入り口周辺から少しずつ範囲を広げては戦闘し回復を繰り返しあせらずマッピングしていく、普通のフィールドや迷宮区は一定のLVのMOBが出現するのである程度の目標LVで望めばまず問題はないのであろう。
しかしこの隠しダンジョンとも言えるこの場は入り口から離れればMOBのLVも一気に変わってしまうようだ。
さきほど隠蔽スキルでやり過ごしたがほぼ黒いカーソルだった、ちょっと慣れてきて油断すればやはり首がとんでしまうような場所と自覚する。
「たはー!」息も止めていたみたいで一気に肺に溜まった息を吐き出す。
「こりゃあうまくいけば追いつくぞ!、死ぬ可能性も高いけど・・・」と槍を杖代わりにして立ち上がる。
ようやく入り口から随分おくまでマッピングができた、まずこの辺りのMOBにもよほどの事がない限り遅れを取ることはないだろうが武器も防具も耐久値が優れない。
早めの撤退がいいだろう。
索敵スキルを使用し確認し帰り道に現在MOBはいない事が確認できた、さっさと戻ろう・・・。
隠蔽スキルを発動しゆっくりと移動する。
「ん・・・?」さきほどはMOBとの戦闘であまり気にしなかったが灯篭にひとつ点いていない事に気づいた。
この世界の迷宮はほとんど暗闇はなく、入っていくとある程度の視覚明度が設定されている。ここも例外なく一定距離で灯篭が点っており明度は問題がない。
ここの灯篭は火が点っておらずこの部分のみ視覚明度が下がっていた。灯篭に手をかざすとウインドーが発生し「ON」をすると隠し扉が開いていく・・・。
そっと半身を入れて内部を確認、外で拾っておいた石を投げ込んで確認する・・・、MOBはいない、内部にはトレジャーボックスが一つ。
「ん~、トラップかな?」しばらく考え込む・・・。私は歴代機種でプレイした膨大なRPG経験からスイッチによる隠し扉を発見した段階でご褒美がくれるパターンが多く、ここでトラップまであるなんて鬼畜な設定はないと思っている。
茅場君は王道タイプ!大丈夫!!と思いつつ、ポーションを飲み体力の全快を待ってから入り、周りの状況を確認しながらそっと開けてみる。
・・・とりあえずトラップの類はなく一振りの日本刀があった、タップすると固有種が表示される。
「兼定、これって曲刀スキルで使用できるのか?」ベータテスターの話を聞いていたが日本刀の話は出てこなかった。
正式版から使えるのか、それとも未知のスキルなのか?とりあえず今の私には使えるような代物ではないのでストレージにいれて帰り道に着く。
私が黒鉄宮に篭りレベリングを続けることすでに一ヶ月がたった、二週間でほぼ全てのマッピングが終わりこんなもの?と思っていた所で翌日に行ったときには新たな道が出来上がりその先には見たことのないMOBがいて再度レベリングを再開した。
十日ほどで進めるようになったり早い時は三日で進めるようになっていたりと不安定だ。
宿でプレイヤーが配布するニュースにて層の攻略毎に更新されて行っていること気づいた。
これに一体何の意味があるんだよ茅場君・・・苦笑いをしながら考えるが私も彼の前では凡人なんだろう、全く理解できなかった。
もうゲームが開始されて4ヶ月に経過している、現在攻略は7層に到達し最前線平均LVは26辺りと書いている。
とうとう私も最前線にいけるだけの力は手に入れた、先日”イビル・リッター”からドロップした新たな右腕”アトリーター”という名の槍を手に本日のレベリングへ赴く、防具はハルバードを素材に戻し鎧を作成した。
金属量が少ないから重量のある鎧はでないだろうと踏んでやってみた、比較的軽装備な鎧が出てきたのでちょっと安心したものだ。
しかし”アトリーター”とは・・・、おそらく英字にすると”a traitor”=反逆者となるのだ。
これは茅場君に対してなのか、プレイヤーに対するものなのか?どのみち他のプレイヤーにとって歓迎されないであろう私にはお似合いなのだろうな・・・。
相棒を見つめる、正に反逆者の名にふさわしくデザインは禍々しい。
槍身はほとんど黒でハルバードの様に穂先の横には斧の刃がある、しかしハルバードと違い刃は両刃ではなく片刃であり振りやすい。
何より強化回数が多くてしばらく戦力になりそうだ。
本日で最後のマッピングが終わったら最前線に参加して直徒を探そう、と思いつつ宿を後にした。
最後のマッピングにて苦戦していた、現在HPはイエローといわれる半減以下状態になっている・・・。
ここで発生している”ジュニアリザード”の二体に苦戦している、これで下位種なのかと悪態をついてしまう。
このリザードマンはソードスキルを使用し、時折自身の剣に毒属性を与えるであろうアイテムを使用するのだ。
おそらく剣に付帯する効果時間は短いがあれをくらうと2体の攻撃を捌きながらの解毒は不可能に近いだろう、回復もまともにできないのだから。
「はっ!はっ!はあ~!」一流の剣士は呼吸を読まれていけないと何かで聞いたがMOBなんかにそんな事は関係ないだろう、自分のペースを貫く為に一連の動作に集中力を溜めていく・・・。
「はっ!!」ソードスキルではなく通常動作での攻撃に入る、複数対戦術においてソードスキルの突撃は無謀に近い。
まずは通常攻撃から体勢を崩すことをここで学習した。どちらか一体に攻撃が入ればよい!横一文字に一回転するかのように振り払う、一体は回避したがもう一体は剣で受けた。
