「ああ授業の前に再来週行われるクラス対抗戦に出場するクラスの代表者を決めようと思う」
IS学園に入学して初日の三限目、ちふ姉のそんな言葉から始まった。
「クラスの代表者とはそのままの意味だ。まあ簡単に言えばクラス長だな、なった者は対抗戦以外にも生徒会の開く会議や委員会への出席などがある。ああ、一度決まると一年間変更はないからそのつもりでな」
その言葉にクラス中が騒ぎ出す。
横に居る一夏は我関せずと言った様子だが……まあこの余裕もあと数秒だろう。
「はい!織斑くんを推薦します!」
ほらね?
「私もそれが良いと思います!」
「私わ~彼方くんが~良いと思いま~す」
へ?だ、誰だ!?僕を推薦したのは!?
そう思って声のした方を見るとのほちゃんがニッコリとこちらを見ていて。
(ちょ!?のほちゃん!?その、私~カナリンに推薦したよ~?嬉しい~?みたいな目やめて!?)
【彼方……】
(何さ?)
【諦めろ!】
(ぶん殴るよ!?)
他人事?だと思って此方の奴……
「では、候補者は織斑一夏と音無彼方……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
驚く一夏、嫌いい加減慣れようよ?
君はいつでも騒ぎの中心なんだからさ?
それよりも僕は先程口論があったオルコットさんの方が気になって。
「待ってください!納得できませんわ!」
ほらね。
「そのような選出は認められませんわ!男をクラス代表だなんていい恥さらしですわ!そんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?ありえませんわ!」
おうおう中々に言いよるよ。
と言うか男が、ねー……
「実力ならわたくしセシリア・オルコットがクラス代表になるのが当然。それを物珍しさで極東のお猿さんたちにされるなんて屈辱でしかありませんわ!わたくしはこのような島国までIS技術を身に付けに来たのであって、お猿さんのお遊戯を見に来たわけではありませんのよ!」
……言いすぎじゃね?
そう思って何となーく、ちふ姉と箒の方を見ると。
(……ひ!)
【怖!】
「「……」」
二人共無言だ、ただただ言葉を聞いてるだけ。
でもそんな二人、幼馴染の女の子と姉とも言える隣人を持つ自分が見ると後ろに鬼の顔が浮き上がっているように見える訳で。
それに後ろから恐らくのほちゃんの席の辺りからも同じような雰囲気を感じる。
(それ以上言うなオルコットさん!頼む、僕の平和のために!)
「クラス代表は実力のトップがなるもの、それはわたくしですわ!」
もう良いよオルコットさんが代表で、だからもうちょっとクールダウンしてくれマジで。
「大体こんな田舎の島国で暮らすこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理何年覇者だよ」
(あ)
【あーあ言ちゃった】
「なっ!?」
おうおう、オルコットさんの顔が真っ赤になる。
あーあ、めんどくさい。
「あ、あなたっ……!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
最初に侮辱したのはオルコットさんだけどね。
【言うなよ】
(言わないよ)
「決闘ですわ!」
自身の机を叩いて宣言するオルコットさん。
やっぱりこうなったよ、めんどくさいなー。
「おう、いいぜ。四の五言うよりもわかりやすい」
それに答える一夏。
転がった石は止められない、盃からこぼれた水を元に戻すことはもうできない。
だから僕はもうどうこうする気はない、ただ見守るだけだ。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、そして音無彼方はそれぞれ用意してくるように。それでは授業を始める」
あれれー?僕も?
そんな疑問の眼差しをちふ姉に向けると口元を僅かに動かして。
“み せ ろ”
(はああ)
その言葉の意味を瞬時に理解した、つまり馬鹿にされたんだ驚かせてやれと言っているんだ。
買いかぶり過ぎだ、だって僕は……
【頑張るしかないさな、なあ彼方?】
(弱いのに……)
【……】
――――――――――――――
それから四時間目も終わって昼休み、教室にはさっきまでの休み時間の時にいた以上に多くの女の子が集まっていた。
まあ目当ては僕らなのだが食堂に行こうとする一夏に用事があるからと言って別れ、その人ごみの中に紛れ込む。
「きゃ!え?何か今足元がスッとした!?」
「ひゃ!だ、誰―?私のおしり触った人―?」
(……)
【……】
見つからないようにかがみながらその人ごみから脱出してのほちゃん渡された地図の場所に向かうことにした。
その道中も極力見つからないように柱の影やダンボールの中行き来しながらも無事に目的地に着く。
そうして目的の部屋に着いて目の前にある重厚な開き戸に手をかけ。
「初めまして音無彼方くん」
「あ、初めまして」
軋む音なく簡単に開いた戸、入室いきなりの挨拶に反射的に答える。
(誰?)
