PSO2 - Another Person's Story -   作:ノーチラス

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Chapter 9-1

砂の惑星「リリーパ」は砂漠エリアに訪れたレイナたちだったが、その前にどこからともなく現れた、頑強な鋼の体を持つ機甲種のトランマイザー――。

 

「気分転換にはちょうど良い相手ですね」

「前回同様、おれは後方支援、お前たちは接近戦担当だ。それと……念の為言っておくがレイナ、無理はするなよ」

「肝に銘じておきます……」

 

 レイナは彼の注意喚起に返答しつつ、エリュシオーヌを構える。

 イヴとシーザーも同様に武器を手に取り、いざトランマイザーとの戦闘を開始する、と思ったが早いか、背後から突如出現した巨大な鋏のようなモノに挟まれ、鋼のトランマイザーを一瞬のうちに砕かれてしまう。

 シーザーにはそれの正体がすぐにわかった。機甲種ではない――ダーカーだ。

 サイズはアムドゥスキアで遭遇したダーク・ラグネよりは控えめだが、口元から伸びる巨大な顎は眼にしただけで一歩後ずさってしまうほどの威圧感を放っている。

 そんな大顎を持ったダーカーの名は「グワナーダ」。無数の触手と地中を潜行する能力を持つ大型ダーカーの一種であり、この砂漠ではよく出現するエネミーである。トランマイザーを容易く粉砕したことからもわかる通り、顎の力は至極強烈だ。

 

「気をつけろ。地中に潜られたら、どこから現れるかわからない……触手の動きにも警戒しておけ」

「――だったら、地上に出ている今に叩き潰すのが最上ォーッ!!」

 

 地中に潜る前に倒すという作戦は理に適っている。しかし現実はそう甘くはなく、レイナがエリュシオーヌを振りかざしたその刹那、グワナーダは地中に潜ってしまう。

 エリュシオーヌはそのまま地面に激突、凄まじい轟音を鳴り響かせるのみだった。「言わんこっちゃない……」シーザーは掌で顔を覆う他にない。

 

「あ……アレ?」

「良いから戻れ!」

 

 シーザーの指示で、一先ずレイナは二人の元へ戻り、その場で全員が背中を合わせて全方位を見渡す。

 地中に潜ればレーダーでは探知できない。今どこにいるのかも、どこから現れるのかもわからないし、あるいは本体は姿を見せずに触手で攻撃を仕掛けてくるかも知れない。

 

「どこから……出てくる……!? はッ!」

 

 周辺を見渡していたシーザーがふと視線を下に移した事で気づく。

 レイナとイヴ、それぞれの足元からわずかにグワナーダの触手が地上に出てきていたのだ。二人に教えようとするよりも早く、それは素早く飛び出してきてレイナたちの体は拘束され、突飛な事で二人は握っていた剣も手放してしまい、万事休すという状況に陥る。

 

「ううっ……! こ、これは、グワナーダの触手ッ!?」

「し、しまった……武器がッ」

 

 さらに助け出そうとするシーザーの背後にグワナーダ本体が現れ、大きく振るわれた顎によって吹き飛ばされる。そのまま先に彼を仕留めるつもりなのか、レイナとイヴは拘束したままで、数十メートルは吹っ飛んだシーザーの元に近付いていく。

 腕力に自信のあるレイナたちではあるが、力いっぱいに抵抗してもびくともせず、それどころか藻掻けば藻掻くほど締め付けは強くなる一方だ。シーザーを助けようにもまったく動けない状態で、仲間が大顎の餌食になる瞬間を、黙って見ているしかできなかった。

 イヴは口惜しさから小さく彼の名をつぶやき、シーザー本人も諦めかけた、その時。

 

「……めるな」

「レ……レイナ……さん?」

「……諦めるなぁーッ!! シィィザ――ァァァッ!!」

 

 これまでに聞いた事のない、レイナの絶叫。グワナーダの触手に締め付けられながらも腹に目一杯の力を込めて叫んだその声はシーザーの耳に確と届いた。

 彼女の言葉で、大事な事を思い出す。

 この戦場に於いて、アークスがダーカーに背を向けるわけにはいかない。ここで闘いを放棄して死んだのなら、それはアークスとしてではなく、ただの臆病者としてだ。死ぬのならせめて、アークスとして闘って死にたい。死ぬ気などサラサラないが、それくらいの覚悟がなければ先へは進めないのだから。

