《一次移行まで残り1分》
オルコットさんとの模擬戦が始まって大体10分程たった。
ただ攻撃を避けるだけのこの状況に集中力が途切れそうだ。
ギャラリーの皆さんも酷いねー、さっきまで僕のことを応援してたのに今じゃほぼ全員がオルコットさんを応援している。
そんな中オルコットさんはと言うと……
「さあさあ!どうしましたの!?反撃しなさいな!これじゃあサルではありませんわね!豚ですわ豚!さあさっさと当たってぶうぶう鳴きなさい!」
何かずっと攻撃してるせいか最高にハイになってる訳なんだけど!?
【集中力切らせんな!後方!右上65度下25度!左下20度70度!全部レーザー!あああ!喉痛ぇ!】
(え、喉痛くなるの!?)
【
最初の方には満タンだったシールドエネルギーは四割削れ、最初の方は順調だった此方の指示にもついて行くのがやっとになってきている。
(て言うか!)
【弱点克服しつつあるぞ!あの金髪!】
一夏が代表候補生であるオルコットさんと対等に戦えていた秘訣、それは自立機動兵器ブルー・ティアーズを精密に動かす時と他の行動できないこと。
それを一夏うまく使ってオルコットさんを押してたわけだが。
「一回注意されただけでそこまで出来ますか!?」
「ふん!わたくしにかかれば操縦と操作どちらもお手の物ですわ!」
「一夏の時は出来なかった癖に……」
「――!うるさいですわよ!」
その言葉と同時に横並びになった四機のブルー・ティアーズのレーザータイプとスターライトmk-Ⅲによる計五本のレーザーが扇状に打ち出される。
「つあ!」
その内の一本に当たりシールドエネルギーが減少、残りはもう半分しか残ってない。
【たく!ジリ貧じゃねえか!】
《一次移行……実行》
牡丹からのその言葉、それと同時に真っ白い粒子が集まりだす。
そうして粒子がはじけ飛ぶ。
《続けて打鉄との接続…………完了》
ああ、変わった。
それは性能、見た目どちらも大幅に。
「く!一次移行ですわね!?そ、その色は!?」
オルコットさんが驚く、理由は今の姿か。
牡丹は単眼のヘルメットではなく真っ黒いクローズドヘルメットの形状になり、先程まで灰色に輝いていた打鉄は牡丹に合わせるように色が変わり黒く鈍く輝く。
名前も打鉄から“
(此方……)
【ああ、分かるよ】
周りが見える。
一次移行で意識・感覚の拡張機能が向上されたのかさっきまで苦になっていた全方位の確認が簡単に出来ている。
これなら360度の視界確認も問題なさそうだ。
【じゃあ俺の出る幕はねえな、お疲れさん。後は頑張んな】
(此方、困ったら指示ちょうだい)
【ちっ、了解】
《マスター、武装“アームズ”が展開できます》
そうこうしている内に牡丹の方から武装の許可が下りる。
(オッケー!アームズ展開!)
《イエス、マスター。初回起動の起動キーをお願いします》
起動キー?そんなもの藤堂さんからもドクターからも聞いてないけど?
そう思った瞬間、口が勝手に動いた。
「リアライズ」
(え?)
【彼方?】
不意に動いた口、理由は知らない、でも勝手に動いた。
《認証……適性……確認。ファースト・アームズを展開します》
そうしてまた粒子が集まりだす、さっきまでの全身に集まるわけではなく両腕に。
《展開完了、手甲型武装“バスターフィスト”》
「バスターフィスト」
その武器は牡丹が言うとおり手甲だ、左手はアイコンにもなっていた羽根状の機械がバックラー程の大きさで握られ、右手には左手のそれよりも少し大きいロケット状の手甲が打鉄の装甲を
それに両方、結晶のようなものが所々付いていてそこから黄色い光を発している。
そして不思議と手に馴染む。
《使い方の説明はいかがなさいますか?》
(大丈夫、殴れば良いんでしょ?)
《イエス、マスター》
「うし!……オルコットさん?」
「どうしましたの?」
「攻撃してこないんですね?」
「あたりまえですわ!騎士が剣を抜くのを邪魔をするなんて無粋なこと、このセシリア・オルコットがするとお思いですの!?」
「へー、ふーん?ほー?」
なるほどねー、さっきの会話から思ってたけど一夏の試合でだーいぶ柔らかくなったのかな?
