猫でいる生活   作:syumasyuma

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夏がおわりました

夏休みのある日。

 

いつものように麻子を叩き起こした俺は、これまたいつものように学園艦を巡回しパトロールしていた。

4ヶ月欠かさず巡回していると学園艦にいる猫全てと顔見知りになり、

以前にもまして様々な相談事を受けるようになる。

 

そうすると巡回するにも時間が掛かってしまい、

一日で回りきれないようになってしまった。

 

これではまずいと猫たちも思ったのか其の地区ごとの顔役というものが出来て、

相談事やトラブルを代わってくれるようになり、巡回ルートも顔役のいる公園を

中心としたものになってかなり効率的に回れるようになった。

 

 

朝に出発して夕方に帰宅していた生活が、日が照っている時間に帰宅する生活になり、

俺は完全に暇を持て余していた。

 

そこで暇人となった俺は新たに勢力圏を広げることにした。

 

今までは学園艦の最上部に位置し一般の人々が暮らしている飛行甲板を中心に活動していたが、

一つ下の階層・・・最上甲板に足を運ぶ。

 

学園艦の外縁にある階段から降りることの出来る丸い公園には、

休みを思い思いに過ごす生徒たちの憩いの場になっており、そこから海を一望できる。

 

だが今日はそちらには用はない。

 

今日は階段の裏、飛行甲板の陰になっている最上甲板外縁通路を回ってみようと思う。

 

外縁通路には艦内に入れる扉が無数に配置されており、扉をくぐると艦内につづく通路があり、

船舶科の生徒たちが休憩するためのスペース、ごみ処理施設、下水処理施設、研究設備、

やたら多い倉庫や駐車場が無数に存在する迷宮になっている。

 

そのため毎年迷子になる生徒がいるそうだ。

 

基本的に一般の人々や船舶科以外の生徒の生活は飛行甲板上で完結しており、

最上甲板やその下の施設へは足を踏み入れることはほぼない。

 

というのは本当だったようで通路を歩いても時折船舶科の生徒を見かけるだけで人影はまばらである。

 

人が何人も並んで歩けるほど広い通路も猫一匹しか歩いてないと寒々しいものである。

 

 

慣れない場所を警戒しながら慎重に歩いていたが、次第にその歩調は早まり走り始めていた。

上のように人や車がおらず、山のように起伏が激しくないこの通路は実に走りやすく快適である。

 

途中すれ違った生徒が触りたがっていたが許して欲しい。

そういう気分ではないのだ。

 

そのまま3キロほど走り抜けると終わり・・・艦尾が見えてきた。

 

飛行甲板艦尾の真下にはかなり広い空間が確保されており、

大きな艦載艇や艦載機、救命筏、船や飛行機を取り入れるクレーン、見張り所、信号燈、

飛行甲板への昇降機と非常階段、船外に出るための舷梯などが見える。

 

ただどれも手入れはされているが老朽化しているのが分かる。

かなり昔からあるもののようだ。

 

 

もの珍しく歩いていると、隅に人間の少女が二人と数匹の猫がいた。

 

一人は座って猫たちを可愛がっているが、もう一人はどうやら釣りをしているようだ。

俺が近づいていくと猫たちがにゃーとあいさつしたので、こちらも挨拶を返す。

 

『どうもどうもモコさんじゃないですか』

『おっす何をしているんだ?』

『へっへっへ、釣りをしている人間がいたんで釣果を頂けないかと待っていたんですが・・・』

『まったくウンともスンとも魚が寄って来てないの』

『へっへっへ、アッシたちはもう引き上げますんで、モコさんも長居しても無駄でさ』

『じゃあねモコさん。じゃあね人間さん。』

 

そういって猫たちは構っていた少女に別れを告げて去っていった。

それを見て名残惜しげにしていた少女は釣りをしている人間に声を掛ける。

 

「あーあ猫行っちゃった。・・・ねえムラカミ猫行っちゃったねえ?」

「・・・。」

「ああでも新しい猫が来たから期待に答えないとね。ねえムラカミ?」

「・・・・・・。」

 

座っている人間は底意地悪そうに笑っている。

釣りをしている人間はむっつりと顔をしかめている。

 

「よーしこっちおいでー。猫ちゃんもムラカミが大物釣るの楽しみだもんなー?」

「・・・。」

「最新の釣り糸はどんな大物でも千切れない!って言ってブフッ!ったから釣れブッフー!」

「・・・・・・。」

「ブッハッハッハッハ!あんなに自信満々だったのにー!」

 

なにかつぼに入ったのか爆笑する少女は長い銀髪を乱しながら床に倒れこむ、

それに対して釣りをしている少女ムラカミは黒い髪を掻き揚げため息を吐いた後、床に転がる少女に軽く蹴りを入れる。

 

「汚れるぞフリント。」

「フッヒッヒヒフー・・・まあアンタが釣れないのは今に始まったことじゃないけどね♪」

「はあ文句垂れるならどっか行ってろよ」

 

銀髪の少女フリントは倒れた際に落ちた水兵帽を被りなおし、再度床に座りなおした。

そして黙って事態の推移を窺っていた俺を膝の上に抱えて顎を撫でてくる。

思わずごろごろと喉を鳴らしてしまうが、猫の生理的反応だから気持ちいいとかではない。

断じて違うと言っておこう。

 

「んーほっといたら授業さぼる奴がいるからなー、猫ちゃんはどうしたら言いと思う?」

『猫に聞くな』

「ほら猫ちゃんも心配だって言ってるよ」

「ほんとかよ」

「ほんとほんと」

 

フリントがどこからか取り出した金のマイクで俺に問いかけてくるも、

猫語が理解できないので的外れなことを言っている。

 

しかしムラカミは少しだけ笑っていた。

何が面白かったのだろうか?

