色々と心配だなあ。
ボス攻略を終えたというのに誰一人と喜び讃える事はなく、事態の顛末にただ沈黙が続いていた。
フルレイドにも関わらず、攻略終盤に割って入っていた聖竜連合の存在。
彼らは、ラストアタックボーナスという文字通り止めを刺した者に贈られるレアアイテムや経験値とコルを根こそぎ奪う為の凶行に走ったのだ。
しかし彼らの目論見は誤算に終わる事となる、今回の攻略において血盟騎士団のアスナが止めの刺した所を私は確かに目視していた。
なのでラストアタックボーナスはアスナに、経験値とコルはレイドを組んだメンバーに振り分けられていて聖竜連合は犠牲者を出した、骨折り損となっている。
だがここで攻略メンバーはここで良しとするわけはない、今後の攻略に大きな影響を与えかねないこの行為をどのようにして落としどころを見つけるのかがポイントとなっている・・・。
簡単に糾弾や、怒号を発することはできず、皆沈黙を保ってしまっていた。
アスナは聖竜連合メンバーに藍色の髪をした軽装の曲刀使いに歩み寄った、その凛々しい顔には怒りよりも困惑の表情である。彼女はどのような言葉を聖竜連合に投げかけるのか、一同は固唾を飲んで見守った。アスナのギルド内パーティのシプトのみが彼女の横に立ち、事によってはアスナの身を守ろうと盾の役割を選んだ。
「リンドさん、以前より聖竜連合はレアアイテムの為なら並々ならない行動を起こしていましたが攻略おいて有益になると思い黙認しているところはありました。
しかしながら今回の件は今までとは常軌を脱しています。説明をしていたけませんか?」
私はリンドと呼ばれている男は知っている。初期からの攻略メンバーで一層の攻略の時に犠牲となったディアベルの意思を継いで現在の聖竜連合を組織したリーダーだ。
当初はアインクラッド解放軍と共に2大ギルドの統率の元で攻略は進められていた。
しかしながら25層における解放軍の多大な犠牲により失脚、代わりに台頭する場面で新興ギルドである血盟騎士団統率の元で25層が攻略された為、次点ギルドに甘んじてしまった。
その後は少数ながらも他のギルドとの連携を保ち、確実な攻略を指示するヒースクリフのリーダーとしての資質が名実ともに躍進して聖竜連合との差は決定的となった。
そのコンプレックスが彼らを変えてしまったと思われるが、それだけでは府に落ちない点が多数ある。
アスナに対するリンドの表情はさらに暗く閉ざされていた、いまだに曲刀を右手に持ったまま俯いているがただ自身のしでかした事態におびえているわけではない・・・。その先の私には見えない何かにおびえているように感じた。
今はこの状況をさらに見守るためにアスナとの会話に集中を始めた。
「リンドさん・・・。」アスナは沈黙を続けるリンドに返答を促すよう再度呼びかけた、いまだにリンドは俯き首を上げることはなかった。
長い沈黙に隣にいたシヴァタがリンドを助けるように代弁を始めた。それは今後の攻略において事態を明暗させるものとなった。
「・・・、俺たち聖竜連合はここで解散とする。
この度の責はリンドと俺が持ち、今までギルドとして運営していたアイテムやコルを攻略組に委譲するので俺たち以外のメンバーには追及しないでくれ。・・・俺たちを監獄にいれてくれ。」
「!!」アスナは口を塞いで驚愕した。それは一同にも言える事だ。
あの聖竜連合がこれから攻略組が行うであろう予想される制裁以上の提案を自身で発言し、おそらく責任追及される作戦の首謀者である二人は自ら黒鉄宮の監獄に投獄することを望んだからだ。
黒鉄宮は現在解放軍の支配下にある。監獄エリアに投獄、または転移された者は軍の尋問を受けその罪の内容から相応の罰を与える。
しかし彼らは監獄に入れるほどの罰ではない。この作戦が功を奏したとしても、ある賠償とすれば利益を得たコルやアイテムの分配要求程度であり、監獄に入れる内容ではないのだ。
監獄に入れる内容は、コルやアイテムでは賠償できない物・・・。つまりプレイヤーの命を奪う行為に当たる事で投獄を行うのである。
「少し、いいかな?」ヒースクリフは絶句していた攻略組を余所にシヴァタに語り掛けた。
彼のその十分な声量は全員の頭の回転を再び始めさせる物となった。
「先ほど、このエリアに転移してきた光・・・。あれは回廊結晶だね、情報によるとあの結晶は手に入れられない貴重なアイテムで血盟騎士団もいまだに一つも入手していない。どこで手に入れたのかお聞きしたい。」
戦闘中にヒースクリフが口にしていたアイテムを話題にしてきた、彼らしくないその言動に私は違和感を覚える。
なぜこのタイミングでそのような事を聞くのか、話題の流れを一気に変えてしまっては改めて聖竜連合の今後の追及がしづらくなる。彼は攻略以外の事には積極的な行動がないとは言え、聖竜連合の霧散は今後の攻略において大きく後進してしまう事になる。なのになぜ・・・?