『オルコットさんてもしかして一夏に惚れた?』
「な、ななな!?何を言ってますのぉ!?」
僕の
ははは!やっぱりそうか!
たく、本当にあいつと来たら。
『オルコットさん、通話機能使った方が良いですよ?』
「――っああつ!?あぁあ!」
『オルコットさーん?』
『こ!これで良いですわね!?』
『うお!大きな声。で、どうなんですか?一夏のこと?』
『え!?うぁ』
『まあ止めませんよ。あいつ家事もできるし、いざって時には前に出て守ってくれるしかなりの優良物件ですし?でも競争率が高いのでさっさと手に入れてくれると助かります。まあ具体的に言えば公衆の面前でキスするとか?』
『き、キス!?』
『ははは!その感じだとまだ恋してるかも?な状態でしたか?』
『し、知りませんわ!あなたのような!』
『音無彼方』
『へ?』
『僕の名前です、猿でも豚でもあなたでもないですよ。セシリア・オルコットさん』
そう言って僕はオルコットさんの綺麗な青い目をジッと見つめる。
「っ!わ、分かりましたわ!」
あり?どうしてまた顔を伏せるのさ?
顔も真っ赤にして?僕何か変なこと言った?
【天然が、あーやだやだ】
(?)
「まあいいや、さあ戦いましょう!こっちはやっと準備万端!第一ラウンドこちらの劣勢!だから第二ラウンドを!今度はこっちからも行きますよ!」
「ふー……ええ。良いですわ!セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ参りますわ!」
「お、格好良いですねそれ!じゃあ僕も!音無彼方、牡丹参る!」
第二ラウンド開始!
――――――――――――――
「は、はははは!」
【最高だなぁおい!】
楽しい!
「く、はあ!」
「どこ狙ってるんですか!?僕は、こっちですよ!」
楽しい、楽しい、楽しい!
なんだこれ!?さっきまでと全然違う!
「おら、おらおらおらぁ!」
「くぅ!ブルー・ティアーズ!」
「おっと、へへへ」
これが専用機、これが牡丹の力!
「戦いづらいですわね!」
武装を展開して5分ほど経とうとしている中、僕は今までに感じたことがない
状況はさっき以上のインファイト、まあ武装が手甲しかないんだ攻撃手段といえば殴るしかない。
そしてこのバスターフィストの性能にも驚かされた。
殴りかかろうとすると黒鉄のスカート状のブースターが連動して勝手に前進するっていう謎ギミック。
でもこれが慣れると使いやすい、手甲のリーチ不足を移動距離で補っているのが良く分かる仕様だ。
だからこれをフルに使ってオルコットさんに近づき続ける。
そのおかげかさっきまで無傷だったシールドエネルギーは削れ6割ほどになっている。
(でも……)
【火力が足んねえ!】
そう火力不足、ただ殴り続けるのとレーザーを撃ち続けるのとでは火力が段違いに違う。
現に僕のシールドエネルギーは三割を切っている。
質より量と言うがこれではオルコットさんの質に僕の量が押し潰されるのは目に見えている。
(牡丹!他に何かないの!)
《イエス、マスター。ではスキルの使用を提案します》
(スキル?)
《イエス、私のシールドエネルギー表示の上にあるアイコンを確認ください。そこに表示されているスキルが今現在バスターフィストで行えるスキル。必殺技です》
(必殺技……)
《使用の際は小声でもいいのでそのスキルの名称を。使用後、
(オッケー!)
いま表示されているスキルは三つ、どれも確認しただけでどんな効果か簡単に理解できた。
後はこれを実践するだけだ。
「行きますよー!」
こちらの様子を伺っていたオルコットさんに猪の如く突撃、それを見越していた彼女はミサイルを二発、ブルー・ティアーズから発射させる。
そうしてお互いが僕の少し手前でぶつかり爆発、外した?
いや、違う!本当の狙いは!
【さっきの来るぞぉ!】
(やっぱり!)
「喰らいなさいな!」
爆風とアリーナの土煙の向こう。
オルコットさんの声と一緒に計五本のレーザーが扇状に先程喰らった時と同じように放たれた。
でも。
「何度も同じ手に引っ掛かるか!パワースラスト!」
そうしてスキルを発動する、パワースラスト。
バスターフィストを一時的に硬化、盾のようにしてタックルするスキル、それを使ってレーザーの扇に突っ込む。
「な!正気ですの!?」
「正気だったらこんな事してませんよ!」
【だな!】
腕が押し返されそうなのを我慢してただただ前進する。
でもこれのおかげでさっきまで離れていた距離が一気に詰まった。
(次行くよ!)