 シーザーはインフィニットコランダムを仕舞い、次の取り出したのは真っ赤な塗装が目を引く大砲「レッドスコルピオ」。とある集団が好んで使用していたとされる光線砲だが、恐ろしいのはあらゆるものを瞬時に蒸発させてしまうほどの熱量を発するという点。だが敵の至近距離からそれを放てばシーザーも無事では済まない。故に敢えてトリガーには指をかけずに片手で構えを取り、そして。

 

「た、大砲で……ッ!?」

「――殴るんだよォッ!!」

 

 なんとシーザーは、叫びながらグワナーダの顔面をレッドスコルピオでブン殴ってみせたのだ。途轍もない衝撃によって敵は怯み、その弾みでレイナたちを拘束していた触手が解かれ、晴れて二人は自由の身となった。

 すかさず十メートルほど後ろに下がったシーザーは再びインフィニットコランダムに持ち替えてさらなる追撃、そして武器を取り戻したレイナとイヴが周囲の触手を叩き斬った事でグワナーダはダウンし、地中にて隠れていた大きなコアが露わとなる。

 ここを勝機とばかりに三人は一斉にコアへの集中攻撃をかける。――しかし、それでもまだ倒れないグワナーダは起き上がった途端、至近距離にいたレイナたちをその大顎で挟もうとする。

 

「ちぃ……まだそんな悪あがきをッ」

「止めます、レイナさんッ!!」

 

 イヴの言葉に「わかってるってッ!」と答え、二人同時に左右の顎を大剣で受け止める。この間シーザーにはインフィニットコランダムによって攻撃を続けてもらうよう叫ぶレイナであったが、当の本人は武器を構えつつも渋い顔色だった。

 当然だ。レイナとイヴが射線上にいるのだから、安易に射撃を行おうものならとばっちりを受けて負傷させる事になりかねない。

 脳をフルに活用して打開策を探し始めたその時だった。少女と思しき叫びが聞こえたが早いか、空から人影が降ってきてグワナーダの頭部を拳で殴打、さらに敵の後方からは巨大な光の拳が飛んできて、直撃を受けたグワナーダは今度こそ消滅を迎えた。

 突如現れたアークスの正体とは――

 

「セツナ! それにトワさんまでッ! なんでここに!?」

「やっほー。さっき言ったはずだよ、もしかしてもう忘れちゃった?」

 

 セツナに言われてはたと気づく。ロビーで彼らと遭遇した際、トワの話には「クラスを変更したセツナを砂漠へ連れて行く」とあった。ならばここでまた会ったのも、道理と言える。

 あらかたファイターでの闘い方をその身に叩き込まれて帰還する寸前、グワナーダを相手に苦戦していたレイナたちを遠目から発見した二人が助太刀に参ったというわけだ。

 トワは開口一番「あんなの相手に四苦八苦するとはオマエらしくねーなァ?」と嫌味に口角を吊り上げてシーザーを嘲る。

 

「ぐ……し、仕方ないだろう。おれはずっと独りで戦ってきたんだ……慣れていないだけだ」

「あははっ! そういえば、ダーク・ラグネにもずいぶん苦戦しちゃったしねー」

 

 ともあれセツナたちには助けてもらった礼を述べ、五人はアークスシップに帰還。トワ以外の四人は「明日集まって研究所の調査を行う」との約束を交わし合い、その後解散となった。

 

 しかし翌朝、誰もが思ってもみなかった事態が起こる。

 目覚めて真っ先にイヴの目に入ったのは、彼女の端末が受信した一通のメッセージだった。件名は書かれておらず、差出人も不明。いかにも怪しげだがなぜか無視できなかったため、メッセージの中身を開いてみる。

「市街地エリアD-四八地区にある研究所『フリーデン』に来い。拒否するようならば、君の仲間が酷い目に遭う事になるよ」

 その本文を目にした瞬間、差出人が誰なのかを理解した。かつてナベリウスで遭遇した研究部にも所属しているというアークスの男だ。あれ以降一度も会わなかった彼が突然、自分にこんなものを送ってくるのは、何か理由がある。何となくそう感じたのだが。

 

「それにしても、低レベルな脅し……やっぱり無視しておくべきだったかな」

 

 レイナを襲ったところで返り討ちにされるのは目に見えている。セツナも実力はともかく逃げ足だけは他の追随を許さない。シーザーだって木っ端なアークスよりも遥かに実力はあるのだ。