「あら?あまり驚かないのね?」
「いえ、充分驚いてますよ」
目の前には学校によくありさそうな折りたたみ机、その奥には校長室にありそうな高級感漂う机に椅子、そこに腰掛ける水色の髪で少し跳ねた髪が印象的な僕よりも少し年上そうな女性が扇子を広げて口元を隠しこちらをジッと見つめていた。
「あのーお名前を聞いてもよろしいですか?」
当然の疑問を女性に投げかける。
「あ、ああ。ごめんなさいね、私の名前は更識楯無。学年は二年でこの学園の生徒会長をしているわ。よろしくね」
そう言って更識先輩はウインクをする。
不思議な雰囲気の人だった、今まで見たことがない人。
どこにも溶け込みそうな、それでいて溶け込んだものすべてを連れて行ってくれるような。
そう、まるで水みたいな人。
だから僕はこの人が怖い。
「生徒会長」
「そうよ?」
入学する前の事前知識では確かこの学園の生徒会長は世界中から集められたエリートの中の代表、つまり学園最強に贈られる称号だって聞いているが目の前にいるこの人が学園最強のIS使いだと言うのだろうか。
「のほちゃんは?」
「のほちゃん?へー、本音ちゃんのことそういう風に呼んでるなんて仲良しなのね?あの子は席を外してもらってるわ、今頃食堂でご飯でも食べてるんじゃないかしら?ちょっと君が気になってねー呼んできてもらったの」
「どうして僕を呼んだんですか?」
不安をしかなかった、普通に男だからと呼ぶのであれば一夏と僕両方同時に呼べば良い。
僕個人を呼ぶ理由は無いはずだ。
「呼んだ理由?理由ねー、なんとなく?」
「はい?」
「だからなんとなくだってばー。あ!そうだご飯食べましょうよ!ご飯!はいこれ!」
そう言って渡されたのは“極上!!スタミナうな重!!”と書かれた高そうなお弁当を渡され、折りたたみ机にまで引っ張られるようにしてそこにあった椅子に腰掛ける。
「はい、じゃあ私もこっちに座るわねー。ではいただきます」
「あ、いただきます!」
同じお弁当を目の前に置いて手を合わせる更識先輩に釣られて手を合わせる。
もう意味が分からん。
「あ、美味しい」
それが最初の一口を食べた印象だった。
「ふふふ、良かった」
くどくない脂の乗ったうなぎにそれを邪魔しない甘い味付けのタレ、それを引き立てる山椒、更に炭のいい匂いが身に詰まっているのを感じながら夢中で食べて。
【んまんま】
ものの数分で完食した。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
あれ?僕と同じぐらいに食べ始めたはずなのにもう完食してる?
女の子は摩訶不思議だ。
「じゃあお腹も膨れたことだしお話しましょうか?」
口元を拭きながらそう言って、そうして先程と同じように扇子で口元を隠す。
「いきなりで悪いんだけども更識という名前は前々から知っていたかしら?」
「いえ?知りませんでしたよ?」
「本当に?昔、小さかった頃にも?」
「ええ多分、更識なんて珍しい名前は今日まで聞いたことは無いと思いますけど……」
見られている、目を口を手を体の全てを観られているそんな感覚に毛が逆立つ。
不意に背中が冷たくなるのを感じて。
「そう……ごめんなさいねー変なこと聞いちゃって!じゃあお話はおしまい!さ、そろそろ休み時間は終わっちゃうわよ!」
「え?あ、はい」
さっき、一瞬だけ見せた背筋の凍る視線。
そんなもの最初から無かったかの様に振舞う更識先輩。
なんだろう、この人にあまり関わらに方が安全に学校生活を送るような気がする。
【フラグ?】
(かもね)
「じゃあ更識先輩、失礼します」
「ん?ああ、彼方くん。君、私のことは楯無って呼んでちょうだい」
「良いんですか?」
「ええ、許可するわ。じゃ!また今度お話ししましょうね!」
楯無先輩の言葉で部屋を出ようとして。
その時タダでもらったお弁当のことを思い出した。
「あ、楯無先輩!お弁当ありがとうございました!今度何かあったら呼んでください!助けに来ます!」
「え?ええ。分かったわ、じゃあその時はよろしくね音無くん?」
「はい!では失礼します!」
そう言って僕は部屋を出た。
【安易なこと言うねー】
(安易?助けるって約束のこと?)