【どんと来い!】
「アドバンスブロー!」
一歩踏み込んで
「きゃあ!」
そうして命中、オルコットさんのシールドエネルギーは残り四割といった所かもう一回行けるか?
【その前にお前が負けるわ馬鹿が】
《マスター、馬鹿な真似はおやめください》
(あれー?)
まあそれならもう一つのスキルと奥の手を使うだけだけど。
「おし!気を取り直して行きますよー!」
そうして体を屈め、息を整える。
「ふー」
オルコットさんの方は僕の方をまだ伺っている、さっきのスキルが思った以上に面食らったらしい。
なら好都合!
「デッドリーファング!」
身を屈んでステップするように動く、打鉄のスラスターのおまけ付きで。
そうした瞬間、今までの攻撃以上の速度で前進する。
「な!?デタラメですわ!?ブルー・ティアーズ!」
慌ててブルー・ティアーズを盾にしようとするオルコットさん。
遅い、対応するなら間合いに入る前じゃないと。
「ふっ!」
相手の装甲の一番薄い脇腹に拳を抉り込む。
「ああ!」
入った!そうして続けて攻撃を……
【彼方!上だ!】
「え?」
此方の声に釣られて上を向く、そこには全ブルー・ティアーズがいつの間にか上空に集まり銃口をこちらに向けて発射した瞬間だった。
「マズイ!つぁああ!」
反応が遅れ何本かのレーザーを受ける。
それでもミサイルに当たらなかったのは不幸中の幸いか。
けれどもシールドエネルギーは残り一割を切っている。
(一夏の時と同じかー、しゃあない!)
【行くぜー!】
「オルコットさん!これで最後です!行きますよ!」
「く!」
そう言いながら、背中にスラスターに集中する。
大丈夫、一回は出来たんだから。
そうして黒鉄のスラスターが光るエネルギーを放出する、それは飛んでいる時以上に強く。
そして光が圧縮し、弾けた。
「え?」
呆気にとられるオルコットさん、まあ当たり前だ山田先生だってこれには驚いていたんだから。
初めてしたのは入学試験の時に山田先生にした体当たり、あの時は自分の操作ミスか何かと思っていたけど。
でも調べるうちにあんな事は普通の操作じゃありえないらしく試合が始まる前に山田先生にその時の事を、僕が何をしたのか教えてもらった次第だ。
まあ簡単な話スラスターのエネルギーを貯めてそれを一気に吐き出しただけのことだ。
効果は上々、直線しか移動できないけどその速度は今までの二、三倍以上は出ている。
「く!?負けませんわ!インターセプター!」
オルコットさんの手には小型の近接ブレード、でもそんなのは関係ない。
だってこっちにはバスターフィストがあるんだから。
(取った!)
右拳がオルコットさんに当たろうとした瞬間。
《アームズ、解除します》
(牡丹?)