 そもそもロビーにいる限り、アークスが同じアークスを攻撃する事はできない。その所以は「リミッター」と呼称されるロビー・ショップエリアなど全域に渡り展開されているシステムにある。簡単に言えばロビー内でフォトンアーツやテクニックを行使不能にするもので、これにより基本的にロビー内での戦闘行為はできないようになっている。

 こんな下手な脅しに引っかかるほど馬鹿ではありませんよ、と端末の画面に向かって吐き捨て、その後着替えを済ませたイヴはロビーへと降りていった。

 

 だが彼女の予想は、思わぬ形で外れてしまう事となる。

 アークスロビー二階。約束の時間まで暇を持て余していたレイナがぼんやりと歩いていたところにキャストらしき影が近づいてきて、彼女の首元に何かを突きつける。咄嗟に身を避けようとしたものの、キャストの声で動きが止まる。

 

「おっと、動かない方が良いよ。少しでも避けようとしたら、こいつでお前の首を掻っ切るからな……ま、どの道掻っ切る事にはなるけどね」

「っ……な、何者……? あたしを、殺すつもり……?」

「ああ、そうだ。アタシはハイ・キャスト試作三号機、タイプ・アルファ――アークライト。ある人物から命令を受けたんで、恨みはないけど死んでもらうよ」

 

 かような状況でも、レイナは冷静だった。

 彼女が口にした「ハイ・キャスト」というものが何なのかはわからないが、とにかく現状の分析を行う。まず首元に突きつけられたモノはアークス向けの武器である事がわかる。

 形状からソード、エリュシオーヌほどではないもののリーチはそれなり。その刃はフォトンではなく、実体剣だ。フォトン行使ができないこの空間に於いて、実弾銃や実体剣といったものは危険だ。そして相手がキャストである以上、生身のレイナに肉体の屈強さで優る事は決してない。かなり分が悪い敵であると言えよう。

 状況分析を終えたレイナは結論を出す。フォトンでの肉体強化すらできない。この場で闘ってもアークライトに勝てる見込みはないに等しい今、取るべき行動はただひとつだ。

 

「……逃げるしかない」

「なんか言った?」

「ふんッ……逃げるって、言ったのよ!!」

 

 直後、アークライトの身体に全力の蹴りを入れ、怯んだ隙を利用して一目散にその場から走り去るレイナ。一階へ、敢えて階段は使わずに落下防止用の柵を飛び越えて着地。そのままスペースゲートへと突っ走る。

 そして適当なキャンプシップに搭乗、行き先を自由探索の許可が降りているアムドゥスキアの洞窟エリアに設定して船を出した。しかし彼女は今逃亡しているのではなく、敵を戦場へと誘導しているのだ。

 何の理由があって自分が殺されなければならないのか、それはレイナにわかるものではないが、素直に殺されてやる気は毛頭ない。ならば全力で抵抗するしかあるまい。

 故に戦闘が可能な各惑星のいずれかへと赴き、そこでの決着を狙ったのだ。またわざわざアムドゥスキアの洞窟を選んだのは、意外にも彼女にしては考えなしという事でもなかった。

 

「ここなら……いける。いくらキャストでも、超高温の溶岩に耐えられるほど頑強には……ッ!?」

 

 独り言をつぶやいていた最中、凄まじい殺気を感じて咄嗟に数メートル先に回避。直後に上空から何かが落下してきて、大量の土煙が舞い上がる。落ちてきたのは先刻のキャストが手にしていた大剣だった。本人も程なくしてキャンプシップから降下、レイナの眼前に着地した。

 

「こんな場所に誘導とは……ロビーじゃあ勝ち目がないと言ってるようなモンだよ? アタシはロビーだったとしてもお前を殺せたんだけどね」

 

 アークライトの言葉に対し、レイナは素直に肯定した。リミッターが存在するロビー内ではほとんど勝てる可能性はないと。

 だがここならば確実に勝てる、レイナにはその自信があったのだ。

 

「ここに誘導したのは、あなたをスクラップにするためよ」

「ほおー? ずいぶんと強気な発言してくれるじゃないか。あんまり侮ってると痛い目見るよ?」

 

 侮っているからじゃない。自分の力を信じているから、必ず勝てる自信があるから。

 レイナはエリュシオーヌを取り出し、先制の攻撃を仕掛けた。

 レイジングスパークと名付けたそれは、武器にチャージしたフォトンをビーム状に放つ遠距離技。アサルトライフルのフォトンアーツ「エンドアトラクト」やテクニックなどから着想を得て考案したもので、同じ遠距離に対応できるブリッツシュナイデンとは違ってリーチは短めだがその分、フォトンを収束させて放つため威力は高い。

