猫でいる生活   作:syumasyuma

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ガルパンの世界観についてかなり奇怪な想像をしているのでご注意ください。


学園艦に乗りました

気がつくと俺は猫になっていた。

 

全身が白く短い毛に覆われ、顔と耳と足先と尻尾が黒い猫だ。

シャム・・・ではなくタイという品種な筈だ。

 

タイ猫になった俺はしばし呆然としていたが、黄色い帽子とランドセルを装備した小学生っぽい巨人の無邪気な突っつき攻撃の前に、

これは夢ではないことをまざまざと思い知らされてしまった。

 

「うにゃうーにゃうーにゃにゃ」『人間というものは猫から見るとこうも大きいものなのか』

 

巨人に驚いた俺は一目散に逃げ出し、家の垣根おそらくイヌツゲの中に潜りこみ、

あたりの様子を窺う。

どうやら小学生は付いてきていないようだ。

 

「にゃあ」『はあ』

 

口から漏れるこれは全て”にゃー”だの”なー”だのと、

言葉にならずため息をついてしまう。

 

猫になる前の俺は大柄で筋肉質かつ骨太という頑丈な肉体に、

毛深い体毛、大酒のみということからでかいドワーフと呼ばれていたのにどうしてこうなったのか?

 

人に見下ろされるなんて経験があまり無かったのでなんだか、

新鮮というか変な感じだ。

 

自分の傍を横切る人間や自動車は記憶にあるものよりも5倍大きくなり、

まるで巨人の国に来たかのようだ。

 

 

「うにゃにゃうにゃーな」『さしずめ俺はガリバーといったところか』

 

自分で言った冗談に、にゃっにゃっにゃっと笑っていると明らかにおかしいものが見えた。

 

船だ。

 

いや海の見える港町なんだから船くらいあってもいいんだが、

尋常じゃないほどの大きさだ。

 

この町のどんな建物よりも高く、そして大きい、船はまるで山か島が動いているかのようで、

その圧倒的なスケールを前に唖然としてしまった。

 

やっぱり巨人の国かもしれない。

 

そう思ってしまったのも無理は無いだろう。

後で知ったことだが長さ7.6km、幅1km、高さ690mの超ド級どころじゃないほどのとてつもない大きさの船だったのだ。

 

垣根を這い出た俺は近くにあった電柱を確認する。

電柱にかかれた住所には大洗と書かれている。

 

大洗どこかで聞いたことがあるが一体何処だっただろうか?

まあ聞き覚えがあるなら日本の何処かなのだろう。

ということはここは俺の知る日本ではないらしい。

 

 

そう思うとなんだか気が楽になってきた。

夢じゃないけど、夢な気がしてきたのだ。

 

人間だった頃の家族や友人、仕事先には心苦しいが、全く戻れる気がしないのだ。

これは仕方の無いことなのだ。

 

やはり猫になってごろごろしていたいなどと嘯いていたのが聞いたのだろうか?

仮病で休んだ日のように軽やかな気持ちになった俺は、

これからどうするか考えることとする。

 

食と住をなんとかしたいところではあるが、眼前にそびえ立つあの船が気になってしょうがない。

まずあれがなんであるか調べよう。

 

春の陽気か、はたまた猫になった現実逃避か、それとも両方か分からんが俺の行動は大胆になる。

塀によじ登り、そのまま塀の上を危なげなく歩いていく。

 

塀の上の猫、実に猫味に溢れる行動といえよう。

 

塀を歩いていると道端で喋っている人間を見つける。

どうやら井戸端会議をしているマダムのようだ。

丁度あれについて話しているみたいだ。

 

「うちの子も来年から学園艦に乗船するんだけど大丈夫かねー?」

 

「大丈夫ですよー全寮制みたいなものだし。行くのは大洗なんでしょ?」

 

「ええ、船舶科に入るーって、張り切ってだけど・・・。まだ中学生だし・・・料理が下手でねー、

 いっつも焦がしてばっかりで、ちゃんと食べていけるかね。」

 

「そうなの?でも学園内に食堂もあるし、なんとかなるんじゃないかしら?

 河嶋さんちの桃ちゃんだって料理できるようになったらしいし」

 

「そうかしら?でも桃ちゃんができるなら大丈夫かしら?」

 

「大丈夫よ!でも心配なら一緒に学園艦に見学に行けばいいのよ。乗り方は~」

 

 

マダム達の井戸端会議を盗み聞きし、船の情報を集める。大半は役に立たないものが多かったが、

積荷の搬入場所や人間の乗船口のヒントとなる話しがあったり、

学園艦のパンフレットが港に置いてあることが口にしている人がいた。

 

どうやら学園艦なるものの甲板が非常に高い位置にあるため、めちゃくちゃでかい車道橋があるそうだ。

物資の積み込みなどはローロー船のように、トレーラーや自動車を自走させて直接積み込んでいるようで、

学園艦に乗り込む車に潜り込めば乗船できそうだ。

 