そんな牡丹の言葉にバスターフィストは光の粒子になって弾け飛んだ。
「「へ?」」
そうして激突、オルコットさんの手には近接ブレードのインターセプターが握られてるわけで……
『そこまで!勝者!セシリア・オルコット!』
そんなちふ姉の言葉で波乱のクラス代表決定戦は幕を閉じた。
(【えー】)
《同調律60%》
――――――――――――――
「ふふふ、どう?彼、とっても強くなってたわねぇ?」
「ああ」
「良いの?彼に会わなくてぇ?久しぶりなんでしょ?」
「今はいい、今はいいさ。どうせもう少ししたら嫌でも会わなきゃいけないからな」
「それもそうねぇー、じゃあ行きましょうか?」
「もうか?もう少し見ておきたかったんだが」
「駄目駄目、これ以上長居したら彼女にバレちゃうわ。と言う訳で、逃げるわよー」
「て、おい!?たく、しょうがねえなー……また会おうな親友」
――――――――――――――
「ん」
まだ胸が高鳴ってる。
先程行った模擬戦、あの二人と戦った試合。
わたくしが勝ってしまった試合。
自室の鏡で自分の表情をジッと見ながら彼らを思い出す。
(織斑一夏……)
男性で二人しかいないIS適正者。
彼らのことは最初気に入らなかった。
男なんて女にペコペコしてるだけの気弱な存在、父のような。
父は名家に婿入りした人だった。
そのせいか母にはいつも腰を低くしていたのを今でも思い出す。
あんな人にはなりたくない、あの様な男性とは生涯を誓いたくはないと小さい頃から思っていた。
でも今のこの世界では大体が父のように腰が低いか弱い男しかいなかった。
だから彼らが許せなかった、何の知識もないくせに男でIS適正があるだけでIS学園に入学して将来を存在を有望されている彼と、その横にヘラヘラと笑っているよく分からない彼。
わたくしとは違い何もせずに手に入れた人たち。
だから試合が始まるまでわたくしは彼らを完膚なきまでにしてやろうと思っていた。
そう、思っていた。
でも……
(彼らに勝ててはいなかったのでしょうね)
試合は勝った、でもそれがどうしたどちらも相手のミスで勝てただけだ。
織斑一夏のいきなりのシールドエネルギーの消失、音無彼方のありえないタイミングでの武装解除。
理由は分からない、でも彼らの目。
音無彼方の目は見えなかったけど雰囲気がわたくしの胸を高鳴らせる。
織斑一夏は誰にもゆずれないものがある、そんな強固な意志を感じたし、音無彼方の声には相手を気遣いそれを支えようとする強さがあった。
どちらもわたくしが会ったことがないタイプの男子。
試合の後、音無彼方はわたくしに握手を求めてきた、こちらもそれに快く受け握手をしてとても嬉しくなったのを覚えている。
『ありがとうオルコットさん、とっても楽しかったよ。それにさっきは通話で失礼なこと言ってごめんね?』
そう優しく言って織斑一夏の方に向かった彼、その背中がやけに大きく見えた。
その後、織斑一夏にドンマイと声をかける彼に心がもやもやしたのは何故なんだろう?
「織斑…一夏」
彼の名前を声に出すと体は火照って止まらなくなる。
そうして呟いた自分の唇を指でなぞる。
でもこれだけじゃ物足りない、もう少し何か、何か足りない気がする。
「一夏、さん」
胸の高鳴りが止まらない、彼の名前を呟くだけで体が胸が熱くなって自分じゃどうしようもなくなってしまう。
「音無…彼方」
彼の優しい声が、優しい手が忘れられない。
彼にもっと褒めてほしい、認めてほしい。
どうしてそう思うかなんてわたくしには分からないけど……でも、彼に優しくして欲しいそう思ってしまう。
「あ」
そう言えば昔、わたくしがまだ小さかった頃、両親に誕生日プレゼントを聞かれたとき。
『わたくし、お兄様が欲しい!』
小さい頃そう言ったのを思い出した。
ああ、あの時は二人とも困ったような顔をして「弟、妹なら出来るかしら?」と困り顔で言っていた母とそれを引きつった顔で聞いていた父を思い出す。
ああ、そうなんですのね。
わたくしは音無彼方を兄のように見ていますのね。
(わたくしの理想、どんなことでも甘えられるような……そんな雰囲気を彼から感じていましたのね)
「お兄様……」
口でそう呟くと口元が少し釣り上がった。
彼になら、もしかしてわたくしが溜め込んでいた不満も不安も全て話せるかもしれない。
両親が死んでしまったこと、その遺産を守るために死に物狂いで努力して……褒めて欲しい。
誰でもいいから、お願い。
(なにを思ってるのかしら、わたくしったら)
もう今日は寝てしまいましょう。
そうして明日、彼らに会って少しお話しして……して。
して、どうすればいいのかしら?
まあ、その時考えましょう。
そう思いながら私はベットに横になる。
そうして幸いにも同居人の彼女にわたくしの呟きは眠って聞こえてはいかなかったようだ、聞こえてたら赤面して一週間近く彼らに顔を合わせられないだろう。
「一夏さん…お兄様……」
こんなの久しぶり、明日が早く来て欲しいなんて。
そうしてわたくしは目をつむる。
――――――――――――――
「おはようですわ!一夏さん!それにお兄様!」
「「へ?」」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ちなみに牡丹のイメージとして初期がメタルギアのサイボーグ忍者ヘルメット、一次移行後が凍京NECRO(R-18)のエクスブレインです。
それとR-18ですが小説をオリジナルで投稿させていただきましたので興味がありましたらご覧下さい。
では皆々様
待てしかして希望せよ