 虚を突かれた攻撃に、アークライトは避ける事も叶わず直撃を受けて吹き飛ばされる。その先にあったのは「溶岩湖」――それもかなりの深さがある。

 レイナの狙いはこれだ。正攻法だったとしても勝てる自信はあったが、敵の力量は不明のため最も安全かつ確実な手段を取る事にしたのだ。

 

「ぐあああっ! バカなッ……クソ! お前、最初からこれが目的で……ッ!!」

「あなたの罪は、このあたしを殺そうとした事ッ! よって判決・死刑!!」

 

 怨嗟の声をあげながら溶岩湖へ一直線に飛んでいくアークライトに向けて、ドヤ顔で鼻を鳴らしつつ言い放つレイナだったが、しかし。

 アークライトは推進システム「フォトンスラスター」を点火、ロケットエンジンのような推進力を用いて、溶岩湖に飛び込む数センチ手前で停止、体勢を立て直して着地した。

 その様を見てレイナが驚愕する目前にてアークライトは得意げな顔で、嘲笑うかのように笑む。

 

「なぁ~んちゃって。だーから言ったじゃん、侮ってると痛い目見る……ってなァッ!」

 

 再びスラスターの推進力を利用してレイナに向かって急接近するアークライト。地面に突き刺さったままだった大剣「シャープサイクラー」を手にし、勢い任せに振り抜く。

 見切れないほどのスピードではなかったためエリュシオーヌでの防御は可能だったものの、そのパワーは到底一方ならぬもので、あっという間に押し負けてしまった。

 

「うそ……ちから強ッ!?」

 

 アークライトの途轍もないパワーによって吹き飛ばされたレイナは、背後の岩塊に激突。背中を強打して小さな悲鳴をあげる。敵は間髪を入れずさらに接近し、大剣による強烈な攻撃を仕掛けてくる。

 隙だらけだった彼女は当然、その直撃を受けて大きなダメージを負ってしまう。

 

「ぐはぁ……ぁっ……」

「ハッ! 死刑になるのはお前の方だったなァ?」

「――そいつはどうかな」

「何ッ!?」

 

 レイナの前方。アークライトの後方から何かが飛んできて、それは彼女の腕を容易く切断してみせた。咄嗟にアークライトが振り向いた事で見えてきた人物は――。

 なんとシーザーだった。

 彼は偶然スペースゲートへと全力疾走していくレイナの姿を目撃していたのだ。そこで異常事態の臭いを感じ取ったシーザーは、クエストカウンターの係員に行き先を聞き出し、ここまで追ってきたというわけだ。

 

「お前は何者だ? なぜレイナを狙うんだ?」

「バカか? んな事を素直にペラペラ喋るわけないだろ。ひとつ教えてやれるとするなら、アタシの標的はこの女だけじゃないって事くらいだ」

 

 その言葉からは、片腕を失ってもなお目的を遂行するという強い意志を感じた。

 直後にアークライトは、シャープサイクラーを握り直して今度はシーザーに向かって突撃してきた。咄嗟にインフィニットコランダムで防御したものの、当然ながらレンジャーの射撃武器で彼女の超重量攻撃を防ぎきれるはずもない。あっけなく押し負けて吹き飛ばされるシーザー。しかしこれで倒れるほど彼は軟弱ではなかった。

 態勢を立て直しつつ溜息をひとつ。そして武器をインフィニットコランダムから銃剣「ガンブレイバー」に持ち替え、アークライトに発砲しながら急接近。ゼロ距離にまで迫ったところで素早い斬撃を連続で繰り出す。

 アークライトはそれらを避けるだけで、なぜか反撃を仕掛けてこなかった。 

 

「どうしたッ! 避けているだけではどうにもならないぞッ!」

「チッ……良いよ、だったら教えてやる! お前らなんかよりも、アタシらハイ・キャストの方が圧倒的に勝ってるって事をなァーッ!!」

 

 叫んだ瞬間、アークライトは右腕を大きく振り上げた。目で追うと、その手にしっかりと握られたシャープサイクラーの刀身は青白い光に包まれているのが見えた。それはつい最近にも、このアムドゥスキアで目の当たりにしたものだった。


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