金太という、近所でも有名なわんぱく小僧がおりましてね。

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落語 三日坊主

 

 

 

 えー、秋風亭流暢(しゅうふうていりゅうちょう)と申します。

 

 一席、お付き合いを願いますが。

 

 ここで、いつもの小話を一つ。

 

 おう、そこにタワーができたってな?

 

 そうなのよ。びっくりしタワー!

 

 えー、今回の話は、タワーとは関係ねいんですがね、びっくりしタワーとは、ちっとばっかり関係があるわけでして。

 

 坊主の話なんですがね。ま、坊主と言っても、木魚を叩くほうじゃなくて、減らず口をたたくほうの、所謂(いわゆる)ガキンチョの話でして。

 

 今も昔も、子供は大して変わらねぇ。泣くし、喚くし、煩いし。

 

 

 

 

「ばーか。これは、おいらの独楽(こま)じゃねぇか」

 

「おめぇのじゃないよ。おいらのだい」

 

「おめぇのだって証拠はあんのかよ」

 

「……そんなもんはないけどさ」

 

「じゃ、なんでおめぇのだって断言できんだよ。独楽なんて、似たり寄ったりじゃないか」

 

「…………」

 

「ほら、見ろ、言い返せねぇじゃないか。ばーか」

 

「うえーん!」

 

「すぐ、泣きやがんの。ばーか」

 

 この、手に負えないガキは金太という、近所でも有名なわんぱく小僧だ。

 

 とにかく、いじめ大好きの、いたずら大好きって奴だ。

 

 

 

 

「金太。おめぇ、また近所の子をいじめたな」

 

 赤ん坊をおんぶした母ちゃんが、ゴボウを洗いながら、金太を叱りつけた。

 

「いじめてなんかないさ。はっきりしないことを言うから、クレームをつけたまでだい」

 

「何がクレームだ。ソフトクリームみたいな顔して。屁理屈はどうだっていいから、とにかく、仲良くしておくれよ。とばっちりを受けるのは、親の私のほうだからね。近所付き合いってもんがあるんだよ。母ちゃんの身にもなっておくれよ」

 

 母ちゃんにそう諭(さと)された金太はしょんぼりしながら、

 

「……わかったよ」

 

と、反省の色を見せた。

 

 

 

 

 と、思いきや。

 

「ばーか。なんで、竹馬にまたがってんだよ」

 

「だって、馬だろ?」

 

「ばーか。ここに足をのっけんだよ」

 

「じゃ、なんで、竹馬って言うんだよ」

 

「そんなこたぁ、どうだっていいじゃねぇか。遊ぶことに意義があるんだろ?あんまり頭がかてぇと、女に嫌われるぜ」

 

「大きなお世話だい」

 

パカッパカッ

 

「ほらよっ。こうやって、のって遊ぶんだよ。わかったかぁ?ばーか」

 

「それ、おいらのだぞ。返せよ」

 

「おめぇのだって証拠はあんのかよ」

 

「……おいらがおいらんチから持ってきた竹馬だからよ」

 

「おめぇんチにあるからって、おめぇのもんとは限らねぇだろ?おっ父のかもしれねぇし、おっ母のかもしれねぇじゃねぇか」

 

パカッパカッ

 

「……どっちにしてもおいらんチのじゃないか」

 

「じゃ、おめぇんチのもんは全部おめぇのもんか?じいちゃんのフンドシも、ばあちゃんのコシマキも、おめぇのもんか?」

 

パカッパカッ

 

「……いいから、返せよ」

 

「いやなこったね。ばーか」

 

「うえーん!」

 

「すぐ、泣きやがんの。ばーか」

 

 

 

 

「金太。また、近所の子をいじめたな」

 

 赤ん坊をおんぶした母ちゃんが、キュウリを洗いながら、金太を叱りつけた。

 

「いじめちゃいないさ。理不尽なことを言うから、理路整然を述べたまでだい」

 

「何がリフジンだ。キュウリフジンみたいな顔して。おめぇの言ってることのほうがよっぽど理不尽だよ。とにかく、みんなと仲良くしておくれ。近所に嫌われて、大工の父ちゃんの仕事が減ったら、食うに困るんだよ」

 

「……わかったよ。食うに困るのは困るからな」

 

 ようやく、反省したみてぇだ。

 

 

 

 

 と、思いきや。

 

「ばーか。鬼ごっこすんのに、なんで鬼がいねぇんだよ」

 

「鬼の立候補がないからさ」

 

「じゃ、なんで、鬼ごっこなんかすんだよ」

 

「おめぇの提案だろ?」

 

「二人しかいねぇのに、鬼ごっこもねぇもんだ。みんなを呼んできなよ」

 

「おめぇがいじめっから、いやだとさ」

 

「おっ母にきつく言われてんだ。もう絶対いじめないよ」

 

「ほんとだな?」

 

「ぁぁ」

 

「じゃ、みんなを呼んでくるよ」

 

 

 

 

「おばちゃーん!金太がどこにもいないよっ!」

 

「えーーーっ!」

 

 ぶったまげた母ちゃんは、赤ん坊をおぶったまま飛び出すと、あっちこっち探し回った。

 

 だが、見つけられず、母ちゃんは肩を落としながら家に帰るってぇと、

 

「……金太、どこにいるんだよ。母ちゃんが叱ったからかい?ごめんよ、金太。もう叱らないから、帰ってきておくれよ」

 

 そう呟いて、しくしく泣き出しちまった。

 

 するってぇと、布団を囲った衝立が静かに開いた。

 

 そこにいたのは金太だった。

 

「……おっ母」

 

 母ちゃんはホッとすると、突然立ち上がり、金太の顔を平手で、

 

バシッ

 

 叩いた。

 

「ばかったれ!心配かけやがって!」

 

 すごい剣幕で怒鳴った。

 

「オンギャーオンギャー」

 

 びっくらこいた赤ん坊が泣き出しちまった。

 

 金太もびっくらこいて地蔵みてぇに固まっちまった。

 

「……ごめんよ、おっ母」

 

 よっぽど堪えたのか、それから三日ぐれぇは外にも出ねぇでおとなしくしていた。

 

 今度こそは、本当に反省しただろうと思いきや。

 

 

 

 

「ばーか。なんで、おいらがいねぇって、おっ母にしゃべったんだよ?おかげでおっ母にひっぱたかれたじゃねぇか。……なんだよ、三人とも黙りこくって」

 

「……この三日、金太と遊べなかったからさ。やっぱ、金太がいないとつまんないや」

 

「……ばーか。かくれんぼしてたんだろ?見つけられねぇのが悪いんじゃねぇか。ばーか」

 

 この分じゃ、金太の減らず口は治りそうもねぇや。

 

 

 

 

 

 これがほんとの三日坊主だ。

 

 

 

 

 

 ■■■■幕■■■■



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