと。その想いを叶えるには方法は1つしかない。そうだ、いつ青葉モカが死んでいいと許されたことがあっただろうか。誰もが彼女の生を望んだ。なら、その望みに応えて足掻くのも許してくれるだろう。いや、誰がどう言おうが関係ない。
モカは建前を探すのをやめた。こんな状況になるまで想いを伝えられない自分を悔いた。だからこそ走った。
思考は乱雑、呼吸は上がり、脚は震えている。窓から差し込む夕日だけがモカを支えた。
「早く、そうでなきゃ…」
夕日が落ちてしまう。そうなる前に伝えたかった。
吐き気が不意に襲う。モカは我慢した。壁に寄りかかって無様に走る。
「うぐっ…」
奥歯を噛みしめる。無様にみっともなくそれでも想い人のために走り続ける。病院の正面玄関まで出れば蘭に会える気がした。憶測でもない確信で。なぜかモカにはその自信があった。
そして、もしここで諦めれば、これが最後の瞬間になるとも確信していた。
「あたし、つぐるから、今までで一番つぐってるから…」
エレベーターを使って一回に降り、何度もバタンと音を立てながら倒れては立ち上がって進んだ。脚と手は痣だらけ。
命からがら外へと飛び出す。嫌になるような熱気だ。それなのに夜はもう正面から近付いていた。
人影が見えた。走馬灯かもしれないと目を擦っても消えない。
「モカ!!」
「蘭…」
涙が溢れた。大粒の涙が焼けたアスファルトにシミを作ってすぐ消えた。
「バカ!何で外でてんの!?」
「蘭に会いたかったから」
「そうだとしても!安静にしとかなきゃ!」
「ねぇ、蘭」
夕日に照らされて出来上がった2人の影は重なった。ジリジリと空気も焼ける中、長く、長く、その命を確かめるように重なり合った。
「モカ…ごめん、あたし、怖かった」
「ううん、それはあたしもだよ。怖かったから蘭に話せなかった」
「そっか、二人とも臆病だったんだ」
「そうだね」
不意に笑いが溢れた。こんな時まで考えることは一緒なんだと、なんだかバカらしくなって、笑い合った。
モカが蘭の手を握る。蘭は気付いて握り返す。
「蘭、好きだよ。小さい頃からずっと。お花みたいに可愛いけど、いつだってあたしを、あたし達を引っ張ってくれてる優しい蘭が好き」
「うん、あたしも、モカが好きだよ。こんなになるまで言えなくてごめん」
蘭は嬉しそうに、下を向いて泣いた。押し寄せる複雑な感情に顔を歪める姿を見せたくなかったから。
モカは蘭の背中をさする。優しく、微笑みながら。
「違うよ、あたし達はこうでもならなくちゃ想いを伝えられなかった。ありがとね」
珍しく、ヒグラシが鳴いていた。
モカは咳き込む。
「白い…花弁?」
蘭が呟いた。
「えっ!嫌だっ!モカ!!」
焦ってモカの顔を見る。花を吐いたのだ。余命もあまりなかった。だから土壇場になってこうして想いを伝えて、これからを歩もうとしたのに。それが無駄に消えたのかもしれないと。泣きそうな顔でモカを見つめた。
「えへへ〜治ったよ」
「白銀の花はね、死ぬ直前に吐く花、もしくはね」
「恋が叶ったよって教えてくれるお花なんだよ」
いつも通りに、そのマイペースな笑顔で笑って見せた。その笑顔を見て蘭は泣きじゃくった。
「ただいま、蘭。大好きだよ」
夕日が沈んだ。
夕日ってAfterglowのみんなに試練を運んでくるものだっていう妄想があって。恋愛っていうのはどう転ぼうが何かを代償にします。モカは自身の健康を、蘭は心の平穏を損ないました。そうでもしなければ伝えられなかった。
そして、恋は叶いました。