 

「・・・」

「・・・」

『・・・』

 

しばしの沈黙の中フリントにされるがままに撫でられていると、

ふと隣に立つムラカミの釣竿に気になる点を見つけた。

 

彼女の持っている大きな釣竿に使われている釣り糸があまり見たことのないもののように見える。

はてどんな素材の釣り糸なのだろうか、PEには見えないが・・・。

 

「あれー猫ちゃん釣り糸が気になるの?」

「猫の癖にお目が高いな、これは特殊カーボンの釣り糸でめちゃくちゃいい奴だ」

『特殊カーボン?』

 

ムラカミは釣竿を片手に持ってからしゃがみこんで近くにあった鞄から新品の釣り糸を取り出す。

それは釣竿に使われているのと同じもののようで表面には《スーパーカーボンスパイダーワイヤー》なる

安直な名前が書かれていた。

・・・値段の書かれてるシールには数万と書かれているが釣り糸ってこんなに高いのだろうか?

 

 

「特殊カーボンってあれだろ?学園艦の色々なところに使われてる奴。」

「カーボンナノチューブと人工蜘蛛の糸を合わせたヤバイ繊維の奴だ。」

「あーあと今造られてる軌道エレベータにも使われるんだっけ」

 

・・・久々に衝撃的な話を聞いてしまった。

特殊カーボンが既に存在していて、更に軌道エレベータが造られてるんだって?

つくづくこの世界の技術水準の高さには驚かされる。

 

「うわなんだいこの釣り糸こんな値段するのかい!」

「いいもんは高いんだよ」

「宝の持ち腐れじゃない?」

「ふん!バーにカラオケセット置いてるアホに言われたくねえな」

「はあぁー?」

「やんのかコラ?」

『あっ引いてる』

 

互いにメンチをきりあっていたが、竿が引いていることに気づくと直ぐに止めた。

やたら攻撃的な笑みを浮かべたムラカミは両手で竿を引っつかむと獲物とのファイトを始める。

 

「来たか!」

「逃がすんじゃないよ!ムラカミ!」

「任しとけ!」

 

獲物の猛攻を凌ぎ巻き上げるムラカミと罵声のような激励の声を上げるフリント。

死ねとかやっちまえとかは女の子の言うことではないと思う。

 

重心を下げて体を前後に揺らして巻き上げるムラカミは一端の釣り人に見える。

対してフリントはテレビで野球をみてるおっさんのようだ。

 

数十分もすると獲物が根負けしたのかムラカミが糸を巻き上げて釣り上げたようだ。

 

釣り上げられた魚はびったんびったんと生きがいいのか床の上で暴れ周り、

ムラカミが苦戦しながら活け締めを行う。

 

「ひゅー結構でっかいね。この鰹1メートルくらいあるんじゃない?」

「えーと72cmだな。」

「へぇーやるじゃないか!」

『でかいな』

 

鰹から流れる血をホースから水を流して洗い流しているフリント。

クーラーボックスを見て何か考えているムラカミ。

 

彼女たちを尻目に、フンフンと遥かに大きい鰹の匂いを嗅いでいると、

ムラカミが鰹の尻尾を切り落とした。

 

鰹の本体がクーラーボックスに入れるために邪魔な部分を切り取ったようだ。

あまった尻尾を俺の前に置いて頭を撫でてくる。

 

「やるよ。」

「結構身が残ってるじゃないか、太っ腹だねえ。」

「釣れたのは多分こいつのお陰だよ。だから腹を触るな!」

『偶然だと思うが?』

 

「たくっ、じゃあな招き猫」

「招き猫にしてはいかついけどね。バイバイ猫ちゃん」

「まあな」

『失礼な娘っ子どもだ』

 

大きな釣果を得て上機嫌な二人は俺に別れを告げて帰ろうとする。

彼女たちに答えるように片足を上げてやると、彼女たちは嬉しそうに笑って去っていった。

 

残された身のついた大きな尻尾を齧りながら夕暮れの空を眺める。

どうやら夏も終わりが近づいてきたようだ。




特殊カーボンの話をちょっと入れたくて出来た回
戦車道の無い環境で特殊カーボンってどう利用されているんだろう?
と考えた結果釣り糸に使えそうだと考え、
釣りといえばサメさんチームだと思い至り、
なんとなくキャラ的に薄い且つジーパン&スカジャンの似合いそうなムラカミを抜擢。
フリントはなんか生えてきた。
ムラカミとの悪友感が表現できてたらいいな。
場所が艦尾なのは釣りがし易そうだなという甘い考え、
そして空母の艦尾を想像するのにめっちゃ時間が掛かってしまった。
次は秋か冬の話です。
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