【それ以外何があんだよ?俺は苦手だなーあの人、読めないし読んでも意味がなさそうな感じがする】
(ふーん、直感?)
【直感】
(でもあの人は悪い人じゃないと思うよ?)
【それがお前の直感か?】
(そう直感)
【ま、お前が大丈夫って言うなら大丈夫なんじゃねえか?ま、とりあえず教室に戻ろうぜ?】
(ん、オッケー)
そう言って僕は廊下を歩き出す、他の人に見つからないように隠れながら。
後日、IS学園の七不思議に“走る影”というのが増えたのは別の話。
――――――――――――――
彼が生徒会室から出て行った。
背中には冷たい汗が一筋たれたのを感じる。
「はー、緊張したー」
そう緊張した、音無彼方くん。
彼は無自覚だったかもしれないけど私を探るような視線、あの目に私は驚いた。
「本音ちゃん、出てきても良いわよ」
シーン、返事がない。
あれ?と思いつつ本音ちゃんが隠れたロッカーを開ける。
「ふむ……ふぁ?」
「あらあら、本音ちゃんらしいわねー」
ロッカーの中には器用に立って寝る本音ちゃんがいた。
その本音ちゃんの肩を揺らす。
「ほら本音ちゃん起きて?彼方くんは教室に戻ったわよ?」
「へ!?カナリン!?どこ〜!?」
「はいはい、彼なら教室に戻ったわよ。さ、本音ちゃんも教室に戻りなさい」
「え〜?は〜い分かりました〜。戻りま〜す」
そう言ってトテテテテと生徒会室から出ていく本音ちゃん。
全く、彼方くんが心配だから隠れて見てるなんて言い出した時はどうしようかと思ったけど何もなくて安心したわ。
「お嬢様」
「だからお嬢様はやめてって」
「失礼しました、ついクセで」
妹と同じようにして隠れていた姉の虚ちゃんも出てくる。
もう姉妹揃って二人に、と言うか彼方くんに何かあるかも知れないから隠れて見てるなんて信用が無いなー。
「虚ちゃん、彼。彼方くんは間違いなく音無光の息子さんなのよね?」
「はい、事前に学校から頂いた資料によるとそうなっていますが」
「そう、じゃあ更識の方で調べた結果は?」
「学校からのものと大差はありません、ですがどちらも共通して言えることは……」
「ええ、私もそこが気になるの」
私の机から取り出した資料、彼についての様々な情報が乗っているものだけど。
「彼がリハビリをしていた期間の情報が一切無いということですか」
「まあそこに藤堂さんが絡んでいるのだから当たり前と言えば当たり前なのかしらね。それに彼の一瞬だけ見せた目。気付いた?」
「はい、あんな目は普通の人は出来ません」
そう出来ない、あんなまるで人の中全てを覗き込むようなあんな目は。
出来たとしてもそれは死地を見た人やそれに類似した経験をした人。
決して一五歳半ばの男の子がする目なんかじゃ無かった。
「じゃあ今後は父親の光さんについても調べておいてもらえるかしら?」
「ひ、光様ですか」
頬を引きつらせる虚ちゃん、まあ当たり前かな?
私も嫌だし。
「そうよー。じゃ!お願いねー」
「まっ待ってください!……どうしよう」
虚ちゃんのそんな声を聞きながら生徒会室を後にする。
(ごめんねー)
「でも……」
でも彼方くん、彼の言葉。
“今度何かあったら呼んでください!助けに来ます!”
て事はこれから色々助けてもらっても良いってことよね?
「ふふふ」
不意に口元が釣り上がる。
今年はとっても楽しくなりそう。
「音無彼方くん、か……」
胸がザワザワする。
こんなにワクワクするのは久しぶり、もう一人の織斑一夏くんだってとってもいじりがいありそうだったし……
ふふふ、この一年とっても楽しくなりそう
それに本音ちゃんには悪いけどちょっと彼のこと。
ちょっとだけ欲しくなりそう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回は原作ではまだ登場しない彼女が早々のレギュラー入になりましたね。
今後彼女が巻き起こす様々なハプニング、それに主人公は巻き込まれていきますが……そこは番外編で書かせていただきます。
それと後もう1、2話程で高校生編初の戦闘を見せることが出来ると思いますのでご期待下さい。
それとR-18ですが小説をオリジナルで投稿させていただきましたので興味がありましたらご覧下さい。
では皆々様
待てしかして希望せよ