そう考えた俺は早速学園艦に乗り込むべく、埠頭へ向かった。

 

 

『一向に近くならん』

 

歩いても歩いても一向に学園艦に近づいた気がしない。

でか過ぎて勘違いしていたが、俺は学園艦から遠い場所にいたんだと認識する。

 

途中から焦れてしまい走って埠頭へ向かったものの、

猫の身体能力に感心するだけでかなりの時間が掛かってしまった。

 

ようやく町が切れ、学園艦の全貌が見える。

 

『なんだこれは・・・』

 

巨大な学園艦が停泊できるように整備された港は、

そのスケールの大きさに驚いてしまった。

 

東京のゴミゴミとした町並みに慣れていた俺は十数キロに渡って開けた土地を見て、大きな衝撃を受けた。

特に長さ10km、幅1kmはある長大な埠頭には変な汗が流れてくる。

 

なんとなく及び腰になった俺は直接学園艦には向かわず、周辺を確認することにした。

すると一般乗用車の集まるショッピングモールを発見した。

 

ここで忍び込む車を決めよう。

 

ガラス張りのタワーを横目に、人で溢れるモールに紛れ込んだ。

 

 

人間にもみくちゃにされること数十分、「そろそろ学園艦に行くか」なんて呟いていたナイスミドルを発見し、

後をつけてみるとそこには幌タイプの軽トラがあり、ナイスミドルがその軽トラに乗り込むではないか!

 

千載一遇のチャンスを逃さんと軽トラの荷台に忍び込んだ。

もう少し吟味したかったところだがこれを逃したら次に機会があるか分からん。

学園艦に乗り込めばこっちのものだと、自分に言い聞かせつつ身を潜める。

 

荷台に積み込まれた酒樽を見るに、男は酒屋のようだ。

酒樽は白い布と縄で包装されており、一品や副将軍、月の井と書かれている。

 

日本酒だろうか?

 

車がガタンとゆれた。どうやら傾斜のある地面を走っているようだ。

幌の隙間から外を窺うと、車は学園艦へ続く車道橋を登っているのがわかる。

荷台にからでは後部しか見えないが、なかなか面白い。

 

いったいどれだけの高さまで登るのだろうか?

これほどの高さはあまり記憶にない、かつて登った東京タワーのトップデッキよりも高いのではないだろうか?

 

先ほどまで見ていた大洗の町並みが一望できる。

 

ぼんやりと眺めていると車がガタンと揺れた。

密集していた車を載せた地面が上昇していく、どうやら右舷外縁エレベータだったようだ。

あんぐりと口を開け地平線を眺めていると、車が影に入った。

 

学園艦に入ったようだ。

 

大洗学園空母右舷艦橋第一トンネルと書かれたその道は三車線に別れており、

道路照明によりオレンジ色に彩られていた。

 

トンネルを抜けると道は五車線に分かれており、左から三車線が甲板行きで、右に車線が艦内行きとなっている。

コンテナを積んだトラックなどは艦内行きの方に流れて行き、俺の乗っていた車は甲板に行くようだ。

 

倉庫にでも付いたら途中で乗り換えるか徒歩で甲板に上がろうと思っていたから、これは非常に幸運だった。

 

車は艦橋前から中央大通りを右折し、そして直ぐに左折し、酒屋吉田左舷本町店と書かれた店の前に止まる。

急いで荷台から飛び出て店の陰に入り、ちらりと様子を窺う・・・どうやらばれていない様だ。

 

ほっと息を吐いて、近場の塀や屋根に上りあたりを見回す。

 

『船の上に町がある・・・。』

 

 

確かにこれだけ広ければ町が一つそのまま入りそうだが、

よく見れば山がいくつかあり、木々が生い茂っている。

 

なんとも言いがたい感情に襲われるが、頭を振って直ぐに気にしないことにする。

気を取り直して俺は散策に出たが、直ぐに眠気に襲われた。

 

フラフラとした足取りで付近をうろつくといい感じの縁側を発見した。

日が当たって暖かく、木のぬくもりが心地いい。

気がついたら俺は縁側に丸くなっていた。

 

なるほど猫は縁側に惹かれるものなのだな。

 

 

 

「うな?」『なんだ?』

 

 

突然何者かに頭を撫でられ、目が覚める。

日は既に落ちようとしていた。こころなしか寒さを感じる。

 

「なんだとは何だ」

 

「うにゃな」『家主か』

 

黒い髪を靡かせたジト眼の少女が俺の頭を突っつく。

未だに眠い俺はぼんやりと彼女を見つめる。

 

「勝手に私の縁側を占拠するな」

 

「なうなうにゃうな」『いい縁側だな』

 

「自慢の縁側だ」

 

彼女は俺の隣に座り、持っていた鞄を縁側に置いてそう言った。

部屋を借りる時に選んだ理由の一つだと、彼女は付け足した。

 

眠り足りないが家主が帰ってきたし、起きるとしよう。

さて何処に行こうか?