「それに答える義務はない、・・・ギルドの資産は監獄に入ってから管財人を血盟騎士団に伺ってもらう。反論がないようなら監獄に行かせてもらう。」リンドとシヴァタは腰のポーチから転移結晶を取り出した。
始まりの町から徒歩で黒鉄宮に赴くのだろう・・・。
「質問なら、ある。」私は二人を引き留めた、彼らは私に向き直り話を聞く体勢には入っているがひどくおびえているように感じた。
一体に何に・・・?正直質問など、明確な物はないがここで彼らを引き留めないとこの事態が闇に葬られてしまうだろう。
投獄されしまうと恐らく彼らはクリアされる日まで、黙秘を続ける事は明らかだ・・・。
罪らしき罪がないのに自ら投獄され続けるには黙秘を続けるしかない、だからと言って罪を詐称してPKをしましたなんて口が裂けても言うプレイヤーは普通はいないだろう・・・。
「聖竜連合は確かに強引な手法が多かったが差し引いても攻略における貢献度は高い。今後を改めてくれれば不問にできるレベルだと私は思う。
それに聖竜連合から一人犠牲者が出た、リンドさん達が駆けつけてくれなかったらおそらく疲弊した攻略メンバーだけなら数人犠牲者がでていたと思われるので十分罪は雪いでいる。
なのに、なぜ自身の罪をそこまで重くする?」
リンドもシヴァタも俯いてしまい言葉を紡ぎだす事はなかった・・・。
「君たちの目的は、ラストアタックボーナスでもコルや経験値の独占でもない。攻略組への阻害が目的だったのではないか?それもあんたの意思でもない何かによって動かさざるを得ない状況だったのではないか?」
その言葉に二人はがたがたと震えだし、その場に崩れた。言葉を発することもできず何かを伝えようとするが空気は震えない、温度がみるみる失うかごとく顔面が蒼白となっていった。
私はギルド情報収集部のエバンスさんを経由してレジェンドブレイブスのクフーリンに聖竜連合の動向を調査を依頼した。ボス戦の2時間程前の話だ・・・。
メッセージは迷宮区内ではやりとりできないので、ギルド共通ストレージを使用して定刻毎に内部を確認するように指示をしているエバンスが手紙を受け取り、クフーリンが聖竜連合のギルドホームへ赴き、聞き耳スキルと隠蔽スキルを駆使して内部の情報を読み取って再びエバンスさん経由で共通ストレージにその旨を手紙にしたため、私が確認する。
クフーリンがギルドホームを確認した所、内部は驚く状況となっていた。
二人の男が聖竜連合のギルドホームを占拠しているとのことだった。
聞き耳スキルを最大限に発揮し、内部の情報を聞き出していたがそのうち一人が驚くほどに感覚に鋭くて断念をさせられた。
多少の内容から攻略の妨害をすることは聞き取れたが、具体的にはどのような戦略を持って臨んでくるかは皆無であった。
リンドはその場に膝をつき、涙すらしていた。
「すまない、もううちでは収集できないところにまできてしまった・・・。
あのミズという男にギルドホームとプレイヤーを人質にとられ、回廊結晶で奇襲をかけろとだけ言われたんだ・・・。」
「なんて馬鹿なことを!なぜすぐに助けを求めなかったの?団長からもあれ程手を出さないように注意が回っていたでしょう?」アスナは冷ややかに答えた。
なぜリンドがミズに絡まれているのかすぐに察しがついた。
聖竜連合は次点に甘んじている状況の打破に、ヒースクリフでも手を焼くミズに打ち勝って最強のギルドにこだわったのだろう。ミズはおそらく返り討ちにしてさらにギルドホームまでおしかけた・・・。
確かにそうだ、私はあのミズという男は規格外の能力だ。確かにこの世界は基本ゲームなのでシステムアシストが現実では出来ない身体能力を発揮でき、ソードスキルが剣士としての必殺技となり、一般プレイヤーが英雄になりえる・・・。
しかし、この世界の頂点に立つにはシステム以外の能力が一流と凡庸を分ける事にまだ大多数が気づいていない。