もう一体が回避中なのでその一体にソードスキルを仕掛ける、突きと切り払いの複合3連続ソードスキル”スイングバスター”。
ジュニアリザードは”スラント”の準備に入るが間合いは私にある、スラントが先に発動したがスラントは三歩程度のステップ後に単発の袈裟斬りだが、袈裟斬りの前にスイングバスターの一撃が先に入りスラントは発光が停止する。
そのままアシストと自身の意志力でアシストをフォローする、理屈はわからないがこの方がダメージにボーナス的な付加があるように思える。
やはり最後の一撃はクリティカル判定が入り破砕音と共に消え去った。
もう一体に目をやる、やはりアイテムを使用したようで気味の悪い粘着液が滴る直剣を振り上げて迫ってくる。
私は右手を操作し、ウインドーより短剣を出しそのまま投剣スキルに任せる為動作に入る。
思ったよりもスキルが立ち上がらない、右手の動作が初期モーションと感知してくれない。
位置を確認しなおしバックステップを行った時にモーションに入れて投げつけたジュニアリザードの右肩に命中し突撃が緩やかにとまるがソードスキルのスラントが止まらない、身を捻って回避を試みるが刀身が腰部に入る。
とたんに体に悪寒とも言える感覚が襲うが奥歯をかみ締めて踏みとどまる、スラントのソードスキルにおける硬直は短い、ここで何とかカウンターを入れる為に今は必死に槍を振るう。
ソードスキルを使用したが最後は何を使ったのかわからない程余裕はなかった、もう一体が破砕した音を聞いて仰向けに倒れこむHPはもうレッド表示になっておりさらに毒による減少がいまもなお続いている。
悪寒とレッドアウトしている視界で回復ポーションを懐から取り出すが手が震えて口にうまく持っていけない。
「くそっ!止まれ!!」HPの赤い生命ラインが左に消えていき面積が減っていく、今になりゲームで命を失う事と現実とは違うが死ぬ事は同じと肌で感じた。
左腕の力が抜けポーションの瓶ごと落ちていく・・・。
「ああ、ここまでだ」と思い目を閉じた。
その時私の左手を掴みそのまま口元まで運んでくれた、混濁する意識の中で必死に命をつなぐ液体を飲み干した。
視界からレッドアウトが消え安心からか、眠りに落ちていた・・・。
「はっ!」飛び起きるように目覚める。そこは開けた空間で索敵を使用してもMOBの気配はない「ここは?」頭痛がして最後の記憶を紡ぎ出す事に巣少し時間がかかった。
そこに声がかかる。
「気分はいかがかな?」男がポーションを手渡しながら声を掛けた。
「あなたが・・・。」私はその男を覗き込むように見る、長身痩躯で鈍いシルバーの髪が印象的な青男だ。ポーションを受け取りそのまま口に含んだ。
「回復ポーションを飲んだ後気を失ったので解毒ポーションが使えなかった。
自然回復するまで様子を見ていたが問題なさそうだったのでここまで運ばせてもらった。
「ありがとうございました、もう駄目かと思いました・・・。ここは?」一礼してから質問する。
「?・・・安全地帯だよ、あなたはご存知ない様子ですが?」
「初めて知りました、こんなことならもっとレベリングができましたよ」とうつむいて言った。
「ふっ!・・・ふっふっふっふ」青年はどこに笑っているのかわからず、私も笑ってごまかす事にした。
そして一通り笑うと青年から声をかけてきた。
「まさか私以外にここでレベリングをしているプレイヤーがいるなんてな・・・、いくつかレジャーボックスが空いていたがあなただったのか・・・。もしよろしければ、ここに行き着いた理由をお聞きしたのですが?」青年はまっすぐ私の目を見る、年の割には純粋な探求心の目が私の心を穿つ。
「GM・・・茅場晶彦ならこの一層に隠しダンジョンを作るだろうと思ってました。彼はそういう遊び心がありそうですし、2層からは”地下”なんて作れませんからね。この一層でずっとあちこちの壁を叩いたりしてましたがおかげさまで他のプレイヤーからは変人扱いされましたよ。」
「・・・・・・」
「ああ!すみませんでした、おそらくここはあなたが先に見つけた秘密のダンジョンなんですよね。私はもう来ないようにしますし、口外しませんので。」黙り込んだ青年に杞憂と思っている事を口にした。
そして身支度をして出て行く準備をする、そして出口に向かって歩き出す。
「私はヒースクリフといいます、あなたと同様にここでレベリングをおりここで何かを見出した時、私が作る組織(ギルド)に入っていただきたい!」と頭を下げて言った。
「リュートといいます、何世代も前機種でプレイしていた時代遅れのゲーマーです。あなたにはすばらしい仲間があつまるカリスマ性があります、それでも私に同じ事が言えた時に考えさせていただきます。」と振り返って笑顔で答えた。
ヒースクリフは頭を下げたまま見送っていたのであった・・・。
私の最大の疑問、ヒースクリフは一層のチュートリアルからギルドを作りアスナと出会うまで何処で何をしていたのか?私の独自解釈ではどこかの場所で人知れず訓練していたと考えていました、それが黒鉄宮の存在と解釈しました。
そこに現れたリュートとの邂逅、その後どのように展開しようか現在のエドワードの最大の難関になってきています。今後は不定期になるかと思いますがよろしくお願いします。
※ここまでの誤字、脱字の修正をいたしました。
特にジュニア・リザードが使用するソードスキルはリニアーではなくスラントでした。大きな間違い申し訳ありません・・・。