欠伸からの伸びをした後、耳の後ろを掻いてから地面に降りる。

あー今すっごい猫っぽいことしたな

 

「なうなにゃおん」『邪魔したな』

 

「待て縁側代を払っていけ」

 

「なううにゃい」『金なら無い』

 

「撫でさせろ」

 

「・・・なうにゃにお」『・・・好きにしろ』

 

彼女が俺の毛皮を求めてきたので、少し考え今後の関係のためにもここは受けるべきだと感じた。

俺は縁側に戻るとまた丸くなった。

 

彼女は俺を抱え上げ自分の膝の上に乗せて、

俺の背中を撫で繰り回してくる。

 

くすぐったいし止めて欲しいんだがなーと彼女を見ても、彼女は此方の意を汲んでくれない。

 

ふとここで気づく。

 

言葉が通じてるー!

 

全身の毛が逆立ち、彼女を見る。

 

「にゃにわなうにゃううにゃにゃうななうなう!」『君は俺の言ってることが分かるのか!』

 

「分かるぞ。読唇術とアクセントでな。むしろ猫が人間の言葉を完全に理解しているほうがおかしいぞ」

 

「なっなうなな」『そっそうかな』

 

 

俺がおかしいのか、彼女がおかしいのか、世界がおかしいのか、

混乱して硬直し、結論のでない考えを堂々巡りにしていると。

 

俺は彼女の家に持ち帰りされ、お湯の張ったタライの中で彼女に丸洗いにされていた。

お湯の温かさで正気に戻ったが、なぜ俺は洗われているのだろうか。

 

「なう」『なあ』

 

「なんだ」

 

「なう、にゃっにううな」『なぜ、洗ってるんだ?』

 

「汚れているからだ」

 

「なうな・・・」『そうか・・・』

 

 

なんというか非常にマイペースな子なのは理解した。

 

その後の俺は彼女のなすがままに流されることにした。

 

バスタオルに巻かれ、出されたちくわを食べ、思いっきり撫でられた後、

彼女は電気を消して、そして寝た。

 

彼女の寝入りの速さはワールドクラスで、某アニメの眼鏡くんにも引けを取らないであろう。

今日はいろいろあって疲れていたので、俺も彼女の布団の端に乗り眠ることとした。

 

 

 

翌朝、俺は大量の目覚ましの音で叩き起こされる。

 

「なうにゃ!」『なんさ!』

 

爆音を鳴らす目覚ましを沈めると後ろの山を見上げる。

うつ伏せで布団を巻き込んで完全な防御体勢を取っている彼女を見る。

護身完成といわんばかりソレに声を掛ける。

 

「うにゃなうなうーにゃにゃ?」『起きなくていいのか?』

「・・・」

 

彼女は何も言わない。

山になったのも条件反射なのだろうか?

 

目覚ましもなったし、彼女の起床時間だろうから起こしてみることにする。

 

上に乗ってみるが反応なし。

上でジャンプ・・・ダメ。

山に向かってタックル・・・動かねえ。

布団に入る隙間はないか・・・。

 

俺は初めて爪を伸ばすと昨日の縁側に続くガラス戸に近づくと、

立てた爪でガラスを引っかいてみる。

 

「ふぎゃー!」『うぎゃー!』

 

「ぎゃー!」

 

効果があるらしいので、このガラスから鳴る不快な音を鳴らし続ける。

俺もこの音は苦手なので早く起きてほしい。

 

「わかった!起きるからー起きるってー!」

 

「うにゃなお」『あさだよ』

 

立ち上がって睨みつけてくる彼女にテーブルの上の目覚ましを見せる。

すると彼女のしかめっ面が和らぎ目覚ましを手に取ると、

彼女は歓声をあげて喜んだ。

 

「おー1回目の目覚ましで起きてる」

 

「なににゃおいう」『まじかこいつ』

 

「明日も頼んだ!えーと・・・」

 

俺のことをなんて呼ぶか悩む彼女。

そういえばロクに自己紹介もしなかったな。

 

「におにゃーないににゃなっなうな」『自己紹介してなかったな』

 

「私は冷泉麻子!」

 

「なうにゃうにゃ」『好きに呼べ』

 

ちょっと悩んだ彼女は俺を指差す。

一体どんな名前になるのやら・・・。

 

「じゃあ・・・モコ!冷泉モコだ、おまえは!」

 

「なんうにゃうな」『センスねえな』

 

「よろしくな!モコ!」

 

俺のクレームを気にしないで久しぶりに朝食を食べるといった彼女は、

そもそも朝食用の食材を用意していなかったらしく、ちくわを齧っていた。

 

どうやら俺は冷泉さんちの目覚ましになったようだ。




にゃーにゃー書くの疲れたので
次の話からはなくなります。
また今後本編関係ない設定語り回が入ると思いますが
興味ない方は飛ばしてください。

追記8/14
絵コンテの中に三話NO102「学園空母ブリッジ、後部デッキがエレベータから下に降りてきたイメージ」と書かれているので、車道橋-右舷艦橋第一トンネル間にエレベータの描写追加
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