いや、そこに気付いてからが一流への登竜門と言えるのではないか?と思っている。
同じソードスキルでも反復練習し、スキルに合わせて自身がアシストすれば攻撃にボーナスがつく。ソードスキルに頼らなくても自身の力量とシステムアシストを応用すれば通常攻撃でもソードスキルには劣るがそれに近いダメージを与えることもできる。
身体の反射神経や運動神経、平衡感覚は現実で培ったものが大いに影響する・・・。
何より、心に宿る意思がこれらとは違う力を与えているのではとまで考えてしまうようになった。
「申し訳ない!ここまできたらギルドを解散させてミズがホームに占拠していてもコルもアイテムを手に入らないとなれば全員開放するはずだ。俺を追ってきても牢獄の中なら手も出せない。」リンドはきっとここまでの間、自身のギルドメンバーの安全と攻略メンバーの妨害にならない方法を最大限に考えたのであろう。
結論があからさまな妨害ではなく、ボスの報酬を横取りし軋轢を生むことによって指示された内容に近づけようとした、苦し紛れの策だったのだろう・・・。
リュートはリンドに近づいて肩を叩く。
「ミズは弱者には興味がない男だ、それなのに君のギルドホームに押しかけて制圧するなんてことは少し行動が違うような気がする・・・。
ヒースクリフさんを襲った時と何か変化は無かったか?」
「・・・奴は今は二人組になっていた。もう一人はフードを被って顔は見えなかったが小柄な奴でまるで遊んでいるかのような口調なのに、悪意の塊のような印象だった。」
「団長・・・」アスナはヒースクリフに判断を委ねた。
無理もない、アスナは一度完膚なきまでミズに敗北をしている。
一度生まれてしまったその敗北感は簡単に払拭できるわけではない、スポーツでは再戦はあるが負ければ死がつきまとうこの世界ではアスナはミズと刃は交えるべきではない・・・。
あそらくアスナ自身も無意識で自覚している、と私は思った。
「ふむ、確かに黙認するわけにはいかないな。アクティベートを終え、準備が整い次第聖竜連合に向う。
リンド君、君や聖竜連合を簡単に瓦解させるわけにはいかない。君たちは私が保護するので同行願おう。」
血盟騎士団の攻略メンバーはリンドとシヴァタを始め、聖竜連合の面々と共に早々とボス部屋の奥、階段に向かい出した。
一団はその攻略よりも聖竜連合の崩壊に、危機感と焦燥を覚えるのであった。
「フレア君にクレア君私と今から聖竜連合のホームにいってくれるか?」
「はいっ!」二人は快諾する。
あそらく行ってもやつらはもういないだろう、ただこの目で現状は確認しておきたかった。
攻略組を脅かす存在は、直徒にも危険が及んでしまう・・・。
危険なオレンジ共を排除するのは私の役目にしよう。このギルドのトップ3は特に対人戦のスペシャリストだ、これ以上の適人はいない・・・。
「リュート!」クラインとエギルは俺たちの前に立ち塞がった。
「悪い、血盟騎士団はでかい組織だから出動にも時間がかかるだろう・・・。
やつらが逃げる前の足止めが必要だからな、行ってくるよ」
「馬鹿言ってんじゃねえよ!聖竜連合が束になってもその連中にいいようにされてんだぞ!
今は休養しろよ。」クラインが窘めた。
「無理はしないさ、ギルドホームは圏内だしな。
ここは大人らしく交渉と話術で、どんな様子か探りをいれてながら足止め作戦さ!心配するなよ。」
といい、エギルとクラインの一時パーティ解除を行った。
二人に見送られる中、三人はボス部屋を後にするのであった。
考えていた案をボツにして書き直しました 。入院中に色々と構想はあったのですがそのままだとせっかくのオリジナルのキャラの数人がお飾りになってしまうのでこのような状況になりました。
無理な所がありましたら、感想等いただきましたら幸いです。